絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

触れて、感じて。

ヤマメちゃんとパルスィさん。



 
「……何?」
「うざい」

 地上へと通じる穴の近く、そこにヤマメは住んでいた。住んでいるといっても、家が建っているわけではない。ただ頑丈な蜘蛛の巣を張って、そこに寝っ転がっているだけだ。そして何をするわけでもなく、ただただつまらなそうに、何もかもが面倒そうに寝転がっている。
 ヤマメの巣の近くには、橋がある。それはパルスィが居る橋だ。勿論、橋そのものに住んでいるわけではないが、一日の大半を橋周辺で過ごし家も橋の近くにある。
 そんなパルスィにとって、ヤマメの存在は鬱陶しいものだった。直接ヤマメが何かをしたわけではないが、視界に入る範囲で毎日毎日気力のない姿を見せつけられては、妬む要素もなくただ邪魔くさいだけだ。

「毎日毎日うじうじだらだらと鬱陶しいのよ、あんた」
「いーじゃん、別に。わたしゃーいないもんだと思ってくれて、構わないからさぁ」
「退く気はないわけね」
「ここはあんただけのスペースってわけじゃあないだろう。私がどう行動しようと、勝手でしょ。それにこれだけ広いのに、ここにはあんたと私しかいない。私一人が好き勝手しても、あんたに支障はないでしょう?」

 よっこらせと零しながら蜘蛛の巣から降りて、面倒そうにパルスィと対面する。まだ互いの間には、数歩分くらいの距離が空いている。だが、それでも視線はしっかりと交わっていた。
 パルスィは少し、顔をしかめる。それは不快感を表している表情だ。

「あんた……」
「何? 退かないなら、力づくでって感じかえ? いいよ、やってあげても構わないさ。ただし、私は土蜘蛛。触れるどころか同じ空気を吸うだけで、原因不明の病に侵されちまうかもしれない。そうなっても、後悔しないでおくれよ!」

 ヤマメが地面を思い切り蹴り飛びかかってきたその瞬間、パルスィは両手でヤマメの両頬をガシッと掴んだ。まさか触れることは危険だと言った直後に触れられるとは思っていなかったヤマメは、思わずのけ反ってしまいそうになる。だが、パルスィの手がそれをさせてくれない。
 今までヤマメは、自分から誰かに触れることはあっても、誰かから触れられることはなかった。ヤマメが土蜘蛛だと知っていれば、それもそのはずだろう。だからこそ、パルスィの行動がヤマメには怖かった。
 そんなヤマメの考えなんて知ったこっちゃないと言わんばかりに、パルスィはそのままヤマメの顔を引き寄せる。同じ空気を吸う、なんてレベルじゃない。互いの吐息をしっかりと、感じることができるくらいの距離だ。
 ヤマメの目の前には、パルスィの不機嫌そうな顔。振り切ってしまえば良いのだが、ヤマメは不覚にも体が硬直してしまっていた。一体何をされるのか、なんなんだこいつは、そんなことをヤマメが思っていると――

「あんたお風呂入ってないでしょう!」
「へ? え、っ!?」

 頭をグーで殴られた。
 突然殴られたこともだが、それ以上にヤマメにはパルスィの言葉が予想外だった。確かにヤマメは、ずっとお風呂なんてものには入っていなかった。巣から動かないでいたのだから、当たり前のことだ。つまりパルスィが不快な表情をしたのは、ヤマメから嫌な匂いがしたから。ただそれだけの理由だった。
 うっわ信じられないわ最低、と訴えるような表情のパルスィ。その顔に、さすがにヤマメもムッとなる。

「し、仕方ないじゃん? 私は家なんて持ってないし、ここからほとんど動かなかったんだから」
「それでも水浴びくらいしなさいよ。よく見たら、髪なんてもうボロボロじゃない。あーあーもうこんなに妬ましくないやつ、久し振りだわ。なんか腹立ってきた。ちょっとあんた来なさい」
「え? わわっ、ちょ、ちょっと!?」

 ヤマメはぐいっと手を掴まれ、引っ張られる。そのままやや早歩きで進み始めるパルスィのせいで、つまずきそうになる。その動きについて行けるように、慌てつつも歩き始める。
 いきなり何をするんだ、一体何処へ連れていく気だ。ヤマメにはいろいろと言いたいことはあったが、それよりも今は、繋がれた手の方へと意識がいっていた。最後に誰かに触れられたのは、もう一体いつのことだろうか。思い出せないくらいに、ヤマメにとっては過去のことになっていた。触れるどころか、一緒の空間にいることすら嫌われた存在のヤマメにとって、それはもはや忘れていた感覚だった。
 ヤマメが久し振りに感じた他人の手のひらは、思ったよりも温かかった。



 ◇◇◇



「で、なんで私はこんなことになってるんだろう……」
「あんたの体臭が残念なことになってたからでしょうが。ほら、ぶつくさ言ってないで、もっとそっち詰めて」
「へいへい」

 手を引かれるままにヤマメが連れてこられたのは、パルスィの家だった。そしてそのままパルスィにお風呂へと連行され、現在の湯船に肩までしっかりと浸かっている状況に至る。
 脱衣場辺りでハッとなり抵抗したヤマメだったが、パルスィの鬼のような目つきに萎縮してしまった。おとなしく体から髪までを洗われるしかなかった。
 せめてもの抵抗なのか、ヤマメはぶすっとした表情を貫いている。不機嫌です、という言葉を貼り付けたかのような、そんな分かり易い顔だ。
 狭い湯船の中、膝を抱えながら対面するような形でお風呂に入っている今、パルスィにはハッキリとヤマメの不機嫌な様子が窺えた。

「あんたさぁ、せっかく綺麗な髪や肌してるんだから、これからはちゃんとお風呂入りなさいよ」
「やだよ。旧都の方まで行かなきゃならないじゃん」
「行きなさいよ」
「私が何のために、人気の少ない場所に巣を作ってると思ってるのさ。土蜘蛛が居るだけでみんな嫌がるだろうに、銭湯なんかに入ってたら私以外だぁれも客がいなくなっちゃうよ。立派な営業妨害で訴えられるさ」
「え、何? あんたそんな理由で、あそこにずっと居たわけ? ばっかじゃないの?」
「あぁん?」
「そんな突然喘がれたって怖くないわよ」
「誰がこのタイミングで喘ぎ声なんて出すよ!? 威嚇してるんだよ! 睨んでるんだよ!」
「睨まれても、あんたの可愛い顔じゃ怖くもなんともないわね。あんた、この地底がどういう場所か知らないわけ? 忌み嫌われた者たちの集まり場、受け入れられない者たちの最後の砦のようなもの」
「知ってるよ。けど、私の場合は病気を操るんだ。嫌われ者の中でも、相当たちが悪い方だよ。触ることどころか、同じ空間にさえ居たくないと思うのが普通の心理さ」
「私は普通に触れてるし、同じ空間どころか同じお風呂に入ってるけど?」

 パルスィが手を伸ばし、ヤマメの手にそっと触れた。ぴくり、とヤマメが一瞬だけ震える。

「それはあんたが変人だからじゃないの。病気にされたら、どうするつもりだったのさ」
「地底は変人の集まりよ。あんたも私も含めて、ね。それに病気にされたらどうするとか、簡単なことじゃない」

 パルスィは右手の親指を下に向けて、笑顔で言う。

「原因であるあんたを叩き潰す。それで解決でしょうが」
「……く、っ、あははっ! 面白いね、あんた。本当、面白いよ。っと、そういえば名前は?」
「人の名前を聞くときはまず自分から」
「はいはい、黒谷ヤマメさ。というか、名前も知らないようなやつをよく家に連れ込んだねぇ。しかもお風呂まで入れるなんて」
「水橋パルスィよ。別に、ただあんたがあまりにも妬ましくなかったからね。これからもあそこに居るっていうなら、せめて妬ましくありなさいよ」
「なんだい、そのよく分からない基準。って、あの場所に居ても良いの?」
「邪魔とは言ったし、できれば退いて欲しかったけどね。あんたの言う通り、別に私の所有地なわけでもないし強制はしないわよ。けど、ちゃんとお風呂とかは済ませなさいよ。さっきも言ったけど、地底なんてのは変わり者どもの集まり。あんたが旧都に行こうが、一々気にする輩はいないわよ」

 この自意識過剰め、と言いながらパルスィはヤマメの頭に手を乗せる。そしてぐわんぐわんと頭を揺らした。ヤマメは小さく「あぅっ」と声を上げた後、何をするんだよぉと手を払いのける。
 キッと睨むヤマメを、パルスィはジッと見つめ返す。そのまま数秒程無言のままで、見つめ合う。そしてパルスィが、ふぅっと息を吐いた。

「だいぶ妬ましい感じになってきたわね」
「え?」
「お風呂で綺麗さっぱりになったからってのもあるけど、あんた良い顔になったわ。家に来る前までは、見た目暗くて汚かった上うざさが滲み出てたのにね」
「わーお、初対面でさっき名前を知ったようなやつ相手に、そこまでばっさり言えちゃう?」
「それが今じゃ、明るい感じ。しかも軽くムカつくくらい、可愛いわねあんた。整った顔してるし、こうして見ると肌も綺麗だし。うっわ、肌すべすべ気持ち良いんだけど。ちょっとあんた、どんだけ元の質が良かったのよ。一回お風呂で綺麗に洗い流すだけで、こんなにも変わるなんて」
「ぇ、うえぇっ!?」

 ヤマメの腕を手のひらで撫でつつ、妬ましそうにぶつぶつと呟くパルスィ。忌み嫌われてきたヤマメにとって、お世辞でもそんなことは言われたことがなかった。誰かから褒められるなんてことは、慣れていない。ましてや、まだ知り合って間もないが、パルスィは良くも悪くも正直に接してくれていることから、嘘をついたり世辞を言うタイプではないことが分かっていた。
 慣れないことに、ヤマメはどう反応して良いか困る。嬉しいのか恥ずかしいのか、そういったことさえよく分かっていない。ただ、かぁっと体が熱くなるのだけは確かだった。お風呂の熱さとは、また違う原因の熱さだ。

「その照れ臭そうな表情も妬ましいわ。あぁもうなんか腹立ってきたから、ちょっと一発だけ殴っても良い?」
「理不尽だよねっ!?」
「照れた表情、慌てる様子、髪や肌その他もろもろ……本当に妬ましいわ。その胸だけは妬ましくないのにねぇ」
「最後の一言で、今までの褒めが帳消しになるくらいに貶された気がするんだけどもっ!? ぁ、こ、こらっ! 揉むなぁ!」
「揉むほどないじゃない。撫でてるだけよ」
「よし殴る! 泣くまで殴るよ!」

 ぺたぺたさわさわとヤマメの胸を撫でるパルスィ。
 笑顔で握り拳を作るヤマメ。
 二人の賑やかな入浴は、もうしばらく続く。



 ◇◇◇



「なぁんか、すっごく疲れたんだけど……」
「あんたが暴れるからでしょうが」
「人様の胸を無断で触る方が悪い。って、あれ? 私の服は?」

 お風呂を上がり、パルスィは淡い青を基調とした甚平を身に纏った。そして髪を無造作にタオルで拭いていると、同じようにタオルで体を拭いていたヤマメが首を傾げた。お風呂に入る前に脱いで籠に入れたはずの、下着含め自分の着ていた衣類がなくなっていたからだ。
 するとパルスィは「あぁ」と零し、隅に置いてある籠を指差した。

「別の籠に移した。お風呂入ってなかったってことは、衣類も洗う機会なかったでしょ?せっかく綺麗になったのに、汚れたものを着られても困るし後で洗っておくから。」
「え? それじゃあ私の着るものは?」
「……全裸はさすがに寒い?」
「寒いとかそういうお話じゃないよねそれ!? 知り合ったばかりの相手の家で全裸で過ごすって、私どんな変態だよ!」
「冗談よ。予備の甚平があるから、それ使って。ちょっとあんたには大きいだろうけどね」
「ん、了解」
「下着はどうする? 胸はいらないとして、下は? ショーツかドロワーズかノーパンか、好きなの選んでちょうだい」
「胸のことはもう怒る気力もないからあえてスルーするけど、ノーパンはおかしいと思う。穿き慣れてるのはドロワーズだから、ドロワーズで」
「悪いけど、うちはドロワーズないのよ。というわけで、ノーパン決定おめでとう」
「だからなんでそう変態扱いしようとするのかなっ!? あぁもうっ、普通に下着貸してよっ」
「はいはい、それじゃあこれとこれね」

 パルスィに手渡された下着と甚平を、ヤマメはささっと身に纏う。冷えてしまうよりも、ずっと裸でいるのが恥ずかしかったから。ドロワーズとは違う、穿き慣れない薄い布の感触に違和感を覚える。お尻のあたりを、軽く撫でてみたりして中々落ち着けていないようだ。そしてパルスィのとは違う甚平、やや薄く赤みがかかったそれはよく似合っていた。ただ、やはり体の大きさの違いから、ぶかぶかな感は否めなかった。



 ヤマメは最初こそ、下着にしろ甚平にしろ違和感のせいでもじもじとしていたが、次第に慣れてきたのか、もう特に気にする様子はなくなっていた。適当な場所に胡坐をかいて、くぁーと欠伸を一つする。

「私の服、どのくらいで乾くかね?」
「もう時間も時間だし、今日中は無理ね。洗ったり乾かしたりで、まぁ明日の朝には着れるんじゃないかしら」
「えっ、あれっ? もうそんな時間なの? そういえば、地底に来てから時間なんて気にしたこともなかったからなぁ……」
「地底には太陽がないからね、分かり辛いっちゃ分かり辛いわね。もう夜よ、時間的には。眠かったら、勝手にあっちの部屋で布団敷いて寝て構わないから」
「パルスィは?」
「あんたの服洗って、室内に干したら寝るわよ。それ以外に、別にすることないし」
「ん、そっか。あのさ、えっと、その……」

 あーとかうーとか、言葉に詰まりながらも何かを言おうとする。そんなヤマメに、パルスィは「何よハッキリ言いなさい」と少しだけ不機嫌そうに言った。うじうじしたところが鬱陶しいと言ったのに、何をまだうじうじとすることがあるか。パルスィからすれば、また妬ましくないに逆戻りで好ましくなかった。
 少しして、意を決したように、けれども顔を決して合わせないようにしてヤマメが言葉を紡ぐ。

「あ、ありがとぅ……」

 後半は声が小さくなっていた。なんてことないたった一言、けれどもヤマメにとっては久し振りに使った言葉だった。
 パルスィは一瞬、きょとんとした表情の後、小さく笑った。

「何に対してのお礼?」
「うっわ! それ訊くとか性格悪っ! 意地悪いっ! あーもうっ、なんでもない! 私は寝るから! お布団借りるね!」
「はいはい、おやすみヤマメ」
「~っ!?」

 名前を呼ばれたのなんて、どれくらい振りだろうか。ヤマメはよく分からない感情で、胸がきゅぅっとなるのを感じた。
 逃げるように、ヤマメはパルスィがいるこの部屋から出て、布団を敷きに向かう。
 ぐるぐると胸を渦巻くこの感情は、よく分からないことは確かだ。けれど、それは決して嫌な感じではなかった。





◆◆◆





「出会った頃のヤマメって、なんていうか今と結構真逆だったわよね。明るいというより、暗いっていうか」
「何さ、急に」
「ちょっと昔を思い出してね」

 橋に寄り掛かっているパルスィに、背を預けている形のヤマメ。はたから見たら、パルスィが背後からヤマメを抱き締めているように見えるが、別にそういうわけではない。ただ単に、ヤマメがじゃれてきているだけだ。
 そしてパルスィはそれを暑苦しいとは思いつつも、振り払うほどでもないとも思っている。だからこそ、このままの状態で居る。

「ほら、家に泊めてからさ、あんたちょくちょく私の家に来ることが増えたり。それなのに、しばらくは少しだけびくついてたりね。あの頃のヤマメ、時々だけど、がるるーって噛み付いてきそうだったわよ」
「あー……あの頃は他に行くところもなかったし。私が地底に来て初めて受け入れてくれたのがパルスィだったから、嬉しいけど怖かったんだよ。やっぱり拒絶されたらどうしようって」
「そんなあんたが、今じゃ地底のアイドル的存在とはねぇ……」
「そ、それは周りが勝手に言ってるだけで、別に私が自分からそうなったわけじゃあ……」

 ヤマメはやや困ったように言うが、その声にはどこか嬉しそうな音も帯びていた。
 そんなヤマメを見て、何も言わずに意地悪くにやつくパルスィ。ヤマメには背後のパルスィの表情を窺うことはできないが、それでも意地悪い笑みを浮かべてるんだろうなということが分かった。それなりに長い付き合いだ。それくらい、顔を見なくても簡単に分かる。

「そ、そうだっ! 今日は久し振りにパルスィの家、泊まって良い?」

 ヤマメはその場の空気を変えるかのように、そうくるりと後ろを向いてそう言った。正面から互いに抱き合うような形になるが、ヤマメもパルスィもそこは気にしない。

「はぁ? あんたあの頃と違って、もうちゃんと家だってあるでしょ?」
「良いじゃん、たまにはさ。ほら、洗いっことか一緒のお布団で寝たりとか! なんだったら、ご飯作ってあげても良いよ!」
「……仕方ないわねぇ。それじゃあとりあえず、今晩使う食材でも買いに行くとする?」
「うんっ!」

 れっつごーと言いながら、パルスィの手を引き歩き出すヤマメ。
 パルスィはこら引っ張るなと言いつつ、転ばないようにヤマメに合わせて歩き始めた。
 ヤマメの手のひらには、昔と変わらない温かさが確かに伝わっていた。
東方SS | コメント:0 | トラックバック:0 |
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