一枚上手2010-01-24 Sun 13:58
あやれいむ!
あやれいむ! あやれいむ! 「清く可愛いみんなのアイドル、射命丸ですよっ!」 「寝言は寝て言いなさい。馬鹿じゃないの? あんた何歳よ。見た目若くても、私より何倍も年上なんでしょう?」 「え、いや……」 「あんたは天狗社会だけにとどまらず、幻想郷の中でもかなり強いのに、そんなんじゃあ他の者に示しがつかないんじゃないの? 大体あんたは、もう少し落ち着くべきよ。いつもぎゃあぎゃあと騒いでばっかり」 「そのー……霊夢さん?」 「新年になってもうすぐ一月経つのだから、いつまでも浮かれてないで、もう少し落ち着きと余裕を持った行動を心掛けながら――」 「言い過ぎですよ!? なんで正論で返すんですか! うわぁぁぁぁぁん!」 いつもと同じように、ちょっとおどけた登場をした文を、あえて全力でバッサリと斬り捨てた霊夢。 文からすれば、ちょっとふざけただけで真面目に説教され、かなりヘコんだ。 膝をついてヘコんでいる文に対して、霊夢は縁側に座ってお茶を飲んでいる。 「うぅ、手厳しいです。大体、私が本気なら霊夢さん、あなたを一瞬で散らすことが出来るのですよ? 所詮あなたは人間なのですから。そんな口きいていたら、私も本気になりますよ?」 「文はそんなことしないって、私信じてる」 「うっ……」 霊夢は文の手をギュッと握り、わざとらしく瞳をうるうるさせて、そう言う。 演技だと分かっていても、くらりとしてしまう文。霊夢は黙っていれば可愛い。だからこそ、今のこれは反則だ。文はそう思っていた。 「は、離して下さいっ!」 「あはは、あんたって意外と純よね」 「私はほら、清く美しいですから」 「その言い方だと、私は清くも美しくも無いみたいな言い方ね」 ジト目で文を睨む霊夢。 それに対して文は、自分の顎に手をあてながら、じっくりと霊夢を見つめた後、口を開いた。 「う~ん、霊夢さんは美しいというよりは、可愛いですからね」 「な!? あ、あんた何サラッと恥ずかしいことを……」 「はい? 何がです?」 さっきまでとは真逆。今度は、霊夢が赤くなる番だった。 文は素直に思ったことを言っただけのようで、全く動じていない。 「手握っただけで赤くなるくせに、なんでそんな恥ずかしいことをサラッと言えるのよ……」 「恥ずかしいことですかね? 素直な気持ちを述べただけですし、普通のことだと思いますが」 「あんたの基準が分からない……この卑怯者」 「ちょ、何故ですか!?」 「うっさい黙れ!」 「危なっ!?」 針を眼球目掛けて投げられ、慌てて避ける文。 幻想郷最速だからこそ、避けられる。もし攻撃を受けていたら、視力を失うところだった。 文の背中に、嫌な汗が流れた。 「ちょっと! 当たっていたら光を失ってましたよ!? いくら妖怪でも、傷は回復しますが視力は回復しないんですよ!?」 「大丈夫、文はこの程度でやられるようなやつじゃないって、私信じてるもん」 「そんな、今私良いこと言ったでしょ? みたいな表情しても許しませんよ!」 「寒いでしょう。お茶飲む?」 「いただきますー」 許さない宣言から約二秒、簡単に懐柔された。 正直寒かったので、お茶はありがたいものだった。 文は縁側に腰掛け、まだかなまだかな、と足をぱたぱたさせながら、霊夢を待つ。 「ん、お茶よ」 「ありがとうございます。あぁ、大好きです。愛してます」 「鬱陶しい」 「霊夢さんのことじゃなくて、お茶のことですよ?」 「……」 「痛い痛い! 無言で蹴らないで! 大丈夫、私霊夢さんも好きですから!」 「っ……」 「無言で背中に御札貼らないでください! 怖すぎます!」 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人。 背中に無言で御札を貼られたら、暴れるのは当たり前だ。霊夢はいつでもその御札の効果を発動することが出来るのだから、文からすれば恐ろしい。 だが、暴れてる割には、お互い手に持っている湯飲みからお茶を零すことはない。 無駄に超人的なのか、はたまた二人にとってはこれがただの戯れ合いなのか、それは二人にしか分からない。 「お茶冷めちゃうじゃない、もうっ!」 「蹴ってきた霊夢さんが悪い」 「誤解招くような言い方したあんたが悪い」 「もうここは間を取って、霊夢さんの存在が悪いということで」 「よし、喧嘩売ってるわね。買ってあげるわ」 「すみません、私の挑発は非売品なので買えません」 戯れ合うのをやめて、霊夢は文の隣りに腰掛けた。 互いにお茶を啜り、ほぅっと一息吐く。 霊夢は、寒さで冷えきってしまった両手を温めるように、湯飲みを持つ。 「寒いですね。そんな腋丸出しの姿、寒くないですか?」 「あんたこそ、そんな短いスカート寒くないの?」 「きゃっ、どこ見てるんですか。私の美脚に魅かれるのは分かりますが、ジッと見られると照れちゃいます」 霊夢は「寝言は寝て言え」と言おうとしたが、耐える。文はそういう返事を予想しているだろうから、あえて違う返事をしよう。そう思ったのだ。 少し考えてから、言葉を発する。 「そうね、羨ましいわ」 「え!?」 予想外の返し方に、驚きの表情を浮かべる文。 それを見ることが出来て、霊夢は愉快な気持ちになる。悪戯成功、といった感じだ。 文はどう対応していいか分からずにいる。 この隙を霊夢が逃すわけもなく、ここぞとばかりに追撃に出た。 文の膝に、そっと手を置く。 「ひゃっ!? な、何するんですか!」 「んー? 美脚って、触った感じはどうなんだろうなーって思って」 遊び心で触れた霊夢だったが、予想以上に触り心地が良くて、思わずこのまましばらく触っていたいと考えてしまう。 霊夢は、文の太股をやわやわと揉んでみると、柔らかくてくせになりそうな感触だった。 「ちょ、くすぐった……」 「……細いわね、妬ましいわ」 「ひゃうんっ!?」 ふにふに。くすぐったさに、身をよじる。 さわさわ。さらに、身をよじる。 なでなで。ぴくっ、と震える文。 「くぁ、っ……ゃ、もう、だからくすぐったいですってば!」 「うわっ!?」 文は突然両手を上げて、勢いよく立ち上がる。いい加減我慢出来なかったようだ。 「私だって怒りますよ!」 「あーごめんごめん。あまりにも触り心地が良かったから、つい」 「触られてる方からしたら、恥ずかしかったりくすぐったかったりで、大変なんです!」 「あのさ、文」 「む……なんですか?」 「あんた、顔真っ赤」 「っ!?」 怒鳴ったからか、それとも恥ずかしかったせいか、文の顔は真っ赤になっていた。 それを霊夢に指摘されたせいで、さらに真っ赤になる。ぷるぷると小刻みに肩を震わせているのは、怒りからか。 さすがに霊夢も、これはまずいと判断。 「霊夢さん」 「な、何かしら?」 霊夢は危険を察知して逃げることを考えたが、文に隙は無い。 もし飛んで逃げるようならば、スピードでは文の方が上なので、確実に追いつかれる。 どうすればこの状況から脱出可能なのか。 霊夢がそんなことを考えている間に、文はゆっくりと、霊夢の横に腰掛けた。 「あ、あーそういえば私、掃き掃除をまだしていなかったわ。ちょっと行ってくるわね」 「はいはい、おとなしく座りましょうねー」 「ちょ、離しなさい! はーなーせっ!」 立ち上がりかけた霊夢の腕を掴み、再び座らせる。 逃げられないように、肩に手を回した。霊夢はジタバタと暴れるが、文はがっしりと掴んで離さない。 「霊夢さん、私は心優しいですから選ばせてあげます」 「な、何を?」 「もちろん、お仕置です。新聞のネタになるか、私と同じ目にあってもらうか」 「どっちも嫌よ!」 「あなたに拒否権はありませんよ。今はさっきと違って、形勢が逆転しています」 「ぅ……し、新聞のネタって、具体的には?」 「あなたの写真を使わせていただきます。あ、もちろん真実のみ報道しますからご安心を」 「本当でしょうね?」 「私は約束は守ります」 文は不気味なくらい、笑顔でそう言った。 霊夢は考える。 さっき文にしたことを、もし自分がやられたらどうなるか。きっと、恥ずかしいことこの上ないだろう。それならば、真実のみを報道と約束されている新聞のネタになった方が安全ではないか。 しばらく悩みに悩んで、霊夢は決断した。 「……新聞のネタで」 「はい、りょーかいしました!」 ため息を吐く霊夢とは真逆に、文はとても楽しそうだ。 一体何をやらされるのか。それを考えるだけで、霊夢はまたため息が漏れた。 「それでは、力を抜いてください」 「何する気よ?」 「いいから早くしてください」 「はいはい」 霊夢が力を抜いたその瞬間―― 「きゃっ!?」 一気に押し倒された。 霊夢は突然のことに、何が起きたか把握出来なかった。 目の前に、笑顔で自分を見下ろしている文を認識して、ようやく霊夢は今の状況が理解出来た。 「い、いきなり何するのよ!」 「霊夢さん、目を瞑ってください」 「は!? ちょ、ちょっと待ってよ!」 「いいから早く」 「……っ!」 目を瞑る必要なんてないのに、文に強く言われ、霊夢は瞑ってしまう。 いくらこういうことに疎い霊夢でも、この状況で目を瞑ってしまったら、何をされるのかくらい想像出来る。 「霊夢さん……」 はぁっ、と文の吐息がかかる。さっきよりも、顔が近付いてきていることが分かった。 霊夢は体を強張らせ、ギュッと目を瞑り、ぷるぷると震えている。 そんな霊夢を見て、文は小さく笑った。 二人の距離が、少しずつ縮まる。 周りはとても静かで、互いの鼓動が聞こえてきそうだ。 「霊夢さん、そのまま動かないでくださいね」 「っ……するなら早くしなさいよ」 「ん、分かりました」 霊夢は既に覚悟を決めている。 あとは、文が霊夢との距離を零に詰めるだけだ。 しかし、いつまでもたっても、距離は零にならない。霊夢が疑問を感じた次の瞬間―― 「カシャッと一枚」 「……え?」 シャッターを切る音がした。 霊夢が目を開くと、ニヤニヤとした表情を浮かべている文。 「可愛らしい姿、ご馳走さまです」 「~っ!」 そう、文は最初から本当にキスする気なんて無かったのだ。キスするギリギリ手前を、片手で器用にカメラを使って撮った。恐らくその写真は、キスする直前としか見えない写真で、事情を知らない者が見たら確実に誤解するだろう。 自分がからかわれたことに気付いた霊夢は、上半身を起こしてカメラを奪おうとする。 しかし、文に馬乗りをされているせいで、思うように動けない。 「ちょ、それよこしなさいよ!」 「はいはい、それじゃあ私はこれを新聞にしなきゃいけないので、さようなら。見出しは……『博麗の巫女、妖怪と禁断の愛!?』にしましょう」 「やめなさいよ! 大体あんたも巻き添えじゃない!」 「そうですね。でも、私は霊夢さん相手ならそれはそれで別に」 「……え?」 「面白くなりそうですから」 「くたばれっ!」 霊夢が殴ろうとした時には、文はもう空に居た。幻想郷最速は伊達じゃあない。 「あは、お茶ご馳走さまでしたー!」 「待てこらー!」 霊夢の攻撃は、もう届かない。 文はもう、霊夢の視界にすらいなかった。 盛大なため息を吐く。 「はぁ、最悪……ん? いや、まだ止められる! あれを忘れてたわ」 霊夢はあることに気付く。 それは、文を止められる唯一の方法だ。 ◇◇◇ 文は全速力で自宅に戻って来た。まだ博麗神社を出てから、数分も経っていない。 「よーし、まずは写真を現像しぐぼはぁっふ!?」 突然、文の背中が爆発した。 そう、霊夢が無言で背中に貼り付けていたあの御札だった。霊夢の意思一つで、いつでも発動出来る物。それを霊夢が発動させたのだ。 文は倒れたまま動かない。 爆発に巻き込まれたカメラは、ボロボロの状態で地面に落ちている。 霊夢の方が、文よりも一枚上手だった。 |
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