絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

これから。

アイマスの無尽合体キサラギのハルシュタイン閣下とマコトなSS。捏造妄想注意です。

「マコト」

 そう名前を呼ばれただけで、体の奥から、芯から震える。それは歓喜によって起こされる現象。閣下によって自らの名を呼ばれることは、飽きることのない喜びだ。
 しかし、そんな素振りは一欠けらも見せることはしない。

「はい、なんでしょうか閣下」

 淡々と言葉を発し、まるで呼吸をするのと同じかのように自然と跪いた。
 感情を押し殺すことは、そう難しいことじゃない。もちろん、以前はころころと表情や態度が変わっていたと思う。けど、閣下に仕える上で、もっと気を引き締めていかなければいけない。そう思うようになってから、身に付けた一つの技術だ。
 そんなボクを、閣下は面白くなさそうに「つまらなくなったわね、マコト」と言ったこともあったっけ。

「一週間後、地球へと行くわ。マコト、それ相応の準備をしておきなさい」
「っ……!」

 閣下が自ら出陣するなんて、随分と久し振りだ。何故このタイミングなのか、キサラギやアミマミの重要な情報でも掴んだのだろうか。
 いや、やめよう。考えても仕方ない。ボクにできることは、閣下の力になること。そこにどんな理由があろうとも、それだけが真実だ。

「閣下の仰せのままに」
「……驚かないのね、あなたからすれば突然の決定でしょうに」
「私には理解の及ばない、閣下なりの考えがあってのことでしょう。私はただ、閣下のお力になるため、動けばいいだけです」
「本当、従順ね。ねぇ、マコト?」
「は――」

 はいなんでしょう、と言おうとしたけど、言葉が続かなかった。突然、右頬に手を添えられたから。
 反射的に顔を上げると、そこには閣下の顔があった。近い、いつの間に距離を詰められたのか。目と目が、合う。
 閣下の目は真剣さを帯びていて、けれども口元は歪で何かを企んでいるようにも見えた。
 頬に添えられた手から伝わる体温が、ややひんやりとして冷たい。動揺しそうになるが、なんとか取り繕い無表情を貫く。
 しかし、閣下は堪え切れないといったようにくつくつと笑う。
 心が見透かされているようで、声が出ない。

「二人きりのときくらい、昔みたいに名前で呼んでくれてもいいのよ?」
「~ッ!?」

 不覚だ。思わず、息が詰まってしまった。これではいかにも、動揺していますと言っているようなものだ。

「……ご、ご冗談を」

 乾いた笑いと、震える声。情けない。

「昔と今では、違います。他の者にも、示しがつきません」

 貼り付けたような言い訳。
 閣下は、ハルカは相変わらず、目は真剣だが口は笑っている。何を考えているのか、何を思ってその発言をしたのか、ボクには分からない。

「……一週間後の戦に向けて準備がありますので、失礼します」

 一礼し、逃げるようにその場を去る。感情を押し殺すことはもう得意になったかと思っていたけど、まだまだ甘いようだ。それとも大切な人からの言葉だから、こんなにも揺れてしまっただけなのだろうか。
 閣下のあの言葉は本気なのか、ただからかっているだけなのか。



 長い廊下を早歩きし、自室へと戻った。幸い、誰とも会わなかった。きっと今のボクは酷い顔をしているだろうから、ありがたい。
 仕事モードのお堅い服を脱ぎ捨てることも忘れ、無駄に大きいベッドへと身を預ける。ぼふっと柔らかい感触が、ちゃんと受け止めてくれたことに満足を覚えた。

「ハルカ」

 小さくぽつりと、零してみる。
 本当にそう呼べたら、どんなにいいか。思いを伝えらたら、どんなにいいか。
 いや、これ以上何を望むんだ、ボクは。側近として、ハルカの右腕として働けているだけで、充分幸せだ。身の程を知るべきだ。
 一週間後に備えよう。そしてついでに、この軟弱な心も鍛えなおそう。

「……ハルカ」

 今度は無意識に、呟いてしまった。
 思わず、ぼすぼすと枕を叩いてしまう。あぁもう、本当に。心が乱される。





◇◇◇





 あれから一週間という時間は、あっという間だった。余計なことを何も考えないために、ひたすら訓練に取り組んだ。一週間でできることなんて、たかが知れている。それでも、やらないよりはやった方が幾分かはマシだろう。
 事前に閣下から手紙によって指定された、地球のとある公園へと足を運んだ。予定時刻よりは、三十分ほど早い。今は時刻にして、午前の十時を回ったあたりだろうか。陽射しが少しだけ、厳しい。思わず目を細めてしまう。
 しかし、それにしても誰もいなさすぎる。周りを見渡しても、部下が一人もいない。地球の人間たちが極僅か、ベンチに座っている程度。
 おかしい、今日は閣下が自ら出向くほどのことなのに、部下が誰もいないなんてありえない。まさか時間や場所を間違えた?

「……いや、ここで間違いない」

 ここに来る前に何度も確認したし、間違っているということはないだろう。ということは、部下たちが間違えた? 全員? それもありえないだろう、いくらなんでも。
 じゃあどうして――

「あら早いわね、マコト」
「ふぉぅっ!? か、閣下?」

 突然背後から、聴き慣れた声とともに肩に手を置かれた。考え込んでいたから、完全に不意打ちだった。思わず、妙な声が出てしまったわけで。
 すぐさま振り返ると、そこには閣下の姿が――って近いっ!?
 飛び退いてしまいそうになるけれど、これ以上醜態を晒すわけにもいかない。グッと堪えて、なんでもないかのように振る舞う。

「早めの行動は基本です。それに今日は、大切な戦なのですから」
「んー? 戦って?」
「は?」
「いやいや、今日はただデートする日だよ?」
「……誰が?」
「私が」
「誰とですか?」
「マコト」
「……戦では?」
「それなら私とマコト、ここにいるのが二人だけのわけないでしょう? それに私、戦なんて一言も言ってないけど」

 ……ごもっともで。
 え、ということはもしかして、ボクが勝手に勘違いしていただけ? いやちょっと待て、一週間後の戦に向けて準備するって言ったとき、閣下は否定しなかった。もしかして、騙された?
 そんなボクの心境を読んだのか、閣下の顔は酷くニヤついている。あぁ……これ確信犯だ。

「閣下、今すぐ戻りましょうか。私にも閣下にも、本来の仕事があります」
「これも立派な仕事よ? 地球の偵察目的って、みんなには言ってきてるし」
「それならば、明らかに護衛が少なすぎます」
「マコトがついているって言ったら、みんなそれなら安心だってホッとしてたよ。それにほら、私強いし。私一人でも強いのに、そこにマコトがいるんだから大丈夫よ。私、マコトのこと信頼してるし」
「っ……はぁ」

 なんでこの人はこうも、私が喜ぶ言葉をさらっと言ってくるのか。
 こっちのこんな気持ちはお構いなしに、にへらーっと笑っている閣下。あぁもう、これは完全に今日一日振り回される。覚悟を決めよう。どうせボクに拒否権なんて、ありゃしないんだから。仕方なくだ、うん。決して、ハルカと二人きりだから嬉しいとか、そういうことじゃない。
 なんて、誰が訊いているわけでもないのに、そんな言い訳を心の中で零す。

「分かりました。では偵察のお供、させていただきます」
「いや、デートだよ?」
「偵察です」
「デート」
「……まず、どこへ向かいましょうか。目的地などは決めてあるのですか?」
「むぅ、まぁいいわ。そうねぇ、気ままに行きましょう? マコトと一緒なら、きっとどこへ行っても楽しいと思うし」
「つまりはノープランというわけですね。ではまず、お昼にしましょうか。どこか良さげな店でも、探し歩きましょう」
「あら、スルー? ちょっとくらいドキッとしてくれても、良いのに」
「……その手の冗談は、あまり得意ではないので」

 ちぇーとわざとらしく頬を膨らませて、いかにも拗ねていますといった様子の閣下。閣下はたまに、こういう子どもっぽいところがある。昔から、狙ってやっているのか素なのか。どちらにしろ、拗ねた閣下は面倒だ。
 こういうときは、機嫌を一発で直すに限る。その方法は、昔から、ハルカとボクが幼かった頃から変わらず――

「さあ、行きますよ。地球にはあまり詳しくはありませんが、精一杯のエスコートをさせていただきます」

 手を握ることだ。すると、閣下はにへらっと満足そうに笑う。

「ええ、楽しませてもらうわ。せっかくのデートだもの、ね?」

 しつこくデートと認めさせようとしてくるけど、それには答えず手を引き歩き出す。もちろん、急にではなく、緩やかに。閣下を転ばせたりでもして、傷をつけるわけにはいかない。
 周りから見たら、一体どういう風に見えているのだろう。私も閣下も、地球では一般的と言える服装ではない。
 人が少ないことが救いだが、それでもすれ違う人には驚きの目で見られている。そんな気がする。
 さてどうしたものかと考えていると、右手にギュッと力が伝わる。閣下が一瞬だけ強く、繋いだ手を握ってきた。それに応えるように、ボクもギュッとする。するとまた、閣下がギュッと返す。
 ちらりと横を歩く閣下の方を見ると、閣下もこちらを見ていた。へへっと笑う閣下に、つられて思わず笑みが零れそうになる。が、なんとか顔を背けることで、それは誤魔化した。
 互いに何も喋らず歩く。けれど、その沈黙は決して嫌なものではなかった。まるで会話をするかのように、ボクらは手をギュッとすることを繰り返していた。



 ◇◇◇



 結局、適当に歩いていたところ、閣下が一瞬だが目を輝かせて興味がある様子を見せた店に入った。店内奥の窓際の席に案内され、メニューを開くとどうやらパスタやらピザとやらが専門の店らしい。
 軽く注文を済ませて、数分後にやってきた注文通りの品に手をつける。

「さて、この後はどうしましょうか」
「あら、エスコートしてくれるんじゃなかったのかしら?」

 ボクの問いかけに、どこか楽しそうにそう返す閣下。パスタをくるくると巻きながら、ボクの反応を待っている様子だ。
 むぅ、確かにそう言ったけども。せっかくだから、閣下の喜ぶことをしたい。ならば、閣下の意見も。と、そう思ったのだけど、閣下はどうやらボクに全部任せるようだ。
 どうしたものかと考えていると――

「はいっ、マコト」
「なんですか、これは?」
「パスタ」
「いや、それは知ってますけども」

 清々しいくらいにっこにこした笑顔で、パスタをボクに差し出してくる。俗に言う「あーん」というやつだ。幸い、周囲に人は少ない。僅かにいる人も、一緒に居る者たちと談笑をしていたり食事に夢中だったりで、いちいちこちらを気にかけている者はいない。
 だからといって、それを受け入れるわけにもいかないだろう。
 ごほん、と一つ咳払い。

「閣下、そのような行為は控えてください。」
「そういうのいいから、ほら早く。腕痛くなっちゃうわ」

 まるでボクの方が悪いみたいな、そんな流れをナチュラルに作らないでください。と、心の中だけでツッコミを入れておく。
 わざとらしくため息を零してから、また周囲を確認。
 どうせ無視できないし、時間が経てば経つほど機嫌が悪くなるのは目に見えている。ならばここは、さっさと閣下の望みを叶えるに限る。決してボクも満更ではないとか、そういうことではない。どうせ拒絶できないのだから、早く済ませてしまう方が合理的というだけだ、うん。
 誰が訊いているわけでもないのに、そんな言い訳染みたことを思いながら、ゆっくりと口を開ける。恥ずかしさから、自然と目を瞑ってしまう。そして口を近付けた。
 数秒後、口の中に広がるのは不味くもなければ美味しいわけでもない、ごく普通のパスタの味。けれど、ボクにとっては、最高に美味しく感じられた。その理由はきっと……いや、やめよう。そういう余計なことは、考えるべきではない。
 目を開けると、楽しそうにくつくつ笑う閣下の姿が見えた。

「マコト、自分で気付いてた? あなた、ぷるぷる震えちゃってて可愛かったわよ?」
「んなっ!?」
「あぁ満足。なんかもう、今のマコトを見れただけで、お腹いっぱいになっちゃうくらいには満足したわ」
「馬鹿にされている気がします」
「本音よ。素直な気持ち」

 まるで子どものように楽しそうに笑う閣下に、ボクは視線を逸らすくらいしかできない。
 そんなことを言われたって、どう反応をすればいいのか分からない。けどここでぶすっとした態度をとったところで、きっと閣下はもっと楽しそうに笑うだけだろう。それになんだか、子どもっぽい態度な気もするし。
だからなるべく、無表情を装い、淡々と食事の手を進めることにした。閣下からの視線がじっとりと纏わりつくような気がしたけど、気のせいと思うことにする。気にしない気にしない。
 よし、早めにここから脱出しよう。



 ◇◇◇



「へぇ、これが地球の娯楽施設なわけね。なんだか賑やかというよりは、騒がしくて鬱陶しい」
「ゲームセンターというものです。その名の通り、様々なゲームが置いてあり、それらをプレイすることによって楽しむというところです」
「ふぅん……あの大きい箱のようなものは?」
「クレーンゲームと名称だとか。ボタンを押して操作し、中にある物を入手するという遊びだそうです」
「取ったものは貰っちゃって良いってこと?」
「えぇ、景品口に落とせばそれはゲット、と書かれています」

 クレーンゲームの機械に分かりやすく絵とともに記載されていた遊び方を見て、なんとなく流れは把握した。
 街中を歩いていたところ、目を引いたのがこのゲームセンターだった。
 思ったよりも人は少ない。ちらほら見かける程度なのだが、それでも機械から常時発せられている音などから、決して沈黙を作らない。むしろ大勢が集まるくらいに、喧しい。
 どうやら閣下はこのクレーンゲームが気になっているようで、いくつかのクレーンゲームの周りを興味深そうに眺めている。プレイしたいのだろうか。
 一応、地球のお金もある程度持っている。だが普段使うものではない分、決して多くはないから無駄遣いはできないが。

「マコト、見てこれ」
「クマのぬいぐるみ、ですか」

 閣下の視線の先にあるのは、クマのぬいぐるみ。色は茶色、大きさはイオリが普段持ち歩いている兎のと変わらないくらい。
 なんてことない、どこにでもあるような、そんなぬいぐるみだった。

「ありがちよねぇ。もうちょっと捻った品を置けばいいものを。けど、こういうベタな景品こそ、逆に良いと思わない? こうなんていうか、心をくすぐるものがあるわ」
「まあ、悪くはないかと。プレイなさるので?」
「うん、せっかくだし。あぁ安心して、無駄遣いはしないから。最初は操作に慣れないだろうけど、それでもどうせすぐに取れるだろうし」
「閣下がやりたいのなら、どうぞ」

 閣下に百円玉を数枚手渡す。
 受け取った閣下は、まずは一枚、機械に投入した。何やらさっきまでとは違う、おそらくはプレイ時専用の曲がコミカルに流れだす。
 無造作に置かれているクマのぬいぐるみの中から、閣下は景品口に一番近いものを狙った。クレーンはゆるゆると降りていき、ぬいぐるみの胴体を見事掴んだ――かのように思われたが、実際はまるでやる気が感じられないかのように力がなく、撫でるだけで終わった。
 なんとなく、この無駄にコミカルな音のせいもあって、馬鹿にされているようにも思える。
 それは閣下も同じだったようで、閣下の表情はいかにも不満げだ。

「……マコト、今の見た? 酷くない?」
「見ました。どうします? やめておきますか?」
「ふっ、私に不可能という文字は書けないわ! 見てなさい!」
「いやいや、そこは書けましょうよ。不可能という文字はない、ですよね?」

 無駄に格好つけたように見えて中々に酷い台詞を吐きながら、閣下は再度コインを投入した。閣下は少し、負けず嫌いなところがある。あらかじめ渡したものが数百円程度で、本当に良かった。下手をしたら、取れるまでやりかねない。
 閣下の二度目の挑戦は、正攻法ではダメだと判断したようで、ぬいぐるみの脇部分を狙ったものだった。上手くハマったようで持ち上げるところまではいったが、横に移動する際に振動で落ちてしまった。けどその拍子で、さっきよりも景品口に近づいた。残り数センチもないだろう。
 これはもしかしたら――

「よっし! これで……」

 三度目の挑戦。閣下が次に狙ったのは、片方のアームでぬいぐるみの頭部。掴むのではなく、押す形。今までのやり方とは違い、ボクにはこれに何の意味があるのが分からなかった。
 しかし、その意味はすぐ分かった。押されたことによって、ぬいぐるみが横に滑ったから。決して大きくはない横滑りだったけど、それでも景品口に落とすには十分の距離だった。

「やったぁ! ほら、マコト! 取れたわよ! 初めてなのに、たったの三回で!」

 手に入れたぬいぐるみを抱え、無邪気に喜ぶ閣下。その姿はまるで、昔一緒に遊んだときと変わらないように思えた。そう、閣下は変わってない。変わったのは、ボクの方なのだから。
 本当は一緒に笑って喜びたい。凄いね、って言ってあげたい。

「おめでとうございます。流石は閣下ですね」

 けど、ボクは淡々とそう言った。これでいいんだ、立場的にも、ボクの心を押さえつけるためにも。
 閣下はそんなボクの態度が気に喰わなかったのか、ほんの少し拗ねたような表情をした。

「もうちょっとさーこうなんていうか、一緒に喜ぶみたいな、そういうのないの?」
「……そういうのはヤヨイの役目ですよ」
「確かに、あの子は一緒に笑ってくれるタイプね。けどね、今はマコトと喜び合いたいわけよ」
「私はそういうの、苦手ですから」
「昔はよく泣きよく笑いよく泣きまくる、感情豊かな子だったのにねぇ」
「泣きすぎですよそれ……閣下は、その、昔の私と今の私の、どちらが――いえ、すみません、なんでもありません」

 閣下が懐かしそうに、そして少しだけ寂しげに言うものだから、思わず馬鹿なことを訊きそうになってしまった。
 閣下には私が何を言いたかったのか分かったみたいで、いつもの意地悪い笑みを浮かべた。

「マコトはどっちだと思う?」

 閣下は何が、とは言わない。もちろんボクも、言われなくたってその意図は分かっている。本当、意地悪いお方だ。
 正直、そういったことは考えないようにしていた。もし閣下に今のボクを否定されたら、拒絶されたのなら、そう思うと怖くて怖くて仕方なかったから。
 思わず体が強張ってしまう。

「……どっちでも、構いません。閣下のお力になることが、私の全てですから。どちらでも、関係ありません」
「私が今のあなたを嫌いと言っても?」
「っ! は、はい……」
「……マコト、変わったと言っても、嘘を吐くのが下手なことだけは変わらないわねぇ」
「~っ!?」

 少しだけ呆れたような、けれども嬉しさも混じった声でそう言いつつ、頭を撫でてきた。予想外の行動に、びくりと体が一瞬震えてしまった。
 やめてください、と言わなきゃいけない。そう分かっていても、言葉が出ない。顔を見られないように俯いて、ただ閣下に撫でられるまま。心地良さに、体の力が抜けてしまいそうになる。このままではいけない。せっかく今まで積み上げてきたものが、我慢してきたものが崩れてしまう。
 力の入らない手で、頭を撫でている閣下の手に触れ、止める。言葉には出せないが、拒否の意を込めて。

「まったく、素直じゃないんだから。いや、今までちゃんとあなたと話す機会を設けなかった私も悪い、か。そうね、ここじゃあなんだし、場所を変えましょうか。静かな場所がいいわね、ゆっくり話をできそうな。行くわよ、マコト」
「……はい」

 閣下に手を引かれ、ゲームセンターを後にする。あぁもう、本当情けない。





「ここらへんなら、良いかしらね。うん、中々悪くない。そう思わない、マコト?」

 しばらくして到着した場所は、人気の少ない喫茶店。いくつかの建物の隙間に、こぢんまりと佇む店だ。店内は落ち着きのある曲と、暇そうにしている店員がぽつんと一人。客は二人しかいない。
 閣下はその中でも隅っこの、目立たない席を選んだ。アイスコーヒーを二つ注文し、すぐさまそれが届けられると、互いにしばしの無言。
 ボクは閣下から露骨に目を逸らして、じっとアイスコーヒーを見つめていた。この冷たくてどこまでも黒い色をしたアイスコーヒーと、今のボクの心が重なって見えた。これを綺麗に飲み干したら、ボクのこの心も少しは晴れるだろうか。

「ねぇ、マコト」
「っ!? は、はい」

 声をかけられただけで、大げさに体が震えてしまった。

「回りくどいのは面倒だから、率直に訊くわね。マコトは私のこと、どう思っているの?」
「……どう、とは?」
「その意味くらい、分かっているでしょうに。あなたにとって私はどういう存在? ただの主? それとも幼馴染み? もしくは、それ以外の何かかしら?」
「それ、は……」

 仕える者として、ここは主だというのが正解なのだろう。頭では分かっている。けれど、口が上手く動かない。言葉を発するのを拒絶しているようで。
 喉はからから、声は震える。アイスコーヒーから目を離し、恐る恐る閣下の方へと目を向ける。
 閣下は、ハルカは――ボクをまっすぐ、見つめていた。

「っ~!」

 嘘を吐けない。たとえ嘘を吐けたとしても、きっと見透かされてしまうだろう。ハルカの目は、そんな目だった。
 改めて、考えてみる。ハルカはボクにとって、どういう存在なのか。ボクの全てはハルカのためにあると言っても、過言ではない。ただの幼馴染みでも、ただの主でもない。
 ボクにとって、ハルカは。

「……上手く、言葉にできません」
「そう」
「それでも無理矢理言葉にするならば、こんなありきたりな言葉で表現することすら嫌ですが……とても大切な存在です。閣下の存在そのものが、私の生きる理由です」
「そんなお堅い言葉じゃなくても、もっと単純に、たった二文字でマコトのその思いは表現できるわよ?」
「それは、一体?」
「好き」

 ふにゃっとした笑みで、けれども瞳はボクをしっかりと捉えたまま、ハルカがそう言った。
 その言葉が、たった二文字の言葉が、今のボクに染み渡った。とてもしっくりくる言葉だった。そうだ、どれだけ言葉を重ねても、結局のところボクの根本にあるのは、ハルカのことが好きだということだ。
 考えないようにしていた、思わないようにしてきた。自分自身の根っこを、見て見ぬふりをしてきた。それでもハルカは、ボクのそんな根っこの部分まで見透かしていた。あぁ、やっぱりハルカは凄い。

「ちょっとマコト、固まってないで何か反応してよ。これで外れてたら、私は大恥ってレベルじゃないわよ?」
「ふふっ、正解です。その通りです」

 やっぱり情けなさもあるけれど、それ以上にハルカがボクのことを分かっていてくれたことが嬉しかった。嬉しすぎて、思わず小さく笑ってしまう。
 するとハルカは「あっ」と声を漏らした。珍しく、呆けたような表情で。

「マコトの自然に笑ってる顔、久し振りに見たわ」
「そうでしょうか?」
「そうよ、うん。なんか昔を思い出すわ……っとと、思い出話を語るのも良いかもしれないけど、まずは私も言っておかないとね。あ、いや、まずはマコトの口からちゃんと言ってもらおうかしら」
「はい?」
「マコト、私のこと好き?」
「はい」

 どうせ嘘は意味がない。見破られるくらいなら、素直に返答をするのが一番だろう。

「じゃあほら、マコトの口からちゃんと言ってよ。好きだよって」
「遠慮しておきます」
「なんで!?」
「いや、伝わっているのに言う意味あるのかなと」
「いやいや、意味あるから。私が嬉しいっていう意味がね?」
「閣下、お慕いしております」
「違う! そこはほら、ハルカ大好きだよって言ってよ!」
「台詞変わってるじゃないですか!」
「細かいこと気にしない! ふふふ、早く素直に言わないと、ここで年甲斐もなく泣き喚くわよ」

 なんという脅しだろうか。本来なら冗談だと思うところだが、あいにく閣下なら本気でやりかねない。というか、物凄く今楽しそうな顔しているから、より怖いものがある。
 人気の少ない店内とはいえ、あまり目立つことはしたくない。
 一度だけちらりと閣下を窺うけど、にこりと笑みを返されるだけ。あぁもう、覚悟を決めるか。
 それにきっと、こういう機会じゃないと、言えないことだから。
 数回、軽く深呼吸を繰り返す。静かな店内のせいで、ばくばくと喧しい自らの鼓動がより煩く感じる。目の前に座っているハルカにまで、聞こえてしまうんじゃないかってくらいに。
 今自分の顔がどんな酷いことになっているか、分からない。分かりたくもない。けどそれでも、ハルカは茶化すことなく真剣にボクの言葉を待ってくれている。ならば応えないわけには、いかないだろう。

「……好きだよ、ハルカ。大好きだ。ずっと前から、ね」
「ッ!」

 上手く笑えていたかは分からないけど、笑顔で言った。ずっとずっと言いたかったけど、言えなかった言葉。
 ハルカはどこか嬉しそうな、けれども泣き出しそうにも見える表情をしている。よく分からない。えっと、何を言えばいいんだろう。こういうとき、気の利いた一言の一つも思い付かない自分が恨めしい。
 思わず言葉よりも先に、ハルカへと手が伸びてしまう。ハルカの頭を撫でるように、そっと。さらさらとした手触りが、とても心地良い。
 ハルカはそんなボクの手を、両手でそっと包んだ。

「じゃあ、私も言うね? 好きよ、マコト。あなたは私にとって、なくてはならない存在だわ」
「光栄です、ありがたき幸せ。……好きだと一言を言うのに、随分と遠回りしてきた気がします」
「私もね、なんだかんだで不安はあったのよ? マコトが昔と変わらず私を好いてくれているっていう自信はあったけど、それでもやっぱり万が一嫌われちゃってたらどうしようって」
「ありえないですね」
「そう思いたいけど、相手が大切な存在だからこそ、もしものときのことを考えてしまうのよ。ま、私もマコトも、互いに臆病なところがあるのよね」

 閣下ははぁーとため息を零しつつ、けれども顔はにやけているのが抑えきれていない。
 お互いに臆病、か。間違ってはいないかもしれない。思えば閣下のいくつかの言動は、ボクの心を揺さぶってくる意図を感じられるものが多かった。あれらはつまり、ボクの反応を窺って、確認しようとしていたのかもしれない。
 よかった、お互いに心を通じ合うことができて。よかった、またこうしてハルカと素直に向き合うことができて。
 けど、やっぱり、だからこそもう満足だよ。本来ならこんなことを言えないし言ってはいけないであろう立場のボクが、一度でも言えたことは幸福だ。

「ありがとうございます、閣下」
「ん、何が? それよりさ、もうそんな敬語やめてくれてもいいのよ? 昔みたいに、気軽に話してくれても」
「自分の立場は弁えています。言葉を崩す気もないですし、これからも今まで通り接するつもりです」
「……ちょっと待ってよ、私は元通りになれたと思ったんだけど?」
「あくまでも、閣下の問いに素直に答えただけです。何かを変える気はありません」
「意地っ張りね、マコトは」
「全ては閣下のことを思ってです。他の者に示しがつきません」
「良いじゃない、マコトは実力もあるし師団長でもあるんだから、誰も文句言わないわよ」
「では想像してみてください。私が閣下に砕けた態度で接し、それを部下たちが眺めている状況を……部下たちはどう思うと?」
「閣下とマコト師団長は仲が良いな恋人のようだ素敵、って思うんじゃないかしら」
「真剣な顔して何言ってるんですか閣下」

 物凄く無駄に格好良い、真面目な表情で閣下は言った。これは閣下だから許せるけど、もしこれが他の者だったら全力で頭を叩いているところだろう。
 思わずため息が零れそうになるが、なんとか堪える。そんなボクの困った心境を察したのか、閣下はやや不満そうな目でこちらを睨む。
 ストローでアイスコーヒーをくるくるとかき混ぜつつ、露骨なため息を吐かれた。いや、ため息吐きたいのはこっちなんですが。

「はぁ……マコトが立場とかそういう面倒なこと言って逃げようとするなら、私も考えがあるよ?」
「逃げているわけではありません」
「私の命令で、素で接することって命令を出すわ。立場上、命令なら仕方ないわよね。マコトの大好きな、立場だからね。もちろん、従うわよね?」
「命令なら仕方ないですね、なんて言いませんよ?」
「いやいや、マコトに拒否権ないから。命令だもん」
「……せめて部下や他の者の前では普段通りで、閣下と二人だけのときという条件を」
「仕方ないわね、それで妥協をしてあげる」

 結局、こっちが折れることになる。ハルカとは昔からこうだった気がする。命令だなんて言ってるけど、ハルカの顔にはまだ少しだけ不安が混じっているのがわかった。だからだろうか、断ることだってできただろうこの命令という名のお願い、断ることができなかった。
 いろいろと細かく考えてたけど、ボクの根本はハルカのためというものがある。だからハルカに不安なんて感じて欲しくない。この条件つきなら、まだ他の者に示しがつくし、ハルカの不満も解消できる。
 我ながら甘いな、なんて思う。決して、ボクも昔みたいにハルカと接したいからとか、そういう欲は混じってない。うん、多分、きっと。
 ……もしイオリがこの場にいたなら、うじうじ言い訳重ねてるんじゃないってバッサリ言われそうだな。
 そんな自分に対して苦笑いが零れそうになるけど、目の前の嬉しそうなハルカを見ると、まぁいいかって思えてきてしまう。

「ねぇ、マコト。早速今、砕けた感じで接してみてよ。二人きりだし」
「……まったくもう、本当、ハルカにはかなわないなぁ」
「っ! ふふっ、じゃあさっさとこれ飲んで、デートの続きをしよっか」
「だからデートじゃないって……」
「私がデートだと言えば、それはデートになるのよ。ほら、私はもう飲み干したわ」
「え、ちょ、今の数秒で飲んだの!? わわっ、ま、ちょっと待って!」

 慌ててアイスコーヒーを口に運んだけど、慌てすぎてむせてしまった。
 咳き込むボクを見て、ハルカはけらけらと笑った。むせて苦しいはずなのに、ボクもつられて笑ってしまう。

「ほーら、マコト! 早く!」
「あぁもうっ、少しは待ってよぉ!」

 飲み干して、急かされるように会計を済ませて、店を出る。
 楽しそうにボクの手を引くハルカ。
けど突然、わわっと声を上げてふらついた。正直、ある程度予想はできていたので、すぐに対処もできる。転びかけたハルカを、グイッと強く引っ張り抱き寄せた。ぎゅうっと強く、抱き締める。そう、しっかりと怪我をさせないように、引っ張るだけじゃなくてちゃんとこうやって抱き留めるくらいのことはしないと。なんて、言い訳。

「走るのは良いけど、転ばないようにしないと」
「転びそうになっても、マコトがこんな風に助けてくれるでしょう?」
「~っ!?」

 嬉しそうな顔でなんてことを言うんだ、ハルカは。
かぁっと顔が熱くなるのを見られたくなくて、胸に押し付けるようにもっと強く抱きしめた。けれどこれだと、ボクの鼓動は聞こえてしまっているだろう。大して意味をなさないかもしれないけど、それでも今の顔を見られるよりはマシだ。

「うん、ハルカが転びそうになったら、どんなときでもボクが力になるよ」
「この先もずっと?」
「当たり前だよ」
「ふふっ、嬉しいけど、守られるだけっていうのは性に合わないの」
「え、ちょ、うわぁっ!?」

 突然、力を込めてボクの腕を振り解かれた。とっさのことで、バランスを崩しそうになる。
 けど受け身くらい簡単に取れるし、問題はない。
 そう思って、衝撃に備えようとしたけど――

「だから、私だってマコトの力になる。守ってあげる」

 ボクの体を包んだのは、強い衝撃ではなくハルカの柔らかい身体だった。ボクがしたように、ハルカもボクを抱き寄せたわけだ。
 悪戯が成功した子どもみたいに笑うハルカに、なんて反応すればいいかちょっと困る。こんな風に、ハルカはこれからもボクを振り回すんだろう。心をかき乱すんだろう。
 けど、それも悪くない。むしろ幸福だ。ハルカに抱き締められていて、そう思う。温かくて、柔らかくて、良い匂いで、ハルカの全てが心地良い。
 でもやっぱり、ボクもやられっぱなしは性に合わないから。だから一言だけ――

「ハルカ、すっごくどきどきしてるのが伝わってくる」
「……マコトに言われたくないわよ」

 ちょっと意地悪なことを言ってやった。
 ボクからの、ささやかな反撃だ。
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