あやみこラジオ~第9回放送~2016-07-17 Sun 10:29
「文、あんたさぁ……いくら我慢できないからって、放送直前ぎりぎりに白い粉はやめときなさいよ」 「冒頭からいきなり私のイメージダウンさせるようなこと、やめてくれませんかね!?」 「みここここーってな感じで、里に最も近い天狗を里から遠ざけてやろうと思ってるわ、パーソナリティーの博麗霊夢よ」 「だからその挨拶、私の台詞……あ、はい、射命丸文です。いや本当、人里に行きづらくなるんで、やめてくれませんかねイメージダウン」 オープニング曲の『恋風綺想』が流れる。 「あんたを他の人に会せなくないからやってんのよ、言わせないでよ恥ずかしい」 「えっ、霊夢さん……」 「文……」 胸にきゅんときた文に、霊夢はすかさず笑顔で―― 「き・も・ち・わ・る・い」 「酷っ!? あなたから振った流れですよね!?」 さらっとそう返した。 「ほら、早くお便りいきなさいよ」 「大体霊夢さんのせいですけどね、進行がぐだぐだなの……」 文はぐちぐち言いながらも、お便りボックスから一枚引く。 「まずはPNきももさんから。『最近頭痛が酷くて永遠亭に行ったところ、原因が虫歯でした。虫歯治療はどうしても苦手なのですが、お二人は最近食べた美味しいものはなんですか?』って、前振り何一つ関係ないっ!」 「手羽先かなぁ」 「わざと? もうわざとですよね?」 「あんたはやっぱり、あれ? 雑草?」 「よーし、私その喧嘩買いましたよー」 「え? 何? 飛び入りゲストを捕まえたから、もう次いってくれって?」 「はい? 今日ゲストなしの予定じゃ……。とりあえず、じゃあいったんCMでーす」 にとりからカンペを出されて、パーソナリティーの二人は頭に疑問符を浮かべたまま指示通りCMへ突入した。 ~少女CM中~ 「咲夜、まさかあんたが……」 紅魔館のメイドが、異変を起こす! 「とめてみなさい、霊夢。とめられるものならね」 主演、十六夜咲夜・博麗霊夢! 「くっ、数が多すぎる! 妖夢、気を付けうわぁあぁ!?」 「魔理沙!? ま、魔理沙ー!」 迫り来る十万の妖精メイドたち! 歴戦の強者たちが、敗れていく! 「あなたはこの物語を紡ぐ者として、最後まで生かしておいてあげますわ、阿求。」 「咲夜さん、あなたの目的は一体……?」 「簡単なこと、すべての人間妖怪そして神までも、常時ミニスカメイド服着用を義務付けるためですわ。もちろん、老若男女問わず」 「なん、て……おそろしいことを!」 強制的にメイド服へと着替えさせられる、幻想郷の住民たち! 全幻想郷が鼻で笑った名作! 「妹様、私、この戦いが終わったら……ボルダリング始めようって思うの」 「パチュリー、後ろ! ぱ、パチュリーぃぃぃぃぃ!」 映画『紅魔館のメイドが高らかに笑う日』 妖怪の山、人里にて今夏公開予定! ~少女CM終了~ 「さて、本日のゲストはたまたま通りかかった、古明地こいしさんです! どうぞー!」 さっきまでは文と霊夢の二人だけだったが、今は文の隣にちょこんとこいしが座っている。 本来、ゲストの予定はなかった。しかし、たまたま通りかかったこいしを、にとり含むスタッフ陣が「ユー、ゲスト参加しちゃいなYO!」と誘ったところ、快く首を縦に振りまくってくれたのだった。 「わーい、古明地こいしでーっす! よろしくー!」 「なんかあんたに会うの、久し振りな気がするわねぇ」 「ん~ふらついてるからね、私。博麗神社へ、頻繁に行くってわけでもないし」 「初期の放送時には、あなたのお姉さん、さとりさんも登場したことあるんですよ?」 「へーそうなんだ。あとで録音されてるの、貰っちゃおう」 「こいしさんって、普段は何されてるんです? ふらついているって話ですけど、何か目的がふぇぶんっ!?」 唐突に、文の頬を笑顔でひっぱたくこいし。 「何するんですか!?」 「いやなんか、遠回しに無職って言われた気がしたから」 「被害妄想ですよ、そればぼふぇ!? なんでまた叩きました!?」 「あ、ごめん、今のは無意識」 「無意識!? そして霊夢さんは、何してるんですか!」 ラジオのシステム上音声しか届いていないが、霊夢が机の下に潜り込んでいた。 いかにも、今から何かしますといった不穏な空気に、文は思わず蹴りを入れる。その蹴りが見事に霊夢の顎にクリティカルヒットし、さらにはそのまま机に頭をぶつける始末となった。 珍妙な声を上げて、うずくまる霊夢。 「にゅおぉぉぉぉぉぉ……」 「霊夢さんが謎の生物になった」 「へーこれが博麗の巫女の鳴き声なんだ」 「くぅ、私はただ文の靴下脱がせて、くすぐってやろうと無意識的行動をしただけなのに」 「そこまで考えて行動している時点で、無意識じゃないですから。こいしさんに便乗しようとしないでください。っと、今日はこいしさんに、そのあたりをお伺いしたいと思います」 「ん? 私に? どういうこと?」 「突発ゲストなので、こいしさんに関してのお便りはないんですが。今回は、こいしさんのその能力、無意識を操るというのはどういうことなのかについて、いろいろと聞いていけたらなと」 痛みが引いたのか、霊夢は座席に戻った。 こいしは顎に人差し指をあて、うぅんと声を漏らす。 「口で説明するの、難しいんだよねー。私自身、別に意識して考えたことない能力だし」 「もうそっから無意識ですか」 「ま、わかりやすく身近な例で言うなら、まばたきって別に意識してすることじゃないでしょ?」 「まぁそうね、いちいちまばたきしようと思ってしたりはしないし」 「つまり私の能力を使えば、まばたきを操れる。まばたきしないように操って、相手の目を乾燥させて倒すこともできるよ?」 「なんか、地味な嫌がらせのような……」 「例えば、下着を穿くのって当たり前すぎて特別意識しないでしょ? つまり私は、どこぞの鴉天狗さんをノーパンにすることができる」 「ちょっとこっち見ないでください」 「え? さっき私、机の下潜ったとき、文もうぱんつ穿いてなかったじゃない」 「ばかなの!? ホント、ラジオで確認できない嘘言うのやめてくれません!?」 「おぉっ、文が一瞬だけ仕事モード抜けた」 机を勢いよく叩き、立ち上がる文に謎の拍手を送る霊夢とこいし。 文はわざと大きなため息を零して見せて、ゆっくりと座り直した。 「はぁ、なんであなたたち、打ち合わせしてないのにそんな息合ってるんですか……」 「元から霊夢とは、結構波長が合うよ」 「そうなのよね、こいしとは割と一緒に居ても不快感ないのよね」 「あぁあれじゃないですか、二人とも何も考えてないからじゃないですかね」 「は?」 「は?」 「怖っ!? 映像でお届けしたい、このビジュアル! 霊夢さんもこいしさんも、一応、一応ですけど女性なんですから! その子どもの息の根を止められるレベルの顔は、やめなさい!」 ラジオでよかった、と河童および哨戒天狗スタッフ陣は心底思った。 「話が花道にそれちゃったけど……えーっと、なんだっけ? 愛とは何かの話だっけ?」 「横道ですし、そんな深そうで堅苦しそうな話はしてません。無意識を操る力について、ですよ」 「あ、ごめん文。私ちょっとビール取ってきていい?」 「自由か! 本番中に、お酒呑もうとしない!」 「そうだねぇ、まぁ本当のこと言うと、私の場合は人の認識から外れるって感じかな。存在認識をさせないというか、記憶からも消えるというか。私の知名度が上がっちゃったりすると、その効果も薄れたりするから扱いが難しかったりするけどねっ」 「お、おぉ……急に真面目ですね」 「だって河童の子が、カンペでそろそろ終わってーって」 「あ、あれ? もうですか?」 「飛び入りだしねー。でも楽しかったよー! 何人の人の記憶に残るか、わからないけど」 「むしろこのラジオであんたの認知度上がって、みんな覚えていてくれるんじゃないの。あとたまにはあんたも、宴会に顔出しなさいよ。お手製のつまみくらいなら、ご馳走するわ」 「えへへ、ありがとー霊夢」 「れ、霊夢さんが……珍しい」 「こいしとぼーっとしながら過ごす時間、結構面白いわよ? 文も試してみれば?」 「うぅん、検討しておきます」 「私はお断りしておきまーす」 「私こいしさんに嫌われてます!?」 「嘘だから、本気でへこまなくていいよ? というわけで、古明地こいしでした。ありがとーございました!」 「お疲れ様」 「ありがとうございました~」 ~エンディング~ 「はーい、エンディングですよ」 エンディング曲が流れる。終わりが近い合図だ。 「なんか今日は、必要以上に私が疲れる放送だった気がします」 「いいじゃない、あんたはその分、私の二十倍ギャラもらってるんだから。あ、やっば、これ言っちゃダメな感じ?」 「……もうツッコミ気力も体力もないですよ」 疲労しきった文が、机の上に顎を乗せてふぇふーと息を吐く。 それを見た霊夢は、ふむと小さくぼやいた。 「そういえば私、昨日食材買い過ぎてどうしたものか悩んでいるのよ」 「はい?」 「文、あんた今日、うちに来て食べてきなさい」 「……もしかして、労ってくれてます?」 「はいはーい、そんなわけでお相手は私、博麗霊夢と」 「ねぇ照れてます? こっち向かないのは、そういうことですか?」 「うっさい早く名前言え!」 「今ここにカメラを持ち込んでおけば良かったと非常に後悔している、射命丸文でしたー!」 「……あややややー」 にやつく文の膝を、机の下から蹴ってやった。 ラジオが終わる直前、文の痛みとにやけが混じった気持ち悪い声が流れて、幕を閉じた。 |
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