絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

甘え猫

ISFにて頒布したSS本『Catch my future』の番外編、7年後設定の志保と志保Pのお話です。


「志保……単刀直入に訊く。アイドル辞めるって、マジか?」
「辞めませんけど」

 夜の事務所、もうプロデューサーさん以外と私以外は誰も居ないし来る予定はない。そんな中、プロデューサーさんが無駄にシリアスな顔で迫ってきた。その様子といきなりの言葉で、静香がどんな嘘を吹き込んだのか大体予想がついた。
 あいつ、あのうどん、今度会ったら容赦しない。
 あ、即否定したせいで、プロデューサーさんの顔が凄いことになってる。さっきの真面目な顔も珍しいけど、ここまでいろいろ表情崩れすぎてるプロデューサーさんも中々に珍しい。面白い。不覚にも、笑ってしまう。

「えぇー……俺、静香ちゃんに嘘吐かれた?」
「むしろ私がアイドル辞めるなんて嘘、どうして信じるんですか。しかも、よりにもよって、あの静香からの言葉で」
「だって志保のこと、相当理解してくれてる親友だろ? 静香ちゃんよりも理解してる親友ってなると、可奈ちゃんくらいしか思いつかないレベルだし」
「プロデューサーさんの目が節穴だったってこと、今更わかりましたよ」
「節穴だったら、こうやって志保をプロデュースできてないよ。志保を選んだこの俺の目、自信持てるところなんてほとんどない俺だけど、これは超自信持てるぞ!」
「……よくそんな恥ずかしいこと、お酒も入ってないのに言えますね」
「え、ちょっと待って? そこで冷めた目しちゃうの? オジサン的には、結構きっついんだけどそれ」

 まだオジサンって年齢でも、ないでしょうに。ニ、三年くらい前からかな? プロデューサーさんはよく自分をオジサンだなんて、言うようになった。そんなこと言う割には、今も昔と大して変わらない、相変わらず優しすぎるような空気。それは美也さんみたいなほわほわ~じゃなくて、プロデューサーさんの場合はへにょへにょ~って頼りない空気だ。渋さなんて、微塵もない。
 なのにホントどうして、好きになっちゃったのかしらね。

「はぁ~でもいいや、安心した。志保がアイドル辞めること、嘘で。しかし、静香ちゃんも演技上手くなったなぁ。あんな真面目な空気を纏って言われちゃ、わからないね」
「プロデューサーさんが単純すぎなだけ、じゃないですか?」
「あはは、それは否定しないよ、うん」

 へらへらっとした笑みを浮かべて、私の毒をさらりと流す。

「でもさ、志保。わざわざ来たってことは、静香ちゃんの嘘も全部が全部嘘ってわけじゃないんじゃないのか?」

 腕時計に視線を向けると、既に日付が変わるまであと一時間を切っている状況で。よくもまあこの人は、こんな時間までいつ来るか分からない私を待っていたものだと思う。静香が伝えたのは、あくまで夜ということだけだったし。私にはプロデューサーさんから具体的に何時かなんて連絡は来てもいなければ、私も別に何も送らなかった。いや、正しくは送れなかった。だって、緊張でいっぱいだったから。
 時間がこんなにも遅くなったのも、私が気持ちの整理に時間をかけすぎたせいだ。
 本当に、余計なことをしてくれたものだ、静香は。

「はい、お話があるのは事実です」
「そうか。そーいえばさ、今回静香ちゃんに志保が辞めるって言われたとき、俺焦りまくっちゃってさ」
「え? あ、はぁ……それはどうも?」

 お礼を言うのもおかしいけど、それほど私を大切に思ってくれたって自惚れてもいいのかな?
 プロデューサーさんは「いやはや情けない」なんて頬を人差し指でかきながら、苦笑いだ。もはや見慣れた、その情けなさそうな顔。昔は苛立ちしか覚えなかったけど、それこそ一緒に苦難を乗り越えたからか、今ではむしろいつも通りすぎて少しだけ安心する。

「それでさ、いろいろと思い返したんだ。たとえば『あなたがプロデューサーさんですか? ふーん、なんだか頼りない感じ』とかな」
「ちょ!?」
「いやーいきなり『そんなに張り切らなくて良いですよ』とか『迷惑かけることはないと思いますが』なんて言われるとは、さすがに思ってなかった」
「む、昔の話じゃないですか! そ、それにプロデューサーさん、本当に頼りなかったじゃないですか!」
「え? そうだっけ?」
「そうですよ! 資料を劇場に置きっぱなしにするし、初めてのオーディションでは私よりもプロデューサーさんが緊張したり!」
「うぐあぁっ!? せ、正論過ぎて、反論できない……」

 わざとらしく胸を押さえて、震えだすプロデューサーさん。でも私は見逃さなかった、俯いたときのその顔が赤いことを。自分から言い出したくせに、返り討ちにあって恥ずかしいんだろうな。
 まったく、本当、頼りない。
 ……なんて、最初の私なら、そう言っていたかもね。
 今なら、ちゃんとわかってる。何も言わずただ傍に居てくれたことや、一番近くで誰よりも私のことを気遣っていてくれたこと。

「しかも最初のプロデューサーさん、凄く不愉快だった記憶があります」
「え? あ、あー……北沢さんって呼んでたとき?」
「はい、それです。貼りつけただけの笑顔に、よそよそしい感じ、気持ち悪かったです」
「あ、あはは……人の顔を窺って争いを避けつつ生きてきた俺にとっては、志保に面と向かってハッキリ不愉快って言われたときはどうしようかと」
「でも、それから、ほんの少しですけど頼れるようになりました」
「……そうだね、俺も志保に成長させられたよ。ありがとうな、志保」

 嬉しそうに、まるで子どもみたいに笑う。よくもまぁ、あんな生意気なことを言った小娘にお礼なんて言えるもんだ。そういうところは、今でも甘すぎるんじゃないかって思う。
 けれど、その甘さが嫌いじゃない。
 初めこそ、一人でトップアイドルになってやるって思ってた。誰の力も借りるもんか、って躍起になっていた。家族を安心させてあげたかったんだ。
 でもそれじゃダメだって、どこかでわかっていた。その事実から目を背けて、必死になって、ただ上だけを見て走り続けた。
いつの間にか、上を目指すことが第一になっていた。
 気付かないうちに、笑顔を忘れていた。笑えないアイドルに、誰が近寄るものだろうか。
 それでもシアターのメンバーは、何度も何度も私とコンタクトをとってくれた。プロデューサーさんは、ずっと傍に居てくれた。それこそ私がいくら酷いことを言ったとしても、離れなかった。

「初めてオーディション受かったとき、志保泣いてたよなぁ。まぁ開幕五連敗からの、初勝利だったもんな。そりゃ泣くよなぁ」
「……プロデューサーさんが私の数倍泣いてて、それ見た瞬間私の涙は引っ込みましたけどね」
「あ……いや、ほら他にも! 作詞の仕事をもらったとき、あのとき志保さ、雪歩ちゃんに教えてもらったりもしてたよな。いやーちゃんとみんなと交流できるようになって、しかもそれで完成したのが『絵本』だし、あのときも志保は歌った後泣いてたよね」
「歌い終わって舞台袖に戻った直後、感動しすぎたプロデューサーさんに強く抱き締められたこと。あれ、忘れてませんからね? あの後、一ヵ月はみんなに茶化され続けたこと。なんならセクハラで訴えても、勝てましたからね?」
「……なんかもう、素直にごめんなさい」

 ちょっといじめすぎたか。割と本気で凹みはじめたから、少しだけ焦る。これから心に決めてきたことを言うって考えると、あまりよくない状況よね。
 まずい。どうしよう。
 話題を、話題を変えよう。

「そういえばプロデューサーさん、もし私が本当にアイドル辞めるって言い出してたら、どうするつもりだったんですか」
「ん? そうだねぇ、まずは俺もプロデューサー辞めてたかな。でも仕事しないと生きてけないし、まぁ社長にお願いして事務仕事に変えてもらうとか?」
「いや、なんでプロデューサーさんまで辞めることになるんですか」
「そりゃ当然でしょ、俺は志保のプロデューサーだし。志保以外、プロデュースする気はまったくないし。今まで通りだよ、ある意味」

 何を今更当たり前のことを、みたいな感じのプロデューサーさんだけど……実はずっと、気になっていたことでもあった。
 基本ウチは、特定のアイドル専任プロデューサーというのは存在しない。大体一人のプロデューサーにつき、五人程度は担当している。けどこの人は最初から例外で、私だけをずっとプロデュースしてくれている。今もなお、だ。
 以前一度だけ訊いたことあるけど、一目惚れってやつだよなんて滅多にしたことないような、慣れないどや顔で返された。

「それとな、あー……えっと」
「どうしたんですか?」

 急に歯切れが悪くなり、うんうん唸り始める。
 一体どうしたというのか。視線は落ち着きないし、いつものプロデューサーさんらしくない。

「私がそういうハッキリしない態度好きじゃないの、知ってますよね」
「ぐっ……そう、だな。ああ、そうだ。よっし、それなら言うぞ! 結婚してくれって言うつもりだった!」
「………………はい?」
「あれ? いや正しくは、結婚を前提としたお付き合い? だから指輪を買ってくるつもりだったんだけどさ、さすがに昨日いきなり辞める云々を静香ちゃんに言われたばっかで用意できなくて……代わりにこれ! チョーカー! そう、あなたに首ったけ、みたいな感じで……って、おや?」

 プロデューサーさんは目の前に、ホワイトゴールドの、シンプルなデザインのチョーカーを突き出したまま首を傾げる。どうやらやっと、私が硬直しているのに気付いたようだ。
 いや、え? ちょっと、え? 何が起きた?
 これも静香が仕組んだ何か、どっきり的なもの? いや、プロデューサーさんはそんな演技ができるほど、器用じゃない。それじゃあ、今言われたことは?
 私が告白をするつもりが、先に告白された?
 正直、振られることだって覚悟していた。だからこそ、理解が追い付かない。なんで、何故。そんな感情がぐるぐると胸の中を回って、言葉が出てこない。

「えーっと、やっぱり首ったけってギャグは古かった?」
「そこじゃないですよ!」
「うわっ、びっくりした!?」
「びっくりしたはこっちのセリフですよ! な、なんでプロデューサーさんが、わ、私を……」
「ずっと前にも言っただろう? 一目惚れ」
「あ、あれって冗談じゃ……」
「うーん、冗談半分本気半分。そりゃ、それだけが理由じゃないし。なんなら志保の好きなところ、一つ一つ述べていこうか? 多分朝になるけど」
「やめてください、ただでさえ今いっぱいいっぱいなんですから」

 なんだかもう、頭が痛くなってきた。
 思い描いていた告白とは、随分とかけ離れたものになった。さてどうしたものかしら……って、言うまでもないけど。ただいきなりその……結婚だとかは、い、いやそれは将来的にはしたいって思いはある。でもやっぱり唐突すぎて、さすがにそこまで心の準備はしてなかったし。
 あぁもうこの人は、この人は本当にもう。

「それで? プロデューサーさんは、私のこと、どう思ってるんですか?」
「……はい? え、いやーここまで言えばわかってくれるでしょ?」

 ただこのまま受け入れるなんて、それはあまりにも心の準備をしてきた私としては悔しすぎるから。
 反撃だ。
 さっきからプロデューサーさんは、勢いとおどけた感じを織り交ぜてくる。私が気付かないとでも、思っているのかしら。何年一緒に、パートナーとしてやってきたと思ってるんだ。
 そうだ、気付いている。
 全部、わかっている。
 プロデューサーさんの顔が、赤いことも。
 プロデューサーさんが、本気だってことも。
 ――そしてわざと私の話を遮ってまで、プロデューサーさんの方から告白をしてくれたってことも。
 話があるのは事実だと言った瞬間、露骨に話題を変えてきたんだもの。相変わらず、誤魔化すのが下手すぎる。私がプロデューサーさんのことをわかるように、プロデューサーさんも私の言いたかったことに薄々気付いていたんだろうなって思う。

「さあ、言ってくださいよ。誤魔化さないで、はっきりと。誤魔化すのは、私、嫌いですよ?」

 でも、それでもやっぱり先に言われたのが悔しいのは事実だから、許してあげない。
 明らかにさっきから避けてる言葉を、言わせてやるまでは。
 プロデューサーさんは困ったように笑うから、私も満面の笑みを作って返してあげた。するとプロデューサーさんの顔が、明らかに引き攣った。失礼な。

「そう、だよなぁ……むしろここまで言っておいて、何恥ずかしがるんだって話だよな。すまない、そしてありがとう、志保」
「別に……お礼を言われるようなことじゃ」
「志保」

 まっすぐ目を見つめられて、いつもの優しい笑顔と違った真面目な表情で、それでもやっぱり少し赤い顔して、プロデューサーさんは言葉を大切に紡ぐ。

「好きだ」
「~っ!?」

 たった三文字の言葉。ベタな少女漫画や恋愛映画なんかじゃ、よくある、なんてことないありふれた言葉だ。
 それでも、そう、心が震えた。
 照れるプロデューサーさんを、からかってやろうなんて思っていたのに。
 言葉が詰まって、上手く何も言えそうにない。ただ、体は反射的に動いていて。首を縦に、何度も何度も小さく振っていた。

「好きだ、好き、愛してる。あー……一回言っちゃえば、もうなんとでもなれってなるな。たはは……って、志保?」

 黙ったままの私を心配して、プロデューサーさんが顔を覗き込んできた。
 違う、そんな心配しなくて大丈夫なんです。ただ嬉しくて、この気持ちを、感情を持て余しているだけで。けれど、言葉はどうしてもまだ出てきそうになくて。
 だから――
「っ、し、志保っ!?」

 プロデューサーさんに、キスをした。ほっぺたに、だけど。頬にキスなんて、子どもじみたものだと思う。
 でもプロデューサーさんには衝撃的だったみたいで、さっきまでの心配そうな表情はどこへやら。目を大きく見開いて、固まっていた。
 そんなプロデューサーさんを見れたからか、こっちとしてはちょっぴり落ち着いてきて。やっと言葉を発せられそう。

「私も……好き、です」

 精一杯、これが今の私に紡げる言葉。
 そこでふと、さっきプロデューサーさんが言っていたチョーカーが視界に入る。今もプロデューサーさんの手の中にあるそれは、七年前の私にはオトナ過ぎる気がするけど、今の私になら似合うのかな。プロデューサーさんが選んでくれたんだもの、きっと今の私に似合うんだろうな。
 それがまた嬉しくて、だから。

「プロデューサーさん」
「お、おうっ? なんだ?」

 裏返った声のプロデューサーさんに、思わず笑いそうになっちゃう。

「そのチョーカー、私につけてくれますか?」

 甘えるように、お願いした。
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