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絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

五月雨

全部、雨が流してくれる。みらしず小ネタです。

「梅雨ももうすぐ、終わりなのかなぁ」
「そうね、もう夏も目の前って感じかしら」

 アスファルトを叩きつけるように、ざぁざぁと激しい音を立てながら雨は降り続ける。ここ最近の天気予報には、裏切られてばかりね。つい数分前では、快晴とまではいかなくても降る様子はなかったのに。
 よりによって、シアターから未来と出発して数分で、これだ。私はもう最近はこんな天気ばっかりだから、念のため折り畳み傘を持っていたから良かったけど。

「でへへ」

 ちらりと横を一緒に歩く未来に目をやると、笑顔を返されて。

「まったくもう……なんで笑ってるのよ」
「だって静香ちゃんとこうやって相合傘できるなら、梅雨も悪くないかなぁって思って」
「次からはちゃんと折り畳み傘くらい、持ち歩きなさいよ? 次は入れないから」
「えぇ~酷い!」

 普通の傘ならともかく、折り畳み傘に二人は結構きつい。……まぁそれでも、もし次もこんな状況だったら、仕方ないわねなんて言いつつ未来を入れてあげちゃう自分が想像できるけど。
 さて、このペースだともうあと十分もしないで、駅についてしまう。雨のせいか、周囲には人がいない。みんなどこかのお店に、避難でもしたのかな。どうせ局地的な通り雨だろうし、駅につくころには止んでいてもおかしくない。
 この誰もいない状況、まるでこの折り畳み傘の空間が、未来と私だけが切り離されたような空間が、ちょうどいい。

「それで、何を話したかったの?」
「……え?」

 驚いたように、未来が足を止めた。未来を濡らすわけにはいかないから、私も足を止めないと。
 なんでわかったの、みたいな顔してるけど、今まで私がどれだけ未来と一緒に歩いてきたと思ってるのか。なんて、実際は出会ってから五年も経ってないけど。それでももう、そこそこの付き合いだ。
 わかるに決まってるでしょう? 今日の未来は、午前のみで午後に仕事はなかったもの。それを帰らず、こんな夕方までシアターに居たんだから。笑顔で、みんなと会話しながら。そう……笑顔なのに、どこか違和感を覚える笑顔で。

「何かあったの?」
「……」

 訊ねてみても、未来はだんまり。
 俯いたかと思えば、顔を上げて口を二度三度開きかけて、でも閉じて。その様子に、少し腹が立った。未来にじゃなくて、私自身に。もっと未来が話しやすい状況や流れを、作ってやればよかったと。
 だって、もう知ってることだ。未来は普段自由気ままに明るいけれど、いざ自分自身が本当に悩んだときや壁にぶち当たったときは、周囲に心配かけまいと無理して笑顔を振りまく。今だってほら、わかりやすい。私に心配かけたくないって、思ってるんだろうな、この子は。誰よりもばかで、誰よりも優しくて、誰よりも自分自身の役割をわかってるような子だから。
 気の利いた空気なんて、作ってあげることすらできない私だけど。それでも未来の力になりたい。それは未来のためじゃない、未来の力になりたいっていう私のエゴだ。
 でも少しだけ自惚れたって良いのなら、もし私に言いたくないことなら未来はこうやって私と一緒に帰ろうなんて思わなかったんじゃないかって思う。

「静香ちゃん」
「何?」
「あの、ね……静香ちゃん」
「うん」
「しずか、ちゃ……ん」
「ゆっくりでいいから」

 未来のペースで良い。急かすつもりも、ない。
 だからそんな弱々しい声で話さなくても、震えた瞳で私を見なくてもいいのよ。
 やっぱり折り畳み傘だと、カバーできる範囲が狭い。このままじゃいけないから、未来を抱き寄せる。傘を持っていない方の、片腕で。腕を回した背中がやけに小さく感じられたのは、気のせいかしらね。
 肩口に顔を埋める未来の髪が、少しだけくすぐったい。
 相変わらずざぁざぁと喧しい雨は、降りやむ気配どころか激しさを増していく。あぁ、風も少しだけ強くなってきた。あんまり傘も、意味をなさないかもしれないわね、これ。

「今日ね、お仕事で失敗しちゃった」
「そうなんだ」
「この前もね、ちょっとミスしちゃった」
「そっか」
「……次はちゃんとしなきゃって、思うたびにね、思うように動けなくて。今までだって、ちょっと失敗くらいするくらいあったのに」
「うん」

 今はただ相槌をうつ。それだけで良い。今の未来は、別に意見を求めてるわけじゃないから。心にたまった黒いもやもやを、ただ吐き出してるだけだ。ただ受け止めてあげれば、それでいい。
 未来の悩みは、周囲からしたらなんてことないことなんだろう。誰にだって、ミスはある。それこそ新人のアイドルじゃないんだ、私たちももう。今までだって、何度も何度も壁にぶちあたってきた。
 ただそれでも、辛いものは辛いんだ。心がしんどくなることは、もちろんある。
 未来は絞り出すように、震えた声で言葉を紡ぐ。その声は、言葉は、雨音にかき消されていって。

「前にね、プロデューサーさんがこんな私を受け止めてくれてね……だからまたって思ったんだけど、プロデューサーさん忙しそうで」
「うん」

 前にちらっと、未来が言っていた。なんでも、プロデューサーに悩みを聞いてもらって嬉しかったとかなんとか。何年か前のゴールデンウィークのとき、だったかしらね。
 あのときは正直、嫉妬してしまった。未来があまりにも嬉しそうに、そのことを話すから。私だって未来を受け止めてあげられるのにって。でもそのとき未来が悩んでいたことに、気付けなかった私が悪いって無理矢理納得させた記憶がある。

「そしたら静香ちゃんがお仕事から戻ってきて、静香ちゃんならって思って」

 未来がそう思ってくれたことが、純粋に嬉しいし照れ臭い。

「でもお仕事で疲れてるのに、私のこんな姿を見せちゃだめって思って……っ!」

 そんなこと、気にしないでいいのに。
 未来はいつだって私を振り回してくれるくらいが、ちょうどいいんだから。けどそういうところが、未来だなぁなんて。未来は自覚していないんだろう、どれだけ私が今まで未来に救われてきたか。だから私は、未来のことが大好きだし大切なんだろうな、きっと。
 気が付くと、未来の背中に回した腕に力がこもっていた。ぎゅうって、もっともっと。

「私は未来の全部を受け入れるから」
「~っ!」
「ここには今、私と未来しかいないから。だから遠慮なんて、しないで」
「しず、かちゃ……ひぐっ、うえぇぇぇぇぇぇんっ!」

 我慢しきれなくなったんだろう、未来が声を上げて泣き始めた。
 あぁでもよかった、今が土砂降りで。未来の泣き声も、雨音が消してくれる。流した涙も、雨に混じってわからなくなる。それに今この私に抱かれて泣いている未来の顔も、傘が隠してくれる。
 今この時間だけは、本当に私と未来だけの世界がそこにあった。



◇◇◇



「雨、止んじゃったね」
「そうね……って、なんで残念そうなのよ」
「え~だって静香ちゃんと相合傘、終わっちゃうもん! あ、ちょっと静香ちゃん今、私のことばかって思ったでしょ!? そんな目してた!」
「今だけじゃなくて、ずっと前からそう思ってはいるけど」
「酷いっ!?」

 数分もしないで、雨は止んだ。やっぱり通り雨だったのかな。
 今はもう全部吐き出せたんだろう、未来の目元はまだ赤いけど、それでも今は張り詰めたような空気や違和感はない。未来の力になれたことが、ただただ嬉しい。

「あれ? 静香ちゃん、傘しまわないの?」
「お店とか木とか、水滴零してくるから。それにもう少しで駅に着くし、それまでならね」
「……でへへ」
「何よ」
「んーん、なんでもない。静香ちゃん、ありがとう」

 眩しいくらいの笑顔を、見せてくれる未来。その笑顔に心がきゅうって、熱くなる。
 傘をさしたままでもわかるくらい、空はもうすっかり快晴になっていた。
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