絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

でぃすてぃにー

去年の7/12に開催された『MILLION FESTIV@L!!2』にて頒布した本です。みらしず、かなしほ。もう1年以上経過したのと、再販予定もないので公開しますっ。表紙はお姉様が描いてくれました! 裏表紙は日向いちさん!
「静香ちゃんは、運命って信じる?」
「信じる信じない以前に、とりあえず私の背中から退いて」

 ダンスレッスンの休憩時間中、未来は静香にそう投げ掛けた。体育座りをして呼吸を整えていた静香の背中に、ぴょんと飛び掛かって来た未来。
 未来の質問内容よりも、静香にとっては今この状況の方が重要だ。激しい運動の後ということもあり、汗は引いておらず、何より疲労も取れていない。静香は露骨に顔をしかめているが、後ろからのしかかっている未来にはその表情は窺えない。

「重いのだけど」
「あ、酷い! これでも最近、ちょっぴり痩せたんだよ? きっと疲れてるから、より重く感じるだけだよ~」
「つまり疲れているって分かっていて、のしかかっているわけね?」
「はぐぅっ!? だ、だって……なんかこういうこと言うの、面と向かって言うの恥ずかしいんだもん」
「それを率直に言えちゃうのも、結構恥ずかしいと思うわよ。とりあえず、背中から降りて」
「ん~静香ちゃん、汗いっぱいかいてるはずなのに、良い匂いな気がする」
「ちょ、ちょっと! 今すぐ降りなさい、ばか未来!」

 残り少ない体力で体を必死に動かすと、バランスを崩した未来がべしゃあっと音を立てて床に落ちた。未来も体力は戻っていないのか、うつ伏せになったまま動かない。
 静香はちらりと未来の方へ視線をやるものの、なんて声を掛けるべきか悩んだ。実際自業自得なわけで、けれどもそのまま動かない未来が心配ではないかというとそういうわけでもなくて。手を伸ばせば触れられる距離だが、伸ばした手は宙を行ったり来たりと彷徨っただけに終わった。

「本当、今日はどうしたの、未来?」

 出てきたのは、無難な言葉だった。
 静香の言葉に反応するように、未来がうぅんと唸り声を上げる。

「いやぁ、床がひんやりしてて気持ちいいなーって」
「心配して損したわ」
「ぐえぇえ、静香ちゃん重い! お尻重いから!」
「未来と体重そんなに変わらないわよ!」
「あ、でも柔らかくもあるから、思ったより悪くないかも――って、いふぁいいふぁい!」

 未来の背中にお尻を預け、なおかつぐにぐにと両頬を引っ張る。抗議の声を上げる未来だが、残念なことに言葉になっておらず、静香の手は止まらない。決して、分かっていてわざと続けているわけではない。この場に第三者が居たとしたら、静香の顔が少しだけ楽しそうな、そんなにやけ顔であることがよく分かるだろう。しかし、それでも静香はわざと続けているわけではない。きっと、おそらく、多分。
 さすがに両腕をぶんぶんと振って抵抗をしてきたので、静香は手を止めた。

「うぅ、酷いよ静香ちゃん……」
「未来が変なことを言うから、悪いんでしょう? そもそも、最初の質問からして変よ。どうして突然、そんな運命だなんて」
「うーん、いろいろと理由はあるんだけど……えっとね、うんとね」

 唸りながら、未来は言葉を探しているようだった。心の中にあるものを、上手く言葉に言い表せないのだろう。
 静香はそんな未来の言葉を、じっと待つ。背中にお尻を預けたまま。

「あずささんがこの前、言ってたんだ。運命の人に会うために、アイドルを始めたって」
「運命の人、ねぇ……」

 静香にとっては、あまりピンと来るものではなかった。運命の人、そもそもそういう存在を求めたことも、考えたこともなかったから。

「でね、私はもう運命の人に出会っちゃってるんだけど、静香ちゃんはどうなのかなーって思って」
「……はぁ!?」

 未来の、まるでちょっとそこの醤油とってよくらいの軽い言葉に、けれども明らかに聞き逃せない言葉に、静香は思わず声を上げた。
 そして未来の両肩をがしっと掴み、ゆさゆさと揺さぶる。割と本気で。

「ちょっと未来、どういうことよ! だ、誰なの! というか、いつの間に!?」
「うわあわわ、し、静香ちゃん落ち着いて! ど、どうしたの急に!?」
「どうしたのはこっちの台詞よ! 今日の未来、やっぱりおかしいわよ!」
「せ、せめて肩揺らさないでぇ! しゃ、喋れないから! 上手く喋れないから!」
「どうせ未来は、いつも上手く喋れないでしょ!」
「さらっと酷い!」
「普段から変なことばっかり言うじゃない!」
「謝るどころか追い打ちかけてきた!? ひ、酷いよ静香ちゃん!」

 酷いのは未来の普段の言動よ。さらに追い打ちかけてきた。あぁもう本当未来はいつもいつも。ちょっと待って静香ちゃんだって毎日うどんうどんって。うどんは今関係ないでしょう。
 ぎゃあぎゃあ、どたばた。
 ぐいぐい、じたばた。
 二人が暴れ始めて約五分、そこにはうつ伏せの未来と、それに重なるように同じようにうつ伏せになっている静香の姿があった。何も事情を知らない者からしたら、とてもシュールな光景だろう。
 せっかくの休憩時間だというのに、むしろ疲労がたまっていく一方である。お互い肩を上下させつつ、荒い呼吸を整えている。

「えっと、私たちなんの話をしていたんだっけ……」
「未来が言い出した、運命を信じるかどうかとか。あと、未来はもう運命の人に出会ったとか、そんな話よ」
「なんでその話から、こんな状況になったんだろう」
「未来の爆弾発言のせいでしょ。運命の人に出会っただなんて」
「えぇー? そんな変なこと言ったかなぁ。だって、運命の人って静香ちゃんだよ?」
「……は?」

 固まる静香。少し困ったように言う未来だが、静香からすればそれ以上に困惑である。
 ダンスレッスン時よりも、ずっとずっと鼓動が乱れる。どういう意味なのか。そういう意味なのか、けど未来をそういう目で見たことないし。だからと言って、未来を嫌いかと言われると嫌いなわけなくて。そんな思いが、ぐるぐると心を掻き乱す。

「静香ちゃん? 急に黙って、どうしたの?」
「はっ!? 同棲して一緒にお風呂とか一つのベッドで一緒に寝るとか、そんなのまだ早すぎるわよ!」
「一体何の話!?」
「……ごめんなさい、少し焦りすぎたわ。そうよね、まずは手を繋ぐところから始めましょうか」
「えぇっと、よくわからないけど、手を繋ぐの? 嬉しいから、良いけど」

 んしょんしょと、体を捩らせてうつ伏せから仰向けになる未来。必然的に、背中に乗っていた静香は、未来の腹部にそのまま乗る形になる。
 そして両手のひらを、指を絡ませるように重ね合わせた。

「でへへー、なんだかいいね、こういうの」
「未来は思ったより、手が小さいのね。気が付かなかったわ」
「そういう静香ちゃんは、大きいね。なんだか頼りがいがあるーって感じ!」
「……ねぇ、なんで私なの?」
「え、何が?」
「運命の人よ。その、他にもっと、素敵な人はいるでしょうに」

 仰向けになったせいで、お互いの顔が見えてしまう。だから静香は少しだけ、顔を逸らしながら、そう訊ねた。
 すると未来は一瞬きょとんとした表情の後、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。

「だって、私にとって静香ちゃんとの出会いが、すべての始まりだったんだもん」
「え?」
「静香ちゃんは覚えている? 私たちが初めて出会ったときのこと。って言っても、そんな何年前とかそういうお話でもないけどねー」
「忘れるわけ、忘れられるわけないでしょう。あんな衝撃的な……」

 それほど前の記憶ではないというのもあるが、それ以上に印象的だったこともあって、静香はこの先ずっと忘れないと思っている。初めて未来に会ったとき、静香は学校の屋上でダンスの自主練習をしていた。そこで未来は、部活の洗濯物を行っていた。
 お互いの存在に気付いたとき、静香は見られたことに顔を赤らめ、未来は一瞬呆けた後すぐに静香に駆け寄ったのだ。目をきらきらと輝かせ、初対面だというのに静香の両肩をがっちり掴んで「格好良い」と言った。少なくとも、初対面相手にアグレッシブすぎると言えるだろう。

「今思えば未来らしいと言えば未来らしい行動だけど、初めて会ったとき、なんだこの子はって思ったわよ私」
「でへへ、私はあの目が合った瞬間、なんて格好良いんだろうって思ったよ。いろんなことに興味を持ってきた私だったけど、心を掴まれたって言うのかな? うん、そんな感じ!」
「そうね、新しいおもちゃを与えられた子どもみたいに、無邪気な顔をしていたもの」
「あといきなり怒られたのも、印象深いかな」
「お説教せずにはいられなかったからよ、まったくもう……今でもよくお説教しなきゃいけないし。よくよく考えたら、未来と出会ってからの私、よく怒ってる気がする……」
「そ、それだけ静香ちゃんが頼りがいのある素敵な子ってことで! あ、あははー」

 無理矢理作った笑顔で目を逸らしながら言う未来に、思わず笑ってしまいそうになる。静香は未来に出会ってからのことを、改めて思い出してみた。
 いくつも部活を掛け持ちしていて、そのせいで雑用をしていて。それが放っておけないから、思わずお説教をしてしまったこと。そして何より、アイドルという夢を、幼い頃からの無茶な夢を、馬鹿にしなかったこと。むしろもっと目を輝かせて、はしゃいだこと。
 まだまだ決して長い付き合いとは言えないかもしれない、少なくとも年月的には短いだろう。
 けれど、未来に出会ってからの日々は静香にとって、大きな変化をもたらした。
 たとえば、よく怒るようになった。
 たとえば、ため息を零す回数が増えた。

 たとえば――笑顔になる時間が多くなった。

「私ね、静香ちゃんに会って、静香ちゃんにチケットを貰って、人生初めてのライブで静香ちゃんを応援できて、本当に良かったぁって思ってるんだ」
「あのときも言ったけど、どうしても観たいって言ったのは未来だったでしょう。強引なんだから……」
「あーそういえばあのときは、まだ春日さんって呼ばれてた!」
「知り合って間もない相手を下の名前で呼ぶほど、私は神経図太くないもの」
「それって私のこと褒めてる?」
「あーそうね、未来は凄いわ本当」
「でへへ、そうかなー?」

 照れたように笑う未来に、本当にこの子は大丈夫なんだろうかいろいろ、と静香は心配になる。

「それでね、静香ちゃんが舞台で歌っている姿を見て、そこで心を奪われちゃった。がっちり掴まれてた心を、もう完全に奪われちゃったんだよ!」
「……私は必死だっただけよ、あのときは特に」
「前にも言ったけど、静香ちゃん歌っているときはまるで別人みたいに格好良いよね。普段は可愛いのに」
「か、かわっ!?」

 予想外の褒め言葉に、かぁっと顔を赤くして思わず離れそうになる。だが未来と手を繋いでいるため、逃げることは未来が許してくれない。
 にへらと笑う未来に対し、静香は何も言えなかった。未来はお世辞を言うようなタイプではないし、むしろよく何も考えずに本音をぽろっと零すタイプである。だからこそ、未来の言葉が純粋な褒め言葉だということは、しっかりと伝わってきた。

「でね、それから私の日常ってがらっと変わったなぁーって思って。今まで楽しいって思ってた部活も、ぜーんぶ辞めちゃって。アイドルのことなんて、何もわかってなかったのに、ただ……」
「ただ? どうしたの?」
「し、静香ちゃんの横に一緒に立って、歌ったり踊ったりしてみたいなぁって思っただけ」

 未来にしては珍しく言い淀むその様子は、明らかに照れが混じっていた。
 黙る静香。
 手のひらから、じっとりとした汗が伝わる。はたしてそれは未来のものか、静香のものか、はたまたお互いか。

「うぅ……そこで黙られると、私、物凄く恥ずかしいことになるんだけど」
「実際、恥ずかしいことを言う未来が悪いんでしょう」
「でも本当のことだもん! だから私にとっての運命の人は、静香ちゃんなの!」
「……あぁなるほど、そういう意味での運命の人ってことなのね」
「そういう意味って、静香ちゃんはそれ以外に何を思ったの?」

 きょとんとした表情の未来に対して、静香は疲れた顔をしていた。その意味がわからず、ますます未来の頭に疑問符が浮かび上がる。
 静香はあぁなんて馬鹿なことを考えていたんだろうか、とか思いつつも、どう反応すべきか悩む。素直に言ったら、それはそれでからかわれる結果しか見えない。

「知ってた、未来? 寝ているときに、体がびくってなることをジャーキングというらしいわよ」
「話逸らすの下手すぎるよ! ねぇ、何を思ったの~? うぅん、運命の人で他に思いつきそうなものは……って、あ! わかった!」

 いくら鈍い未来でも、さすがに分かったようだ。数秒悩んだ表情を見せた後、すぐににへらにへらとした緩い笑みを浮かべた。
 それを見た瞬間、あぁ面倒臭いことになった本当に、なんて静香は考える。この状況をどう切り抜けるべきか。

「分からなくていいわよ!」
「そっかぁ、静香ちゃんは私を大好きだってことだね!」
「別に好きじゃないわよ!」
「え……そ、そんな」
「あ、いや、好きだけど、いや違くてその」
「でへへ、静香ちゃん可愛いよぉ~!」
「そ、そんなことより! 未来、あなた最初は運命を信じるか信じないかって話だったでしょう? なんでいつの間にか、運命の人になってるのよ?」
「相変わらず話の変え方下手だけど、静香ちゃんが可愛いから特別に見逃してあげるとして。だって、私にとっての運命の人が静香ちゃんだから、静香ちゃんに会えたのは運命なのかなーって思ったんだ」

 未来の言葉は、特別説得力がある言葉でもなければ、むしろ何を言っているのかと思われるような言葉だった。だがそれでも、なんとなく言いたいことは伝わった。
 静香に変化をもたらしたという意味では、静香にとって未来は同じように運命の人と言えるのかもしれない。目の前の未来をジッと見つめると、見慣れた緩き切った笑みを返してきた。

「それでね、もしね、私にとっての静香ちゃんが運命の人だったように――」

 ぎゅうっと強く、手に力を込める。すると反射的に、静香もぎゅーっと握り返した。

「静香ちゃんにとっても、私が運命の人だったら良いなぁ嬉しいなぁ……なんて」
「っ!?」

 お互い、視線が混じり合う。未来も静香も、頬がやや朱に染まっていた。言った方も言われた方も、少なからず気恥ずかしさがあるのだろう。それでも視線を外さないのは、外さないというよりも外せなかったからだ。
 静香からすれば言いたいことは、たくさんある。
 いきなり何を言っているのか。何恥ずかしいことを言っているのか。などなど、頭にいくつもの言葉が思い浮かぶ。だが、困惑こそあれど、否定する言葉は一切浮かんでこなかった。

「私ね、いっつも静香ちゃんに迷惑かけちゃっている気がするから、お世話してもらっている気がするから、だから……」
「未来」
「静香ちゃんはどう思ってるんだろうって」

 少しの不安を帯びた声、瞳の奥に感じる小さな影、普段の未来と違うその姿は静香を狂わせた。
 そう、狂わせたのだ。だから静香の口は、静香が意識するよりも先に、動いていた。

「未来、ありがとう」
「へ?」
「いつもありがとう、未来。感謝してるわ」
「え、な、なんで? むしろお礼を言うのは、私の方なのに」
「ばか」
「えぇっ!? 感謝されたと思ったら、即ばかにされた! どういうことなの、静香ちゃん!?」
「ふふっ、そうね。未来に出会えて、良かったってことよ」
「~っ!?」

 静香の穏やかな笑顔に、その言葉に、未来は思わず――
「ちょ、未来! なんで泣くのよ!」
「えぇぅ、うぇ、だ、だって~」
 
 泣き出してしまった。
 さすがにこの反応は静香にとって、予想外すぎた。わたわたとする静香だが、両手をがっちり繋がれたままのせいで、身動きも思ったように取れない。体勢も、崩れてしまう。
 そんな静香の様子に気付かない未来は、声を上げて涙を流し続ける。
 静香がどうしたらいいかわからず、困惑している内に。

「はい、そろそろ休憩はおしまいよ。午後のレッスンもしっかりと――」
「あっ」
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ静香ちゃぁぁぁぁぁぁんっ!」

 ダンスレッスンのトレーナーが、戻ってきた。
 トレーナーは、固まった。
 それもそのはずである。目の前の光景は、理解し難いものであったから。そして静香も同様に、しばし硬直した。そんな中、唯一動いているのは、というか言葉を発しているのは未来だけ。ただし泣いているせいで、まともな言葉ではなくなっているが。

 目の前で、泣いている未来。
 そんな未来に、馬乗りになっているような姿勢の静香。
 トレーナーからすれば、一つの結論しか思いつかなかった。

「最上さん、そういうのは合意の上で行わないとダメでしょう!」
「ち、違いますから! というか、そのツッコミおかしいですよね!?」
「静香ちゃん大好きだよぉぉぉぉぉうえぇぇぇぇぇぇんっ!」
「未来はちょっと黙ってて!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしくなる。
 結局静香が誤解を解くのには、無駄に数時間を要することになった。






 ――2――


「運命? 運命の人? それはやっぱり、バックダンサーとして立ったアリーナライブと春香ちゃ……じゃなかった、天海先輩だよ!」
「でしょうね、えぇ分かっていたわ」

 喫茶店の隅っこにある、最大で四人が座れる席。そこでため息を零すのは、志保だ。テーブルを挟んだ向かい側には、可奈がパフェを一欠けら口に運んでいる。

「でも突然、なんでそんな質問?」
「別に、なんとなくよ」

 志保が可奈に問いかけたのは、静香と未来が原因だった。つい先日、未来に運命の人は静香だということ、静香にとっても未来自身は運命の人であるということを延々と語られたからだ。静香は顔を赤くして、未来が話す内容にそこまでは言っていないそもそも他の人に言うなと責めてはいたが、それでも未来はでへへと笑いながら語るのをやめなかった。
 別に志保は、その話を聞きたかったわけではない。むしろ、未来が延々と一方的に語ってきたのだ。正直、鬱陶しいことこの上なかった。
 だが、少しだけ、ほんの少しだけ考えさせられてしまったのも事実だった。
 未来にとっての静香、静香にとっての未来のような、そんな存在が自分には居るだろうかということを。志保は真っ先に家族の存在を思い浮かべたが、この場合は家族を除いて考えるべきだろうと考えた。

「そっかぁ、なんとなくかぁ」

 納得いった様子の可奈に、志保は単純な子でよかったとホッとする。
 家族以外で真っ先に思い浮かべたのが、可奈だった。最初こそすれ違いはあったものの、今ではなんだかんだで一番接する機会が多い相手になっていた。
 お互いに性格は全く違うし、得意とするものから趣味までも一致していない。けれど、だからこそなのかもしれない、なんて志保は思っていた。
 もちろん、運命について訊くためにわざわざ呼び出したとかではない。たまたまオフが重なり、可奈から遊びに誘われたからだ。そのついでに、訊いただけであった。別に未来や静香のようなものを、期待していたわけではない。
 志保はバニラアイスクリームを、スプーンで一口。程良い甘さと、冷えた食感が心地良かった。

「志保ちゃんにとっては、運命とか運命の人だなーって思うのあるの?」
「……そうね、可奈と同じ。アリーナライブでの出来事はいい経験になったし、あれはいろいろと考えさせられたわ。運命というよりは、転機となる出来事って感じかもしれないけど」
「じゃあやっぱり、運命の人は天海先輩?」
「さあ、それはどうかしら」
「えぇ~秘密? 志保ちゃんから訊いてきたのに」

 不満を漏らす可奈を無視して、志保はアイスクリームを口へ運ぶ。可奈が何人か名前を挙げ始めたが、それすらも流す。
 しかし、可奈らしいと言えば可奈らしいかもしれない。片っ端から挙げる人物の名前に、可奈自身の名前が挙がらないのは。
 そこでふと、志保は思う。もしここで、可奈を運命の人だと思っているなんて言ったら、この子はどんな反応をするんだろうかと。いろいろと想像はできる。照れた顔、恥ずかしそうに赤くなる顔、冗談と捉えて笑う顔。感情が豊かな可奈だからこそ、どの未来も想像ができた。
 気恥ずかしさはもちろんあるが、別に隠すようなことでもない。別に言ってしまってもいいか、なんて思う。
 志保はスプーンを置いて、ゆっくりと可奈の方を見る。

「あえて一人だけ、挙げるとするならだけど」
「えっ、教えてくれるの?」
「可奈ね」
「……輝いたぁ~ステージに立てばぁー」
「ちょっとその反応は予想してなかったわ」

 視線をどこか何もない空間へとやり、突如歌い始めた可奈。
 さすがにこれは、志保にとっても予想外の反応だった。

「その反応を、私はどう受け取ればいいのよ」
「私の方がびっくりで、どうしたらいいのか分からなかったよ。普通なら冗談って思うけど、志保ちゃんはそういう冗談言わないって分かってるし」

 可奈が視線を忙しそうにいろんな場所へと移す中、何気なく言った、分かっているという言葉が志保には少し嬉しかった。
 別に昔ながらの親友ってわけじゃあない。一緒に過ごした時間はまだ短いかもしれないが、それでも苦楽を共にした仲だ。

「そうね、私はそういう類の冗談は得意じゃないわ」
「でもやっぱり、どうして私なの?」
「正直、私もよくわからない」
「えぇっ!? どういうこと!?」
「実はそもそも質問をした理由が、未来と静香のせいなんだけど――」

 志保は一から説明をし始めた。きっかけは、未来と静香の惚気話のようなものだということ。それに延々と付き合わされたということ。面倒なことこの上なかったということ。
 後半は明らかに愚痴になっていたが、それでも可奈は全く嫌がらずに聴いていた。
 一気に喋ったせいで喉が渇いた志保は、コップに入った水をぐっと飲み干す。
 可奈はパフェを食べ進めつつも、志保の話に興味津々な様子だった。

「それで運命の人って考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが可奈だっただけ。理由はよく分からないけど、強いて言うなら私と全く違うからなのかも」
「ふーん、そっかぁ……嬉しいよっ! ありがとう、志保ちゃん!」
「別にお礼を言われるようなことじゃ、ないのだけど」
「けどあれだね、静香ちゃんも未来ちゃんも凄いね。良いなぁ、絆や信頼で結ばれているっていう感じ」
「可奈はそういうの、好きよね」
「だってよくない? そういう関係。羨ましいって思うよ」
「……私だって、可奈のことはそれなりに信頼しているわよ」
「えっ」
「っ! な、なんでもない! なんでもないから!」

 可奈があまりにも、自分にはそういうものはないみたいな言い方をするものだから、志保は思わず口を滑らせた。
 可奈は一瞬きょとんとしたが、すぐに意味を理解したようで、ぱぁっと太陽のように眩しい笑顔を見せる。志保がこれはまずい、絶対にまずいと思ったときには、既に遅い。可奈は立ち上がり、わざわざ志保の隣の席に座った。

「志保ちゃんっ!」

 そして、思いっきり抱き締めてきた。割と本気の力で。
 志保からすれば、来ることはなんとなく想定はできていた。だがここまでの力で抱き締められるとは思っていなかったため、抵抗が遅れてしまった。可奈の胸の中に抱き寄せられた形のせいで、上手く言葉が出せない。
 可奈の背中を叩くと、察した可奈が力を緩めた。

「ぷふぁっ、ちょっと可奈。いきなりすぎ」
「いきなりじゃなかったら、いーの? 抱き締めても良い?」
「あーもう、そういうことじゃなくて!」
「志保ちゃん、あんまり大声出すと、周りの人が」
「可奈のせいだし可奈に言われたくないしで、あぁ本当にもうっ……」

 自らの額に手をやる志保に、抱きつくよーと言ってから抱きつく可奈。さっきと違って、ちゃんと力加減はできているようで、志保の腰に回された腕は緩んでいる。
 ぐりぐりと志保の胸に顔を埋めて、えへへーと笑った。

「ねぇ志保ちゃん、なんでか訊いてもいい?」
「だめ」
「まだ何を訊くか、言ってないのに~」
「この流れなら、わかるわよ」
「なんで私を、信頼してくれてるの? 私って、歌はまだ下手っぴだし、ダンスだってそんな上手じゃないし、か、可愛いわけでも美人さんでもないし……うぅ」
「自分で言って自分でへこむなら、最初から言わなきゃいいでしょ。面倒臭いわよ」
「うぐっ」

 志保の冷たい視線から逃れるように、またすぐさま志保の胸で顔を隠す。自らのそれよりも大きくてふにゅりと柔らかいものが、心地良い。

「けど、冷静に自分を評価できるのはいいことよ。自虐的過ぎる気もするけど。確かに可奈は、まだ歌もダンスも特別秀でているわけじゃない。でも、努力しているでしょう? 諦めないで、夢に向かってひたむきに努力する姿は、素直に尊敬できるところよ」
「志保ちゃん……」
「それに、可奈は美人ってタイプではないかもしれないけど、充分に可愛いじゃない」
「え、う、ぁ、えぇっ!?」
「私から見ても、いえ、客観的に見てもそう思うけど」

 志保からすれは当然のことのようで、まるで何をそんなに驚いているのかといった態度である。
 だが可奈からすれば、そんなことをストレートに言われたのはほとんど初めてのようなもので、ますます志保に顔を見せられなくなってしまった。
 ぐりぐりぐりぐり。志保の胸の中で悶える可奈。
 さすがにくすぐったさがあり、やや身動ぎをする志保。

「つまり、信頼に値する行動をしているのよ、可奈は」
「うぅ~嬉しいよおぉぅ~」
「まぁ今の状態は、少し情けないと思うけどね。いい加減、離れなさい」
「もうちょっとだけ……」
「はぁ……ちなみに、可奈はどうなの?」
「え?」
「私のこと、その、信頼とか」
「もちろんしてるよっ!」

 可奈が、がばっと勢いよく顔を上げた。すると必然的に、志保と視線が混じり合うわけで。
 勢いで言ったはいいが、まだ気恥ずかしさが抜けていないせいで、可奈はすぐさまわかりやすいくらいに赤くなる。明らかに、顔に熱が集まっていることがわかった。
 志保もつられて少しだけ、体が熱くなる。だが、可奈ほどではない。

「じゃあ私も逆に訊くけど、どうして信頼しているの?」
「志保ちゃんだから!」
「……は?」
「私、難しいことはわからないけど、志保ちゃんだから! 志保ちゃんとなら、歌うのも踊るのも楽しいし、安心するし、何よりやっぱり志保ちゃんが志保ちゃんだから! だから、ね――」

 可奈はえへへと笑いながら、言葉を紡ぐ。

「これからも、よろしくお願いしますっ」

 その言葉に、志保は思わず頬が緩む。なんとか抑えようとしても、抑えきれない。胸の奥がほわほわと温かくなり、気が付くと勝手に口が動いていた。

「ええ」

 たった一言。それだけだったが、その一言にどれだけの想いを込めたか。
 そしてそれは、可奈にも伝わったようで、可奈はそれ以上何も言わなかった。ただ腰に回した腕に、より力を込めた。
 すると志保もそれに応えるように、可奈の背に腕を伸ばす。
 お互いの体が密着し合っているせいか、冷房の効いているはずの店内なのに、やけに暑く感じる。けれども、むしろ腕の力はお互いに緩むことはなかった。
 もう少し、あと少しだけ、このままでもいいかな。なんてことを思ったのは、果たして可奈か志保か。

 どちらともなく二人が離れた頃には、すっかり志保のバニラアイスクリームは溶けてしまっていた。
アイマス小ネタ+SS | コメント:0 | トラックバック:0 |
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