寂しい夜に2010-01-09 Sat 00:50
レミフラです。
糖分は50パーくらいかな。 私の吐く白い息が漏れて、ゆらりゆらりと空気が揺れる。 この部屋は、ただ寒いだけ。 暖かい毛布はある。頼めば飲み物だって出てくる。体は確かに暖かい。 けど――誰も居ない。 美鈴が居ない。小悪魔が居ない。パチュリーが居ない。咲夜が居ない。妖精メイドだって居ない。そしてなにより、大好きなお姉様が居ない。 「寒いなぁ……」 心が寒い。 無性に会いたくなることがある。 寂しい。 これは、どうしても慣れない感情だ。 私、お子様なのかなぁ。 「会いたいなぁ……」 ベッドに腰掛けながら、足をぷらぷらさせる。ふかふかなベッドは、私のお尻をしっかりと包んでくれた。 会いに行くのは簡単。重い扉を開けて、飛び出してしまえばそれで良い。 でも、会いに来て欲しい。 私を想って、足を運んで欲しい。 とは言っても、わざわざここまで来るのは、お姉様くらいだ。 だから、お姉様に来て欲しい。 寂しいくせに、自分からは会いに行きたくない我侭。 うん、私やっぱり子どもっぽいかも。 来てくれるかな。 耳を澄ませる。足音がしたら、それは合図。 「あ、聞こえる!」 想いが通じたのか、お姉様がこっちへ向かって来ている。足音が聞こえる。 私は自分の髪をくしくしと整えた。 服装も、おかしいところは無いか確認した。 大好きな人には、やっぱりちゃんとした格好で会いたいからね。 「フラン、入るわよ」 「どうぞ、お姉様」 重い扉を隔てたやりとり。 「こんばんは、愛しのフラン」 「こんばんは、愛しのお姉様」 姿が見えただけで、にへらとしてしまうのが分かる。 多分、今の私はだらしない表情をしているだろう。前に、ふにゃふにゃとした笑い方だ、とお姉様に言われたことがある。嬉しいのだから、仕方無いよ。 勢いよく抱き付いてみた。 少しよろけながらも、お姉様の暖かい腕は、私をしっかりと包んでくれた。 「えへへ~」 「どうしたの、フラン? 今日は妙に甘えん坊ね」 「お姉様に会いたかったから」 「会いにくれば良いじゃない」 「会いに来て欲しかったの」 「よく分からないな」 「お姉様には分からないよ、多分」 「む……」 お姉様がムッとした表情になったけど、気にしないで胸に顔を埋めてみる。 私もお姉様のこと言えないけど、小さいなぁ。けど、ちゃんと柔らかくて温かい。それに、ふにふにしてて気持ち良い。 なんていうか、落ち着く。 「んー……小さい」 「フランも変わらないでしょう」 「私、お姉様の胸好き」 「それを言われて、私はどんな反応すれば良いのやら」 「私をもっとギュッとすれば良いよ」 「それじゃあ、ギュッ」 ギュ~ッとされる。 ちょっぴり痛いくらい。 でも、それくらいがちょうど良い。温かいし、柔らかいし、なによりお姉様を確かに感じることが出来るから。 「お姉様、おねえ様、おねーさま」 「何?」 「呼んでみただけー」 お姉様が少し呆れたような表情をした。 それでも、まだギュ~ってしてくれている。なんだかんだで、やっぱり優しい。 だから、そんな優しいお姉様に、一つ意地悪をしてみる。 「ねぇ、お姉様」 「んー?」 「私のこと、好き?」 「妹が嫌いな姉なんかいないわよ」 「じゃあ好きなんだね?」 困ったように頬を掻くお姉様。 そう、お姉様は意外に照れ屋だから、滅多に『好き』とハッキリ言わない。 私の質問は、それを言わせるための意地悪な質問。 「う~ん……」 「嫌いなの?」 「いぁ、そんなわけは……」 こうやって、おろおろとするお姉様を見るのも好き。 わざと意地悪い笑みを浮かべて、お姉様を見る。 お姉様は、うっ、とした表情になる。 「……私で遊んでるでしょう、フラン?」 「お姉様がたった一言、好きって言ってくれれば良いだけだよ?」 「くっ……」 逃がさないように、お姉様の背中に回した腕に力を込める。 こういうとき、お姉様はいつも逃げちゃうからなぁ。 今回は逃がさない。 「す、すー……すー」 「す? はい、あと一文字だよ」 面白いくらいに顔を真っ赤にして、口をすの発音で止めているお姉様。 私は問題無用でその先を急かす。 お姉様はしばらく唸っていたけど、ふぅと一息吐いて、決心したような顔で私を見つめる。 さっきまでの照れが一切含まれていない、割と真面目な表情。 たまに見せるこの表情も、好き。見た目は私とあんまり変わらない、幼い容姿なのに、こういう格好良い雰囲気は、私には出せない。 「フラン」 「ん」 「好き」 「ん、知ってるよ」 「フランは」 「え?」 「フランは私が好き?」 「んー……ひみつっ!」 私がそう言うと、お姉様は顔をしかめた。 「ずるくない?」 うん、お姉様の言うとおり、ずるいと思う。 「えへへ」 「笑って誤魔化さない」 「わっ!?」 そおっと逃げようかと思ったら、抱き締める力を強められた。 半目でお姉様が私を睨んでいる。 あ、あはは~と笑って誤魔化そうとしても、逃げられそうにない。 「お姉様、ちょっと痛いよ」 「そんな言葉を求めているわけじゃあないのよ、フラン」 「ごめんなさい」 「そんな言葉でもないわ」 お姉様が私に何を言わせたいかは、分かる。 でも、恥ずかしいじゃない。 いや、お姉様には言わせたけどさ。 「まさか私にだけ言わせて、あなたは言わないなんてこと、無いわよねぇ」 「ぅ……」 お姉様が、とても良い笑顔でそう言ってくる。 うぅ、言わなきゃ離してくれそうにない。 すーはーすーはー深呼吸。 胸がドキドキ高鳴るのが、よく分かる。 「お、お姉様!」 「はい、何かしら?」 うぅ、その素敵すぎて腹が立つ笑顔が嫌だ。 「えーと、お姉様」 「んー?」 「そのー、お姉様」 「何?」 「うぅ、お姉様~」 さっきの私より意地悪だぁ。 もうなんか、殴りたくなってきた。殴らないけど。 また、深呼吸。 そして、しっかりと目を見つめる。恥ずかしいけど、頑張って見つめる。 「お姉様、好き」 「はい、よく言えました」 「ひゃぁ!?」 頬にキスされた。 突然のことに、思わず変な声を上げてしまう。 好きって言うのは照れるくせに、こういうことはさらりとやってのけるお姉様が腹ただしい。 うぅ、と唸りながら睨んでやる。 「そんな目しても、可愛いとしか言えないわよ」 「そ、そういう恥ずかしいことをさらりと言わないでよ!」 「可愛い可愛い、フランは可愛い」 「むぅ~!?」 本当、なんで好きは中々言わないくせに、こういうことは大丈夫なんだろう。 私だけ慌てて真っ赤で、なんか悔しい。 お姉様は、余裕の笑みを浮かべている。 むぅ、こうなったら。 「お姉様」 「んっ!?」 「っ……」 唇同士を重ねる。 突然のことに、目を大きく見開いて驚いているお姉様。 うん、恥ずかしいけど、お姉様のこういう姿見れて良かった。 マシュマロみたいにふにゅっと柔らかくて、抱き締めてるのと同じくらいに、ほわっと温かい。それに、なにより心地良い。 自然と、背に回していた手に力が入る。 しばらくして、ゆっくりと唇を離した。 「へへ、驚いた?」 「さすがに驚くわ。でも、嫌じゃないわ」 「んっ……」 今度はお姉様からのキス。 ついばむように、何度も何度も角度を変えてのキス。 ふわふわしてちょっと怖いけど、心地良い。 「んーお姉様」 「何かしら?」 「今日一緒に寝てくれる?」 「フランが望むなら、いつでも」 「じゃあ……一緒に寝よ?」 「えぇ、喜んで」 お姉様が笑顔でそう返してくれた。 今日は一人きりじゃない。 寂しくない。お姉様が居てくれるから。 今日は、温かくなりそうだ。 |
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