紫と阿求でショートショート2010-07-14 Wed 02:07
軽いノリのもの詰め合わせ。
息抜き息抜き。 1.複雑 「ふぅ……さて、少し休憩しましょう」 「お疲れ様、阿求」 「わぁっ!? ゆ、紫さんですか。突然現れるのはやめてください、っていつも言っているじゃないですか」 阿求が幻想郷縁起を編纂する手を止め、ぽつりと呟いた独り言は、紫の出現で会話へと変化した。 全く気配を感じさせずに、突然現れるのは紫にとってはいつものこと。そして大多数の者が、紫はそういう奴だと知っている。もはや、紫の知り合いで一々驚くのは阿求くらいだ。 その驚く姿が面白くて、紫はこの現れ方をやめるつもりは一切ない。 「あなたくらいよ? 未だに驚いてくれるのは」 「わ、私は集中力が途切れたときは無防備になるんです。だから、仕方ないこと」 「ふーん……ま、いいわ。そんなことより阿求」 「なんですか? 私この後、今日から体力付けようかと42.195キロ走り込みするつもりなので、忙しいのですが」 「やめときなさい、絶対倒れるから。今日はね、普段頑張っているあなたにお土産を持ってきたの」 「お土産?」 阿求が頭に疑問符を浮かべ、軽く首を傾げる。紫の笑顔が、いつも以上にうさんくさい。なんとなく、身構えてしまう。 いざとなったら文鎮で殴ろう、と心に決める阿求。 「そんなに警戒しなくても良いじゃない。ほら、これよ」 「……これは?」 「外の世界の漫画というものね」 渡されたものが本だったので、阿求は興味津々だ。ぱらぱらと捲ってみると、中にはたくさんのイラストと文字。そして、多いページ数に加えてカラー印刷。これらは、阿求にとって衝撃的だった。 ほわーと呆けながら、まだぱらぱらと捲っている。 そんな阿求を見て、紫はクスッと笑った。 「気に入ってもらえたかしら?」 「はい、これは興味深いです。あの、ありがとうございますっ!」 「っ!?」 えへっ、と純粋な笑顔。いつもはうさんくさいなどと言われてるせいか、こんな笑顔を向けられたことはほとんどなかった紫にとって、それは強烈だった。 また、来るときにお土産を持ってこよう。そう、心に決めた瞬間だった。 「それじゃあ、今日は帰りますわ」 「あ、はい。さようなら。それと、本当にありがとうございます」 そして一週間後には、外の紅茶。貰った阿求は、それはそれはとても喜んだ。 さらに一週間。今度は外の小説。阿求は感謝のあまりに抱き付いた。 そんなことが、何度も何度も続いたある日、紫がまた阿求の元へと訪れた。 阿求は、紫の姿を確認すると、ぱぁっと太陽のように眩しい笑みを浮かべて、即座に抱きついた。 「えへへ~紫さん、いらっしゃい」 「あぁ、もう、一々抱きつかないの」 紫には、阿求に犬耳と尻尾が見えるように思えた。 「今日は外の絵本よ」 「わぁ! 凄いです!」 きゃあきゃあと嬉しそうな阿求を見て、そして最近の阿求の懐き具合を見て、紫は思った。 「好かれるのは嫌じゃないけど、なんか餌付けしたみたいで複雑ですわ……」 2.やりすぎ注意 「今日は趣向を凝らして、爆発音もプラスしてみましょう。あの子、ただでさえ驚くのに、ここまでしたらどれだけ驚くかしらね」 スキマから阿求の様子をうかがいながら、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる紫。 いつも通り、阿求が休憩に入った気の緩む瞬間を狙う。阿求は紫に見られているなんて、気付いていない。 「んー……このくらいにしておきましょう。さて、ひとまずは休憩を――」 阿求が休憩に入ろうとした瞬間、大きな爆発音。屋敷が軽く揺れるほどの、爆音だ。 体をビクッと震わせ、驚きのあまりに口をぱくぱくさせるだけで声も出ない阿求。 「こんにちは、阿求」 「ひゃあああああああああああああ!?」 さらにとどめに、紫が耳元でそっと挨拶。 阿求はやっと大声を出した。そして、その場にぱたりと倒れた。紫にとっては、大成功だ。 「あー面白かった。ひゃあ、ですって。可愛らしい悲鳴をありがとう、阿求」 紫は悪戯成功といった表情で話しかけるが、阿求は動かない。 「あら、怒った?」 訊ねるが、やはり反応はない。 倒れたまま、ぴくりとも動かない阿求に近づく。 「あれ? えーと、そんなに怒っちゃったかしら? 阿求~って、死んでる!?」 呼吸をしていない。 心音が確実にストップしていた。 「医者ー!?」 やりすぎた、と反省したそうな。 ※この後、紫さんが小町さんに事情を説明した後に軽くボコボコにし、魂回収をして阿求さんは復活しました。 3.もしかして? 「阿求、あなたちょっと太ったんじゃない?」 「っ!?」 その一言で、阿求は雷があたったかのような衝撃を受けた。 ぷるぷると肩を震わしている。 「確かにあんまり外に出ないですし、甘いもの大好きですけどっ! そんなストレートに言わなくてもいいじゃないですか!」 「たまには外で運動したらいかがかしら?」 「え? 嫌ですよ。太陽の光とか怖いですもの。こう部屋に閉じこもって、一人本を読んだり書いたりするのが好きなんです。なるべく部屋出たくないです。本当なら、食事とかも全て自室で済ませたいくらいなのに」 「……あれ? もしかして引きこもり街道まっしぐら?」 4.本音 「胸って、その人の性格を表しているのですよ」 「は? 意味が分からないわね」 阿求はまず、自分の胸を指さす。 「ほら、私はこう、なんていうか、胸が小さいです」 「そうね。とってもとっても貧乳ね」 「くっ……しかし! これは私の性格を表しています! 控え目でおしとやかで、決してでしゃばろうとはしない。あぁ、なんて素晴らしいのでしょう。まさに女性の鏡です」 「で? 何が言いたいの?」 次に、紫の胸を指さした。 「紫さんの胸は大きいです」 「そうね。あなたよりは断然」 「ぐぁ……しかし! それはあなたの性格を表しています! 図々しくて、でしゃばりで、ふてぶてしい態度。あぁ、なんて酷い。全てその大きい胸がいけないんです。あー見ていて腹が立ってきました。半分くらい私に寄こせこんちくしょうめ!」 「言ってること滅茶苦茶よ、阿求」 結局は、スタイルが良いことに嫉妬しているだけだった。 阿求だって女の子だもん。 5.過度の接触は嫌がられる恐れがあります 「あらあら、嫌われたものねぇ」 阿求が眠っている間に、こっそりと幻想郷縁起の八雲紫の項目を見る。そこには『まず相手にしたくない妖怪である』と書かれていた。 そんなに印象悪いかしら、と少し考える。 「ちょっと接触方法を変えて、印象を良くしてみようかしら」 そう考えた紫は、次から変わった。 「阿求~可愛い可愛い」 「わっ!? な、なんですか突然。もう、やめてくださいよぉ」 ますは、軽いスキンシップとして抱きついて頭を撫でる。 「阿求、肩凝っていない? 揉んであげるわ」 「ゃ、別に良いですってばぁ……んっ」 次に、疲れているであろう阿求を労う。 「阿求、たまには添い寝なんていかが?」 「いやもう、慧音か霊夢さん呼びますよ? 退治してもらいますよ?」 最終的には、寂しいであろう一人の夜に添い寝(無理矢理)してあげた。 そんな日がしばらく続いたある日、紫は再び幻想郷縁起を開いてみた。予想通り、紫の項目が微妙に変わっていた。 『八雲紫:なんか気持ち悪い。この一言に尽きる。』 紫は泣いた。割と本気で。 |
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