ペットさとり2009-12-01 Tue 23:21
こいしとさとり。
欲望のままに書きました。 「お姉ちゃんさ」 「はい?」 さとりが自室で静かに読書をしていると、こいしがぽつりと呟いた。 いつの間に居たのか、という疑問が浮かんださとりだが、もう一々口にしない。もはや、こいしが突然現れることは慣れていた。 さとりは読んでいた本をテーブルの上に置き、ソファーに座っているこいしを見る。 「ずるいよね」 「何、突然?」 「ペットがたくさんいる」 「そうね……私はペットたちに救われてるわ」 「だから私もペット飼おうと思うの」 「ちゃんと世話出来るの?」 別にペットを飼うことには反対ではない。 ただ、さとりが不安なのは、ちゃんと世話が出来るのかという点だった。 こいしは基本、ふらりふらりと突然消えてしまったりする。地霊殿に居る時間の方が、少ないくらいだ。 生命を扱うということがどれだけ大切か、それを理解しているのか。 さとりには、不安だった。 「お姉ちゃんが心配していることは分かってるよ。だから、良い案があるの」 「良い案?」 笑顔のこいしに、何か嫌な予感がするさとり。 こいしが手を伸ばして、さとりの手をキュッと握る。 「お姉ちゃんが私のペットになれば良いのよ」 「…………は?」 耳を疑う。 手のひらには、こいしの温かい体温。 優しく包んでいるように見えるが、実は逃がさないようにしっかりと手を握っている。 これはまずい。 さとりがそう思った時には、既に遅かった。 「意味が、分からないわ……」 「そのままの意味だよ? さぁ、お姉ちゃん目を瞑って?」 「今そんなこと言われて、素直に従うと思う?」 今はスペルカードを何枚持っていたか、握られていない方の手でポケットを探るさとり。 指先で触れて、数を数える。あったのは五枚だった。 さとりのスペルカードには、『想起』とだけ書いてある。どの技を使うかは、さとりのその時次第。 相手に応じて、過去に見てきたスペルから有力であるものを真似れば良い。 だが、こいしに有力なものとはなんなのか、さとりには分からなかった。 それに、できればこいしとは戦いたくなかった。 「むぅ、ペットは主人の言うことに従わなきゃダメだよ」 「ペットじゃないです」 「じゃあ今からペットにしてあげる」 「っ!?」 握られていた手をそのまま引っ張られ、体勢を崩す。 ふらついたさとりは、ソファーに座ったままのこいしに抱き留められるような状態になった。 「こ、こいし……」 「お姉ちゃん……えいっ!」 「痛い痛い!?」 優しく抱き締めるのかと思いきや、まさかの全力抱き締め。 抱き締めるというより、締め付ける感じだ。 こいしの力は意外にも、さとりよりも断然強力で、かなり痛い。 「ギブギブ!? こいし、お姉ちゃん死んじゃう!」 「誰ボブって?」 「ボブじゃなくてギブ!」 「じゃあ、ペットになってくれる?」 「え、や、それは……」 「ぎゅ~っ!」 「痛い痛い!? 折れちゃう!」 さとりの華奢な体が、ぎしぎしと嫌な音を立てる。 ペットになると言えば、痛みからは解放される。だが、それは姉としてどうなのか。そんなことは、さとりのプライドが許さない。 中々降参しないさとりに、こいしは少し不機嫌そうな表情になる。 「そんなに嫌?」 「当たり前でしょう。い、だから痛い!」 「お姉ちゃんにとってさ、ペットってどういう存在?」 「え? えっと……いつも側に居てくれたり、心地良くさせてくれる存在、かしら」 「私が求めているのも、それと同じなの。別に、悪ふざけとかじゃない。ただ、そういう存在が居て欲しいの。だから、大好きなお姉ちゃんに頼んだんだよ?」 「こいし……」 まさかそんなことを考えていたなんて。と、ただの悪ふざけだと思っていたさとりは、反省する。 いつの間にか、締め付けられている力も弱まっていた。 「お姉ちゃん、お願い……」 「……ん、分かったわ」 拒絶してこいしを傷付けたくない。いや、こいしの想いを拒絶するわけがない。そう、さとりは思った。 そして、受け入れた。 その言葉を聞いたこいしは、にぱっと明るい笑顔になる。 「やったぁ! じゃあ、早速首輪をつけなきゃね!」 「…………はい?」 固まるさとり。 こいしは既に、さとりを解放している。今は、なにやらポケットをまさぐって、何かを探しているようだ。 嫌な汗が背筋を伝う。逃げるべきか、いや、受け入れると決めたのだから、逃げてはいけない。などと、いろいろ思考するさとり。 「さすがに動物たちがつける首輪は可哀相だから、これ!」 「それは……?」 「ん、チョーカーだよ」 こいしが取り出したのは、黒のチョーカーだった。 首輪じゃなくて良かった、と安堵の息を吐く。 チョーカーならば、純粋なプレゼントとして受け取れる。 「このチョーカーね、凄いんだよ」 「え? 何が?」 「つけてからのお楽しみ。私がつけてあげるね」 こいしは楽しそうだが、さとりは少し不安になった。 僅かばかりだが、チョーカーから魔力のようなものを感じていた。 「こいし、ちょっと待って! 何か――」 「はい、そうちゃーくっ!」 チョーカーをつけられた瞬間、何かが変わった。 「はい、鏡だよお姉ちゃん」 「えぇぇぇぇ!?」 さとりが手鏡を覗くと、そこには立派なふさふさ犬耳が生えていた。 「ちなみに尻尾もあるよ」 「ちょ、ぇ、うぇ!?」 慌てて立ち上がると、確かにふさふさ尻尾があった。 あまりの出来事に、ちゃんとした言葉を発することが出来ないさとり。 「うん、お姉ちゃん可愛いよ」 「いや、そういう問題じゃあ……そ、そうだ! チョーカーを外せば……」 「あー、それ無理」 「え?」 「そのチョーカー、一度つけたら24時間は取れないよ」 「ぬぁぁぁぁぁぁ!?」 衝撃の事実に、珍しく奇声を上げるさとり。 一日わんわんさとりん、完成。 「だ、大体こんな物どこで……」 「普通の魔法使いがくれたの。なんか、整理していたらいらない魔法具が出たとかで」 さとりは、今度魔理沙に会ったら、問答無用でトラウマを見せてやろうと決心した。 そんな物騒なことを考えているが、犬耳をぴくぴく震わせているため、全く怖くない。 「ちなみにこれ、凄いんだよ。お姉ちゃん、お手」 「えっ!?」 こいしがお手と言うと、意思とは無関係に、さとりはちょこんとお手をする。 「お姉ちゃん、お座り!」 「えぇっ!?」 「お姉ちゃん、ブリッジ!」 「ぐはぁっ!」 全てこいしの言う通りに動いてしまう。 ブリッジなんてやったのは、生まれて初めてかもしれない。そんなことをブリッジの体勢のまま、さとりは思った。 「まさか、こいしの言うことに逆らえなく……」 「ううん、残念だけどそれは違うよ。命令出来るのは、犬が飼い主に教えられるベタな三つ、お手とお座りとブリッジだけ」 「ブリッジ初耳なのだけど……」 そろそろブリッジの体勢が辛くなってきたのか、さとりはぷるぷると震えている。 こいしは、笑顔で楽しそうだ。 「お姉ちゃん、私気付いたんだけどさ」 「はい? それより早く、ブリッジ解除して欲しいわ」 「この体勢、お姉ちゃんの下着が微妙に見えちゃいそう。ちょっと覗いてみるね」 「ちょ!? 何見ているの!?」 「……お姉ちゃん、ちゃんと穿いた方が良いと思うよ? まさか穿いてないなんて……」 「穿いてるわよ! わわっ!?」 ついに耐えられなくなったさとりは、とうとう倒れてしまった。 「大丈夫、お姉ちゃん?」 「心配するなら早く解除して欲しかったわ。あと、本当にこのチョーカー外れないの?」 「うん、24時間は外れないよ」 一日犬耳と尻尾という事実を改めて突き付けられて、思わず気絶してしまいそうになるさとり。 そんなさとりとは対照的に、こいしはやっぱり物凄く楽しそうだ。 「大丈夫だよ。一日私がご主人様として、ちゃんと面倒みてあげるからっ!」 「あ……あはは」 嫌な予感を全力で感じた、さとりだった。 ペットさとり『食事の場合』~ さとりは、今の姿を誰にも見られたく無かったため、自室で食事をとることにした。 食事は、こいしが持ってきてくれた。 「お姉ちゃん、ご飯持ってきたよ」 「ありがとう、こいし」 「それじゃあ」 「いただきます」 二人とも、手を合わせていただきますをする。 そして、さとりがあることに気付く。 「あ、こいし。箸が無いのだけど」 「え? 何言っているの?」 「はい?」 「ペットは手を使っちゃダメだよ?」 「…………ごちそうさまでした」 「まだ一口も食べてないよ、お姉ちゃん」 手を使うな、ということは口のみを使って食べろということ。 大体、燐や空はペットだが手を使って食べているではないか。そんなことをさとりは思ったが、多分こいしに言っても意味無い気がしたため、食べること自体諦めることにした。 「しょうがないなぁ、お姉ちゃん。なら、私が食べさせてあげよう」 「へ?」 「はい、あ~ん」 「え、ちょ、こいし!?」 たまご焼きを口にずいっと押しつけられる。 顔を赤くして慌てるさとり。こいしは笑顔。 それを見てさとりは、こいしの目的は最初からこれだったのではないかと思った。 「はーやーく! お姉ちゃんが食べてくれないと、私も食べれないよぉ」 「え、あ、ごめんね」 反射的に謝ってしまう。 その口を開いた瞬間、こいしがたまご焼きを押し込んだ。 さとりの口の中に、甘い味が広がる。 結局、食べさせられてしまったという事実に、真っ赤になってしまうさとり。 「美味しい?」 「え、えぇ……」 「えへへ~」 恥ずかしそうに俯いてしまうが、尻尾は微かに揺れていた。 それを見て、こいしは満足そうに笑った。 ペットさとり『お風呂の場合』~ 「はーい、ごしごしするよ」 「自分で洗えるから……」 「ペットの体を洗うのは、ご主人様の役目だもん」 「うぅ……」 わしゃわしゃと背中をタオルで擦られる。 ちなみに逃げられないように、尻尾をこいしの太股に挟まれている。 「お姉ちゃん、白いね」 「そうかしら?」 「もっと外出したりして、陽の光浴びないと」 「……検討しておくわ」 「でも、白い肌も良いけどね。すべすべー」 「ひゃあっ!? くすぐったいじゃない!」 足の裏を洗い出したら、暴れだした。 どうやらくすぐったかようだ。 「暴れないで。洗えなくなっちゃうから」 「なら、くすぐったいのは勘弁して欲しいわ」 「そればっかりは、お姉ちゃんの感度によるかな」 「だ、だからくすぐった……あはは、んっ、ひゃは!?」 「んーなんか面白いかも」 「ちょ!?」 結局、もう許してと懇願するまでくすぐったい箇所をずっと洗われ続けた。 ぐったりした状態で湯船に浸かるさとり。 「あー楽しかった」 「……私は疲れたわ」 「お姉ちゃん、あれだね」 「はい?」 「私より、胸ちっちゃいね」 「っ!?」 こいしの視線の先を追うと、そこはさとりの胸なわけで。 さとりは、こいしの胸を凝視する。 「そんなにしっかり見られると、恥ずかしいのだけど……」 少し恥ずかしそうに、頬を指で掻くこいし。 大きいわけでは無い。 だが、それとも確かに、さとりより膨らみがある。 「くっ……」 「いや、そんなに恨めしそうに睨まれても」 涙目で睨むさとり。 こいしはとりあえず、あははと笑っておくことにした。 ペットさとり『おやすみなさい』~ 淡いピンク色のパジャマを身に纏うさとりとこいし。 何故か、二人とも同じパジャマである。 ただ、さとりは尻尾があるため、お尻の部分だけ少し下げて着ている。いろいろ恥ずかしい上におかしな着方だが、たかが一日のためにパジャマに穴を空けるのは勿体ないと判断したのだ。 「それじゃあ、寝よっか」 「えと、一緒に?」 「もちろん!」 「はぁ……分かったわ」 今さら反対する気も起きなかったので、さとりは素直に従うことにする。 そんなに狭いベッドでも無いが、二人で入るには少し密着しなければならない。 「お姉ちゃん、もっと寄って」 「こいし……近いわ」 「良いじゃない。えいっ!」 「んっ!?」 ぎゅ~っと、抱き締められる。 温かくて、柔らかい。 尻尾が自然と揺れて、犬耳もぴくっぴくっと動く。 こいしが犬耳にそっと触れる。 「んっ! はぅ……」 「嫌?」 「嫌じゃないけど……」 犬耳を撫でられ、抱き締められる。それは、嫌というより、心地良いという感情だった。 ふわふわしてきて、次第に眠気に襲われる。 「ふぁ……こいし、おやすみ」 「うん、おやすみなさい」 こいしは、さとりが眠ってからも、犬耳にしばらく触れていた。 「んっ……あれ?」 次の日の朝、さとりが目覚めると、チョーカーは勝手に外れていた。 慌てて犬耳と尻尾の有無を確認。 それらは、無事消えていた。 「はぁ……良かったぁ。おや?」 「……すぅ」 隣りには、穏やかに眠るこいし。 それを見たさとりには、ある感情が湧き上がる。 右手にはチョーカー。 「ふ、ふふ……ふふ」 目を光らせて妖しく笑うさとり。正直、妖しすぎる。 そしてチョーカーを、眠っているこいしに装着した。 「こいし、ブリッジ」 「がはっ!? え、何これ!?」 眠っている状態でも体は勝手に動くようで、ブリッジの体勢になる。 そのせいで、こいしは目を覚ました。 「ブリッジやめ。お手」 「え……」 そこでやっとこいしは、自分にチョーカーがつけられたことに気付いた様子で、額に汗を流している。 爽やかな笑顔のさとり。 「えーと……お姉ちゃん?」 「こいし、犬耳と尻尾似合っているわよ。24時間、こいしが昨日私にしたこと全て、やってあげるから安心して」 どこまでも笑顔なさとりに、こいしはぞくりとした。 見事に攻守逆転された、こいしだった。 |
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