それでいい2009-12-22 Tue 11:06
文と霊夢のお話。いろいろと詰め込みました。
「文!?」 境内には、仰向けに倒れている文。黒い羽が鮮血で真っ赤に染まっていた。 風が全く吹いていないことが、今の文の生命力を表しているようだった。 霊夢は血相を変えて、倒れたまま動く気配の無い文に近寄る。 「どうしたのよ文! 一体何が……」 「っ……れい、むさん」 「文!?」 ぴくっと体を震わせ、文が言葉を発した。しかし、それはとても弱々しく、まるで今にも消えてしまいそうな灯のようだった。 目は虚ろで、霊夢をしっかりと捉えて話しているかも分からない。 「今すぐ永遠亭に連れてくわ!」 「いえ……無駄です。もう、長くないみたいですから」 「何を言って――」 「聞いて、下さい……霊夢さん」 霊夢の言葉を遮り、文が言葉を紡ぐ。 ギュッと霊夢の手を握る。文の手は、少し冷たかった。 霊夢は、本当なら今すぐ永遠亭へと連れて行きたかった。無駄かなんて分からない。諦めるな。そう言葉を掛けたかった。 だが、文の手がそうさせてくれない。 ただ黙って聞いてくれ、という意思が霊夢に伝わってくる。その意思をちゃんと汲み取ってくれた霊夢に、文は柔らかい笑みを浮かべた。 「ありがとう、ございます……」 「話聞いたらすぐに永遠亭連れてくからね」 また、笑みを作る。 そして、霊夢の手を握っていない方の手で、ポケットをまさぐり、手帳を取り出した。文がいつも大切に使い、肌身離さず持ち歩いている手帳だ。 それを霊夢に差し出す。 「これを、見て下さい……私が知った真実が、書いてあります」 「真実?」 「決して、騙されてはいけません……っ!」 「文!?」 痛みに顔を歪める。 吐血をして、咳き込み始めた。 何度も何度も血を吐いて、体を震わせる。 「永遠亭行くわよ!」 「無駄、ですってば……」 「うるさい、黙ってなさい!」 文を背中におぶって、霊夢は空をかける。 一分一秒でも早く、永遠亭へと文を連れてくため。 背中に伝わる体温は冷めきっていた。 いつの間にか、文が言葉を発さなくなっていた。 霊夢は歯ぎしりをする。 「絶対に助けてみせる……」 永遠亭までは、まだ遠い。 ◇◇◇ 「みたいな小説を文々。新聞に連載したら、購読者増えそうじゃないですか?」 「全く興味をそそられない。点数にしたらマイナス点になるわ」 「そんなに!?」 「大体あんたがいきなり瀕死ってどうなのよ」 「いやほら、私は超強くて可愛いですから、早々に退場しておかないと物語に支障が」 えへっ、と作り笑いを浮かべる文に、霊夢は無視という選択肢で対抗した。 冷たい風が吹く。 「私が滑ったみたいになるじゃないですか! 突っ込んで下さいよ!」 「そんな大声で、突っ込んで下さいなんて言わないでよ。恥ずかしいわね」 「何の話ですか!」 ぎゃあぎゃあと騒ぐ文。 霊夢は、大きくため息を吐いた後、お茶を啜る。文の話に付き合わされてしまったせいか、すっかり冷めていた。 空はため息が漏れるほどの、綺麗な青空。こんな日は、縁側でお茶を飲みながら、ぼうっとするに限る。そんな霊夢の予定を壊したのが、文だった。 定期購読をしないかという、いつもの誘い。 霊夢もいつもと同じように、くたばれという一言だけで返した。 その後、文が「では、一緒に購読者を増やすアイディアを考えましょう」とか言い出して、今に至る。 「はぁ……なんであんたと友達やってるのかしら」 「わぁ、嬉しいです。私を友達と思ってくれているなんて!」 「……訂正。私あんたと今日が初対面だったわ」 「今まで無かったことにされた!? ほら、そんなに照れないで。私と霊夢さんの仲じゃないですか」 「どんな仲よ」 「恋仲」 「いつなった」 「ついさっき」 「よし、別れましょう」 「速攻フラれた!?」 恋人時間、僅か10秒。 流石は幻想郷最速の文だ。見事に最速で付き合って、最速でフラれた。 「うぅ、霊夢さんは私に対して厳しい気がします」 「優しい方でしょう。私が本気なら、今頃あんたはもうノーパン生活よ」 「本気になったら何する気ですか!?」 「あんたの下着を全て燃やす」 「うわぁ……地味な嫌がらせ。もうちょっと私を愛撫しましょうよ。動物虐待反対です!」 「はいはい、射命丸射命丸」 「どんななだめ方ですか」 今度は文がため息を吐く。 そして、ポケットをまさぐり、手帳を取り出した。 中身を適当に開いて、霊夢の方へと見せる。 そのページは、びっしりと細かい文字で埋め尽くされていた。 「ふむ、意外に丸っこくて可愛い字ね」 「そうそう私は字まで可愛い――って違う! そこじゃないです!」 「うわ、ノリツッコミ寒いわよ」 「私が言いたいのは、こんなにも記事を書くため真剣なのに、何故購読者が増えないのかということです!」 「つまんないからでしょ」 「うぐぅ!? そ、そんなこと言う人嫌いです! せめて読んでから言って下さい!」 どこから取り出したのか、文は文々。新聞最新刊を霊夢に突き出した。 霊夢は、軽くあしらってやろうかと思ったが、文の瞳に真剣さを感じ、とりあえず受け取ることにした。 普段新聞なんて読まない霊夢は、少し不慣れな手つきで新聞を読む。 「ふむふむ」 「ど、どうですか?」 「まだ読んでる途中。静かにしてなさい」 「は、はいっ」 文がドキドキしながら感想を待つ。何故かいつの間にか正座していた。 霊夢はあまりにも文が真剣なので、割と真剣に読むことにしてみた。 どれくらいの時間が経ったろうか。 霊夢は、ふぅ、と一つため息を吐いて、新聞を横に置いた。 「ど、どうでした?」 緊張しているせいか、文の表情は固くなっている。 霊夢は文の方へと向くと、笑顔で、そう凄い笑顔で―― 「うん、つまんない」 と言い放った。 「うわぁぁぁぁぁん!?」 割と本気で泣き始める文。まるで子どもみたいだ。 さすがの霊夢も、これには慌ててしまう。 「いや、えと、つまんないだけで、内容が悪いわけじゃあないのよ?」 「ふぇ……?」 いまいち意味が理解出来ない、といったように首を傾げる文。 霊夢は荒っぽく自分の髪を掻き、なんて説明すべきか悩む。 「あー、なんというか、あんたのはウケないってだけ」 「うわぁぁぁぁぁん!?」 「あぁ、泣くな馬鹿! 内容は正直、凄く良いと思ったわよ」 「じゃあなんで、ウケないんですか?」 「多分、求めているものが違うのよ」 「求めているもの?」 「そう。あんたの今見せてくれた新聞、内容は前回の異変についてだった」 内容は文がパートナーとなり、霊夢が地底に行った時のものだった。 そこに住んでいた鬼や心を読む妖怪について、異変の原因などなど、細かくしっかりと書かれていた。 「これ読んで、一般的に楽しいと思う?」 「私は面白いかと」 「それは書き手の主観でしょ。こういうのは客観的にならなきゃ駄目なんじゃない? 正直、普通の人が読んだら、ふーん……くらいで終わるでしょう」 「えー……じゃあ何を書けば良いんですか?」 「んー、俗っぽいので良いんじゃない? 甘味処の情報特集やら、悪戯好きな妖精にインタビューとか」 霊夢が適当に思い付いたものを述べる。 すると、文は露骨に嫌そうな表情に変わった。 「つまんなそう。そんなの私の新聞じゃないです」 「なら、それで良いんじゃない?」 「え?」 霊夢はお茶に手を伸ばす――が、空っぽだった。 一瞬、むぅと唸った後、入れに行くかどうか悩んだ末、結局面倒さが勝り、行くのをやめた。 「文は文の新聞を貫けば良いじゃない。購読者がどうのって小難しく考えるよりも、好きなことをしてた方が楽しいでしょ」 「霊夢さんらしい意見ですが、購読者が少なかったら……」 「少ないだけで、一人も居ないってわけじゃあないんでしょ。なら、それで良いじゃない。購読者を増やすために、自分の書きたいものを曲げてまでしたら、本末転倒だと思うけど?」 「それは……そうですね。自分が書きたくないものを書いてまで、購読者を増やしても意味がありません。私が伝えたい、本当のことを書かなきゃ、ですね」 文は、真剣な表情でそう言った。 多くの人に読んで貰いたいのは事実だが、自分を曲げてまで読んで貰いたいとは思わない。それが、文の確かな気持ちだった。 「それにさ、私たちには似合わないと思うわ」 「え?」 「小難しく考えたりすること」 おどけたような口調で、霊夢が言った。 文はなんとなく、自分と霊夢はもしかしたら似た者同士かもしれない、と思った。 「そうですね。楽しければそれで良い、って感じです」 文は、今日一番の笑顔で言った。 その笑顔を見れば、もう悩みは無いといった感じだ。 そんな文に対して、霊夢も笑った。 肩の力を抜いて、二人で笑い合った。 「さっきまで泣いてたくせに」 「な!? それは仕方無いでしょう!」 「ま、あんたがそれだけ新聞に対する想いがあるってことは、よく分かったけどね」 「そうですよ! 愛ゆえに涙を流すのです!」 「じゃあ愛以外では涙を見せないのね。よし、目潰してみよう」 「怖っ!? 泣くとかそういう次元じゃないですよ!?」 「妖怪だから大丈夫でしょ。それに手加減はするわ」 「動物虐待反対ー!」 ぎゃあぎゃあとふざけあう二人の声が、いつまでも神社に響いていた。 |
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