絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

楽園の巫女と幼き宵闇の妖怪

200番目の作品。ルーミアと霊夢でほのぼの~っとね。満足いく出来になりました!


 

「あんた、何してんの?」
「……うぅ、何してるように見えるの?」
「空腹で倒れて動けないところを、博麗の巫女に見つかって退治されるんじゃないかと慌てて起き上がろうとしたが、空腹だったことを思い出してまた倒れてしまったー。みたいに見えるわ」
「凄いね、霊夢は凄い。正解だよ。正解したから霊夢に賞品として、私に食べられる権利を――」
「いらんわ!」
「ふみゅう……」

 森の中、倒れているルーミア。
 そんなルーミアに出会ってしまった霊夢。
 霊夢がこの道を通ったのは、たまたまだった。人里にちょっとした仕事、警備用の軽い結界符を慧音に届けに行く途中だった。
 ルーミアはうるうるとした瞳で、霊夢をじーっと見つめる。

「うっ……何よ、その目は?」
「れいむぅ~」
「だから何よ?」
「うぅ、れいむぅ~」
「……えーと」
「ふぇ、っく……れいむぅ~」
「あーもう分かった! なんか食べさせてあげるから! その顔をやめなさい!」

 小動物のような瞳、涙目、上目遣い、突っ伏しているせいで泥が付いてしまい汚れている服。それら全てが、霊夢の情に訴えてきた。
 そして、見事それに敗れ去った霊夢であった。
 盛大にため息一つ。

「とりあえず、立てる?」
「無理~」
「……どうしろっていうのよ」
「おんぶ!」
「ぼふぁ!?」

 まさかのおんぶしてくれ発言に、霊夢は思わず噴き出してしまった。

「あんた、本気?」
「え? おかしいかな? 動けなかったら、もうおぶってもらうしかないかなーって思ったんだけど」
「はぁ……今日は厄日かしら。一応言っておくけど、今から人里に行くから。私が居るからあんたも入れるけど、絶対に私から離れないこと。それと――」
「人里の人は襲わないこと、だね。それくらい、私も分かってるから大丈夫だよ~」
「……そこはかとなく不安なのよ、あんたって」
「むぅ~失礼な。ま、いいからおんぶして~」
「はいはい、分かったわよ」

 しゃがみこんで、ルーミアを背中に乗せる。
 霊夢が思っていたよりも軽く、少し驚いてしまう。

「ルーミア、華奢すぎじゃない?」
「んーそうかなぁ。……あ、霊夢ごめん」

 おんぶして立ちあがった瞬間、ルーミアが何かに気付いたように声を上げ、そして申し訳なさそうな声で謝った。
 霊夢からすれば、何故謝られるのか分からず、首を傾げてしまう。

「あのね、私の服、泥が付いてたからね、その……霊夢の服にも」
「あー、そっか。私の背中にもあんたの泥が付いたのね」
「うん……ごめんなさい」

 しゅん、としてしまうルーミア。
 霊夢からすれば、ルーミアがこんなことで謝るなんてことが意外だった。そういうことは気にしないようなタイプだと思っていたからだ。

「別に良いわよ、これくらい」
「ほんと? 怒ってない? 退治しない?」
「それくらいで退治しないわよ。そんなんで怒ってたら、私どんだけ短気な奴なのよ」

 おんぶしろと遠慮なく要求したりするくせに、こういうことは気にするルーミアに、思わずくすっと笑ってしまう。
 ルーミアからすれば、何故笑われたのか分からず、頭に疑問符を浮かべているような状態だ。
 霊夢は空を飛ぼうかと考えたが、あまり森で飛ぶことはよくない、飛ぶとしたらかなり高く飛ぶことが重要だ、と魔理沙に以前言われていたのを思い出し、飛ぶのを止める。なんでも、獣型の知能の低い低級妖怪たちから狙われる可能性が高くなるらしい。
 もっとも、もし襲われても負ける気は一切しない霊夢だったが、今はルーミアを背負っているため、ルーミアに危害が及ばないとは限らない。そう考えての処置だった。

「霊夢、さらにごめんなんだけどね」
「んー?」
「……眠くなってきちゃった」
「はいはい、里に着いたら起こすから、それまで寝てなさい」
「んにゃ、ごめんね。ありがとう」

 しばらくして、穏やかな寝息が聞こえてくるのが分かった。
 耳の裏辺りに息が吹きかかって、少しくすぐったさを覚える。霊夢が少し身をよじると、ルーミアももぞもぞと動く。

「これじゃあ、まるで子守りみたいね」

 霊夢は苦笑いを零しながら、そう呟いた。
 そんな霊夢の気持ちは知らないといったように、ルーミアは幸せそうに眠っている。
 背中に伝わる温度が、温かい。

「妖怪でも、人と同じ体温ね。いや、こいつの場合はただの子供体温かしら」

 ルーミアを起こさないように、ゆっくりと一歩一歩進んで行った。





◇◇◇





「霊夢、その背中のは何だ?」
「ルーミアよ。森で拾っちゃった。大丈夫、里の中では私が監視してるから」
「それなら良いが……」
「結界符、私のポケットにあるから取って。こいつ抱えてるせいで、ちょっと取れないからさ」
「ふみ……」
「あ、起きたみたいだぞ」

 ルーミアが目を覚ますと、霊夢の後頭部と見たことない人物が目に入った。
 まだ寝ぼけているのか、ボーっと目の前を見つめたまま動かない。

「慧音、なんか饅頭とか煎餅とか軽く食べられる物ある?」
「あぁ、あるけど……」
「ちょっとこいつに食べさせてあげて。そうしたら、多分完全に目を覚ますと思うから」
「そうなのか? ん、分かった」



 ~少女ぱくもぐ中~(ぱくぱくもぐもぐの略)



「ぷふぁっ! ふっかーつ!」

 ルーミアは食べ終わると、霊夢の背中から華麗に飛び降りる。
 そして、何故か白い歯を出して爽やかな笑みを浮かべつつ、Vサイン。

「よし、なんか腹立つから殴らせてもらうわ」
「やめてー!?」
「こらこら、やめんか霊夢」

 笑顔で拳を振り上げたところを、慧音が二人の間に割り込んで止めた。ルーミアはあわあわがくがくと体を震わせて、慧音の後ろにぴったりとくっついたまま離れようとしない。
 ちょっとそれを見て、罪悪感が湧く霊夢。

「ほら、こんなに怯えてるじゃないか。よしよし」

 慧音に頭を撫でられて、心地良さそうに目を細めるルーミア。

「ルーミア、そいつ里に来た悪い妖怪をこらしめる奴よ。あんたも退治されちゃうかもね」
「うわあああああん!?」
「こ、こら霊夢! 脅かすのは可哀想だろう!」

 ルーミアは慌てて慧音から離れるが、霊夢の傍に行けば殴られるかもしれないという恐怖もあって、慧音と霊夢の間を行ったり来たり、悩んでいる。
 その姿を見て、霊夢はちょっと意地悪しすぎたかなと反省する。

「ごめんごめん、冗談よ。あんたがあまりにも能天気というか、へらっとしてるから、ついね」
「酷い霊夢! ばかれーむ! くたばれいむ!」
「よし、やっぱり殴ろうかしら」
「嫌ー!? ごめんなさいごめんなさい!」
「お前ら……どうでもいいが、ここで騒がないでくれ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人に、慧音は額に手をあてて呆れた顔をする。慧音からすれば、寺小屋の子どもたちとなんら変わり無いくらいに、二人が幼く見えた。
 微笑ましいと同時に、博麗の巫女と人食い妖怪がこんな調子で良いのだろうかと、慧音はおせっかいながらに気になったところでもあった。

「ま、平和だから良いか」
「ん? 何よ、慧音? 一人なんか納得したような顔して」
「いや、なんでもないよ。二人を見ていて、なんだか、微笑ましく思っただけさ」
「私と霊夢を見て?」
「あぁ、仲が良さそうじゃないか。良いことだ、うん」

 うんうんと頷く慧音を、霊夢とルーミアは互い頬をむぎゅーっと引っ張った状態で見ていた。むぎゅむぎゅと引っ張り合っているその姿は、まさに見た目相応の、いや見た目よりも幼い行動に思えた。
 痛い痛い離して霊夢。
 あんたが先に離しなさいよ。
 じゃあ一緒に離そうよ。
 分かったわ、いっせーのっせ。なんで離さないのよ!
 れ、霊夢こそ!
 そんな風に、いつまでもぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を、ため息混じりに慧音は見守っていた。





「ほっぺ痛い……」
「いたた、こっちだって痛いわよ」
「いつまでも馬鹿をやっているからだ」

 互いに引っ張りすぎた頬が、ひりひりと痛む。
 慧音は呆れ顔だったが、自然に終わるまで制止の声を上げることはなかった。なんだかんだで、止める気なんてなかったのだろう。どう見ても、大事に至るような喧嘩などではなく、ただの子どものじゃれあいにしか見えないのだから。

「さて、私はこの後授業もあるから、もう準備をしなくては。それじゃあ、結界符をありがとう」
「ん、また効力や弱まる頃に来るわね」
「あぁ、よろしく頼むよ。ルーミアはどうするんだ?」
「んー霊夢に何か食べさせて貰うまでは、霊夢と一緒に居ようかな」
「あんた、もうさっき食べたじゃない」
「えーあれはおやつだもん。ご飯は食べてないもんー」

 頬を膨らませて、霊夢をジッと見つめる。霊夢はため息を吐き、慧音はなんとなくハムスターを思い浮かべた。

「ハムスターとルーミア……はむるみゃー、か」
「は? どうしたの慧音?」
「あ、いや、なんでもない。ちょっと独り言だ」
「そう、まぁいいけど。ルーミア、神社来る? 軽いものしか作れないけど、それで良かったら食べる?」
「うん!」

 それじゃあ、と踵を翻して行こうとする二人を、慧音が「あっ」と止めた。

「ちょっと待て、お前ら」
「何よ?」
「その格好、服はともかく腕とか泥だらけだぞ。ルーミアなんか、顔にまでついてるぞ。せっかくだ、銭湯にでも入ってから戻ったらどうだ?」
「えーそんなお金使う予定無かったんだけど」
「せんとーって何? 戦うの?」
「あぁ、ルーミアは知らないのか。銭湯とは――」

 慧音の無駄に長い説明が始まった。
 起源はいつだの、目的はなんだの、一日にどれくらいの人数が利用しているかなど、どの時間帯が一番混んでいるだの、他にも霊夢からすれば割とどうでも良い知識を長々と話された。
 霊夢は欠伸をしていたが、ルーミアは目を輝かせ、真剣に慧音の話に耳を傾けていた。

「というわけだ。分かったか?」
「うん! 面白い話、ありがとっ!」
「……ルーミア、いつでも寺小屋においで。もっともっと、いろいろ教えてあげるからな」

 満面の笑みでお礼を言うルーミアに、慧音は思わず感動した。ルーミアは今まで知識を身に付けるのことを拒絶してきたわけではない。ただ、学ぶ環境にいなかっただけだ。そんなルーミアからすれば、慧音の話はまさに未知の世界で、興味を引くのには充分。どきどきわくわくと胸が躍るものだった。
 慧音にとっては、ここまで真面目に、しかも楽しそうに聴いてくれる相手は滅多にいないので、嬉しいことこの上なかった。

「よし、お前たち。お金を渡すから、是非銭湯へ行け」
「あら、いいの?」
「構わない。是非ルーミアを入れさせてやってくれ。この時間、人はほとんどいないだろう。あ、だからと言って、泳ぐんじゃないぞ? それじゃあ、そろそろ本当に授業の準備をしないと。またな」
「またね、えっと……慧音さん」
「慧音で良いさ」

 そう言葉を交わし、慧音とは別れた。
 ぶんぶんと手を振るルーミアに、慧音もずっと手を振っていた。振ることに集中して、道行く人にぶつかっていた。それを見た霊夢とルーミアは、くすっと笑い合った。
 そして、慧音からもらった二人分のお金を持って、銭湯へと向かう。

「霊夢は銭湯行ったことある?」
「家のお風呂が壊れたときとかにね。それでも、魔理沙の家に世話になることの方が多いから、銭湯は片手で数える程度かしら」
「へー魔理沙と仲良いんだね」
「ま、長い付き合いだしね。べたべたするような仲の良さってわけじゃあないけど、そうね……言い表すなら、背中を任せるような関係かしら」
「どういうこと?」
「なんだかんだで、信頼してるってことよ。絶対に本人目の前にして、こんなことは言わないけどね。私もあいつも。さぁ、着いたわよ」

 銭湯は、ルーミアが想像していたほど大きくはなかった。ルーミアは、紅魔館の近くにある湖の何倍もあると想像していた。それを霊夢に話すと、馬鹿ねと笑われた。

「そんなに大きかったら、人里どうなっちゃうのよ」
「あ……なるほど」

 そんなくだらないやり取りをしている内に、中へと入る。お金を払い、ついでにタオルも購入。そして、脱衣所へと着いた。
 さっさと脱ぐ霊夢に対し、ルーミアは少しもじもじとしたまま動かない。

「慧音の言った通り、本当に人いないわね。お昼時だからかしら。ってルーミア、早く脱ぎなさいよ」
「いや、そのー……ちょっと先入ってて?」
「は? どうしたの?」
「えっと、ちょっと恥ずかしい、かな」

 霊夢は正直、驚いた。失礼ながらも、ルーミアにそんな羞恥心があるなんて思っても無かったのだ。
 人食い妖怪でも、もしかしたら見た目相応の女の子なのかもしれない。そう思うと、霊夢はなんだかルーミアとの距離が少し縮まった気がした。

「ふふふ、ルーミアぁ」
「な、何? その手わきわき怖いんだけど……」
「なんにも怖くないわよー。ただ、一人じゃあ脱げないようだから、手伝ってあげるだけ」
「ちょ!? やーめーてー!?」
「はいはい、無駄な抵抗はやめなさいー!」
「きゃー!? やーだーよぉー!」

 抵抗虚しく、一分もしない内にルーミアはその幼い裸体を晒すことになってしまった。両手を使って上半身と下半身を隠し、恨めしそうに霊夢を睨む。
霊夢は、あははと笑うだけで、まったく反省した様子はない。
 タオルを差し出すと、ルーミアはそれを奪う勢いで手に取り、体に巻こうとするが、タオルはそこまで大きくない。どう頑張っても、上半身か下半身のどちらかしか隠せないだろう。
 ルーミアは数秒、うーうー唸った後、ダッシュで浴場へ向かった。隠すことよりも、さっさとこの時間を終わらせる方が良いと判断したのだ。
 霊夢もその後をついて行く。

「こらールーミア。真っ先に湯船に入っちゃダメよ。まずは体に湯をかけてからね」
「霊夢に言われなくても、慧音にさっき言われたから、分かってるもん!」

 どうやら無理矢理脱がされたこと、まだ怒っているようだ。
 小さなお尻をちょこんと椅子に預けて、体にお湯をかけている。熱かったのか、その予想外の刺激に体をぶるっと震わせていた。霊夢は、なんだか小動物を見ているかのような気分になった。
 霊夢も横に座り、体に湯をかける。

「先に体洗っちゃう?」
「んー……ちゃんと泥落としてから入りたいかな」
「じゃあ、洗うことにしましょうか。一人でちゃんと洗える?」
「霊夢は私をどれだけ子どもに見てるのよ」

 ジト目で睨まれ、霊夢は誤魔化すようにあははと笑っておくことにした。
 置いてある石鹸を手に取り、タオルで泡を作る。ルーミアはしばらく泡で遊んでいたが、しばらくしてちゃんと体を洗い始めた。
 泥を落とし、体を洗い終えると、早速湯船に向かった。

「霊夢ー湯船が二つあるけど、どっち入れば良いの? 慧音は何も言ってなかったけど」
「あぁ、そっちの小さいのが体小さい人用なのよ。だから、ルーミアはそっち入るのよ」
「そうなんだね。じゃあ入ろーっと――ってきゃあ!? つ、冷たい!」

 足を入れた瞬間、ルーミアはびっくりて思わず飛んだ。無駄に天井まで。
 ルーミアが入った方は、水風呂だったのだ。

「あぁ、ごめんごめん。そこまで驚くとは思わなかったわ。それ、水風呂」
「ばかれいむ! くたばれいむ!」
「とりあえず、降りて来なさいー。誰もいないからって、はしゃぎすぎよ」
「誰のせいよ!」
「それに上に飛んでると、いくらあんたが下にタオル巻いてても、なんていうか、丸見えなんだけど」
「~っ!?」
「ごふぁ!?」

 真っ赤になったルーミアが、霊夢の腹部に全力で頭から突撃してきた。
 そして、そのまま湯船に吹っ飛ばされる霊夢。大きな水飛沫と、水音が発生した。

「死ぬわっ!」

 ぶはぁっと、湯船から勢いよく顔を出す霊夢。腹部にクリティカルヒットしても、すぐに復活するのは博麗の巫女だからか、それとも霊夢だからか。おそらくは後者だろう。
 霊夢と目を合わせずに、いかにも怒っていますといった態度のルーミアが少し距離を置いて横に入る。

「謝んないからね。あれは霊夢が悪いもん」
「私は死にかけたんだけど」
「私だって、恥ずかしさで死んじゃうとこだったよ。それに、最初に意地悪したのは霊夢だからね。自業自得だよーっだ」

 べーっと、小さい舌を出す。
 霊夢は沈めてやろうかと思ったが、見た目が子どもっぽい相手にそこまでのことは出来なかった。

「はいはい、私が悪かったですよ」
「謝罪するときは相手の目を見て話すのが基本だと思うの」
「あんた本当、中途半端に礼儀だけは知ってるわね。というか、あんたが目を合わせてくれないんじゃない」
「んー分かったよ」

 ルーミアと霊夢は、向き合う。
 ジッと、視線が交わった。

「はい、ごめんなさい。私が悪かったでーす」
「……まったく誠意を感じられないけど、良いよ。許してあげるっ! じゃあ、私からも」
「ん?」
「ごめんね、霊夢。痛かった、よね?」

 ルーミアは申し訳なさそうに、しゅんとしている。どうやら、自業自得だと言った割には、罪悪感があったらしい。
 霊夢は予想外のその行動に、一瞬きょとんとした後、くすりと笑った。そして、ルーミアの頭に手を乗せる。

「大丈夫よ、なんたって私だからね」
「それ、意味分かんないんだけど」
「私があんたなんかにやられてる姿、想像出来る?」
「……すっごい悔しいけど、想像出来ない」
「ま、そういうわけで、私は全然大丈夫だから。そんな気にしないでいいわよ」

 そう言って、霊夢は頭を撫でる。ルーミアは心地良いのか、へらっとした笑みを浮かべた。
 体もぽかぽかと温かい。思わず、ため息が漏れてしまう。

「ふいー極楽極楽」
「霊夢、年寄りくさい」
「そういうあんたも、その目を細めてのほほんとしている姿、ものすごーく年寄りくさいわよ」
「私はほら、妖怪だし」
「実は私よりも年上とか?」
「さぁ? 年齢なんて興味無いからいちいち覚えてないよ」

 霊夢はルーミアの体をジッと見た後、どうみても幼女にしか思えないと思った。しかし、妖怪の外見から実年齢を予測できる者などまずいない。それほど、外見はあてにならないのだ。
 もしこれで、ルーミアが普通に年上だったらと考えると、霊夢はなんか嫌な気持ちになった。

「……実はあんたより幼いって、なんか嫌。ルーミア、あんた今度から二歳って言いなさい」
「いや、それ幼すぎよね」
「宵闇の妖怪ルーミア、二歳でーすとか言っておけば、多分一部の人種はお菓子くれるわよ」
「なんかよく分かんないけど、それは多分ダメな人種なんだと思う」

 理由は分からないが、ルーミアの妖怪としての、というより生き物としての本能が、それはダメな人種だと告げていた。
 ふぃ、と小さくため息を吐くルーミア。体の力が、ほわっと抜けていく。普段は水浴びが主なルーミアにとって、お風呂、しかもこんな広くのびのびと出来る場所は初めてだった。

「あーなんかずっと入ってたいかもー」
「のぼせちゃうわよ」
「のぼせるってー?」
「ふらふらしたり、ぼーっとしてきちゃうことよ」
「あー……なんかね、れいむ~」
「何よ?」
「私、まさに今そんな状態~」
「ちょ!?」

 あははーと顔を赤くして笑った後、ルーミアは湯船に顔を突っ込みそうになった。頭がふらふらと揺れている。
 これを見た霊夢は、まずいと判断し、すぐさまルーミアを脱衣所まで運ぶことにした。
 背中におぶり、こけない程度に急ぐ。霊夢の背中に、ふにゅりと小さいながらも確かな柔らかさをもったものが、ぴとりと密着する。霊夢は少し恥ずかしさを感じたが、今はそんなこと気にしていられない。

「あんたねぇ、自分の体くらい自分で分かりなさいよ!」
「うぅ、ごめんー」

 体を拭いた後、脱衣所にある長椅子に寝かせる。そして、タオルを水で冷やし、額に乗せてやる。ルーミアは、心地良さそうな表情を浮かべた。
 とりあえずは、ホッとする。

「というか、妖怪でも普通にのぼせるのね。強いのかなとか思ってたけど。むしろ、のぼせるの早い気もするわ」
「気持ち良くって、つい……」
「それで倒れちゃ、意味ないでしょうに。少しちょっと待ってなさい」

 そう言って、霊夢は着替えをささっと済ませ、脱衣所を出て行く。何処へ行くのだろうかと、ルーミアが首を軽く傾げていると、すぐに戻ってきた。両手には、二つの牛乳瓶が握られている。
 それを一本、ルーミアに差し出す。

「えっと……」
「ん、受け取りなさい。私の奢りよ? 珍しいのよ、こういうこと」

 上半身をゆっくりと起き上がらせ、牛乳瓶を受け取った。ぺりぺりと蓋を剥がし、口をつける。そして、こくりと一口飲むと、ルーミアは目を大きく開いた。初めて飲む牛乳の味は、予想以上に美味しかったらしい。
 そのまま、こくこくっと飲む。霊夢もそれを見て、飲み始める。

「んっ、ごちそうさまでしたー」
「はい、私もご馳走様。っと、ルーミア口の周り」
「ほえ?」
「あー動くな、今拭いてあげるから」
「んにっ」

 牛乳で白くなったルーミアの口の周りを、タオルで拭いてやる。

「霊夢もついてるよ? 拭いてあげるー」
「あ、ちょっと、こら、むっ」

 自分で拭く、と言う前にルーミアがタオルを奪い取り、霊夢の口を拭いた。えへへ、と笑うルーミアだが、霊夢からすれば少し気恥ずかしい。
 思わず、顔をそらす。

「どうしたの、霊夢?」
「なんでもないわよ。それより、あんたもう大丈夫なの?」
「うん! あれじゃないかな。のぼせるの早いけど、回復するのも早いみたいな」
「なんて単純なのよ、あんた」
「えへへ、いろいろありがとね、霊夢」

 にぱっと明るい笑顔を向けられて、霊夢は呆れる気も起きなくなる。もはや、ため息も出ない。けれども、別に悪い気もしなかった。
 ルーミアは立ち上がり、着替える。もう本当に大丈夫そうだった。

「ルーミア、行くわよ」
「わっ!? ちょっと待ってよー私まだ着替え終わってない!」
「なら半裸で来なさい。そして半裸で神社まで来なさい」
「そんな恥ずかしいこと出来ないよっ!」

 大声でぎゃあぎゃあと騒いでいる二人。
 誰も居ないと二人は思っているからこそ騒いでいるが、番台くらいはいる。そのことに気付くまで、二人は騒ぎ続けていた。





◇◇◇





「あんたのせいで酷い恥を晒したわ」
「いや、あれは霊夢のせいだよ」

 あの後、二人は番台に「うるせえよ、お前ら。ちと黙れや」みたいな目つきで見られたのだった。
 そして逃げるように去ってから、十数分。博麗神社へと着いた。空はいつの間にか、茜色に染まっていた。

「あっちから上がって。あと、何か食べたいものある?」
「なんでも良いよー美味しければ」
「……それ一番ハードル高い注文よね」

 なんとなくプレッシャーを感じながらも、居間へと向かう。
 ルーミアはよっぽど楽しみなのか、スキップ状態だ。

「ルーミア、あんまり期待されても困るからね」
「うん、大丈夫。私、霊夢なら絶対美味しいもの食べさせてくれるって信じてるからっ!」

 わざとか素なのか、とっても良い笑顔でそう言うルーミア。霊夢からすれば、厄介なことこの上ない。「そんな目で私を見るなぁ!」と叫びたくなる状況だ。

「あ、ここ居間ね。あんたはここで寛いでなさい。私は料理してくるから」
「うん! じゃあ私も手伝うよ!」

 しばし静寂。
 無駄にカラスの声が喧しい。
 先に口を開いたのは、霊夢の方だった。

「は? あんた、人の話聞いてた?」
「だって、今日一日お世話になったし。食べさせて貰うだけじゃ、申し訳ないからね。手伝うよ」
「いや、いいから邪魔しないで」
「邪魔しないって。大丈夫、私これでも料理に自信はあるよ!」
「……信用出来ないんだけど」

 どこからそんな自信が湧いてくるのか、ルーミアはきりっとした勇ましい表情だ。
 霊夢からすれば、どこか頼りないのだが、ここまで言われてはルーミアは何を言っても引かないだろうと言うことが予想出来た。そうなると選択肢は一つだけだ。思わずため息が漏れてしまう。

「はぁ、分かったわ。ついてきなさい」
「わぁい!」

 こうして二人は、居間でなく台所へと向かった。
 霊夢は台所で割烹着をつける。予備のものをルーミアにも渡したが、大きさ的にぶかぶかだった。

「さて、今から料理をするわよ」
「分かってるよ。えっと、ご飯は洗剤で洗えば良いんだよね」
「あんたもう帰りなさいよ」
「じょ、冗談だよ~あはは。えっと、まずは卵をレーザーで割って……」
「普通に割れ」
「フライパンを溶かして」
「弁償しろこんちくしょう」



 ~少女料理?中~



「出来た!」
「主に私が頑張ったわね」

 結局、ルーミアは邪魔にしかならず、最終的には「あんた、外で雑草でも食ってろ」と言われるくらいだった。
 そんなぐだぐだな料理だったが、一応完成した。霊夢が九割やったのだが。卵焼きにお味噌汁、白米に焼き魚という、シンプルなもの。
 早速、居間に運び、木製の丸テーブルの上に乗せた。
 向かい合わせに座り、手を合わせて、いただきますの声。

「あんた、箸使えるの?」
「それくらい出来るよ~」

 ルーミアは、慣れていないであろう箸を初めてとは思えないほど器用に使いこなし、ご飯を口に運んだ。そして、目を瞑ってただ口を動かしている。
 なんとなく、霊夢は空気的に妙に緊張してしまう。

「ど、どう? 美味しい?」
「うん、お米は水が多すぎるし、卵焼きはふんわりしていない。さらには焼き魚、これしっかりと焼けてないね。そしてお味噌汁だけど……いや、やっぱり言わないでおくよ」
「ちょっと!? なんで本気の返しなのよ!」
「あははっ! 嘘だよ。美味しいよ。今まで食べてきた中で、一番美味しい」

 ルーミアは真面目な顔で言ったと思ったら、次には笑顔でそんなことを言う。
 霊夢からすれば、どう反応すればいいのかよく分からない。とりあえず、ご飯を口に運び、味を確かめる。霊夢にとっては、いつも作っているので、普段と変わらない味だった。特別美味しく思うことも無ければ、不味いと思うことも無い。

「一番は言いすぎでしょ。咲夜とかの方が上手いわよ」
「そうかな。私は霊夢の料理、好きだよ? あったかいし、美味しいし、なんか嬉しい気持ちになる」
「……ルーミアって、なんかよく分からないわ」
「えー? 私からすれば、霊夢の方がわけ分からないけどねー」

 褒められて悪い気はしない。霊夢は、割と嬉しかった。普段宴会などで料理を振る舞うことはあるが、誰も味の感想なんて言ったりしない。飲んで食べて騒ぐだけだ。
 ルーミアがあまりにも美味しそうに食べるから、霊夢も美味しく思えてきた。さっきまでは、特に何も思わなかったはずなのに。焼き魚の匂いが食欲をそそる。卵焼きのふんわりした食感が、心地良い。お味噌汁が、体に染み入るような錯覚に陥る。そして、お米がただただ美味しく感じられた。
 霊夢はこれが日常として慣れていたが、ルーミアにとっては珍しいこと。そんな新鮮に思う気持ちが、霊夢にまで伝染し、慣れを消したのかもしれない。

「ん、美味しい」
「あはは、霊夢自分で言っちゃうんだ」
「何よ? 美味しいのは事実でしょ?」
「うん、だから言っても良いと思うよ。私も美味しいって思うもん」
「そう、ありがと」
「えへへ~うん、美味しいね」
「そうね、美味しい」

 互いに、美味しい美味しいと連呼しながら食べる。
 その日の食事は、霊夢にとってもルーミアにとっても、心から満足のいく食事だった。





◇◇◇





「あんた、本当に帰るの? もう夜だし、泊まっていけば良いのに」
「あはっ、霊夢なんか優しいね」
「う、うっさいわね! 人がせっかく親切で訊いてやってるのに!」

 もう外は真っ暗だった。
 星と月の光だけが、灯りの役割を果たす時間だ。
 霊夢からすれば、もうこのまま泊まっていくのではないかと思っていたので、思わず引き留めてしまう。

「ありがとう。でも、私は夜の方が活発な妖怪だし。夜に寝るってわけでもないの」
「あ、そっか。なんか今日一日で、あんたがあまりにも人間っぽかったから忘れてたわ」
「むーそんなこと言っちゃうと、霊夢を食べちゃうぞーがおー」
「ふんっ、返り討ちにしてくれるわ」

 両手を上げて大きく口を開き、ぎゃおーと明らかに本気じゃないポーズを取るルーミア。それに対し、霊夢も両手右足を上げて、何やらうさんくさい拳法の構えを取った。
 傍から見たら、実に滑稽な二人だ。
 少しして、ルーミアが笑った。それにつられて、霊夢も笑う。

「くっ、あはは。嘘だよ、霊夢は食べない。お世話になったしね」
「まぁ、あんたなんか襲ってきたところで、右手一本で倒せるけどね」
「むー霊夢の意地悪」
「本当のことでしょ?」

 霊夢の言葉に、ルーミアは答えず、ただ不貞腐れたように頬を膨らませるだけ。はむるみゃー、再びだ。
 ごめんごめん、と霊夢はルーミアの頭を撫でる。子供扱いしないでーと口では言うが、心地良さそうな表情だ。

「霊夢、今日は本当にありがとう」
「ん、まー別にいいわよ」
「この恩は忘れないからね。そうだっ! お礼に、今度私の手料理食べさせてあげるっ!」
「それお礼じゃなくて、罰ゲームよね」
「失礼な!」
「いやいや、溶かしたフライパンとか、人はそんなもの食べないから」
「妖怪だってそんなもの食べないよっ!」
「なら作るんじゃないわよ!」

 夜なのに、ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人。
 喧嘩というよりは、やっぱりじゃれあいにしか見えない。
 しばらくして、どちらともなく争うのをやめる。

「ん、それじゃあ行くね」
「そう、じゃあね」
「うん! またね、霊夢」

 ふわっと浮き、ぶんぶんと霊夢に手を振る。
 どんどん姿が遠くなっても、ルーミアは霊夢の方へ向いたまま、ずっと手を振り続けている。

「本当にありがとー!」
「いいから前向いて飛びなさい。木かなんかにぶつかってもしらないからねー!」
「あははーそんなドジはしないよー! 多分だけどー!」
「多分なんだ。なんか不安な……」

 そう叫んだ後、とうとうルーミアの姿は見えなくなった。
 霊夢は、軽くため息を零す。いつもなら、お茶を飲んで適当に過ごすだけの一日なのに、今日はやけに騒がしく、実にどたばたとした一日だった。

「ん~疲れたっ!」

 ぐっと体を伸ばし、息を吐く。
 体中が、疲れを訴えているのが分かった。

「さて、私はさっさと寝るとしますか」

 そう呟いて、霊夢は部屋へと戻って行った。
 誰もいなくなった境内には、きらきらとした星とまんまるお月様の光だけが、やけに眩しく残っていた。










~投稿時あとがき~ 
どうも、喉飴です。こちらでは、とてもお久し振りな気がします。初めましての方は、初めまして喉飴です。
これが200投稿目ということで、大好きなルーミア・ほのぼのを書きました。過去に書いた『頑張れ小さな女の子』シリーズとは世界が違います。
ここまで投稿出来たのも、やっぱり創作が楽しいというのと、たくさんのご感想に支えられてきたからだと思います。読んで下さった方やご感想を下さった方、そしてルーミアにも感謝を。ルーミア可愛いですよね、ルーミア。もう食べられちゃいたいくらいに。
今回、書いていてとっても楽しかったです。この楽しさが、ルーミアの可愛さが、少しでも伝われば良いなと思います。
これからも、ゆったりまったりぐだぐだだらだらと、マイペースに続けていきたいです。
さて、言いたいことはたくさんある気がしますが、長くなりそうなのでこのへんで締めさせてもらいます。本当に、ありがとうございます。
そして今回のお話、少しでも楽しんでもらえたなら、嬉しいです。
るみゃー!
東方SS | コメント:0 | トラックバック:0 |
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