絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

夢花火

こいしとさとりでシリアス。
かなり時間をかけました、この作品。



 
「わぁ……綺麗」
「そうね……」

 こいしが隣りで楽しそうに声を上げる。
 私たちの視界には、夜空に咲く花。暗い闇の中、耳に響く大きな音と共に、色鮮やかで綺麗な花が咲く。暗闇を明るく照らす。それは数秒で散ってしまうけれども、すぐまた新しい花の種が打ち上げられる。

「わぁ……」

 また、咲く。
 こいしが感嘆の声を漏らした。

「遠くからでも、綺麗だね」
「ええ、そうね」

 花火は、遠い人里から上がっていた。
 私たちは、それを眺めている。誰も居ない、暗い暗い森から。
 嫌われ者の私たちは、人里へは行けない。だから、こうして遠くから眺めるだけ。
 互いに、言葉にしなくても伝わる心の声。
 こいしからは、凄いね、綺麗だね、と無邪気にはしゃいでいる声が伝わる。こいしにも、私の心の声が伝わっているだろう。

「本当に……綺麗」
「ええ……」

 二人、手を繋いで、寄り添い見上げた。
 小さな手のひらは柔らかくて、温かい。こいしがギュッとしてきたから、私も返事をするかのようにギュッと返す。すると、またギュッと返される。私もまた返す。それを繰り返した。

「えへへっ」
「ふふっ」

 なんだかおかしくて、笑ってしまう。

「お姉ちゃん」
「ん?」
「綺麗だね」

 何度目か分からないほど、こいしは綺麗だ綺麗だと言う。その度に私は、肯定の意を示す。
 夜空に花は、まだまだ咲く。身体の芯に響くような激しい音が鳴り、空に打ち上げられた不思議な種が美しく開花する。すぐに消えてしまうその花は、刹那を輝かせていた。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「なに?」
「また、見たいね」
「まだ花火は続いてるわよ」
「ちーがーう。今じゃなくて来年も、ってこと!」
「ふふ、はいはい」
「来年も、再来年も、これからもずっと……」
「そうね……」
「約束だよ?」
「はい、約束」

 子どもみたいに、指切りをして笑う。こいしも、無邪気に笑った。穏やかな笑みだった。
 二人きりだけれど、どこまでも優しくて、温かい夜だった。





◇◇◇





「夢……ですか」

 懐かしい夢を見た。
 ソファーで眠ってしまったせいか、体が少し痛い。
 立ち上がり、違和感のある体を動かして、感覚を取り戻そうとする。骨が小枝を踏んだような軽い音を立てた。

「それにしても、懐かしい……」

 二人きりで、安心出来る場所を探していた昔。
 他人から嫌われようが、二人一緒なら、寂しさも無かった。あの頃は、永遠さえも信じれた。
 だけれど、今は歪んでしまった。
 どこで選択肢を間違えたかなんて、分からない。
 ただ、私がこいしを守りきれなかったから、こうなってしまったのだろうと思っている。

「はぁ……」

 あの日とは、全てが違う。花火を見上げた日とは。
 でも、何故いまさらあの日の夢を見たのだろうか。
 夢に見るまでは、もう蜃気楼のように霞んでいた遠い記憶だった。
 もしかしたら、忘れたくなかったのかもしれない。そんな想いが、無意識のうちに働いて、私にあの夢を見せた。そう考えると、胸がキュッと締め付けられるような気持ちになる。

 私は、今のこいしを見つめていない。昔のこいしを見つめている。
 最低だ。
 そんなことは分かっている。
 だけれど、こいしが第三の眼を閉じてしまってから、どう接していいか分からなかった。
 何を考えているか分からない。今までそんなことが無かった私には、それは未知の恐怖だった。そんな感情を、実の妹に抱いてしまったのだ。なんとか普通に接しようと行動しても、どこかギクシャクしてしまう。

 そんな私のぎこちない態度を察して、こいしもぎこちなくなった。
 可愛らしかった笑顔も、心地良い空間も、そこにはもう存在していない。

「……こいし」

 考えるだけで、憂鬱になる。
 どうすればいいのかなんて、分からない。
 分かっていたら、行動している。
 いや、分かっていても私は行動出来ないかもしれない。臆病で駄目な私が、実際に今の状況を作り出してしまったのだから。
 ぐるぐる回る思考。

「さとり様、朝ご飯ですよ~」

 そんな時、ドアの向こうからお燐の声がした。
 最近はよくお燐がご飯を作ってくれる。お燐は飲み込みが早くて、要領も良く、私の料理の腕を軽く越えてしまった。
 少しだけ、ショック。

「今行きます。先に食べていて良いですよ」
「そんな、さとり様抜きで勝手に食べたくないですよ」

 ちょっと前から一緒に食事をすることが習慣になった。基本は私とお燐だけだが、たまにおくうやこいしもいる。温かくて、欠かせない習慣だ。
 お燐をあまり待たせては可哀相だし、手っ取り早く着替えよう。
 いつもの服を手に取り、ささっと着替える。途中、自分の残念な胸が目に入ったけど、記憶の底へと投げやった。いつの間にかお燐は私より大きいし、それも小さなショック。

「お待たせ、お燐。あれ?」

 テーブルへと行くと、食事が三つ並べられていた。

「お燐、これは誰の分?」
「え、こいし様ですよ。さとり様も会ったでしょう?」

 こいしが帰って来ているのか。少しドキッとする。

「いいえ、会って無いわよ。というか一度も見て無いわね」
「あれ? おかしいなぁ。さとり様を起こしに行ったのは、こいし様のはずなんですが」
「え?」
「本当に知らないんですか?」
「え、えぇ」

 知らなかった。
 お燐の心から、おかしいなぁと聞こえる。ということは、当たり前だが嘘では無い。
 あの日の夢を見たせいか、私の心は落ち着かない。

「やっほ!」
「ひゃうんっ!? こ、こいし!?」
「えっへへ~久し振り、お姉ちゃん」
「あ、こいし様」

 突然肩に手を置かれたせいで、おかしな声を上げてしまった。普通なら、心の声が聞こえるため、こういう不意を突かれるようなことは無いのだ。
 振り返ると、小さな赤い舌をちょこんと出して、悪戯成功といった感じに笑っているこいしが居た。

「久し振り、こいし」
「うん、久し振りだね」

 無言。
 会話が続かない。ど……どうしよう。
 こいしの表情をちらりと見るが、笑顔だった。夢に見た昔の笑顔とは、どこか違う。もう一度良く見るけれど、やっぱり違う。けれども、笑顔なことは確かだ。

「何お姉ちゃん? 私の顔、何か付いてる?」
「え!? や、いやぁ、えと、何でもにゃいわ!」

 噛んだ。
 にゃいわ、って……それが無いわ。
 久し振りの妹との会話なのに、駄目なところばかりを見せてしまっている気がする。呆れられるか、嫌われるか。
 いや、元から好かれては無いか。
 自嘲的に小さく笑ってしまう。
 何もしてやれなくて、今の現状を作って、そんな私を好いてくれているはずが無い。

「えーと……ご、ご飯にしましょう!」

 お燐がこの空気に耐えられなかったようだ。
 元気良く、ご飯にしようと叫ぶお燐。お燐のこの明るさには、何度も救われてる気がした。

「そうしましょう」
「お燐の作るご飯、美味しいんだよね~」

 それぞれ席に着く。
 私の向かい側にお燐とこいし。
 目の前に並べられたご飯はまだ湯気を放っていた。お味噌汁に白いご飯、焼き魚の良い匂いが食欲をそそる。

「それでは……ほらさとり様もこいし様も」
「はいはい」
「せーのっ」
「いただきます!」

 手を合わせて、いただきます。子どもみたいだけど、大切なことである。
 お燐は、真っ先に焼き魚に手を伸ばしていた。好きなものを最初に食べるようなタイプなのかもしれない。凄く幸せそうだ。
 こいしは、お味噌汁を啜っている。こいしの好きなものは、何なんだろう。姉なのに、そんなことも知らない。
 さて、私も見てばかりいないでいただこう。

「ん、美味しい」
「本当にお燐の作るご飯は、いつも美味しいね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、やっぱり作り手としては嬉しいです」

 本当に美味しい。
 私も、もう少し腕を上げる努力をしようかしら。このままじゃ、ずっとお燐に頼りっぱなしになってしまうかもしれない。

「そういえば、おくうは?」
「地上に遊び行っちゃいました。仕事もしないで」
「はぁ……帰ってきたら注意しなきゃ」

 別に地上へ行くのは、まぁ良いとして、せめて仕事をしてくれないと困る。
 それに、お燐にも負担が掛かってしまう。
 帰ってきたら、一言言わなくてはいけない。

「ん、美味しいね」
「美味しいわね」
「あ、ありがとございます……はは」

 会話が浮かばない。
 沈黙を埋めるために、ただ美味しいと繰り返す。あぁ、お燐が困っている。ごめんね、お燐。
 こいしともっと一緒に居たい。けど、どうすれば良いか分からない。この空気が嫌で、箸を進める。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「な、何?」

 突然話し掛けられて、少し驚く。
 箸は持ったまま、向かい側に座るこいしを見る。大きくて可愛らしい瞳は、昔と変わらず私を捉えていた。

「今日さ、何か夢見なかった?」
「……え?」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。
 こいしの瞳に、酷く不安定な私が映っているように見えた。
 何故こいしが夢のことを知っているのか。いや、そもそも知っているのだろうか。ただ単に、話題の種として振ってきただけではないか。
 そう考えてみたが、こいしの真意は分からない。
 心が読めない。

「わ、私は……」

 もし知っているならば、こいしはそれを訊いて何を求めているのだろう。
 私はどう返したら良いのか。分からない。怖い。
 自分が今、どんな表情をしているのかすら分からない。少なくとも、冷静では無いだろう。
 その態度で、もう私が夢を見たということはバレているはず。
 逃げ道は無い。
 そうだ、もう逃げ道は無い。

「私は今日! ゆ、夢を見て……いないわ」

 なのに、それでもなお私は逃げようと足掻く。
 逃げてどうする。向かい合うべきだったのでは無いか。
 そうは思っても、もう私は逃げてしまった。
 こいしは、笑顔を崩さない。私のハリボテな嘘を、どう思っているのか。
 お燐の心の声が流れてくるが、今の私はそれを聞いている余裕は無かった。

「そっか」

 しばらくすると、こいしはそれだけを言った。
 笑顔で、いつもと変わらない声で、言ったのだ。
 その後、特に会話らしい会話をせず、食事を終えた。
 こいしはお燐に、凄く美味しかったよ、と言った後、ふらりと何処かへ消えてしまった。

「あたいは仕事してきますね」

 元気良くお燐が飛び出した。扉の閉まる音と同時に、部屋が静かになった。
 私はただ一人、灰色のソファーに腰掛けてぼんやりとしている。

「あの時、こいしは何を思ったんでしょう……」

 今更終わってしまったことを考える。
 知恵ある生き物は、みんな思うらしい。あの時あぁしていれば良かった、などと。戻らない過去を振り返り、正しい選択肢はどれだったのかと悩む。悩む時間があるならば、現状を良くすることを考えるべき。

「でも、謝ったとしても……」

 大体何を謝るんだ。嘘を吐いたこと? 今までのギクシャクした態度?

「いいえ、全てね」

 それら全てを謝るべきだ。
 許してくれないかもしれない。いや、許されようなんて思っていない。
 それでも、謝らないよりは良いはず。

「よ、よし、行こう」

 と言っても、こいしは何処に行ったのだろう。
 考えは読めないし、こいしが行きそうな場所なんて予想がつかない。

「むむむ……」
「さーとり様っ!」
「ひゃうっ!? お、おくう!?」

 考えすぎていたせいか、背後からこっそり近付いていたおくうに気が付かなかった。不覚です。
 うにゃーと悪戯成功して嬉しそうなおくう。右手になにやら紙袋を持っていた。何だろうか。

「帰ってきてたのね。お帰りなさい」
「ただいま帰りました。さとり様、地上で良い物を――」

 あ、今帰ってきたおくうなら、こいしが何処へ行ったか見たかもしれない。

「おくう!」
「ひ、ひゃいっ!?」

 びくりとおくうの身体が一瞬震えた。
 おくうの、怯えている心が伝わってくる。どうやら私が大声を出したことに、驚いたようだ。あと、怒られると思っているみたい。
 確かに、帰ってきたら注意をしようとは思っていたけれど、今はそんなこと後回し。それよりも重要なことがあるのだから。
 せっかく、僅かな勇気で決意したのだから。

「おくう、こいしを見ませんでしたか?」
「うにゃ? こいし様ですか?」
「えぇ」
「こいし様なら、自室に戻る姿を見ましたよ」
「え?」

 こいしの部屋。その発想は全くしていなかった。こいしは、ふらりふらりと地上へ消えてしまうから。
 おくうから嘘という心は伝わってこない。本当に見たようだ。

「ありがとう、おくう!」
「え、あ、はい」

 急いでこいしの部屋へと向かう。
 そういえばおくうの話を遮ってしまっていた。後でちゃんと聞いてあげよう。今は、こいしだ。

「こ、こいし、居る?」

 緊張で、少し詰まった。

「ん? その声はお姉ちゃんだね。居るよー」
「話があるのだけれど、入って良いかしら?」

 少し、沈黙。
 この沈黙が、怖い。こいしに拒絶されないかが、怖い。

「うん、良いよ」

 しばらくして、こいしから許可が出た。
 扉にそっと手を触れる。

「珍しいね、お姉ちゃん」
「……えぇ」

 こいしがいつもの笑顔でそこには居た。
 部屋を軽く見渡すと、赤いハート型のクッションや、熊のぬいぐるみ、女の子らしい物がたくさんあった。
 これらの物のほとんどが、私がこいしにプレゼントした物。こいしには少しでも、普通の女の子を味わって欲しかったから。プレゼントするたびに、嬉しそうにありがとうというこいしに、私は穏やかな気持ちを抱いていたのを覚えている。
 久し振りにこいしの部屋へと足を踏み入れたけど、どれも昔と変わらない。ここだけ、時があの頃から動いていないような錯覚に陥った。

「で、お話って何?」
「あ、それは、その……」

 こいしはベッドに腰掛けたまま、私を見つめる。
 笑顔だけれど、何を考えているかはやっぱり分からなかった。
 気を抜いたら、震えてしまいそうになる。

「こいしに、謝らなければ、いけないことが……」
「……謝る?」

 首を傾げるこいし。
 しっかりと、目を見つめる。臆病な私の決意が揺らがないように。

「そのっ……えと、今日のこととか、嘘吐いたり、あと、今までの全部含めて……」

 凄いぐだぐだ。でも仕方無い。いざ、言葉にして謝ろうにも、どんなことを言えば良いのか分からない。
 少しは考えてから来るべきだった。後悔しても、もう遅い。

「ごめんなさい、こいし」

 けれどもやっと、言えた。
 今まで言えなかった、一言。簡単だけど、とても難しいこと。しっかりと、こいしの目を見て言うことが出来た。

「何でお姉ちゃんが謝るの?」
「え?」
「悪いのは私。勝手に目を閉じたのも私。全部ぜーんぶ、私が悪いんだよ?」

 笑顔でそんなことを言うこいしが、どこか痛々しく感じた。
 こいしをこんな風にさせてしまったのは、私だ。

「ごめんなさい、本当に……ごめんなさい」
「だから何で謝るの? 嘘を吐いたことなら気にして無いよ。あれも勝手に見せた私が悪いんだから」
「え? 見せた?」
「この時期だからか、思い出してね。夢は無意識だから、お姉ちゃんの夢を操って見せたの」
「何故……そんなことを?」
「んー……何でだろうね。懐かしかったのかな?」

 夢を見せたのがこいしだったのならば、朝の突然の問いも納得出来た。でも、何故見せたのか。こいしの表情を窺うが、ただ笑顔だった。こいし自身、本当に分かっていないようにも見える。
 もしかして、私に思い出して欲しかったのではないか。その無意識の行動が、夢を見せるという行動に繋がったんじゃないだろうか。

「ごめんね、お姉ちゃん」
「え?」
「お姉ちゃんは別にあの日の夢を、見たくなかったでしょう? 私のこと、嫌いでしょ?」

 こいしを嫌う? そんな馬鹿なことがあるか。好きだからこそ、大切だからこそ、ここまで臆病になってしまったんだ。

「そんなわけ無いでしょう」
「そんなの嘘だよ。だって、嘘吐いたじゃない。夢を見てない、って。思い出したく無かったんでしょ?」
「違う! ただ……」
「お姉ちゃん、私はもう心読めないからお姉ちゃんが何を思っているのか、分からないよ」
「こいし……」
「言葉は信用出来ないよ。お姉ちゃんは、私を嫌いじゃないって行動で示せる?」

 行動で示せるか、と言われてもどうすれば良いのか。
 抱き締める? いや、それでは弱い気がする。
 あの日みたいに、一緒に花火を見れば良いのかもしれないが、もう祭りなんてやっていない。
 私に出来ること……私だから出来ることは、一体何があるだろうか。

「やっぱり無理でしょ?」
「……いや、出来るわ。こいし、一緒に来て!」
「え? わわっ!?」

 思い付いた。これは、私にしか出来ないこと。こいしが喜んでくれるかは、分からないけども、私なりの精一杯の行動。
 こいしの手を掴み、走る。
 突然のことに、こいしはふらつきながらもちゃんと付いて来ていた。
 少し、慌てたような表情。こいしのこんな表情、久し振りに見た気がした。
 小さな手のひらからは、確かな温もりを感じていた。手に触れたことも、どれくらい振りが分からない。昔と変わらず、柔らかくて温かかった。

「ど、何処に向かってるの!? お姉ちゃん!」
「分かりません!」
「えぇっ!?」

 手を引っ張って走る。
 何処に向かっているかと言うならば、広くて障害物が少ない場所。そういう場所ならば、何処でも良かった。だから、走る。地霊殿はそれなりに広いから、走り回っていれば、いずれそういう場所に出ることを知っている。

 どれくらい、走っただろうか。
 私が望んだ場所へと辿り着いた。
 広くて、特に建物とかも無い。相変わらず、地底だから暗いけども、今はこれが良い。

「はぁ、はぁ……」
「ちょっと……疲れたわね」

 こいしも私も、息切れしていた。
 でもまだ、こんなところでへばってはいけない。
 私がすることは、これからが本番。

「こいし、見てて」
「え?」

 ふわりと宙を舞う。
 ある程度の高さまできたら、止まる。
 こいしが少し小さく見える。それでも、しっかりとこいしの表情は見えた。何が始まるのか、分からないといった感じだ。
 深呼吸をする。
 そして、思い出す。こいしが思い出させてくれた、あの日の花火を。
 うん、出来る。

「こいし! あの日の花火を、今ここに!」

 弾幕を張る。色鮮やかな弾幕。それを極限まで圧縮させ、天へと昇らせる。そして、空中で破裂。圧縮されていた弾が散り、下へと落ちてゆく。
 私なりの行動、それは花火を再現することだった。他人の弾幕を真似ることが出来る私だからこそ、出来る。もちろん、花火とは違うけども、それでも弾幕で再現しようと思った。トラウマじゃない、優しい想い出を。
 派手な色の弾幕を使い、それを限り無く花火に似せるため、圧縮、破裂される。激しい音と共に散るそれは、花火を連想させる。

「うわぁ……!」

 こいしの声が聞こえたが、今は向いていられない。少しでも集中を切らすわけには、いかないからだ。
 暗く味気無い地底を、色鮮やかに染める。
 激しい動きのせいで、身体が痛い。汗が髪を濡らし、鬱陶しい。だが、動きを止めてはならない。
 本物の花火には、あの日見上げた花火には、及ばないことは分かっている。
 それでも、私は一心不乱に再現する。少しでも、こいしが喜んでくれることを願いながら。





「大丈夫、お姉ちゃん?」

 大の字で仰向けに転がる私を、こいしが心配そうにのぞき込む。
 身体は痛いけど、動かないほどでは無い。

「えぇ、大丈夫よ」
「そっか、良かった」

 会話が終わり、沈黙。
 けれども、この沈黙は今までと違って、そんなに悪いものに感じなかった。
 汗をかいたからか、風が気持ち良い。髪を撫でられるような、そんな感じ。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「お姉ちゃんの気持ち、伝わったよ」
「そう、それは良かった」

 目が合って、笑い合う。
 久し振りの、私とこいしだけの穏やかな空間。

「こいし、ごめんね」
「うん」
「本当に、ごめんなさい」
「うん」

 こいしは、とても穏やかな笑みを浮かべていた。私が大好きな、こいしの笑顔だ。

「でもね、許してあげない」

 元から、許してもらおうなどとは思って無かったが、そう言われると、やはり胸が痛んだ。

「来年、一緒に花火を見てくれるって約束したら、許してあげる」
「え?」
「今年はもう、夏が終わっちゃうから見れないし。だから来年、ううん、これから毎年ずっと一緒に」

 それは、一度破られた約束。
 こいしは優しい子だ。こんな私を、許してくれる。しかも、その約束を条件に。

「約束、出来る?」
「……えぇ、絶対に」
「じゃあさ、また指切りしよう」

 今度は絶対に破らない。
 こいしの小指と私の小指が、絡み合う。まるで子どもみたいに、指切りをした。

「えへへ」
「ふふっ」

 小さく笑った。
 さて、そろそろ身体の痛みも大分引いてきた。立ち上がらなければ。いつまでも、転がってはいられない。

「あ、さとり様はっけーん!」
「こいし様もだ!」
「あら?」
「おくうにお燐、どうしたの?」

 私が立ち上がったとほぼ同時に、おくうとお燐がやってきた。

「さとり様、私の話の途中だったじゃないですか」
「あぁ、ごめんね。そんな急ぎの用件だったの?」
「これです! 地上で貰ってきたんです。みんなでやりましょうよ!」

 おくうが紙袋から取り出したのは、たくさんの線香花火だった。紙袋いっぱいに入っているようだ。

「もう夏も終わりだよ、おくう」
「関係無いよ、お燐! 夏はまだまだ終わらないよ! というわけで、みんなでやりませんか?」

 私はこいしの方をちらりと見た。
 こいしは、興味津津に線香花火を見ている。
 うん、良いかもしれない。

「そうね、やりましょうか」
「やったー! お燐、火!」
「はいはい」
「私、線香花火って初めてだよ」
「火傷しないようにね、こいし」

 それぞれが手に持って、ぱちぱちと始めた。
 おくうとお燐は、なにやら線香花火を両手に持って戦っていた。こいしが仲間に入りたそうにしていたが、危ないから止めた。

「お姉ちゃん」
「ん?」
「綺麗だね」
「そうね」

 ぱちぱちと燃える、線香花火。
 ギャーギャーと騒いでいるおくうとお燐。

「えへへ~」

 そして、楽しそうに笑うこいし。
 穏やかな空気に、今の時間に、私も自然と頬が緩む。
 あの日みたいに、いや、あの日以上に、温かくて優しい夜だった。



東方SS | コメント:2 | トラックバック:0 |
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コメント

イイハナシダナー
2010-08-04 Wed 21:34 | URL | [ 編集 ]
ありがとうございます!
2010-08-05 Thu 02:50 | URL | 喉飴@あみゃ [ 編集 ]

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