匂い2014-12-20 Sat 22:06
ファンとして、アイドルとしての続きのような世界観。
とりあえず美希が春香のこと好きすぎるってことだけ把握していると、これだけでも読めますきっと! 「よくさ、好きな女の子の匂いは甘い匂いって、漫画とか創作物の中じゃありがちだけど……」 「うん、確かによく見るね」 「春香の匂いは甘くないね」 「それは貶されているのかよくわからないけど、そもそもそういうのは恋人に対して甘い匂いとか言ったりするわけだし。美希と私は別に、そういう関係じゃないわけだから――」 「けど、春香の匂いは興奮する匂いだよ?」 「何言ってるの!?」 「滾るものがある、って言えばいいのかな? 落ち着くような温かい匂いなのに、体中が熱くなるような感覚になるの。今だって、ミキね? 相当興奮してるんだよ?」 「やめて今すぐベッドから降りて枕に顔を押し付けながら深呼吸しないで恥ずかしい!」 美希は枕に抱き付きながら、顔を押し付けて動かない。そしてわざとかと思えるくらいに、すぅはぁと音を立てながら深呼吸をしている。 そんな美希を、全力で引き剥がしにかかる春香。両肩を掴み、引っ張る。割と本気で、全力で引っ張った。 ぐいぐい。 は・な・れ・て~! い・や・な・の~! ふぬぉぉぉぉぉぉぉぉ……。 しつこいの春香邪魔しないで出てって! いやここ私の部屋だからね!? そもそもこうなったのは、春香が家に美希を招待したからである。たまたまオフが重なったため、何処か一緒に出掛けようという話になった。実際何処へ行こうかという話になったとき春香が「もしよければうちに来る?」と冗談交じりに言ったところ、美希は全力で喰いついてきたのだ。 眼をきらきら輝かせて、何度も頷く美希に、本当にそれでいいのならということで招待した。 そして今に至る。 結局、美希をベッドから引き剥がせないまま、無駄に体力だけを消耗した。 肩で息をする春香と、それでもなお枕に顔を押し付けたままの美希。 「はぁ、はぁ……なんか前もこんなことあった気が」 「こう春香の匂いがするものに力強く抱き付いていると、まるで春香に抱き締められているような感覚なの」 「美希は私を羞恥死させたいの?」 「全ての春香ファンの中で、ミキは今一番の幸せ者だって思うな。なんたって春香の部屋にいるわけだから、これはもう春香に全身を包まれていると言っても過言ではないの!」 「なんで恥ずかしさに追い打ちをかけてくるの!?」 「春香、喉が渇いたの」 「わーいフリーダムだよこの子ー」 にこっと眩しいくらいに良い笑顔を見せる美希に、仕方ないなぁとぼやきながら春香は飲み物を取りに部屋を出た。 部屋の主がいなくなり、美希だけが残される。 きょろきょろと周囲を見渡す。美希が来ると分かっていたから、それとも普段からなのか、部屋はとても綺麗に整理整頓されている。美希はやや眠たい思考で、考える。 「お約束のタンス物色タイムに入るか、それともベッドでこのまま至福の時を過ごすか悩むところなの」 ぽつりと零し、けれども既に体は動いていた。 確かに、普段春香が無防備に体を預け眠っているこのベッドの上で過ごすことは、この上ない幸せだろう。しかし、それでもタンスの存在は魅力的だった。本来ならば、勝手にタンスを漁ってみるなんてこと、許される行為ではない。もしかしたら、嫌われてしまう可能性だって充分にある。だからこそ、背徳感がより美希を興奮させた。色々アウトである。 震える手で、美希はタンスに手をかける。使い古したタンスなのか、やや大袈裟にみしりと音を立てた。その音に思わず、びくりと震える。手が汗ばむのが、よく分かった。早くしないと春香が戻ってくる。分かっていても、美希の手はゆっくりとしたスピードだ。美希の予想では、この中には宝の山が詰まっていると考えている。美希からすれば、このタンスは宝物庫のようなものなのだ。どうしても慎重になってしまうのも、致し方ないのである。 「ふおぉぉぉ、これは……凄いの!」 星井美希は タンスを 開いた! なんと 中には 春香の下着 春香のリボン が入っていた! 星井美希は 春香の下着と春香のリボンを 手に入れた! 「何してるの!?」 「春香、ミキはね、今とても驚いているの」 「私の方が驚き具合大きいと思うよ」 「春香の年頃の女の子なら、使わないにしろ一枚くらいちょっと大人っぽい下着を持っていると思っていたの。けどまさか、普通の白がメインで黒とかは一枚もないなんて。しかも、デザインも女の子女の子しているものが多いうえ、まさか大人っぽいのじゃなくて子どもっぽいデザインのものを持っているなんて――」 「私今、手にもっている麦茶を美希にかけたい衝動に駆られてる」 「けどそんな清純な春香、とても可愛いって思うな。惚れ直したの」 「せめて少しくらい、ごめんなさいって態度をしようよ!?」 春香が涙目なことを見て、手に持った下着とリボンをちゃんと畳んでタンスの中へと戻す。 あぁもうホントなんなの一体、とため息を零しながら座る春香。しっかり美希に持ってきた麦茶を渡すあたり、律儀である。 美希は春香のすぐ真横に座り、ありがとうなのと一言言ってぐいっと飲む。春香も同じように、コップに入った麦茶に口をやる。こくんこくんと、喉が動いた。 「ぷはぁ、なんかもう最近、美希に振り回されっぱなしな気がする」 「春香が魅力的すぎるのがいけないの」 「ちょっと、くすぐったいってば」 春香の肩に頭を預け、頭を動かす。ぐりぐり、すりすりと、まるで小動物のように。春香からすれば、時折息がかかったり髪が肌をなぞったりと、くすぐったい。 思わずぴくりと体を震わせてしまう春香。咎めようと美希を見るが、目を細めて幸せそうな顔をしているのを見て、うぐっとなる。 「んーやっぱり春香は良い匂いなの」 「恥ずかしいから嗅がないでってば。本当、怒るよ?」 「怒っちゃヤー。あのね、ミキね、結構マジメに言ってるんだよ? ミキは特別匂いフェチってわけじゃないのに、それでも春香の匂いは大好きなの。心がぽかぽかするし、優しい感じがするし、幸せな気持ちになるの」 「……さっき興奮するとか、変なこと言ってたくせに」 「それも事実だから、仕方ないの。ミキは匂いの中で春香の匂いが、一番大好きだよ?」 「私はそれを言われて、喜べばいいのか複雑な心境だよ……」 頭をぐりぐりしてくる美希を止めることは諦めて、春香はむしろもう頭を撫で始めている。想像以上にふんわりした髪と、指がすぅっと入り込むような柔らかさに、一瞬心奪われる。今度は美希がくすぐったそうに、身動ぎをして、少しだけ照れくさそうに笑った。 その笑顔に、美希は可愛いなぁこんなときでもキラキラして見えるなぁ、なんてことを思いながら自然と春香も笑みが零れる。 「ねぇ、春香はそういうのないの?」 「え?」 「落ち着くなーとか楽しいなーって感じるような匂い、好きな匂いとか。何かないの?」 「え、えぇ? そう言われても……うぅん、あ! 畳の匂いとか結構好きかも」 「ぶーそこはミキの匂いが一番だよって返して欲しかったの」 「そ、そんな真が読む少女マンガみたいな展開、予測するの無理だよ」 不貞腐れたように、頬をぷくぅっと膨らませる美希。 春香はどう反応すればいいのか分からず、たははと苦笑いを返すだけ。 「なら今日から、ミキの匂いを一番好きになってもらうの! ほら、好きなだけ嗅いでいいよ?」 「いや、そんな良い笑顔で両腕を広げられても」 「アイドル星井美希に抱き付けるチャンスだよ? これを逃したら男が廃るよ?」 「私は女だし、私もアイドルだし……」 「あぁもうごちゃごちゃ言ってないで、んー!」 「えぇー……そ、それじゃあ」 これ以上抱き付かないでいると、美希が拗ねてしまいそうだったから。春香はおずおずと、美希の両腕に体を預けることにした。 ぽふん、と柔らかい感触。 春香が腕の中に来たことが嬉しくて、美希は春香の背中に手を回した。そしてぎゅうっと、力を込める。まるでもう逃がさない、そんな意思が込められているかのように。 抱き締められたことによって体勢を崩した春香は、そのまま美希の首元から胸付近に顔を埋めることになった。 「はぁーやっぱり春香は良い匂いなの。それに柔らかいし、抱き心地も最高なの!」 それを言うなら美希だって、柔らかいよ色々とちょっと悔しいくらい。そんなことを言いたい気持ちになったが、残念ながら口元がふにゅりとした感触で塞がっていて話せない。 こうも美希にしっかりと抱きしめられてしまっては、自ら嗅ごうとしなくても美希の匂いが伝わってくる。落ち着くとか楽しくなるとか、美希がさっき言っていたようなものとはまた違う匂い。春香にはこの匂いを、どう表していいか分からなかった。ただ唯一分かることは、体が熱くなるということ。恥ずかしさや照れからか、それとも美希の匂いのせいなのか。 「ねぇ、どう? ミキの匂い……って、ごめん、その状態じゃ喋れないよね」 美希が力を緩めたことにより、春香の口が解放される。 「なんて言葉に表していいか分からないけど、それでもあえて言うなら、ドキドキする匂いかなぁ」 「ドキドキする匂い?」 「うん、今言葉にしてみたら思ったよりしっくりきた。そうだよ、ドキドキするって美希にぴったりだと思う。いつもきらきらしてて、たくさんの人をドキドキさせてくれる美希だもん。そんな美希なんだから、ドキドキする匂いなんだ」 「……春香、今結構恥ずかしいこと言っているの、気付いている?」 「ええぇっ!? わ、私素直に思ったことを、言っただけなんだけど……」 「うー……春香の不意打ち、破壊力高すぎるのっ」 「え、ちょ、うわぁっ!?」 突然、美希が春香の胸に顔を埋めた。さっきの状況と真逆である。 「えっと、美希?」 「今はダメなの顔見せられないの良いって言うまでこのままなの」 「よく分からないんだけど」 「分からない罰として、このままミキを抱きしめたままドキドキしてればいいって思うな。ミキも春香の匂い、堪能するから」 「えぇー……」 美希が何故顔を見せないのか、春香には分からなかった。美希の顔を窺おうにも、しっかりと抱き付いて、胸に顔を埋めて離れる気配がない。 仕方なく、春香も美希の背中へ腕を回す。ぎゅうっと抱きしめると、美希がより強くぎゅうっと抱き締め返してきた。 とくんとくんと騒がしい鼓動、美希に聞こえてはいないだろうか。そんなことを思いながら、春香は美希のドキドキする匂いをすぅっと吸い込んだ。 |
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