絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

千早と真美の共同生活。6

6話目。

「千早、ユニット組んでみるか?」

 朝早くに事務所の会議室で、プロデューサーに言われた一言。その言葉は、私にとってあまりにも予想外だったことで、一瞬固まってしまう。
 なぜなら、プロデューサーにはプロデュース開始から少しして、言われていたことだった。『千早はソロ活動を中心に行う。765プロとして全体曲に参加することはあっても、ユニットを組む予定はない』と。
 驚きはあるけれど、とりあえずはその意図を知るべきね。

「プロデューサー、あなたが一番初めに言った言葉、覚えていますか?」
「もちろんだ。ただ、そうだな……流行と同じで日々状況は変化している」
「今はユニットを組んだ方が良いと? ユニットでないと、私は今後厳しいということでしょうか?」
「いや、千早の実力ならソロのままでも、充分トップを狙えるだろう。あくまでユニットは一つの可能性、選択肢と思ってもらいたい」

 今のままでも充分、それなのにわざわざまったく違う道の選択肢を提案してくるということは。

「そこまで言うからには、おそらくですけど、相手候補も決まっているということですね」
「まぁな、真美を予定している。理由は一応聞いておくか?」
「はい、お願いします」

 真美が相手だろうな、というのはなんとなく予想がついた。最初と現在とで、大きな変化は真美が大きく関わっていることはすぐわかる。
 プロデューサーも特に、私が驚いていないことに対して反応しない。プロデューサーからしても、私の反応は想定内だったのだろう。

「これは正直、真美にも千早にも言えることなんだが、お前らが一緒に過ごし始めてからかな。表情が変わった」
「表情、ですか?」
「あぁあとは雰囲気もだな」
「表情に雰囲気って、またあやふやな」
「そうだな、俺が勝手にそう感じているだけで、事実とは異なるかもしれない。良い方向に、変わったと思ってはいるが、実際のところ俺は当人じゃないからわからん。だから、直接訊こうと思う。千早、実際はどうだ? 真美と暮らし始めて、変わったか?」

 なんとも不器用でストレートな言葉だろうか。本来なら、もうちょっとさりげなく訊いたりするものではないかしら。
 けどそうね、私にはこれくらいストレートの方がわかりやすい。きっと遠回しに訊かれては、誤魔化すか気付かないかのどちらかでしょうし。
 改めて考えよう――と思ったが、やめた。そんな改めていちいち考えるまでもなく、真美との生活は私に大きな影響を与えたのは明らかだ。
 簡素だった日々に、モノクロだった日常がカラーになったような。たった一人、家に増えただけで、毎日が明るくなった。何かとちょっかいを出してくるし、静かだった日々は消え失せてしまったけど、それでも独りでいるよりは充実した生活に変わった。

「はい、確かに変わりました。自覚はあります」
「そうか。どうする? ユニット、今の千早になら悪くないと思う。真美にとっても、良い経験だと思うが」
「すみませんが、遠慮しておきます」
「即答か。一応、理由を訊いておいてもいいか?」

 プロデューサーは少しだけ残念そうな表情を見せたが、驚いてはいないようだった。
 理由、か。理由……。

「甘えてしまうと思います、悪い意味で。ただでさえ真美と過ごしてから、私生活で甘えてしまっています」
「甘えることは、決して悪いことではないぞ? それにむしろ俺のイメージだと、真美の方が千早に甘えまくっている印象があるんだが」
「私生活と仕事を一緒のような空気にしたら、私にとっても真美にとってもあまりよくないと思います」
「そういうもんか」
「そういうものです。ちなみにこの話、真美には?」
「まだ言ってない。一応、真美にも訊くつもりではいるが。肝心の相方には既に断られているこの現状だから、どうしたもんか」

 まぁそうでしょうね。もし真美が先にこの話を聞かされていたなら、あの子のことだ、真っ先に私に連絡してきそうだし。

「私が断ってしまっている以上、真美に言う必要は特にないと思いますけど」
「もちろん無理矢理やらせたくはないが、一方だけの意見を聞いてはい終わりってわけにもいかんからなぁ」
「そういうものですか?」
「そういうもんだ。だから、真美には一応話すとは思う。もしかしたら、真美だって断るかもしれないし、はたまた千早と話し合いたいと言い出すかもしれない。それはもう、話してみないとわからんが」

 そうだ……真美が喜んで承諾して断った私に不満を言う姿を何故か想像していたけど、真美が断る可能性だってある。
 脳内で「え、千早お姉ちゃんと組むの? いやいやいやほんと、勘弁して。マジで無理っしょ……」なんて真美に言われている未来を想像すると――
「ごふぁ!」
「どうした千早!?」
「あ、いえ、思ったより結構きついなと思いまして……っ」
「よくわからないが、風邪か? 体調には気を付けろよ?」

 プロデューサーに心配をされながらも、この話はここで終わった。





◇◇◇





「千早お姉ちゃん、そこ正座」
「え?」

 仕事を終えて家に帰ると、待ち構えていたかのように真美が居た。もう夜も遅い時間だから、てっきり寝ているかと思ったけど。
 いきなり正座強要は、さすがに困惑してしまう。
 テーブルを挟んだその先に、いかにも怒っていますといった様子の真美が座っている。真美は正座じゃなくて、あぐらだけど。
 これは無視すると、拗ねて面倒なことになりそうだ。おとなしく、真美の言う通りに正座することにしよう。

「よし、素直でよろしい。で、真美がなんで怒ってるか、わかる?」
「ユニットの件、かしらね」
「お、おおぅ……特にボケもせず直球で当てにきたね。いや千早お姉ちゃんらしいっちゃ、らしいけど。そう、それだよ! 兄ちゃんから言われたよ、千早お姉ちゃん」

 ビシッと人差し指を突きつけられる。
 ここまで不満げということは、良かった……「千早お姉ちゃんと組むとか無理ホントやめてくださいお願いします」というパターンではないようだ。
 私が思わず頬を緩めると、それが気に入らなかったのか、真美は頬を膨らませる。

「何笑ってるのさ! 真美はこれでもローマ字なんだよ!」
「……大マジ?」
「どっちでもいいよ! それより、真美が納得いく理由を聞かせてもらおーか?」
「逆に聞きたいのだけど、真美はどうして私と組んでみたいの?」
「むむっ、質問に質問で返されるとは。そんなの決まってるじゃん! 絶対に楽しいからだよ!」
「そうね、真美と一緒なら、きっと楽しいでしょうね」
「だったら――」
「けどそれは、私の目指す道じゃない」
「え?」

 プロデューサーに言った、甘えてしまうとか日常と同じ空気で仕事をするのはよくないとか、もちろんそういうのもある。
 けれど正直、一番大きいのはそこなんだ。私の目指すところは『楽しむ』ことではない。多くの人を楽しませるとか、そんな素敵なものでもない。
 言う気はあまりなかったのだけど、真美にプロデューサーへ言った言葉を同じように言ったとしても、納得しないだろうから。
 真美はどういうことなのかわかっていないのか、首を傾げている。

「別に隠すようなことでもないから喋る分には構わないのだけど、あまり面白くない話よ?」
「いいから説明! このままじゃ、真美納得できないもん!」
「そうね……それじゃあ簡単に。私には弟が居たの」
「えぇっ!? 初耳なんだけど!」

 そりゃそうだ。誰にも言っていない……って、社長とプロデューサー、あと音無さんも知っていたか。アイドルには誰にも話してないし、そもそも自分から話すようなことでもない。
 さて、どう話すべきか。あまり重い空気にもしたくはないし、あえてさらっと流すような感じがベスト、かしらね。

「けど私が幼い頃、あの子は事故で亡くなった。それ以来、両親も仲が悪くなって、最近とうとう離婚したって聞いたわ」
「え」

 両親同士も、そして私自身ももうずっと喧嘩しているような状態だった。後悔をしていないと言えば、きっと嘘になる。だからこそ、亜美と真美が喧嘩状態にあったとき、亜美に「仲直りはできるうちにしておいた方が良い」なんて言ったんだろうな、私は。
 あぁ、真美が明らかに動揺している。なんて返したらいいか、困っている。言うべきでは、なかったかしら。

「私の生きる理由は、ただ一つ。あの子が好きだと言ってくれた私の歌を、あの子にも届くように。もうどうやっても手が届かない場所に居るあの子に、歌を届けること。私はそのために歌うの。自分が楽しむため、じゃないのよ」
「……よくわからないけど、それでなんで楽しんじゃダメなの? 楽しく歌いながら、じゃダメなの?」
「どうなのかしらね。正直、歌を心から楽しんで歌うということ自体、忘れてしまっているのかも」
「そんな寂しいこと、言わないでよ……」
「ごめんなさい。あまり空気を重くするつもりはなかったのだけど、やっぱりトークって難しいわね。私はバラエティ向きじゃないと、つくづく感じるわ」

 私なりの自虐的ジョークなのだけど、真美は笑ってくれない。俯いて、しまった。
 情けないわね、年上なのに。自分よりも幼い子を、笑顔にもできない。

「とにかく、えっと……私はお話が上手くないからごちゃっとしちゃったけど、結局真美とは方向性が違うのよ。だから、ユニットは断ったわ。はい、これで話は終わり――」
「それでも!」
「っ!」

 この空気を断ち切るために、無理矢理話を終わらせようとした。でもそれは、真美の声にかき消された。
 普段の無邪気な声じゃなくて、弱々しくて、けれども力強い声だった。

「それでも真美は、千早お姉ちゃんと一緒が良い!」
「真美は一人でも、充分やっていける実力があるって私は思うわ」
「一人より、二人の方が楽しいもん! 千早お姉ちゃんが、楽しむってことを忘れたって言うのなら、真美が思い出させてあげる!」
「ずっと昔すぎて、思い出せるようなものでもないわよ」
「だったらまた、覚え直せば良い!」
「なんでそこまで……」
「……千早お姉ちゃん、気付いてる? さっきから千早お姉ちゃん、凄く辛そうな顔してるんだよ? 話し方はなんでもないって風に話してるけど、今にも泣きそうな顔してるんだよ?」
「何を、言って……」
「泣きたいときにちゃんと泣かないと、笑えなくなっちゃうよ? 真美を頼ってよ、もっと頼って。千早お姉ちゃんにはたくさんたっくさん、その、甘えさせてもらっちゃってるし……」

 いつの間にか、真美が私の真横にまで移動してきた。そしてぎゅっと、抱き締められた。私よりもずっと小さな体に、まるで私の方が子どもみたいに、すっぽりおさまる。
 悲しくなんてない。辛くなんてない。そりゃ全然かと言われたら、ちょっとは辛いだろうけど。けれど、両親と喧嘩なんてもうずっと前からのことだ。あの子が事故で亡くなったのだって、幼い頃だ。あの子のために歌い続けるとは決めているけど、それでも辛いとか悲しいとかそういうことはもうある程度吹っ切れたと思っていた。
 そう、思っていたのだけど。
 なんでこうも真美に抱き締められると、鼻上あたりがつんとしてくるんだろう。目の前が歪んで見えてくるんだろう。
 子どもじゃないんだから、やめて。何を言っているの、私は辛くなんてないわよ。そんな言葉を発したくても、喉が震えて上手く言葉が出ない。

「わた、しは……わ、たし…………っ! ぅ、あ……」

 両親が離婚した。その知らせを聞いたときだって、別に泣けなかった。とうとう、やっとか、そんな気持ちしかなかったはず。
 でもそれはきっと、違った。泣かなかったんだ。泣いたら本当に、家族がばらばらになってしまったという事実を認めてしまうような気がしたから。

「泣いてもいいんだよん? 真美のこの、千早お姉ちゃんよりも豊かなお胸でね!」

 いつもなら怒ってやるところだけど、真美のそのおどけたような声に、安心感を覚えた。
 だからもう、堪えきれなかった。
 ただただ静かに漏れる声を、どうしても抑えられる気がしなかった。



◇◇◇



「千早お姉ちゃんさ、さっきの話って社長とかは」
「知ってるわ。あとはプロデューサー、音無さんも」

 真美に何故か、膝枕されている謎の状況。
 泣いたのなんて久し振りすぎたから頭が痛くなったので、割とありがたいけど。この状況だと、目線が直であってしまうので、泣いた直後には少し気恥ずかしさもある。

「ん? 他のみんなは?」
「別に話してないわ。隠すことでもないけど、自分から積極的に話す内容でもないし」
「んじゃあなんで、真美には話してくれたの?」
「ユニットの理由、はっきり言わないと納得してくれそうになかったし。いやでも、結局私は、真美に甘えてたのかもしれない。自分でもよく、わからないけれど」
「んっふっふ~そっかそっか」

 何故か嬉しそうにする真美に、私は疑問符を浮かべる。

「これからはもっと甘えてくれていいんだよ! ユニットとしてやっていくわけだし――」
「いや、ユニットは組まないけど」
「なんで!? この流れでなんで!?」

 驚く真美だけど、これはまた話が別だ。

「千早お姉ちゃん、そんなに真美のこと嫌い!?」
「いえ、信頼してるけど」
「おぉふ、千早お姉ちゃんはたまに直球ストレート豪速球でくるから、反則だよね……」
「よくわからないけど、話は最後まで聞きなさい。今は、組まないという意味よ」
「え? どーいうこと?」
「一度、自分の力で頂点に立ってから。弟に、あなたが好きだって言ってくれた歌はトップを獲ったんだよって、胸を張って伝えられるように、届けられるようになってから。もしその後、真美の気が変わっていなければ。そのときは改めて私の方から、ユニットをお願いさせてもらうわ」

 だからそれまで、ユニットは待っていてくれない? なんて、これもまた真美に甘えてしまっている。
 真美とのユニットは、魅力的なものだ。それでもやっぱり私は、器用じゃないから。一度決めた道は、やり遂げたい。途中で道を変えるなんて、そんなことはできないから。

「自分勝手で申し訳ないけど、それでも良ければ――」
「うん! なんか千早お姉ちゃんっぽい! いいよ、真美はそれで。そのかわり、約束だかんね! 絶対だよ!」

 私の我侭なのに、真美は笑顔でそう返してきた。
 あぁなんだろうな、これじゃどっちがお姉さんかわからない。

「えぇ、約束」

 思わず、頬が緩んだ。






 第6話『それはきっと遠くない未来』
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