夏だからこそぐだら2013-08-27 Tue 01:43
パチュリーさんとフランちゃんのやる気のないやり取り。
「動かない妹、なんてどうかしら?」 「それいろいろと危ない意味に聞こえるから、絶対やめてね」 難しいわね、とパチュリーはため息を零す。それにつられて、フランドールもはぁっと息を吐く。 季節は真夏の中、じめじめっとした図書館で、互いに机を挟んだ状態で座っている。パチュリーの魔法である程度は涼しくなっているのだが、さすがに広い図書館内を長時間冷やし続けるのは魔力だけでなく体力も消耗する。そのため、数時間に一時間ほどは魔法をとめているのが現状だ。 フランドールは胸元をぱたぱたと扇いでいる。 「完全で瀟洒な妹メイド」 「マニアックすぎるよね!?」 「紅魔館の永遠に動かない悪魔の小娘」 「無駄に長いし分かり辛いよ」 「妹様、さっきから我儘ばかり……少しは妹様も何かアイディアを出すべきよ」 「えぇー……言い出したのパチュリーじゃん」 二人が数分ほど前から始めたのは、新しい二つ名を考えるということだった。 言いだしっぺはパチュリー。曰く、最近は幻想郷に強力な新勢力が次々と増えてきて、序盤に異変を起こした私たちの影が薄くなりつつあるとか。そこで心機一転、新しい二つ名を考えてみてはどうかとのことだった。 フランドール自身、『悪魔の妹』という現在のものはなんだかおまけ扱いのようだと思い、あまり気に入っていなかったので、とりあえずパチュリーの案に乗ることにした。 そして現在に至る。 「そもそもさ、パチュリーの案ってさっきから混ぜたものばっかりじゃん」 「既存のものを掛け合わせることで、パワーアップを狙ったのだけど……」 「パワーダウンしてるよね、それ。そもそも、パチュリーの二つ名さ、動かない大図書館ってなんなの? どういう意味なの?」 「そう改めて意味を求められると、何か恥ずかしいものがあるのだけど。そこは察して、としか言いようがないわ。じゃあそうね、新しい二つ名は意味が分かりやすく、なおかつどこか格好良い感じでいきましょうか」 「難易度高くない?」 「そうでもないわよ、きっと。たとえば自分が格好良いと思う言葉や単語、そういったものを組み合わせたりしてみれば」 「あぁ、なるほど。そう考えると、なんとなくできそうだね」 「たとえばそうね、私の場合……『賞金首:潮干狩りのパチュリー・ノーレッジ(当社比)』とか」 「格好悪いことこの上ないよね!? 潮干狩りで賞金首になるって、何をしたの!? そして潮干狩りのどこに魅かれたの!?」 「なんか響きが良いじゃない、刀狩みたいで」 「刀狩と潮干狩りじゃ、だいぶ違うよ!」 フランドールの脳内には、麦わら帽子と白いワンピースを身に纏いながら潮干狩りをしているパチュリーが再生された。そして不覚にも、少しだけその様子を実際に見てみたいと思ってしまった。 そんな馬鹿な考えを、頭をぶんぶんと振って振り払うフランドール。 「さっきから文句ばっかりだけど、じゃあ妹様はどういうのが良いの?」 「えっ……えーと、うーん……」 「ほら、そんなに難しく考えないで。好きだって思う何かを思い浮かべて、それを言葉にしてみなさい」 「好きな……おねえ――じゃなくって、しゅ、シュークリーム! 咲夜の作るシュークリームが好きだようん!」 「じゃあ妹様の二つ名は『お姉様大好き☆きゅんっシュークリーム娘(はぁとぶれいく』ということで、いいのかしら」 「やめてお願いストップ羞恥死するから!」 「ちなみに最後の部分は、妹様のありとあらゆるものを破壊する能力と、可愛さでみんなの心も破壊しちゃうぞっていう意味をかけてみたわ」 「余計なものを付け足さないで!」 さらっと零れかけた言葉を、パチュリーはしっかりと聞き逃さなかった。 「そそそういえば小悪魔は? 最近見かけないけど」 「話変えるの下手ね。もっとコミュニケーション能力を身につけなきゃだめよ?」 「パチュリーに言われたくないっ!」 「ちなみに小悪魔はほら、毎年恒例の夏休暇よ」 「あ、あーそっか……今回は何日くらい?」 「親御さんとしばらくのんびり過ごすのとご先祖様へのお墓参りがあるからって、合計で二週間くらいあげたわ。最初は一ヶ月間あげるって言ったのだけど、涙目で私必要ないですかって言われちゃってね」 「なんていうか、つくづく悪魔っぽくないよねぇ」 「あの子あれでも、魔界西部部門小悪魔グランプリ覇者なのよ?」 「凄いのか凄くないのか分からないんだけど」 「強すぎて小悪魔部門じゃなくて、悪魔部門で出てくれって言われるくらいよ。それでもあの子は『自分はそんな大層なものじゃないので、これからも小悪魔部門で挑戦させていただきます』って返しているらしいけど」 「ははっ、そーいう謙虚なとこ、小悪魔らしいよね」 「五十年くらいそれやって優勝し続けて、毎年賞金荒稼ぎしてるらしいわ」 「全然謙虚じゃなかった!? むしろちゃんと悪魔っぽかった!」 フランドールはそのエピソードを聞いて、もはやいつもの人懐こい笑顔がまさに小悪魔的笑顔にしか思えなくなってきた。今度からは少しだけ距離を置いて接することにしようか、などと思った。 「そんなことより、二つ名よ」 「あぁ、戻るんだ」 「正直、割とどうでもいいのだけどね」 「うん、多分パチュリーのことだから、そんなことだろうと思った」 「そもそもそんな簡単に、自分で二つ名を変えられるわけないものね」 「しかも変えたところで、新勢力とやらに何か対抗できるかっていうと、別にそういうわけでもないしね」 「今までのやりとり、まったく意味がないのよね」 「そうだね」 「分かっていて付き合ってくれる妹様は、暇人かドM?」 「どっちも不名誉極まりないよ。強いて言うなら暑いからかな」 「暑いなら仕方ないわね」 「うん、仕方ないよね」 互いに、のそっと机に顎を乗せる。 気の抜けた表情で、ふぇぁ~っと大きく息を吐いた。図書館に陽は当たらないが、それでも地下なのでじめついた暑さが厄介である。 「……妹様」 「……何?」 「もし一日、他人と入れ替われるみたいなことが起きたら――」 「いや、もう内容の無い話はいいや。さすがに付き合う気力がないよ」 「……むきゅー」 「鳴かれても困るけど」 「今のむきゅーは、かき氷食べたいっていう意味よ」 「あー食べたいね」 「というわけで、妹様もむきゅーって鳴きましょう。かき氷ーって心を込めて」 「意味が分からないよ……」 「ほら、むきゅー」 「……えぇー」 「むきゅー」 「む、むぅ……」 「むきゅー」 「……むきゅー」 「むきゅー!」 「むきゅー!」 「オーイエスナイスむきゅー! りぴーとあふたみーむきゅー!」 「むきゅー! むきゅぅー!」 二人の奇妙な鳴き声が、図書館に響き渡る。 無駄に体力を使って、鳴き続ける。 その鳴き声は咲夜がかき氷を持ってくるまで、続いたそうな。 |
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