春、出会い2009-06-21 Sun 09:59
創想話投稿作品。
アリスとリリーでほんわかほのぼの。 目の前に少女が倒れていた場合、あなたならどうする。 しかもただの少女じゃなくて、妖精だったら。 あえて見て見ぬふりをする? いや、そんな酷いことは出来ない。 でも助ける義理はある? 特には無い。 というわけで、 「ちょっと、貴女大丈夫?」 とりあえずは声を掛けてみよう。それで大丈夫、と返ってきたら放っておけばいい。 返事が無ければ、助けよう。 「う……ぅぅ」 呻くだけでしっかりした返事は無い。 仕方無い、助けよう。 「よいしょっ、と」 目の前の少女を背負う。 地面に倒れていたからだろう、少女の真っ白い服装は土に汚れていた。 もしかしたら私の服にも付いてしまうかもしれないが、別にどうでも良かった。汚れたら洗えばいい、それだけだ。 「上海、私両手が塞がってるから扉を開けて」 上海が開けてくれたお陰で無事に入れた。 とりあえずは、この背負っている少女をベッドに寝かすことにする。 「ふぅ、大きな怪我は無いようね」 少女の症状を見てみたが、特に目立った外傷は見られなかったし、恐らくそろそろ目覚めるだろう。ただ気絶しているだけのようだし。 「う、ぁ」 「目が覚めた?」 少女はぼーっとした表情で、部屋をキョロキョロ見渡している。まだ完全には覚めて無いのかもしれない。 「え、と……」 「私はアリス・マーガトロイド。貴女が家の前に倒れてたからとりあえず救助したわ。気分は悪くない?」 「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」 少女は慌てて頭を下げた。 そういえば、 「貴女、名前は?」 名前をまだ訊いていなかった。 「あ、リリーホワイトです」 リリーホワイト、春が訪れたことを知らせる妖精。 噂には聞いたことがあったけれど、生で見るのは初めてだ。なるほど、こんな小さい少女なのね。 「貴女があのリリーホワイトさんね」 「あ、リリーでいいですよ。みなさんそう呼びますから」 「そう。じゃあリリーで」 リリーは緊張してるのか、私と目を合わせようとしない。第一印象で速攻嫌われたのだとしたら、ちょっとショックだ。そんなにヤバイ顔はしていないと……思う。 「で、リリーは何で倒れていたの?」 「多分撃ち落とされたんだと思います」 「え?」 「私、春を伝える間は興奮しすぎて見境なく弾幕を放ってしまうんです。それで毎回魔理沙さんや霊夢さんに迷惑だ、と撃ち落とされてます」 私の家の前で倒れてたということは、距離的に魔理沙が撃ち落としたのだろう。 「突然撃ち落とされて怒ったりはしないのね」 「私が悪いのですから、仕方無いです。みなさんに迷惑をかけてると分かっているのに、自制がきかない私が全て悪いんです」 少し落ち込んだ様子で、リリーは言った。 あぁ、こんな良い子を問答無用で撃ち落とした挙句、放っておく魔理沙が信じられない。私にはリリーみたいな子を撃ち落とすなんて出来ない。 「とりあえず、紅茶でいいかしら?」 「ふぇ? い、いえ! 私もう出発しますから!」 「なーに言ってるのよ。その汚れた服も洗わなきゃ駄目よ」 「い、いえ! 本当にいいですから!」 「あのねぇ……」 わたわたとしているリリーの額を、グーで軽く小突く。 「あうっ」 「私は貴女を助けちゃったの。その時点でもう無関係じゃないから、私は中途半端に貴女をここで帰したりしないわ。全て世話し終えたら解放してあげる」 それまで大人しく世話されなさい、とリリーに言う。 リリーはあぅあぅと戸惑っていたが、しばらくして申し訳無さそうに私を見る。 「えと、あ、その……ありがとうございます」 ベッドから降りて礼儀正しくお辞儀をするリリーを見て、少しキョトンとしてしまった。 あぁ、良い子だなぁ。私の知り合いじゃあ、こんな礼儀のしっかりした良い子なんてほとんどいない。 なんというか、撫でてあげたくなるようなタイプね。 「じゃあとりあえず、服を脱いで」 「ふぇっ!?」 「いつまでも汚いままじゃあ駄目でしょう。ほら」 「わわ、自分で脱げますよぉ」 リリーは、んしょんしょと言いながら服を脱ぐ。その服を私が受け取り、洗いに持って行く。 おっと、忘れてた。 「貴女に合うサイズの服、あるか分からないのだけれど、とりあえずはワイシャツだけでも着ておいて」 ワイシャツならば、大きくてもぶかっとだが、着ることは出来るだろう。 私がワイシャツを投げると、リリーは慌てて受け取る。珍しそうに、見つめていた。ただのワイシャツなのに。 「それじゃあ、ちょっと待っててね」 そう言ったが、リリーは私の声が聞こえていないのか、ただワイシャツを興味津津に見つめていた。 ◇◇◇ 私が部屋へと戻ると、リリーはワイシャツを着てベッドに座っていた。 「はい、紅茶よ。それとリリー、貴女に合うか微妙だけど私の昔のスカート持って来たわ」 「あ、私このままで大丈夫ですよ」 「いや、下着とワイシャツだけじゃあ、寒いでしょう」 「暖かいです」 「でも風邪引いちゃうわよ」 「暖かいです」 意外に頑固だ。このギャップはちょっと面白い。 リリーは凄く嬉しそうにぶかぶかのワイシャツを着ている。袖は手が出ていないし、裾は太腿をギリギリ隠すくらいの大きさだった。 「実は、ワイシャツって着たこと無くて、少し嬉しいんです」 「あぁ、なるほどね」 私もワイシャツを着ることは滅多に無い。予備の服として持っていたくらいだ。 なるほど。だからリリーはワイシャツでこんなにも嬉しそうなのか。 風邪を引いてしまうかもしれないけれど、本人がかたくなに拒むから仕方無い。スカートはしまっておこう。 「あ……美味しいです」 「そう、ありがとう」 ティーカップを両手で持ち、小さな口にそっと運ぶリリーは、どこか小動物のように見えた。 私がそれを言うと、 「私、そんなに小さく無いです!」 不貞腐れたように、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。 子どもっぽいとこもあるわね。何か和む。 「リリー」 「……」 「そんな不貞腐れないの」 「不貞腐れてません……」 どうやら意外に根に持つタイプのようで。 さて、こんな時はどうしようか。子どもの機嫌を回復させる物って言ったら、やっぱりアレかしらね。 「ちょっと待ってて」 「……?」 何だろう、と首を傾げるリリーを後にして、私は別の部屋へと向かう。 棚を開く。確かこの辺に……うん、あった。 すぐに戻って来た私と目が合って、ワイシャツでまた喜んでいたリリーは、慌ててまた不貞腐れたように頬を膨らませる。 そんな様子に、クスッと笑ってしまう。 「はい、リリー」 「何ですか? これ」 「今朝焼いたクッキーよ。お口に合うかは分からないけれど、良かったらいかが?」 リリーはお皿に盛られてあるクッキーを、恐る恐る手に取った。 そして、クッキーを口に運ぶ。様子を見るに、これもワイシャツ同様に初めてなのだろう。 リリーのドキドキが私にも伝わってくる。けれども、私も内心ドキドキだ。妖精の口に合うのだろうか、不安。 「うわぁ……!」 表情を綻ばせて、そう呟くリリーに私はホッとした。 「アリスさん! 美味しいですよ! こんな物を食べたのは初めてです!」 「お口に合って良かったわ。全部食べて良いからね」 「えと、その……」 「ん?」 リリーは俯いて、どこか視線も落ち着きが無い。 どうしたのだろうか。 「さ、さっき本当は、少し不貞腐れてました。す、すみません……」 申し訳無さそうにそんなことを言うリリー。 私は思わずきょとんとしてしまった。 リリーはそんな無言の私が、怒っていると思ったのか、涙目で私の様子をちらちらとうかがう。 「リリー」 「っ!?」 私が手を伸ばすと、リリーは目を強く瞑ってしまった。 そんな様子に苦笑いを浮かべながら、私はリリーの頭に手を置いた。 そしてわしゃわしゃと綺麗な髪を撫でてやる。 「ぁう~!?」 「馬鹿ね。そんなこと気にしなくて良いのに」 笑いながらそう言ってやった。本当、いちいちそんなことを気にしなくて良いのに。面白い子だ。 私がわしゃわしゃと撫で続けたせいで、リリーは、ぅーと目を回していた。 「大丈夫リリー?」 「あ、アリスさんがやったんじゃないですかぁ!」 「あはは、そうね」 リリーがクッキーを食べながら、そう訴える。 私もクッキーを一つ、ひょいとつまんで、口に運ぶ。 うん、我ながら良い出来だ。 ◇◇◇ 窓から差し込む陽が、赤に染まる頃、リリーは立ち上がった。 「アリスさん、私もう行きます」 「泊まっていっても良いのに」 「いえ、そこまで迷惑はかけられませんから」 別に迷惑では無いのだけれど。リリーにはリリーの生活もあるだろう。私が強く引き止めても、それはリリーに迷惑をかけてしまう。 だから、素直に見送ってあげることにした。 もう服も乾いた頃だろう。人形たちに取りに行かせると、予想通り、服は乾いていた。泥も落ちて綺麗になっている。帽子も同様だ。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」 リリーにそれらを手渡す。するとリリーは名残惜しそうにワイシャツを脱ぐ。 そこで、ふと思った。 「ねぇ、リリー。そんなに好きならワイシャツいる?」 「良いんですか!?」 「えぇ、何着もあるし」 「でも、迷惑じゃあ……」 「別に高い物でも無いから持って行きなさい」 「……ありがとうございます」 リリーは笑顔でそう言った。 着替え終えたリリーは、ワイシャツを懐にしまった。何処にしまってるんだか、と少し笑ってしまう。 「それではアリスさん。本当にありがとうございました」 「えぇ、またいらっしゃい」 「えぇ!?」 いきなりリリーが大声を上げたから、ちょっとびっくりしてしまった。 「ま、また来ても良いんですか!?」 そんなことに驚いていたのか。 本当に愉快な子だ。 「もちろん。私、今日は楽しかったわ。またいつでもいらっしゃい。クッキーを焼いて待ってるわ」 「クッキー……」 ほわぁっ、と幸せそうな表情を浮かべてぼーっとするリリー。そんなにクッキーを気に入ってくれたのだろうか。純粋に嬉しい。 しばらくして、ハッと我に帰り、私を見つめる。 「では、また会いましょう。本当にありがとうございました」 「えぇ、またね」 リリーは空へと飛び上がり、いつまでも私の方向へ手を振っていた。 私も小さく、手を振ってあげる。 本当にありがとうございましたー、とリリーがいつまでも大声で言っていた。やっぱり、そんなリリーに笑ってしまう。 姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。 「さて、と」 家へと戻ろうとした瞬間、柔らかな風が私の頬を撫でる。 それは、どこまでも温かくて、どこか優しい、春の風だった。 |
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