絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

アカネノソラ

創想話投稿作品『アカネノソラ』
早苗と文で、ほんわかぬくぬく話。好きなように楽しく書けましたし、結構気に入ってます。
進む時間と共に変わっていってしまった、何気ない日常や風景、そういうのをふと思い出すと、心がほんわかします。







 夢を見ている。
 幼い頃の私が、両親と手を繋いで家へ帰る夢。
 右手はお母さん、左手はお父さんと繋いでいたのを覚えている。
 茜の空が、味気無いアスファルトの色を美しく染めていた。
 そう、これは夢なんだ。だって今の私は幻想郷に住んでいるのだから。
 両親とそのときにした会話を、私は覚えていない。
 多分どうでもいいような内容だったのだろう。身長が少しは伸びたんだよ、とか今日の晩ご飯は何、とか明日のお休みをどう過ごす、とか。
 そんな、誰もがよくするような日常的会話だったんじゃないだろうか。
 どちらにしろ、覚えていない私には確認することは出来ないけれど。
 ただ、懐かしい。
 あの時見た茜の空は、私が今まで見た風景で一番のお気に入りだった。ただ、単純に綺麗だった。
 幼い私にとって、それは未知の輝きを持っていたように思えたのだ。
 今、私が元の世界に居たとしても、あの時と同じ茜の空は見れないだろう。
 光化学スモッグで汚された空は、美しさを損なわせていたから。そんな環境では、例え満天の星も、ただ鈍く光るだけの鉄屑をばら蒔いたようにしか見えないだろう。
 私が好きだったあの時見た茜の空は、もう死んでしまっていたのだ。
 便利になった技術は、本来の自然を犠牲にして成り立っていた。もちろん、私だってその技術によって生み出された物を使って生きていたから、全てを否定は出来ない。
 ああ、この夢はいつまで見れるのだろう。
 そうだ、目が醒めるその時まで、この茜の空を見つめていよう。



◇◇◇




「おふぁようございます」
「おはよう早苗」
「おはよー!」

 寝起きのせいで言葉が少しおかしくなった。しかし、神奈子様と諏訪子様は特に気にした様子は無いようで、普通に挨拶を返してくれた。神奈子様も諏訪子様も既に卓袱台前に居た。

「珍しいわね。早苗がこんなに起きるの遅いなんて」
「うんうん。心配して一回見に行っちゃったよ」
「え? まだ朝じゃ……」
「いや、もうお昼だよ?」
「ふぇ!?」

 元の世界から持って来ていた置き時計を確認すると、確かにもう12時を回っていた。
 それはつまり、神奈子様と諏訪子様の朝ご飯……作るの忘れて寝ていたということになる。

「も、申し訳ありません! 本当に何で私は寝ていたのでしょうか! 自分でも分かりません申し訳ありません!」

 とにかく謝らなければいけないと思った私は、頭を下げて精一杯の謝罪をした。
 神奈子様も諏訪子様も私の必死な様子を見て、笑って許してくれた。もとより神奈子様も諏訪子様も優しいから、怒ってなかったのだろう。

「多分幸せな夢でも見ていたんだろう。たまには良いじゃない」
「うん。私たちが様子見に行った時に、早苗嬉しそうな顔で寝てたし。よっぽど良い夢だったんだろうね」
「夢……」

 そうだ。私は夢を見ていたんだ。もう見れない、幼い頃私が見た茜の空の夢を。
 もしかしたら、ずっと見ていたかったのかもしれない。

「早苗?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「いや、急に早苗がボーッとしちゃったから」
「すみません……」
「いや、別にいいけどね。それじゃあ私と諏訪子は出掛けるから」

 神奈子様も諏訪子様も、よっこらせ、と少し年寄りっぽいセリフを言って立ち上がった。

「あの、どちらに?」
「今日は宴会の準備しろってあの巫女に言われてるのよ」
「そうそう」
「なら私も行き」
「だーめっ」

 神奈子様に制された。

「私たちでやっとくから。たまには早苗休みな」
「早苗最近頑張ってるからね。ゆっくり今日は休みなよ。あ、もちろん宴会は出なきゃダメだよ? 時間になったら来るんだよ?」
「え、あ、はい。分かりました」
「それじゃあ行ってくるねー」

 そう言って、神奈子様も諏訪子様も出掛けてしまった。
 急に静かになったような気がする。たまには休め……か。何をすれば良いんだろうか。
 とりあえずは、

「ご飯食べないとね」

 食事を作ろう。簡単なおにぎりでいいかな。
 食べ終わったらどうしようか。そうだ、散歩してみようかな。幻想郷に来てから、意外にも神社の周辺の環境はよく知らないし。うん、そうしよう。





「ご馳走さまでしたっと」

 気のせいかもしれないけど幻想郷のお米は普通と違って美味しい。上手く言い表すことは出来ないけれど、美味しい。別に、元の世界のお米が不味かったわけじゃないけど。

「さてと、軽く散歩しようかな」

 食後の運動にもちょうど良いかもしれない。
 ……別に腕回りのお肉が気になってきてるからとかそういう理由じゃない。うん、決して違う。
 いつもの服に着替えて、外に出る。
 透き通るほどの綺麗な空気が、私の肺に流れ込むのが分かる。天気は良好、気分も上々。

「うん! 良い空気!」

 思わず深呼吸してしまう。
 さて、まずは何処を歩こうか。あまり遠くに行き過ぎて神社を疎かにしたくないしなぁ。参拝にどなたかがいらっしゃるかもしれないし。

「う~ん……どうしようかな」
「何がです?」
「散歩しようかと思ったんですけど、あまり遠くへも行けませんし……何処か良い場所がないかなぁと……って、きゃあ!?」
「ああ、すみません。こんにちは」

 いつの間にか隣りに射命丸文さんが居た。
 文さんは、首からカメラを下げ、短いスカートが風でひらりと靡いていた。右手にはいつもの手帳のような物を開いている。

「取材をしに来たんですが、皆さん外出のようですね」
「あ、はい。すみません」
「いえいえ、特に約束もしないで来ましたから仕方ありません」

 文さんは人当たりが柔らかい。そのおかげで、幻想郷に来たばかりの私でも話しやすい。ただ、これは取材用の時の話し方だと聞いた。私は取材時以外の文さんに会ったことが無い。
 素の文さんはどんな話し方なのだろうか。少し気になる。

「で、神社からそう遠くない何処か良い場所を探しているんですね?」
「何でそのことを!?」
「さっき言ったじゃないですか」

 そうだった。ちょっぴり恥ずかしい。
 でももしかしたら、幻想郷を飛び回っている文さんは良い場所を知っているのかもしれない。

「あの、おすすめの場所ありますか?」
「もちろん! とっておきの場所を教えてあげましょう。ついてきて下さい」

 文さんが、歩き始める。それに私もついていく。
 文さんは本当なら凄い速さで飛べるのに、ゆっくり歩いて教えてくれるのは、私を配慮してくれているのだろう。
 やっぱり文さんは、取材時じゃなくても優しい方なんじゃないだろうかと思う。

「こっちですよ」
「え、あ、はい」

 文さんが神社の裏に回る。私ももちろんついていく。
 神社の裏にはあまり回ったことが無かった。普段は境内の掃除をしていることがほとんどだし。元の世界でも、何故か神社の裏には回ったことが無かった。
 そこには私にとって、未知の場所が広がっていた。

「ここが、おすすめですかね」
「凄い……」

 神社の裏から見える景色は、凄かった。
 山の頂にあるのだから、当たり前なのだろうけれど、幻想郷が見渡せた。
 それは、普段の表で見ている景色とは全く違っていた。同じ山の頂から見ていた筈なのに、全く違って見えたのだ。
 妖怪の山にある森林、遠くに見える人里、目を凝らすと川も見える。滝だってある。
 私には、それらが生きているように見えた。
 少し強い風が吹くと、木々は揺れる。人里は、当たり前だけれど人が生活している証。滝は激しい水音を立て続けていた。

「どうです? 良い場所だと思いませんか?」
「はい……良い場所ですね」
「実はですね。もう少し時間が経つと、もっと良いものが見れるんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、あと1、2時間くらいですかね。どうです? 見ますか?」
「はい。見たいです」
「じゃあそれまで適当にお話でもしましょうか」

 文さんとの会話は楽しかった。
 文さんは、椛っていう子がいるんだけど真面目すぎるとか、友人が機械弄りに集中しすぎて三日三晩徹夜で倒れたとか、最近仕事が溜まってしまって呼び出されたとか、なんてことはない普通のことを話してくれた。
 私は、元の世界で発達していた物や、日常生活や、学校へ通っていたことを話した。
 文さんにとっては、どれもこれも新鮮なようで、楽しそうに私の話を聴いていた。
 とにかく、楽しかった。より仲良くなれた気がする。

「あ、そろそろ見れますよ」

 日も次第に沈んでゆく頃、文さんが言った。
 私は、何が見えるのか胸を高鳴らせていた。

「これです」
「……綺麗」

 空が茜に染まった。茜は人里、滝、川、森林、全てを染め上げていた。
 それは、ただ美しくて、何でか、涙が出そうになった。
 そして私はこの茜の空を知っている。
 今朝、夢で見たものと同じだった。つまり、幼い頃に私が見た、大好きだった茜の空だ。
 私は、元の世界では、この茜の空は死んだと思っていたけれど、それは違った。
 幻想郷で、生きていた。
 私が好きだった茜の空は、ここ、幻想郷で生きていたんだ。

「文さん」
「はい?」
「ありがとうございます」
「いえいえ、その代わり今度取材させて下さいね?」
「もちろんです」

 私と文さんは、まだ見ていた。茜に染まった世界を。この美しいものを。

「さて、そろそろ行きますか」
「何処へですか?」

 文さんの言葉に、少しきょとんとする。あまりにも突然だったから、どういう意味か分からなかった。

「もちろん、宴会ですよ」
「あ……」

 完全に忘れていた。

「せっかくですから一緒に行きましょう」
「はい!」

 文さんの後ろ姿を、追いかけるようについていく。
 文さんの背中は、茜に染まっていた。
 私も、茜の空に包まれているんだろう。
 境内まで戻り地面を見ると、敷き詰められた石が、幼い頃見た、茜に染まったアスファルトのように、綺麗に染まっていた。

「早く行きますよ」
「わわっ! 待って下さいよ!」

 少し早くなる文さんに、私も少しスピードを上げる。
 茜の空は、まだ私たちを包みこんでいた。
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