絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

フォーチュン・フォーチュン後編

投票が終わるまでに書きあげたかったとはなんだったのか……。お嬢静香、子分未来、風来坊志保、悪徳組長エミリー、用心棒まつり、特別出演他。そんな勢いやら何やらのノリで、みらしずです。
「志保には、お嬢の相手をしてあげて欲しい」
「命を拾ってもらった手前、断る気はさらさらないけど。一応、理由を訊いても?」
「今は組を継いだばかりで、いろいろストレスやら悩みやらもあると思うんだ。けどそれって、他のみんなには、組のみんなには中々言えないことだと思う。だからこそ、無関係である志保なら、お嬢も少しは気が楽かなって。年齢的にも、ね」
「年齢でいったら、未来だって変わらないじゃない。そこまで気にかけるのなら、未来が傍に居てあげた方が」
「……先代にはそう頼まれたし、私自身できることならそうしたいけど」

 なんて言えばいいのかな、なんて視線を泳がせて、やがて諦めのような寂しさを含んだような、そんな顔に落ち着く。

「私は静香ちゃんを、笑顔にできないから」
「静香ちゃん?」
「え? ぁ、ちが、お嬢! お嬢ね!」
「私には何がなんなのか、よくわからないのだけど。未来とここのお嬢様は、どういう関係なの? 何があったの?」

 慌てて言い直す未来に、追撃するかのように訊ねる。
 出会って間もない、しかも言ってしまえば部外者である自分が訊いていいものか悩んだものの、志保の性格的にもやもやしたことはハッキリさせておきたかった。それに言いたくないと言われれば、それですぐに追及はやめるつもりでもあった。
 だが、未来はさらりと「幼馴染、って言えばいいのかなぁ」と返した。

「幼い頃から、お嬢と私はずっと一緒だったんだ。私は子分として、これからお嬢を護っていくんだって言われてたんだけど、正直幼い私にはよくわからなかった。それでもお嬢と一緒に過ごす時間は、幸せだったの。ずっとこのまま一緒に居れたらいいなーって、漠然とそんなことを思ってたよ」
「思ってた、って過去形ですか」
「うん、一度組を襲撃された大事件があってね。そのとき私は、お嬢を護ることができなかった。いや結果的にはお嬢は無事だったんだけど、私は戦場に向かったものの、すぐさま大人に強制的に避難させられた。今でも覚えてるよ、怯えたお嬢の姿を」

 ただ一緒に居られたらいい、なんて甘い考えではいけなかった。もしあのとき自分に力があったのなら、少しは大切な人を安心させられただろう。子どもなのだから仕方ない、と片付けることはできなかった。それくらい、未来にとっては静香の存在は大きいものだった。
 だからこそ、その事件以降から未来は鍛錬を怠っていない。飽きっぽい部分や集中力に欠ける性格ではあるものの、それでも静香を護るための努力は続けている。

「それ以降、私はお嬢って呼ぶようにしたり、まずは心構えから変えたよ。緩い姿勢を、引き締めるためにも。でもね、あの事件以降、お嬢が笑っている姿を私は見てないんだ。あのときの恐怖が、きっと今も根付いているんだと思う。私が、護れなかったから……」
「それは少し飛躍しすぎじゃない?」
「確かに実際どうなのか、私は馬鹿だからわからないけど。それでもお嬢が笑わなくなったのは事実だから、だから……お願い志保」
「……やるだけやってみるけど」

 そんなことを言われたら、頷く以外にない。
 志保は正直、力になれるとは到底思えなかったが、それでも少しでも未来に恩を返せるようにしたいと思った。





「とはいったものの、どうしたものかしら」

 雇われてから、既に三日が経っている。
 志保は現状、静香に対して何もできずにいた。もちろん、何度も話す機会は接することはあっても、あたりさわりのない会話で距離が縮まる気配がない。
 それもそのはずで、志保は元から他人と関わることが苦手である。そもそも他人と上手くコミュニケーションが取れるようだったら、行き倒れなんかになっていないだろう。未来とすぐに仲良くなれたのは、未来の人柄のおかげだろう。
 静香も静香で、唐突に現れて傍にいる志保に戸惑いを感じている。
 何もできないまま、時間だけが過ぎていく。その事実が、静香の部屋へと向かう志保の足を重くする。

「お? 志保、どうした? 朝から暗い顔して」
「あ……ジュリアさん、おはようございます」

 ぺこりと会釈。
 立ち止まり、ジュリアの問いになんて返そうか少しだけ悩む。なんでもない大丈夫と返すことは簡単だが、何も進んでいない現状、相談をするのもありだと考える。未来から、ジュリアは信頼できる人物だということも説明されていたのもあった。

「その、なんていうか……」
「シズのことか? 志保が未来に頼まれている内容は、未来から聞いているよ」

 志保が言うよりも先に、ジュリアの方から切り出された。
 一瞬詰まったものの、それならばといっそ全て吐き出して相談をしてやろうと切り替える。
 どう接すればいいのかわらかないこと。お互いに距離が詰められていないこと。その他細かいこと諸々。志保の話に、ジュリアは真剣に耳を傾ける。
 志保が全てを話し終えたとき、ジュリアはふむと言葉を漏らした。

「細かいこと、考えなくていいんじゃないか?」
「え?」
「シズは幼い頃から、ずっとこの環境だ。周囲の下手な嘘や気遣いは、すぐに見抜く。だからむしろ、直球ストレートに接した方が良いと思う」
「ストレートに……ですか」
「ああ、それにその方が志保も楽だろ? 志保のタイプ的にも、ひたすら気遣いするのなんて苦手だろう」
「それはそうですけど」
「ま、試してみる価値はあるから、やってみればいいさ。少なくとも、停滞している現状よりは良いと思う」
「わかりました、ありがとうございます」

 誰かに相談をできたということからか、幾分か足が軽くなった。
 志保は頭を下げた後、改めて静香の元へと向かった。すれ違いざま、ジュリアが「シズのこと、よろしく頼む」と呟いた。





◆◆◆





「未来ちゃん、頼まれていた情報、入手したのですが……」
「わざわざありがとう、ありさちゃん」

 未来の部屋、座布団に正座をして小さく唸っているのは亜利沙だ。魅利音組ではないが、裏の情報屋であり、何度も魅利音組が世話になっている情報屋である。
 つまり亜利沙がこの場に居るのは、情報を持ってきたわけで。
 それは未来が、エミリー組について依頼をしていたからである。魅利音組がごたついている今、外部の人間である亜利沙に調査を頼んだのだ。
 いつもなら物凄いテンションの高さで、依頼した情報以上の情報量を話し始めるのが亜利沙だ。
 だが、珍しく言い淀んでいる様子の亜利沙に、未来は首を傾げる。
 やがて意を決したかのように、口を開く。

「未来ちゃんの予想通り、エミリー組は近いうちに魅利音組を襲撃しようとしています」
「やっぱり……お嬢が継いだこのタイミング、狙うには絶好の機会だもんね」
「ですが、エミリー組に想定外の自体が起きました。少人数のエミリー組が、今やエミリーと用心棒のたった二人だけになったそうです」
「二人!? な、何それ、壊滅したの? というか、もはや組として成り立っていないんじゃ?」

 そのどちらも違います、と亜利沙は首を横に振り否定する。
組長のエミリー以外には、部下ですらない用心棒という存在一人。一体何ができるのか、そもそも何をしたいのかがまったくもって理解不能だ。

「エミリーの部下たちは、みんなその用心棒に潰されたらしいです。用心棒の名は、徳川まつり」
「っ、徳川まつり!? 本当に存在する人物だったんだ……」

 裏の世界では、有名な噂だ。
 どの組にも所属はしないものの、用心棒として働いて仕事が終えればふらりと消える。本人を用心棒として雇うときの条件に、誰にも自らの情報を明かさないことが条件になっていて、その条件を破ればどうなるかは仕事ぶりから推測が可能。ゆえに名前とその条件くらいしかハッキリしない、有名な噂であった。
 少数とはいえ曲者揃いのエミリー組の部下を、全て消したという事実。それは徳川まつりという存在が、どれほどの化け物かというのを想像させるものだった。

「重要なのは、何故徳川まつりがそんなことをしたのか、なんです」
「エミリー組を潰して欲しいって、誰かに依頼されたんじゃ?」
「徳川まつりはあくまで用心棒であって、暗殺者とか忠実な部下とかでもないです。それに、エミリーの傍で用心棒をやっている現状、謎すぎます。亜利沙でも、そこまでは掴めなかったです、ごめんなさい……」
「ううん、ありさちゃんはよくやってくれたよ。相手が本当に徳川まつりなら、むしろそれ以上は危険だろうし」
「……ちなみにエミリー組は、まだ魅利音組を狙っているかもしれないです。部下を失ったとはいえ、その部下全員分以上の力を持つ用心棒を得ているわけですから」
「でもそれは、さっきありさちゃんが言ってた、暗殺者でも部下でもないって言葉に矛盾しない?」
「エミリーの情報がほとんどなさ過ぎて、エミリーの考えが読めないので……あくまで可能性のお話です」
「うぅん……私も姿すら見たことないからなー」

 腕を組み、胡坐をかいて、うんうん唸り始める未来。
 しばらくして、仕方ないかとぼやく。

「私が直接行こう」
「……えぇ!? エミリー組にですか!? 一人で!?」
「うん、まぁ別に殴り込みとかじゃないよ? 話し合いできれば、それで。そもそもウチに害を与える気がなければ、別にいいし」
「もし害を与える気だった場合は?」
「そのときは私の役割を、果たすだけだよ」
「せ、せめて何人か連れて行った方が……」
「相手が二人だけなのに、こっちが何人も引き連れて行ったらそれだけで争いになっちゃうよ。大丈夫、無理はしないよ」

 あははーと笑う未来だが、いくらなんでも無謀すぎはしないかと心配になる。だが、あくまでも情報屋としての立場の亜利沙には、無理に引き止めることはできない。それに未来という人物が、どういうものかを既に良く知っている。一度言い出したら、意外に頑固ということも。
 立ち上がり、準備を始める未来。

「って、今からですか?」
「うん、もし襲撃の意思があるなら、もたもたもしてられないし。話し合いするにしても、早い方がいいし」
「……亜利沙は一応、ジュリアさんにも情報を伝えておきますので」
「ありがとう、ありさちゃん」





◇◇◇





「悩みとかあるなら、相談に乗れるかはともかく話くらいは聞くわ」
「え、ちょ、突然何?」
「別に。ジュリアさんに、遠回しに接するよりストレートにいけって言われたから」
「あぁうん、それ言っちゃうんだ? いやまぁ、いいけど……別にないわよ。わざわざ心配してくれて、ありがとう。ごめんなさい」

 明らかに貼り付けただけの笑みで、そう返す静香。
 志保はその態度に、いらっとする。ここ三日で静香と接していて、それは常に感じていたことだった。どこか遠慮がちというか、うじうじしている部分がある。それはこちらも遠慮がちに距離を取って接しているから、仕方ないことと思っていた。
 だが、思い切っていっそ失礼なくらいストレートな態度に変えたというのに、それでも子の態度はいかがなものか。志保からしたら、なんだその態度は私は組長だぞごらぁとキレられる方が、まだ好感触だ。
 静香はもう特に話すことはないといったように、俯いて口を閉じる。
 どうすればこいつの心を、本性を引き出すことができるのだろうか。志保は考える。多少強引でも良い。何か、ないか。そこで思いついたのは、未来の存在だった。静香が未来をどう思っているか志保にはわからないが、未来は静香を大切に思っていることを志保は知っている。
 何かしら、反応を得られるのではないか。

「未来があなたのことを、心配していたわよ」
「未来が!?」
「っ!?」

 突然志保の両肩を掴み、詰め寄るように顔を近付ける。あまりにも予想以上の反応に、志保は逆に少し引いた。
 必死すぎるほど、余裕のないように思える静香の表情。
 志保からすれば、謎であった。未来の話を聞いた感じでは、未来自身はもはや静香に嫌われていてもおかしくないし嫌っているだろうみたいな態度だったが、これはどう見ても嫌っている者の態度ではない。

「あなた、未来のこと、どう思ってるの?」
「どうって……未来は私のこと嫌いだろうけど、私は未来のことは大切な存在だって思ってる」
「未来が嫌っている、ってなんでよ?」
「それは、その……昔いろいろあったのよ」

 両肩に置いていた手を離し、顔を逸らす。
 なんだこれは。志保は状況を整理する。未来は静香に嫌われているように思っている節があるが、静香は未来に嫌われていると断言している。お互いにお互いが、嫌っていると思いこんでいる。

「いろいろって、何よ」
「志保には関係ないでしょう」
「……幼い頃に襲撃を受けたこと?」
「っ、なんで志保が――」
「未来が話していたのよ。その事件を境に、いろいろ変わったってね」

 なんとなく、それじゃないかと思ったことを口にした。志保の予想は的中だったようで、静香は明らかに動揺をしている。
 中々良い反応をするようになった、なんて思いながらこの機会を志保が逃すわけもない。さらに続ける。

「あなた、笑わなくなったそうじゃない」
「それ、は……」
「命に危険が迫る恐怖、今でも引き摺っているんでしょう? 確かに恐ろしいことだと思うけど、もうずっと昔のことなのなら――」
「違うわよ、そんなことじゃない。そんなくだらない理由じゃないわ」
「え?」

 志保の言葉を強く否定し、けれども目は弱々しい。

「私はね、あのとき未来に恨まれても仕方のないことをしてしまったのよ。その結果、未来の態度はよそよそしいものになってしまった」
「恨んでいる様子には思えなかったけど……何をしたの?」
「未来が死にに行くのを、止められなかった。ただ黙って、震えて、怯えて、私を護ると言って戦場へ向かう未来に、何も言えなかった」
「……は? あなたを護るって言って、向かっていったのなら、言い方悪いけどそれは未来が勝手にしたことでしょう? なんであなたが、それで恨まれるのよ」
「私には、未来だって怯えていたってことをわかっていたのよ? 幼いながらも、あそこで向かっていけば力のない子どもなんて、死ににいくようなものなのはわかっていた。結果的に、未来は助かったけど。私は未来を、見殺しにしかけたのよ?」

 恨まれて当然だわ、なんて寂しげに零す静香に、志保は頭が痛くなってきた。
 つまりは未来も静香も、襲撃事件を境にすれ違いが続いている。ふたを開ければ、お互いの勘違いだ。互いに相手に嫌われている、と思っている。
 なんて馬鹿らしいと思いつつも、相手が大事すぎると、距離が近すぎると逆にわからなくなるのか。不思議なものだ。志保は思わず、ため息をついてしまう。

「あのね、未来はそんなこと思ってないわよ」
「嘘よ」
「嘘じゃない。未来に直接、恨んでるなんて言われたわけ?」
「言われてないけど、未来は優しいから……」
「まぁそれを言ったら、未来の方も勝手に勘違いしてる感じだからお互い様だけど」
「何? 志保は未来に、何を言われたの?」
「質問で返すようで悪いけど、あなたが笑わなくなったのは未来の態度ってことで間違いないわけ?」
「……そう、だけど」

 一体何が勘違いなのかといった様子の静香に、ここまでくると呆れてくる。
 志保からすればタイプが全く違う静香と未来に思えたが、もしかしたら似た者同士なのかもしれないと考えを改めた。
 未来が護れなかったことを悔やみ、態度を変えた。その態度に、静香は悲しんだ。そして笑わなくなった静香に、未来は原因が護れなかったからだと勘違いした。
 結局、コミュニケーション不足が原因だ。お互いがお互いに思い込みをし、ろくに話し合ったりもしなかったから、ここまでずるずるとすれ違いが続いているのだろう。
 志保は、全てを話した。未来がどういう思いで、今まで行動してきたか。静香のことを、どう思っているか。
 しかし、全てを話し終えても、静香の表情は暗いまま。

「そんな、私、勝手に勘違いして……」
「相手を大切に思っていても、それを伝えなきゃ意味はないわ。ま、気付けて良かったじゃない」
「でも今更、なんて言えば……」
「知らないわよ、私はあなたたちじゃないし。でもそうね、今更何かを言うなんて、とか思って結局先延ばしにするなら、お気楽な頭としか言えないわ」
「なっ!?」
「いつでも言葉を伝えられるなんて思わないことよ、その人が今日居たとしても明日居るとは限らないんだから。当たり前の日常を、当たり前と思わないことね。これは私の経験からの、アドバイス」
「っ!?」

 父親を失った志保だからこそ、言える言葉。もちろん静香にはそのことを言っていないものの、志保の鋭くもどこか寂しげな瞳には、確かな説得力があった。
 未来と静香が居る世界は、それこそいつ何があってもおかしくない世界である。それこそ襲撃事件のときのように、いつ襲われるかわからない。
 そう思うと、静香は自然と体が動いていた。立ち上がり、その目は力強い光が宿っている。単純なやつ、と志保は思う。けれど、今までのうじうじした態度よりは、ずっと好ましくも思えた。

「未来のところへ行ってくる、ありがとう志保」
「何を言うかは決めたの?」
「うん、よく考えたら言いたいことなんて山ほどあるわ。今まで言えなかった分、たくさん」
「そう、行ってらっしゃい」
「ええ――って、きゃっ!? ジュリアさん?」

 障子に手をかけようとした瞬間、障子が開いた。ジュリアが勢いよく、開いたのだ。
 普段のジュリアらしからぬ、焦り気味の様子である。

「シズ、ちょいと不味いことになった」
「ど、どうしたんですかジュリアさん?」
「未来が一人でエミリー組に向かった」
「……はい!?」





◆◆◆





「魅利音組の春日未来ちゃんが、一体何の用なのです?」
「私のことを知っているんですか?」
「この町に居て、知らない方がおかしいのです」

 町から少しだけ外れたところにある、小さな屋敷。
 その前で、亀甲型の盾を片手に立っているのは徳川まつりだ。やや派手な着物を身に纏い、緑色の髪は嫌でも目立つ。
 未来は奇襲をかけるわけでもなく歩み寄ると、まつりの方から声をかけられた。
 まるで世間話をするかのように、緩い空気で話しかけるまつり。

「まつりの名前は徳川まつりなのです」
「いや、知ってます」
「ほ? もしや、まつりのファンですか?」
「そ、そういうわけじゃないですけど……えっと、訊きたいことがあって来たというか、話し合いたいことがあって来たというか」
「ちょうどよかったのです、まつりも魅利音組にお願いがあったので」
「お願い? なんです――」

 次の瞬間、まつりが着物の中から小刀を取り出し、目の前の未来を突いた。

「あっぶな!?」

 だが、体を真横に反らし、間一髪でそれを避ける。そしてその勢いのまま、体を捻り回し蹴りを放つ。まつりは盾で防ぐが、反動を活かして未来が距離を取った。手を伸ばせば余裕で届く程度の距離から、数歩先まで広がる。
 体勢を正常に戻し、まつりの方へと顔を向ける。まつりは追撃をしてくるわけでもなく、最初の位置から動かない。とぼけたような顔で、ほ? と一言。
 未来だって拳銃の一丁や短刀の一本くらいは、持ってきている。だが、それはまだ出さない。出してしまえば、開戦は避けられないからだ。
 もう可能性が薄いとはいえ、争わないで済むならそれにまだ賭けたい思いがあった。

「いきなり酷いですね、まつりさん。で? お願いって一体なんですか?」
「魅利音組、消えてもらいたいのです」
「笑えない冗談ですね」
「冗談じゃないのですよ? なんなら、今から魅利音組に乗り込んでも良いのです」
「エミリー組は、まつりさんしかいないって聞きましたけど?」
「よくご存知で。エミリーちゃんに悪影響を与える子ばかりだったので、消えてもらったのです。それにまつり一人居れば、それで充分なのです」
「っ!?」

 何を馬鹿げたことを言っているんだといった感じではあるが、事実まつりは一人でエミリー組の部下を排除した。
 傲慢でも自信過剰でもなく、確かな事実を言っている。それが未来には、よくわかった。魅利音組がまつり一人に潰されるわけがないと思いながらも、それでもぞくりと、背筋が寒くなる。もうまつりがやる気に溢れていることは、空気で伝わってきた。

「魅利音組がエミリーちゃんを狙っているのは、わかっています。まつりはエミリーちゃんに、恩があるのです。だから、春日未来ちゃん、ここでリタイアしてもらうのです。ね?」
「え? むしろそっちがお嬢を狙って――って、わわっ!?」

 まつりは短刀を振りかざし、襲い掛かる。だが大きく振りかぶるその姿は、片手に盾があると言えども、未来からすれば隙だらけに見えた。
 話し合い以前に、相手に話を聞く気がない。そうなってしまえば、もう仕方ない。ただ無抵抗でいるわけにも、いかない。胸元から仕込んでおいた短刀を取り出し、身を屈め、迎え撃つ。攻撃範囲に踏み込んだ瞬間、カウンターをする気満々だった。が、未来へ後一歩というところで、バックステップ。振りかざしていた腕を下ろし、盾を前に突き出してきた。思わず短刀で、それを受け止めようとする。

「――っ!?」

 しかし、亀甲製の盾には刃が滑り、そのまま体勢を崩してしまう。
 その隙を逃すような、まつりではない。右手に持っていた短刀を、改めて未来へと向ける。まずい、と感じた未来は足先に力を込めて、体を無理矢理捻って避けようとするものの、遅い。

「が、ぁっ!」

 左肩に突き刺さる。だが、痛みで怯んでいる暇はない。既にまつりは短刀を引き抜き、再度突き刺しにかかっている。
 未来は咄嗟に、左肩から溢れた血を右手に塗った。そして右手を強く振り、その血をまつりの顔に向かって飛ばす。狙うは目だ。一瞬の判断にしては、悪くなかった。けれどもまつりは冷静に、盾を顔の前にやることでそれを防ぐ。

「ほっ!?」

 次の瞬間、まつりの右太股に鋭い痛みが走った。未来が持っていた短刀を使い、切り裂いたのだ。まつりにとっては、ご丁寧に盾で防いだことによって視界が遮られたのがあだになった。

「ちょっぴり油断していたのです……よっ!」
「っあぐ!?」

 屈んだままの未来に、切り裂かれた右の足で鋭い蹴りを放った。まるで傷など負っていないかのように、強い蹴り。それは未来の左肩、出血し続けている部分へのピンポイントな追撃だった。痛みと出血に、思わず反射的に左肩を庇うように一歩引いてしまう。
 その選択が間違いだということに気付いたのは、一瞬だった。けれども、その一瞬で、既にまつりは次の行動を起こしている。狙われたのは、未来の右手。気付いたときには、もう遅い。高速で二度三度と手の甲を切り付けられ、血が噴き出る。そして未来は痛みに耐えかねて、握っていた短刀を落としてしまう。まつりは落ちた短刀を蹴り飛ばし、未来から武器を遠ざけた。
 体が熱い。傷口からの出血は止まらない。武器も一つ失った。

「あぁぁぁぁぁっ!」

 それでも未来は、喉が焼けるかのように叫び、まつりの左手に噛み付いた。顎に全力を込めて、喰いちぎる勢いで。
 刃物で切られるよりも鈍く重い痛みに、まつりは初めて顔をしかめた。

「っ、離すのです!」
「くぁっ……!」

 盾で未来の頭部を殴ると、頭を揺らされた未来はそのまま地面へとキスをするはめになる。
 その衝撃で、もう一つの武器である拳銃が服から滑り落ちた。もちろんその武器を手に取らせるまつりではなく、短刀同様に蹴り飛ばして遠くへ。
 そしてまつりは未来の腹部に馬乗りになり、冷めた目つきで短刀を喉元に突きつける。あとは力を込めて押すだけで、未来の喉を貫くことができる。

「まつりを舐めているんです? それとも凄く舐めているんです?」
「……意味がわからないです」
「拳銃を使わなかったことも含めてですが、未来ちゃんの戦闘から殺意を感じられないです」
「まつりさんだって、手を抜いてません? とても一人でエミリー組を壊滅させたとは、思えないです」
「未来ちゃんからあまりにも殺意を感じられなかったので、それに合わせたまで、です。でも、あまり遊んでばかりもいられないのも事実。今はあなたを、本気で殺ろうと思ってるのです」

 僅かに力を込めると、未来の喉にちくりとした痛み。ぷくりと傷口から、血が少し。まつりはわざと針で刺した程度に抑えているが、もうこれでいつでも未来を殺せる事実を突きつけた。
 今まさに、未来の命はまつり次第なのである。
 それだと言うのに、未来はまったく、これっぽっちも慌てる様子を見せない。それどころか、少し諦めた目をしている始末だ。

「死ぬのが怖くないのですか?」
「怖くないよ。大切な人のために、少しでも役立てるなら」
「なるほど、それはそれは攻撃に脅威を感じられないわけですね。それにまつりに勝てる可能性も、まったくない。まつりは死ぬことが怖いです。だから、生きることに全力を尽くします。最初から死ぬことを受け入れている者と、生きるために全力な者では、初めから勝ち負けは決まっているようなものなのです。ね?」

 まつりは笑顔で、けれどもどこか冷めたような口調だ。

「それに大切な人のために、と言うのならばなおさら生き延びなければ。自分が死んだら、だれがその人を護るんです? まつりなら、エミリーちゃんのために何がなんでも生きます。エミリーちゃんは、まつりが護ります。他の誰にも、そこは譲りません。未来ちゃんにとっての大切な人は、そんな簡単に誰かに譲れるような人なんです?」
「っ!? まつりさんは……なんで、そんなにエミリーを?」
「ふむ、話を逸らすにしても下手すぎますが……まぁまつりはサービス精神旺盛なので、乗ってあげるのです。そうですね、まつりの妹を昔、助けてくれたから。それだけなのです」
「え? そ、それだけ?」
「さて、サービスタイムもおしまいということで」
「ちょ、はや!?」
「むぅ……わがままさんですね。では最後のサービスですよ? 何か、言い残したことはありますか?」

 その言葉に、一瞬だけ未来の体が強張る。自らの最期を悟ったからだ。それにしても、本当にサービス精神が旺盛なのかもしれない。ここまで付き合ってくれる敵も、そうそういないもんだろう。なんて、未来は状況に似合わず思わず笑う。
 そして、考える。言い残したこと。まつりに言われた、今のこと。いつ死んでも、構わないと思っていた。それで静香の役に少しでも立てるのなら、それでもいいと思っていた。
けれど、さっきまつりに言われたことに、心が揺れる。誰にも静香を護る立場は、譲りたくない。他の誰にも、こればっかりは、譲れない。静香のことを考えた結論でもなんでもない、それはただの未来のエゴである。わかっている、そんなことは。それでも、譲れないものだったのだ。私は馬鹿だから、今更気付いたんだ。未来はやっと、気付くことができた。
 ただ少しばかり、遅かった。

「お嬢、静香ちゃんにごめんね……かな」
「わかりまし――っ!」

 未来の言葉に、まつりがとどめを刺そうとしたそのとき、顔面に強い衝撃。想定していなかった謎の衝撃に、まつりはそのまま未来の上から弾き飛ばされるように吹っ飛んだ。
 一体何が起こったのかわからず、ぽかんとして起き上がらない未来。

「謝るくらいなら、最後の最後まで見苦しくてもいいから、足掻きなさい!」
「志保!?」

 未来の真横に、怒鳴る志保の姿。未来からすれば相変わらず何がなんだかわからないが、志保に助けられたということだけはわかった。

「勝手に行動して勝手に消えられるって、残された人からしたらたまったもんじゃないのよ。ほら、早く立ちなさい」
「……うん、ありがとう」
「さすがのまつりも、いきなりドロップキックされるとは思ってもいなかったのですよ」

 未来が起き上がろうとするも、既に立ち上がり駆け寄るまつり。短剣を未来へと向けて、投げ飛ばす。
 しかし、志保がすぐさま未来を引き寄せて、短剣はそのまま地面に刺さった。
 もちろんそれはまつりも想定済みで、その間に距離をあっという間に詰めていた。お返しと言わんばかりに、志保の腹部に蹴りを入れる。一瞬呼吸が止まるほどの、痛みと衝撃。ただの蹴り一発なのに、志保はそのまま膝をついてしまいそうになる。さらに追撃を入れようとする。

「それ以上、動くな」

 数メートルの距離はあるものの、志保に続いて今度はジュリア。拳銃を構え、その銃口は既にまつりへと照準が合っている。
 まつりはぴたりと攻撃をやめ、なるほどと呟いた。

「さて、こっちは三人に対して、あんたは一人。まだやるかい?」
「まつりは元々、魅利音組全員を相手にするつもりだったのです。三人だとしても、さほど脅威はないのですよ」
「動いたら撃つと言っても?」
「撃つと同時に、志保ちゃんと言いましたか? 志保ちゃんと未来ちゃんのどちらかは、確実に殺ります。もしそこのあなたがまつりを一撃で殺せなかった場合、まつりはそのまま動かなくなった志保ちゃんか未来ちゃんを盾にして、あなたを殺ります」
「……あぁそうかい」

 まつりの元から持っている盾も、まだ健在なのですよ。と見せつけるように、盾を掲げる。
 今のまつりは、刃物を持っているわけでも拳銃を持っているわけでもない。盾のみだ。一瞬で、未来と志保を相手にどちらかを殺せるなんて、不可能に近いと思える。
 それでもその場に居るジュリアたちからしたら、まつりの雰囲気は冗談ではないと感じ取れた。こいつなら本当にやりかねない、そういう空気がまつりにはあった。
 圧倒的有利な状況のはずなのに、下手に動くことができない。まつり自身も、動かない。
 ぴんと張り詰めた空気の中で、この状況を破ったのは――
「未来!」

 遅れてやってきた、静香だった。走ってきたせいか、肩が激しく上下に揺らしていた。呼吸は乱れ、額に流れる汗のせいで前髪がぺったりと貼りついている。

「お嬢!?」
「シズ、お前は待ってろって言っただろ!」
「……あなたが魅利音組のトップ、最上静香なのです? 本当に? トップがのこのこと現れるなんて、ありえないのですよ?」

 静香の登場に、未来もジュリアも、まつりでさえも驚いている。志保はなんとなく予想もしていたのか、驚いてはいないが。
 だが、静香の登場で明らかに空気が激変した。
 このチャンスを、現状唯一この場で冷静な志保は逃さない。

「そりゃそうでしょうよ、そもそも魅利音組はあなたたちエミリー組に、敵意はないのだから」
「どういうことなのです?」
「あくまで魅利音組を襲おうとか思っているようなら、戦うけど。未来はその意志があるのかどうかを確認するために、こうしてエミリー組に話し合いに来たのよ。まぁ、未来が殺されかけていたのを見たところ、話し合いは無駄に終わったのかもしれないけど」
「……まつりは未来ちゃんからそんな話、聞かされてないのですよ? てっきりエミリーちゃんを、始末しに来たのかと」
「まつりさんが話を聞かなかったんじゃないですかぁ!」
「ほ?」
「え? 何? そもそも話し合いすらしてないで、殺し合いしてたの? 馬鹿二人なの?」
「うぐっ……」
「えっと、まつりは……」

 志保からすれば、今この状況で再度話し合いの場を設けられたら良いくらいの考えだった。だが、そもそもそういう話を一切していないことが発覚し、物凄く見下したような、冷めた目でまつりと未来を交互に見る。
 そんな中、空気を読まずに静香は未来へと駆け寄る。

「み、未来! 血! 肩から血が出てる!」
「え? あ、はい。少し傷を負って」
「少しじゃないわよ! 死んだらどうするのよ、ばかぁ!」
「ちょ、お嬢? まだまつりさんと話が――」
「あーこっちはこっちで話進めておくから、未来はごゆっくり」
「シズ、未来の応急処置、頼んでいいか? あたしも志保と一緒に、まつりと話進めっから」
「わかりました」
「ジュリアさん!? 志保!?」

 すっかり戦うような空気ではなくなってしまった中、まつりも視線で志保により詳しい説明を求める。拳銃をしまい、ジュリアも志保とまつりの傍へ。
 そして話を進めるうちに、エミリー組の屋敷へと入っていった。
 この場に残されたのは、未来と静香だけになった。





◆◆◆





「どうぞ、私の淹れたお茶です、お口に合えば良いのですが……」
「あ、どうも。えーっと、まつり?」
「ありがとうございます。まつりさん、これは」
「これがエミリーちゃんなのです」

 エミリーに直に会ってみた方がわかりやすい、と言われ部屋に通されたかと思いきや、ジュリアも志保も想定していなかったような人物。
 ちゃぶ台を挟み、向こう側へ正座で座るのはエミリーだ。まるで小動物のような可愛らしい笑みと、穏やかな空気を纏うその姿は、とても悪事を働いていた組のトップとは到底思えない。
 エミリーの隣に腰を降ろし、まつりは口を開く。

「ごらんのとおり、エミリーちゃんは可愛いです」
「いやそういうのいいですから、説明を」
「エミリーちゃんは昔から日本に憧れ、日本が大好きです。そこを悪党どもに利用された、ということです。これが日本の文化だから言葉巧みに騙され、エミリーちゃんは組長と言う名のスケープゴート代わりにされていたのです。いざ何かあったとき、トップを差し出せば自分たちは助かるからとかそんな感じなのです」
「それで騙されるとか、純粋すぎるだろ……」
「エミリーちゃんは純粋すぎたのです。それに、子分たちが何をしているかは、悪事については一切エミリーちゃんには伝えていなかったようですから」
「……お恥ずかしい話ですが、まつりさんが来て、初めて私は気付かされました。自らの罪、償う覚悟はできております! さあ、どうぞ!」
「いやいや、あたしたち別に罪を裁くような立場の人間じゃないし。ただまぁ、筋を通さないことは、あたし個人としては好きじゃないからなぁ」

 実際に手を出したらただじゃおかない、という静かなオーラがまつりからにじみ出ているのもわかった。
 さてどうしたものかねぇなんてジュリアは頭を掻いて、考える。
 ただ単にエミリー組を見逃したとなっては、魅利音組としてもよろしくない。ごたついている内部が、さらにごたつくのは目に見えている。かといって、まつりとエミリーの命を奪うのも、ジュリアとしては好ましくない選択に思えた。

「ジュリアさん」
「ん、どうした志保?」
「一つ考えがあるんですが――」





◇◇◇





「お嬢、そんなに包帯巻かなくても」
「怪我人は黙ってなさい」
「……はい」

 ひとまず、負傷した肩に包帯を過剰なまでにぐるぐる巻きにされた。未来も静香も、お互いに一度も目が合わない。
 なんとなく、気まずい空気。

「未来、ごめんなさい」
「なんでお嬢が謝るんですか?」
「志保から未来のこと、聞いたわ。私ね、ずっと未来に嫌われていると思ってた。恨まれても仕方ないって、そう思っていたの」
「え、いや、むしろ逆じゃ……」
「私の態度が、未来を苦しめていたんだって気付いた。もっと早く、言葉を伝えるべきだった。未来もばかだと思うけど、私も中々にばかよね」
「謝られているのか貶されているのか、わからないんですけど。というか、何がなんだか」

 頭に疑問符を浮かべる未来に、静香は志保との話を伝える。
 今までお互いにすれ違っていたことから、だからこそまた昔みたいな関係に戻りたいという想いまで。

「私ね、未来がただ傍に居てくれるだけで、昔みたいに仲良く一緒に居てくれるだけで、充分幸せなの。私の傍で未来が笑ってくれるだけで、私も自然と笑えるのよ。……ねぇ、気付いてた? 私が笑わなくなったって未来は言ってたみたいだけど、未来だって私の前で笑ってくれなくなったって」
「っ!? そう、でしたっけ?」
「ええ、そうよ」

 そういえば、静香の前では常に気を引き締めることを意識していたから、笑っていなかったと言われればそれは当然なのかもしれない。なんて、未来は考える。
 包帯の上から、そっと傷に触れる静香。未来は小さく声を漏らし、体をぴくりと震わせた。思わず、静香の方を向いてしまう。すると静香も、さっきまでとは違い、しっかりと未来の方を見つめていた。

「ねぇ未来、やっぱり名前で呼んでよ。昔みたいに、笑って見せて」
「それ、は……」
「私を笑わせたいって思うのなら、未来が笑ってくれないとダメなのよ」
「っ、もう、ホント、本当……酷いよ、静香ちゃん」
「~っ!?」

 ぽふん、と静香の胸に顔を埋めた。
 静香は名前で呼ばれたこと、さらに未来の行動に、大袈裟なくらいびくんと跳ねる。そしておそるおそる、腕を未来の背中に回した。

「そんなこと言われたら、私、我慢できなくなっちゃうよ。せっかく今まで、我慢してたのに……ずっとずっと、静香ちゃんのためだって、私じゃ静香ちゃんを笑顔にできないんだって、うぐっ、ぅあ……」
「ごめんなさい、未来」
「ううん、私もごめんね……」

 今まで、自分では静香を笑顔にできないと思っていた。でもそれは勘違いで、むしろ未来でないと静香を笑顔にできないということ。その事実に、ただただ嬉しかった。
 胸の中で泣く未来に、思わず静香も貰い泣きしそうになる。
 けれども堪えて、未来の背中をぽんぽんと二回、あやすように叩いた。

「未来、笑ってくれないの?」
「今、顔見せたくないもん」
「そんなこと言わないで」
「静香ちゃんのイジワル」
「お願い、未来」

 お願い、なんて言われてしまっては、未来は断れない。
 恥ずかしいのを我慢して、顔を上げる。
 抱き着いているのもあって、お互いの吐息を感じられるくらい、顔が近い。
 穏やかに自分を見つめる静香を見て、未来は――
「……でへへ」

 笑った。
 泣いたばかりで、むしろ今なお涙がにじんでいるけれど、それでもその笑顔は確かな笑顔だった。

「ふふっ、ありがとう、未来」

 つられて、静香も笑った。
 すると未来はまた、静香の胸に顔を埋めた。静香もぎゅうっと、未来を抱き締める腕に力を込めた。
 今まで触れられなかった分、取り返すかのように。





◇◇◇





「お嬢、起きてください」
「んぅ……未来、おはよう」
「おはようございます」
「なんで二人きりなのに、その態度なの?」
「この後、まつりさんやエミリーも、お嬢の部屋に来るからですよ」

 寝ぼけ気味に、ふらふらと起き上がる静香。
 結局、昔のような態度は二人きりのときのみとなった。いきなり態度がフランクになりすぎて、周囲への影響を考えてのことだ。静香はやや不満げだったが、未来がこればっかりは仕方ないからと宥めた。

「別に良いんじゃない? まつりさんもエミリーも、元は部外者なんだし」
「いやいや、今は同じ組の仲間なわけだしそこは――って、あれ、どうして志保が?」
「まつりさんとエミリー、少し遅れるって。それを伝えに」
「そっか、わざわざありがとう」

 結局、まつりとエミリーは魅利音組の仲間になることになった。徳川まつりの知名度は抜群だったものもあって、敵対勢力を消しただけでなく新たに強力な戦力として迎え入れたという話にした。
 志保はまだ、魅利音組に残っている。未来に、亜利沙の情報網を使って父親の件を調べてみてはどうか、と言われたからだ。どうせ手がかり一つない旅だった志保からすれば、悪くない話だった。
 志保はひらひらと手を振って、部屋を出て行こうとする。呼び止めようとする静香だが、二人っきりにさせてあげようっていう気遣い察しなさいよと返され、顔がかぁっと赤くなる。
 そしてそのまま、志保はふっと笑って出て行った。

「し、志保のやつ……。ま、まぁそういうことみたいだし、未来もほら! 敬語禁止!」
「えっと、それじゃあその、し、静香ちゃん」
「うん、やっぱりその方が嬉しい」
「……でへへ、実は私も」
「未来、手をかして」
「うん――って、わぁっ!?」

 言われるがままに手を差し出したら、一気に引っ張られて静香に引きずり込まれる。
 静香はそのまま仰向けに倒れ、未来もされるがまま静香に抱かれるように倒れ込んだ。布団の上で、抱き締められたまま固まっている未来。少しだけ、顔が赤く見えるのは、きっと静香の気のせいではない。

「ふふっ、このまま寝ちゃう? 昔みたいに、一緒に」
「ま、まつりさんたち来るから」
「少しくらい、良いじゃない。それとも、未来は嫌?」
「……その言葉は、反則だよぅ」

 嫌なわけない、と小さく零して甘えるように首元へ顔を擦り付ける。
 お互いの心音が、はっきりと聞こえるような密着具合。それでも二人とも互いの背に腕を回し、もっともっと限りなく零距離に、相手を感じたいと求め合う。衣服でさえも境界線のように感じ、わずらわしい。
 程良い温かさ、大切な人の匂い、腕の中に伝わる柔らかさ、全てが心地良く感じられた。
 だからだろう、安心感もあって、結局二人はそのまま眠ってしまった。



 後から来たまつりやエミリー、ジュリアにその様子を見られ、茶化されることになった。
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