絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

気弱な今宵

さとり、こいし。
ほのぼの?


 
 さとりは、リビングのソファに腰掛けて本を読んでいる。少し古びたそのソファは、見た目は少しボロッとしているが、まだしっかりと役割を果たしている。ふにゅんとした感触が、小さなお尻に伝わるのが分かった。
 読んでいる本は今まで何度も読んできた本。なんてことない、ただの小説。別にこの小説が特別好きというわけではない。ただ、地霊殿からあまり積極的に出ようとしないさとりにとっては、これくらいしか暇潰しがないのだった。
 読み進めていくうちに、やはり飽きる。
 そして、本を閉じてテーブルの上に置いた。

「ふぅ……特にすることがないというのも、また暇ね」

 ぽつりと呟いた。
 すると、何処からか小さな物音がした。
 ただそれくらいのことなら、気のせいかペットだろうと思うところだが、何故かおぼろげな気配が感じられた。希薄で、けれども確かにそこに存在していることは分かる人の気配。
 さとりは立ち上がり、物音がした方へと向かう。

「誰か、いるの?」

 視界には、誰もいない。
 だが、確かに何かがいるような気がする。ただの勘と言ってしまえばそれまでだが、さとりには何か、良く分からない確信があった。
 そこにいる筈なのに、いないように見える。
 これはつまり――

「こいし?」

 自然と、その結論に至った。
 そしてこいしの存在を意識すると、さっきまでそこには居なかったかのように見えたのに、今では確かに存在することを、姿を確認できた。
 表情は少し赤く、足取りが覚束無い。
 こいしはこいしだが、いつものこいしの様子とは違った。

「ちょっと、こいし! どうしたの?」
「……ありゃ? 気付かれちゃった――っと!?」
「こいし!?」

 ふらついて倒れかけたこいしを、慌てて抱きとめるさとり。
 様子のおかしいこいしに、さとりは一体何が原因かと考える。だが、それは深く考えるまでも無く、分かった。

「こいし、まさか風邪?」

 体が熱く、目もあまり開いていない。額に手をあててみると、かなり熱を持っているのが良く分かった。
 ひとまず自室へと運ぶことにする。
 負担をかけないように、膝の裏と首に手を回す。所謂、お姫様抱っこだ。

「んー……風邪、なのかなぁ。少し体が重くて、休もうと思って帰ってきたんだけど……」
「立派な風邪でしょう。まったく、こんな高熱になるまでふらついて」
「むーお姉ちゃんにそういう風に言われるだろうなーと思ったから、無意識の力使って気付かれないようにしようと思ったのに」
「残念。風邪のせいか、能力の効果も不安定だったわね。はい、着いた」
「わぴゅっ!」

 ベッドの上にこいしを寝かせた。
 少し手荒かったからか、衝撃に思わず変な声が出てしまったこいし。

「さて、食欲は?」
「ないかな」
「無理に食べさせるのもよくないのよね。じゃあ、せめて水分は? 何か飲める?」
「ん、それくらいなら、多分」
「分かったわ。ちょっと待っててね。おとなしくしてるのよ」

 さとりの言葉に、こいしは弱々しく首を縦に振った。そして、さとりは部屋を出て、看病の準備をしに行った。
 こいしは部屋をキョロキョロと見渡す。
 久し振りの姉の部屋。昔は頻繁に来ていたけども、最近はまったく来ていなかった。
 特に昔と変わり映えのしない部屋。簡素というわけではないが、女の子らしいものは何もない。こいしの部屋はさとりと違って、可愛らしい人形やハートのクッションなどがある。

「お姉ちゃんも何か置けば良いのに……さて、行こうかな」

 こいしはベッドから起き上がる。
 熱のせいで足の節々が痛み、少しよろけている。
 姉に迷惑をかけたくないからこそ、こいしは今のうちにそっと出て行こうとする。そして、今度こそ能力をしっかりと使って、風邪が治るまで自室にこもっていようと思ったのだ。
 見つからないように、忍び足でそっと行動する。扉を開き、そーっと周りを見渡す。さとりの姿は、何処にもない。
 ホッと息を吐き、自室へと向かおうとするが――

「こいし、何処へ行くつもり?」
「ひゃわうぁっ!?」

 こいしの肩に、突然さとりが顎を乗せてきた。
 普段はどちらかというと突然現れて他人を驚かすのはこいしの方なので、こいし自身、自分が逆にそういうことをされるのには慣れていなかったようだ。
 両手を大きくぶんぶんと振りながら、大声を上げて驚いた。

「お、おおおお姉ちゃん! どっから沸いて出たのさ!」
「今の弱ったあなたなら、私でも気付かれないように行動出来るわ。で? こいしは何処へ行こうとしてたのかしら?」
「う……それは、その」
「さぁ、こいし。おとなしく私の部屋に戻りなさい」
「……はぁい」

 笑顔で、そう珍しいくらいに笑顔でさとりは言った。その笑顔の裏に、声に、静かな怒りが含まれていることが分かった。
 いつもは姉を振り回す立場のこいしが、今日はまったく歯が立たなかった。
 おとなしく、よろめく足でさとりの部屋へと戻る。さとりも、その後をついて行く。本当なら手を貸してあげたいところなのだが、右手に飲み物、左手にはタオルを持っているために、こいしに手を貸すことが出来ない。
 倒れないだろうかとハラハラしながら、さとりはジッとこいしの後ろ姿を見つめていた。

「はい、とーちゃく」
「ちゃんと横になりなさい」
「別に眠くないもーん」
「横になるだけで、だいぶ楽になるでしょう?」
「むむむ……」
「あ、でも先に飲み物飲んでおく?」
「あーありがと、お姉ちゃん」

 さとりからコップを受け取り、んくっんくっ、と喉を鳴らしながら一気に飲み干した。どうやらよっぽど喉が渇いていたようだ。
 飲み終わると、そのまま横になる。
 こいしの額に、さとりは持ってきていた濡らしたタオルを置いた。

「えへへ、ひやっこくて気持ち良い」
「そう、良かったわ」

 ひんやりとした心地良さに、思わず目を細めるこいし。
 さとりはそれを見て、ホッと息を吐いた。

「でも、またすぐ熱くなると思うから、後でまた濡らしてくるわね。あ、あと喉が乾いたら遠慮なく言うのよ? 持ってくるから」
「んーありがとー」
「……こいし、さっき逃げようとしていたでしょう?」
「ぅ……だ、だって」

 こいしが何を思ってあんな行動をしたのか。そんなことは、姉であるさとりにとっては簡単に分かることだった。
 しかし、こいしは言おうとしない。もごもごと、言葉に詰まってるような感じだ。
 さとりはそれを見て、思わずため息を零してしまう。

「はぁ……こいし、私に迷惑かけたくないとか思ってるのでしょう?」
「ゃ、え、な、なんで?」
「あなたのことだもの、よく分かるわ。あのね、こいし。私は迷惑だなんて思わないからね」
「でも……」
「でも、じゃないわ。それに私としては、もっと頼って欲しいところよ。あなたの姉だもの。もっと甘えてくれても良いんじゃないかしら?」
「うぅー……お姉ちゃんのくせに生意気だ。今日のお姉ちゃんは生意気だー」
「こいしは普段、私をどんな目で見てるのよ……」

 熱のせいか、それとも別の何かのせいか、こいしは頬を赤くしながら、ぎゃあぎゃあとさとりに言葉を投げかける。

「はいはい、暴れない。悪化するわよ。おとなしく寝てなさい」
「むぅ~」
「こいしが何を言おうとも、私はこいしの看病をするからね?」
「……それはお姉ちゃんとして当たり前のことなの?」
「いえ、古明地さとり個人としてこいしの看病は当たり前のことなの」
「ふーん、よくわからないや」
「でしょうね」

 しばし、静寂。
 突然黙ってしまったこいし。
 それに対して、無理に喋って体力を使う必要も無いと判断して自分からは言葉を発さないさとり。
 あまりにも静かなので、もしかして眠ってしまったのだろうかと、さとりはこいしの方を少し見つめた。
 こいしは目を閉じたまま、動いていない。
 寝たのなら、今のうちに飲み物とかをそのまま持って来てしまおうかと考える。そして、さとりは静かに立ち上がった。

「お姉ちゃん、何処行くの?」

 すると、こいしが言葉を発した。
 起きていたのか、と少し驚く。

「起きていたのね」
「うん。お姉ちゃん、看病してくれるんでしょ? ならさ、傍にいて」
「え?」
「聞き返さないでよ。恥ずかしいんだよ、一応。いや、やっぱ別に恥ずかしくない。お姉ちゃんが言ったんだもん」
「何を?」
「甘えろって。もっと頼れって。そんなお姉ちゃんの願いを私は叶えてあげただけだからね」

 早口で言うこいしに、さとりは思わず笑みが零れてしまう。
 笑ったさとりを、ジトっとした目で睨むこいし。

「うん、そうね。私が言ったことだものね。私の願いを叶えてくれてありがとう、こいし」
「……寝る」

 ぷいっとさとりから顔をそらした。

「お姉ちゃん、私が目を覚ましたときにさ」
「うん?」
「ちゃんと、居てくれなきゃヤダよ?」
「大丈夫、傍にいるからね。これなら、どうかしら?」
「わっ!」

 こいしの小さな手を、さとりがぎゅっと握った。
 風邪の熱とはまた違う、優しい熱。
 そして、不思議な安心感。

「ん、ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして」

 風邪で辛いはずなのに、こいしはほわっとした穏やかな気持ちになった。
 本当は少し心細かった。けれども、そんな気持ちも吹っ飛んだ。今は、傍に大好きな姉がついてくれている。その事実が、安心感を与える。
 こいしはゆっくりと瞼を閉じて、眠りへと入っていった。

「おやすみ、こいし」



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