嵐のような彼女2010-02-15 Mon 01:50
あやにと! 糖分は20%くらい。いつもとはちょっと違った感じのあやにとで書きました。
「にとり」 「んー?」 「結婚しない?」 「誰と?」 「私と」 「誰が?」 「にとりが」 「ふーん……帰っていいよ」 「くっ、相変わらず冷たい!」 もう慣れたやりとりだった。 文は非番の日、私の家へよく遊びに来る。というか、文に仕事がある日なんて滅多に無いから、ほぼ毎日だ。おまけに、朝早くから来るせいで、無理矢理起こされたりもしばしば。徹夜で作業していた次の日とかは、本当に勘弁して欲しい。 今日も無理矢理起こされた上、朝食を二人分作るはめになった。 そして毎回、朝食を食べた後は結婚を申し込んでくる。何故かは、興味も無いから訊いてないけど。 あぁ眠いなぁ、もう。 「くぁ……」 「あら欠伸なんて、にとり眠いの?」 「誰のせいだよ、まったく」 「にとりに迷惑かける相手は、私が許さないわ」 「鏡見なよ馬鹿」 軽くあしらいつつ、食器を片付ける。 とりあえず洗うのは後にしよう。文から目を離していると、正直何をされてるか分からないし。下手にそこら辺の機械やらを弄られたら、いろいろ困る。 台所に食器を置いて、急いで居間へ戻る。 「食べてすぐ寝ると牛になるよ」 さっきまでちゃんと座ってたくせに、戻ってきたら仰向けに寝ていた。 寝るなら家に帰れば良いのに。 「にとりはなんで料理が上手なの」 「はい?」 「あー本気で嫁に欲しいわ」 もしかして、毎回結婚申し込んでくる理由って料理だったのか。 文は目を細めて、なんというか幸せそうな表情をしている。いや、そんなに私料理上手くないんだけど。 「私、普通だよ? 文の方が料理出来そうなイメージあるけど……」 「あー……私? 無理無理」 手をひらひらと振って、否定する文。 料理出来ないってことは無いだろうけど。長年生きている妖怪なんだから。 長く生きていると、暇潰し程度に料理をちょっとくらい学ぶことだってあるだろう。機械弄りに時間を費やしてきた私でさえ、料理を人並み程度には学んだ。 「私ね、昔言われたことあるの」 「え? 何をさ?」 「射命丸、お前は実力もあるし、人柄の良さもある。天狗社会においても、重要人物となるだろう。だが一つだけ、これだけは守ってくれ。って」 「何を守ってくれって言われたの?」 「台所に立つな。いや、まな板や包丁にすら触るな。って言われたわ。天魔様直々に。しかも涙目な上に土下座つきで」 「うわぁ……」 一体何をやらかしたら、そんなお偉いさんに直接言われるんだろう。 いや、ちょっと待て。 「じゃあ、文は今までご飯どうしてたのさ?」 「……同僚にたかったり、お店で食べたり」 「長い年月をそんな風に凌いできたの!?」 「今はにとりに寄生ね。感謝感激雨嵐」 「私が明日からは来るな、って言ったら?」 「泣きます。妖怪の山全体に響き渡らせるくらいに、全力で」 なんだろう、この脅し。 情けなさすぎるこんなくだらない脅しをするやつが、実は凄い強くて格好良いなんて、文をよく知らない者には理解出来ないだろうなぁ。いや、格好良いは余計か。うん、余計だ。 ふと文を見ると、今度は俯せに寝転がっていた。 「文、寝るなら家で寝てよー」 「ここ家ー」 「私の家なんだけど」 「にとりのものは私のもの。私のものは私のもの」 「本当、くたばればいいのにね」 「あややややや、相変わらずバッサリと斬るわね。私相手にそんな態度取る河童、にとりだけよ」 「まぁ、相手が文だから」 「何その見下してるというか、馬鹿にした感じ」 「うん、尊敬はしてないよ」 人見知りの私がこんな風に砕けた口調で話せる相手は、やっぱり少ない。 その中でも、立場が上な相手で話せる相手は、実は文だけ。 文は、他の天狗たちとは何かが違った。 そういえば最初、文が私に話し掛けてきた時は取材モードで、敬語だったなぁ。私みたいな格下相手なのに。 最近では、取材よりもプライベートで来ることが多いから、敬語はしばらく聞いて無い。むしろ私は、敬語じゃない方が話しやすい。敬語なんか使われると、なんかくすぐったいから。 「ねぇーにとり」 「んー?」 寝転がっている文の隣りに座る。 近くにある、手のひらサイズの未だによく分からない機械を手に取る。 つい最近拾ったけど、なんだろう、これ。たまごの形をしていて、画面が一つとボタンが複数。一緒に落ちていたボロボロの説明書には、育成ゲーム『幻想郷で発見たまごDE血』と書いてあった。けれど、未だに使用方法が分からない。 とりあえず、軽く解体してみるかな。えと、ドライバーどこやったっけ。 「むぅ、聞いてるにとり?」 「あーはいはい、聞いてるよ」 あ、ドライバーあった。 私が流しつつ聞いてるのが気に入らないのか、文が俯せのまま足をぱたぱたさせている。 そんなミニスカートなのに、足をぱたぱたさせちゃあ……あー白い布が見えた。 「やめい、下着見えるって」 「私、にとりになら全てを見せても構わない……」 「もう帰れよ。もしくはくたばれよ」 「冷たい!? せっかく愛を伝えたというのに……」 「いらんわ!」 「この美しくて可愛くて強くて頼り甲斐のある私からの愛を、いらないと?」 どれだけ自信があるんだ。 微妙に腹が立つのは、文は実力の無い馬鹿みたいな自信家では無く、本当に実力を兼ね備えたタイプだということだ。つまり、言っていることが別に間違ってはいない。 それに、おちゃらけた時の表情は可愛いし、真面目な時の顔は美しかったり格好良かったり……いや、何考えてるんだ、私。 頭をブンブンと振って、今の考えを捨て去る。 「どうしたの、にとり? そんな頭振って」 「いんや、なんでもない。ちょっと阿呆なこと考えた自分に腹立っただけ」 「何考えたのよ?」 「……別に何も」 いけない、また考えてしまいそうになった。 「ふむ……隠し事良くないわよ」 「いや、文には関係無いことだからさ。気にしないで」 「長いこと取材とかしていると、相手の顔見ただけで嘘か本当か分かるものよ。 にとり、あなたはズバリ嘘を吐いてるわ!」 「うっ!?」 文が勢い良く起き上がり、指をビシッと突き付けてきた。 うぅ、こういう時の文は厄介なことこの上ない。 多分過去の経験から、白状するまで徹底的に迫ってくる。 「にとり……」 「な、何?」 「取材ターイムっ!」 「やっぱり!?」 文は笑顔で、そう、物凄い笑顔でそう言った。 あぁ、ろくなことにならない。 ちょこんと目の前で正座している文が、「逃がさないわよ」と目で訴えている。 まぁ実際、逃げたとしても数秒も経たずに捕まりそうだ。速いって強いなぁ。 「はーい、では質問しまーすっ!」 「うわっ、速攻取材口調になってるし……」 切り替え早い。 さっきまでは砕けた話し方だったのに。 「一体何を考えたのですか?」 「だから、文には関係無いこと――」 「だったら、私が知っても問題無いですよねー?」 「っ……」 くぅ、性格の悪いやつだ。 私が何を考えたのか、大方想像ついてるのだろう。腹が立つほどニヤニヤしてるし。 殴ってやろうか、それとも蹴ってやろうか。悩むところだ。 「さぁ、にとり! 答えて下さい!」 「……嫌だと言ったら?」 「そうですね、本当はしたくありませんが……実力行使で!」 勢い良く手を伸ばしてくる文。 だが、甘い! 「いったぁぁぁぁぁぁぁい!?」 その手を、持っていたドライバーで思い切り叩き返した。 文は俯いて、唸り声を上げている。ふはは、参ったか。 「にとり……」 「ひぃっ!?」 な、なんか妙なオーラが見える。 目をギラギラと光らせて、両手をわきわきとさせる文は、どこぞの妖怪の賢者様より妖しい。 まずい、逃げなきゃ! 「逃げられると思いますか?」 正直、思っていない。 「ちなみに逃げようとしたら、にとりを半裸にして、縛って、その後博麗神社に連行します」 「何がしたいのか分からない!?」 「隙有り!」 しまった! ツッコミなんかしたせいで、無防備になってしまっていた。 文の腕が蛇のように絡み付き、あっという間に羽交い絞め。 割と冷静な自分が怖い。いや、逃げ切れないだろうなぁ、って諦めてたからだろうけど。 「さぁ、にとり」 「何さ」 「処刑……じゃなかった、取材タイムですよ」 「今さらりと物騒な単語聞こえたよ!?」 「いえいえ、別に怒ってもないですから安心してください。ドライバーでやられた手がまだ痛むとか、そんなこともないですよ」 文の声が穏やかなのが怖い。 しかも、この体勢だと文の顔が見えないから、どんな表情しているのか分からない。それが余計に怖い。 「ふむ、大きいかと思いきや、意外に小振り……と」 「何が?」 「え? にとりの胸ですよ」 「あぁ、なるほど――ってこら!」 いつの間にか胸を触られていることに気付く。 「馬鹿! 触るな!」 「では、取材に答えてくれますよね? 何を考えたのか、じっくり詳しく」 「うっ……」 なんていうしつこさだ。 もう忘れたかなぁ、って期待してたのに、ハッキリ覚えてるし! 「ひゃわっ!? な、何するんだ馬鹿!」 「耳をはむはむっ」 「ひっぅ! や、やめろ!」 ぞくりと背筋が震えた。 まずい、どんどん文のペースにのまれてゆく。 「さぁ、言わないと……どんどんにとりが大変なことに!」 「最低だー!? こいつ最低だー! みゃっ!?」 「はむはむっ!」 私に残された道は二つ。 一つは正直に言うこと。もう一つは、このまま文に大変な目にあわされること。 え、何この究極の選択。 「さぁ、どうしますか?」 「くっ……分かった。言うよ! 言えばいいんでしょ!」 「そう、最初から素直にそうすれば良いのです」 恥ずかしいけど、体を触られるよりは、まだ言ってしまった方が幾分かマシだ。 深呼吸。すーはーすーはー。よし、言える! 「あ、文が……その」 「私が、なんですか?」 顔が見えなくても、文がニヤニヤしてるのが分かる。 声も笑ってるし。ちくしょう。 「文は可愛かったり、格好良いやつだなって思っちゃったんだよ! 馬鹿! くたばれ!」 「おー勢いに任せて暴言がちらほら混じってますが、まぁ良しとしましょう」 ヤバイ、今絶対顔真っ赤だ。 勢いに任せても、恥ずかしいものは恥ずかしい。 くそぅ、文め。 「はい、解放してあげます」 「うぅ……恥ずかしい」 「にーとーりっ!」 「なんだよぉ……」 「うん、私よりも絶対、にとりの方が可愛い」 「なっ!?」 ただでさえ熱い顔が、もっと熱くなるのが分かった。 だって、笑顔でそんなこと言われちゃ、恥ずかしいに決まってる。 どう反応して良いか、分からない。 「にとり、顔真っ赤」 「う、うっさい!」 「あはは、可愛い可愛い」 「~っ!? か、帰れー!」 「おぉっ!?」 もう手当たり次第に物を投げ付けてやる。 からかわれているのか、本気なのか、相変わらず分からない。 工具箱とかそのまま投げ付けていたら、文はさすがに慌てだした。 「あやややや、今日は退散しとくとしましょう。また来ますね」 「二度と来るな!」 最後に投げ付けた小さなネジが、飛んで行く文の背中に当たったのを見た。 気が付くと、服は乱れ、部屋は色々投げたせいで荒れていた。 思わず、ため息が出てしまう。 「はぁ……嵐みたいなやつだな」 実際、部屋が荒れたのは私の行動が原因だけど、この際全て文のせいにしてしまえ。 うん、私は悪くない。 とりあえず―― 「部屋、片付けよう……」 |
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