絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

ばか

2011年の冬コミにて頒布されました『学園あやれいむ合同』に参加させていただいたときのお話です。
扉絵の方は、こちらで見れます。

「んー……これってあんまり、使ったこと無いのよねぇ」
 放課後、静かな図書館の片隅に、コピー機の前で立ったまま渋い顔をしている少女が一人。足元には鞄が置いてあり、片手には一冊のノートを持っている。
 少女は特別大きい背丈ではないが、別に小さいわけでもない。白い肌に黒い髪。そして特徴的な、大きな赤いリボン。渋い表情をしているのに、少し幼さを覚えるその顔つきは、女性として『綺麗』というよりは『可愛らしい』という言葉の方が当て嵌まる。
 その少女、博麗霊夢は、慣れない手つきでコピー機のボタンを押した。
「わっ!」
 すると、ピッという電子音と共に、コピー機の小さな電子画面にメニューが表示された。若干古いコピー機である為、電子画面の文字が少し掠れてしまっている。だが、読めないレベルでは無い。コピーすること自体に、影響は無いだろう。
 しかし、サイズ調整や枚数指定やら、機械に慣れていない霊夢にとって、この手のことはさっぱり分からない。時間制限があるわけでもないのに、思わず動揺してしまい、キョロキョロと誰か助けてくれそうな人を探す。その様子はまるで、デパートで迷子になってしまった子どものようだ。
 そこでふと、視界に入る見知った顔。今の霊夢にとって、希望の光とも言える存在を発見した。
 黒いスーツを身に纏い、縁の細い眼鏡。そして非常に整った顔つきをしていて、霊夢とは違い『可愛らしい』よりも『綺麗』という言葉の方が当て嵌まる。どこか大人の雰囲気を匂わせる、そんな女性だ。
「あ――」
 声を上げようとして、霊夢はぐっと堪えた。ここが図書館で、大声を出すのはよくないと判断したからだ。
 しかし、小さな声で届くほどの距離でもなく、霊夢の目当ての人物はこちらに気付くことはない。
 そこで霊夢はポケットから、赤い携帯電話を取り出した。機械全般に疎い霊夢は、携帯電話をここ最近、やっと使い慣れてきたところだ。その携帯電話で、メールを送る。

 『図書館。コピー機前。すぐ来い』

 必要最低限のことだけを打ち、送信ボタンを押す。
 目当ての人物は、すぐメールに気付いたようで、霊夢の方へとやって来た。
「なんですか、霊夢さん? というか、同じ図書館に居るなら、わざわざメールなんてしなくても」
「文――じゃかった、射命丸先生! これ、どうすれば良いの!」
「は?」
 突然呼ばれ、突然の要求。
 文は一瞬ぽかんとするが、霊夢とコピー機を交互に見て、どういう状況なのかを把握した。そして思わず、苦笑いを一つ零してしまう。
「相変わらず、機械が苦手のようで」
「うっさい笑うな馬鹿」
「こらこら、先生に向かってその口の聞き方はなんですか?」
「うぐっ……」
 にやぁっとした笑みで言われ、言葉に詰まる霊夢。
 そんな霊夢を、このままもう少し弄ってやっても良かったが、学園内では誰が見ているか分かったもんじゃない。文はそれを理解しているからこそ、ここでこれ以上弄ることはやめにした。
「で? どのページをコピーしたいんです?」
「えっ? あ、あれっ? いつの間にっ!」
 いつの間にやら、文の手には霊夢が持っていたはずのノートがあった。
 文はノートをぱらぱらと捲り、中を見て小さく唸る。
「ふむ、正直意外ですね。あなたがこんなに、ちゃんとノートを取っていたなんて。いやぁ、良いことです」
「……それ、アリスの」
「……はい?」
「もうすぐテストが近いから、ノートを借りたのよ、アリスに。魔理沙は私に妙な対抗心を持ってるから、貸してくれないだろうしね」
 文から視線を逸らし、ぶっきらぼうにそう言った。その言葉はつまり、霊夢自身はノートをちゃんと取っていないことを表していた。
 そんな霊夢に、文は大きくため息一つ。それは呆れを込めた、わざとらしいため息だった。
「はぁ……あなたという人は、本当にもうっ。私、毎回言ってますよね? 授業中寝ていると、最後には自分にそのツケが返って来るって」
「う……」
「大体霊夢さんは、もう少し――」
「わ、分かったから! 私が悪かったってば! それよりも、コピーの仕方教えてよっ!」
 説教なんてごめんだ、という態度だ。
 文自身今まで何度も言ってきた分、今更これ以上言っても無駄だろうと判断し、再びため息を一つ零して、説教をやめる。
 そしてノートを適当に開き、コピー機にセットした。
「コピーするページは、テストの範囲部分ですね? ならノートを見た感じ、ここくらいからですね。そこのボタンを押して印刷枚数を決め、次にそっちのボタンでサイズを指定します。難しいことは、何一つありません。分かりますか?」
「えーっと……大体は?」
「……まぁ、ちゃんとコピー機くらいは使えるようになっておかないとダメですよ? 全く……いつまでも霊夢さんは、子どもっぽいというかなんというか」
「うっ、うるさいわねっ! あんたの説教なんて、聞きたくな――」
「霊夢さん」
 文が人差し指を、そっと霊夢の唇に添えた。
 ふにゅっと、柔らかい感触。指も唇も、互いに柔らかい。
「図書館では、お静かに」
「~っ!?」
 そう、小声で言われ、霊夢はかぁっと顔が熱くなるのが分かった。
 右手でパッと文の手を払い、ジトっとした目で睨む。だが、赤くなって睨むその姿は、怖いと言うよりは可愛らしいだけで、文は思わずクスッと笑みを浮かべた。
 そんな文の反応に、霊夢は睨むことさえ恥ずかしくなり、顔を逸らすしかなかった。
「はー相変わらず可愛いですねぇ、あなたは」
「……今の、生徒に対してそーいう発言、問題発言じゃない?」
「おおっと、これは失礼しました。是非とも、他言無用でお願いしますね」
「っ……ばーかっ」
「おやおや、教師に対してそーいう発言、問題発言では?」
「おあいこよ」
「それなら仕方ないですね」
 二人の小声のやり取りは、古いコピー機のコピー音にかき消された。
 他の誰にも聞こえはしない。
 無造作に遠慮のない機械音だけが、静かな図書館に響く。しかしその程度の音では、誰も反応すらしない。誰かがコピー機を使っているのだろう、程度にしか思わない。興味を持つことが無いのだ。
 文はそっと霊夢に手を伸ばす。触れた頬は、まだ少しだけ熱を持っているように感じられた。
「……何よ」
「いえ、別に」
 頬に手を添えて、くすっと笑うだけ。
 眼鏡の奥に見える文の眼は、どこか意地悪い。霊夢は少しいらっとし、文の脚を蹴る。本気ではないが、脛を狙った攻撃だ。当たれば、それなりに痛いだろう。
 しかしそんな攻撃も、ひょいっと容易くかわされてしまった。
「教師に暴力は関心しませんね」
「生徒に手を出す教師も、ろくなもんじゃないわ」
「おや? 頬に触れているだけですよ」
「今の世の中、それだけでも充分なセクハラよ」
「じゃあ訴えますか?」
「さぁ? どうしようかしらね?」
 ゆっくりと、文の顔が近付く。
 霊夢はジト目で睨むが、抵抗らしい抵抗はしない。ただ、ジッと睨むだけだ。
「そんな目をしても、あなたじゃあ可愛らしいだけですよ」
「そう、なら噛みついてやろうかしら」
「躾がなってない犬ですか、あなたは」
「どっちかって言うと、自由気ままな猫ってよく言われるわ」
「あぁ、なんとなく分かります」
 文は気紛れな猫を想像し、霊夢に当て嵌めてみる。あまり人に懐かず、懐いている相手にさえ気紛れに接する、本当に自由気ままな猫だ。すると、イメージにぴったりだった。それがおかしくて、思わずくすくすと笑ってしまう。
 するとそれが癇に障ったのか、霊夢はムッとした表情になった。
「ちょっと、なんか失礼なこと想像してない?」
「いえ、別に」
「それと、いつまで私の頬に触れている気? いいかげん、悲鳴の一つでも上げるわよ?」
「それは困りますね。では、その厄介な口を、塞がせていただくとしましょう」
「ちょ、ばかっ!?」
「静かにしてください。こんなところ、誰かに見られたらお互いに困るでしょう?」
 文は目を細め、顔をゆっくりと近付ける。互いの吐息を感じられるくらいに、近い距離だ。図書館の暖房が、やけに暑く感じてしまう。
 思わず霊夢は、反射的に目をきゅっと瞑ってしまう。本当は、抵抗の一つでもしてやりたいところなのに、それは出来なかった。体が、心が、文を受け入れてしまっていたから。この雰囲気に、流されてしまっていた。
 いつの間にか、コピー機はもう動きを止め、音を発していない。人気の少ない図書館とは言え、誰が見ているか分からない。もしかしたら、誰かに見られてしまうかもしれない。その妙なスリル、いけないことをしている感覚、そして言葉に言い表せない興奮。それらがぐにゃぐにゃと混じり合い、二人の鼓動をより早くした。
 あと数センチも無いというのに、その距離がやけに遠く感じる。唇を重ね合うまでの時間が、とても長く感じる。
「霊夢」
「あ、や……」
 そしてとうとう、二人の唇が触れ合うその直前。
「図書館はそういうことをする場所じゃないから、そういうことは自宅かどっかでやってくれないかしら?」
「ひゃあっ!?」
「パ、パチュリー先生っ!?」
 突然の第三者の声に、霊夢はびくっと震え、声を上げた。文は即座に、声がした方へと体を向ける。
 するとその方向には、一人の女性が立っていた。片手には一冊の分厚い本を抱え、どこか気だるそうな雰囲気を纏っている。けれども、その顔立ちは非常に整っていて、まさに文句なしの美人だ。
その女性は、図書館の主と異名を持つ教師、パチュリー・ノーレッジである。
パチュリーは文を咎めるかのように、何か威圧感のある眼で睨んでいる。その視線を浴びて、文は引き攣った笑みを浮かべながら、露骨に目を逸らした。
「誰が見ているのか分からないのだから、そういう行為は控えなさい」
「パチュリー先生、何か勘違いをしてらっしゃるようですが、私は今博麗さんの髪に糸くずがついていたので、それを取ってあげただけですよ」
「ふん、白々しいわね。その厄介な口を塞がせていただくとしましょう、なんて鳥肌が立つくらいに寒い台詞を言っていたくせに。それと博麗さんだなんて、下の名前は二人きりのとき専用なのかしら?」
「……えっと、パチュリー先生、いつからいらっしゃったので?」
「パチュリー先生っ、私は射命丸先生に、無理矢理襲われそうだったんです! 助けて下さって、ありがとうございますっ! というわけで、射命丸先生だけを処罰してやっちゃってください!」
「いっそ清々しいくらいに、私一人を犠牲にする気満々ですね!?」
「ちょっと二人とも、図書館で騒がないで。別に誰かに通報する気も無いから、安心しなさいな。あなたたちがどういう関係で、何をしようとも、私には割とどうでも良いし」
 くぁ~と欠伸をしつつ、パチュリーはそう言った。
 文はホッと、胸を撫で下ろす。もしこんなところが見られたりすれば、文だけでなく霊夢にまで迷惑がかかる。文にとって、自分はともかく、霊夢まで巻き込むことは嫌だった。
「ありがとうございます、パチュリー先生」
「でもまぁ、いくらこういう場所でするのが性的に興奮するからって、図書館でするのはやめてね。あなたの性癖上、我慢するのは大変かもしれないけど。我慢するのは、それはそれはとても大変かもしれないけど。ええ、大変だと思うけど」
「なんで三回も言うんですか!? なんだか、変な性癖だと勘違いされている気がしてならないのですが、私は普通ですからね?」
「生徒である私に図書館で手を出そうとする、か……確かに変態的ね」
「あれっ、受け入れる気満々だった人が、一体何を言っているんですかね?」
「パチュリー先生、今の射命丸先生の発言って、セクハラにならないですかね?」
「二人とも、のろけるならさっさと出てってくれるとありがたいわ。あなたたちの相手をしてるほど、私も暇じゃないのよ」
 しっしっ、と手でさっさと出て行けアピールをするパチュリー。その表情は、心底面倒臭いといった思いを、隠すこと無く表していた。
 居心地の悪さを感じて、文は苦笑いを浮かべつつその場を離れようとする。しかし、霊夢は動かない。
「ほら、行きますよ。パチュリー先生に迷惑がかかります」
「いや、私まだ他のページのコピー終わってないし」
「……後五分くらいだけ、居ても良いです?」
「はぁ……勝手になさい。あぁいうことをしようとしなければ、どうぞご自由に」





 ◇◇◇





「そういえば、霊夢さんはどのくらいまで、校内に残るつもりですか? コピーも終わりましたし、用事は無さそうですが」
「ん~別に部活もやってないし、テスト勉強もしなくちゃいけないから、もうすぐ帰ると思うけど」
 廊下を歩きつつ、軽く会話をする二人。放課後だからか、人はほとんど居ない。時折、すれ違う者が居る程度だ。校内に残っている者は、主に部活動をしている者たちだろう。部活に所属していない霊夢には、関係の無いことだ。
 霊夢がふと窓を見ると、まだそこまで遅い時間では無いのに、外はもう陽が落ちつつあった。外で吹く風は強く、窓がかたかたと音を立てて揺れる。それを見ただけで、少し肌寒さを感じられた。
「冬って面倒よねぇ。寒いと着込まなきゃいけないし、着込むと動き辛いし」
「ここ最近は、めっきり冷えてきましたからね。でも、面倒だからって、薄着はダメですからね? 風邪引いちゃう方が、よっぽど面倒ですから」
「そんなこと、言われなくても分かってるわよ。あと少しでテストだっていうのに、風邪なんか引いてらんないわ。追試も補習も、したくないものね」
 そうは言うが、霊夢の服装はただの冬の制服だ。普通生徒たちは、マフラーやコートといった防寒具を身につけていることが多い。コートとセーターは学校指定の物のみ着用可能だが、マフラーや手袋などは学校指定が無いので自由だ。
 それなのに、霊夢は特別何かを身につけてはいない。
「防寒具、持ってないんですか?」
 疑問に思った文が、そう訊ねてみる。
 しかし、霊夢はぷるぷると小さく首を横に振って、否定の意を表した。
「いくつか家にあるけど、なんか動き辛くてね。それに、無いと確かに寒いっちゃ寒いけど、あったらあったで暑くて鬱陶しいと言うか、なんと言うか……」
 ようするにあまり好きじゃないのよね、と霊夢は苦笑い気味に零した。それを聞いた文は、呆れたようにため息を吐く。
 しかしその直後、何かに気付いたかのようにハッとした顔になる。そして文は足を止め、霊夢の肩をグッと掴んだ。
 突然のことに、霊夢は少し、困惑気味の表情を浮かべる。それに対し、文は凛々しい表情で、いつになく真面目な顔つきで、ただ一言だけ訊ねる。
「……霊夢さん、あなたまさか、マゾなんじゃあ――」
「歯ぁ食いしばれっ!」
 次の瞬間、廊下に鈍い音が響いた。文の顎が霊夢のアッパーで、綺麗に打ち抜かれた音である。
 その場にしゃがみ込み、よく分からない言葉のような呻き声のような何かを発しながら、文はぷるぷると体を震わす。
 周りに誰も居なくて良かった、と霊夢は思った。反射的に行動してしまったが、もしもこんな場面を誰かに見られたら、特に教師陣に見られたりなどしたら、大変なことになっていただろう。ホッと息を吐いて、胸を撫で下ろす霊夢。文のことは、とりあえず完全に無視の方向だった。
「れ、霊夢さん……後で私と一緒に、生徒指導室へ来てもらえませんかね?」
「え? 悪いことは何もしてないけど?」
「今この状況、誰がどう見ても悪いのは明らかだと思うのですが」
「あんたが突然、変なことを言い出すのが悪い!」
 私は何も悪くない、と霊夢は明らかに文よりも小さい胸を、精一杯張った。
 文はふらりふらりと、まるでホラー映画に出てくるゾンビか何かのように、ゆっくりと立ち上がる。そして顎をすりすりと優しく撫でてから、ため息を一つ。
「あれはほら、ちょっとした冗談じゃないですか」
「冗談にはツッコミが必要でしょう? だからわざわざ、強烈なツッコミをしてあげたのよ。ありがたく思いなさい」
「最近はソフトなツッコミの方が、流行っていると思います」
「あんたは激しい方が好きかと思って」
「わーお、そこだけ聞くと私が危ない人に聞こえるので、是非ともやめていただきたいですね」
 ここだけ聞いたら、文にそういう性癖があるのかと色々誤解されかねない。
「実際危ない人のくせに。っと、それじゃあ私は帰ろうかしらね」
「え? あーなるほど」
 話しながら歩いていたら、いつの間にやら階段まで来ていた。霊夢はそのまま降りていけば、下駄箱へ行ける。そして文はこのまま進んで行けば、職員室へと着く。つまり、ここが二人の分かれ道だった。
 霊夢は軽く手を振り、去ろうとするが――
「れっいっむー!」
「ごふぁっ!?」
「……は?」
 元気の良い声と共に、霊夢は吹っ飛んだ。
 それはまさに、一瞬の出来事だった。文に背を向けた霊夢の背中に、何かが高速で突撃してきたのだ。文は突然の出来事に、ぽかんとしたまま固まっている。
 霊夢は廊下にうつ伏せに倒れたまま、動かない。そんな霊夢の背中の上に、無駄に良い笑顔の女の子が一人立っていた。そう、霊夢の背中の上に、立っていたのだ。つまりは、思いっ切り踏んでいる。
 その少女は、霊夢よりも幼い顔つきで、どこか活発な雰囲気漂う女の子だ。何故か黒いローブを身に纏い、その姿はまるでハロウィンやお伽噺に出てくる魔女のようだった。
「おっと、勢い余ってやりすぎた感があるぜ! けど、まぁ良いよな! だって霊夢と私の仲だし!」
「っ……! 魔理沙、あんた三秒以内に私の背中から退け。さもないと――」
「ほいほいっと」
 霊夢が言い終わるよりも先に、魔理沙は背中から退いた。ちゃんと三秒以内に退いた。すると、霊夢はゆらりふらりと、起き上がる。きらりと目が妖しく光っているように見えるのは、きっと気のせいだろう。多分。おそらく。
 文は引き攣った笑みを浮かべながらも、とりあえずは魔理沙を注意する。
「えっと……霧雨さん、あまり危険なことはしないように」
「おおぅっ、射命丸先生。そうは言っても、霊夢の背中が蹴ってくださいドロップキックをしてください魔理沙さんお願いします、と語っていたもので……つい」
「そう、なら私も聞こえるわー。魔理沙、あんたの腹部が霊夢様に殴られたいよーってね」
「うわー幻聴とか引くわーマジないぜー」
「よーし、霊夢さんその喧嘩買っちゃうわよー」
「こら、やめなさい二人とも」
 にははーと笑う魔理沙と、がるるるると唸る霊夢の間に割り込み、二人を止める。文にとって、霊夢と魔理沙の存在を知る者にとっては、もはやそれは見慣れた日常の光景だった。
 魔理沙がちょっかいを出し、霊夢が喧嘩を買う。そんな一見仲の悪そうに見える二人ではあるが、喧嘩するほどなんとやらというもので、実際はむしろ仲が良い。文は詳しくは知らないが、霊夢と魔理沙は腐れ縁のようなものらしい。
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ、じゃれ合うその二人の姿に、文は少しだけ嫉妬を覚えてしまう。
「魔理沙、射命丸先生に免じてここは許すけど、次やったら容赦しないわよ。次やったら、あんたのスカートを燃やす。あんたの目の前でね!」
「怖っ! つーか、陰湿すぎるだろ!」
「はいはい、博麗さんもあまり物騒なこと言わないの。それよりも霧雨さん、博麗さんに何か用があったんじゃないんですか?」
「んあ? いんや、別にこれと言って理由や用があるわけじゃないなぁ。ただ霊夢のっぽい背中が見えたから、蹴ってみたくなっただけで。ほらあれだ、蹴りたい背中ってやつだ!」
「射命丸先生、やっぱこいつ殴って良いですか? 良いですよね? あはっ、許可ありがとうございます!」
「いや、許可してないから。ちょっとこら、霧雨さんも対抗して博麗さんのスカート降ろそうとしない。色々とアウトだからね、それ。ちらっと見えちゃってるから」
 腹に膝蹴りやグーパンチをする霊夢に対し、魔理沙は霊夢のスカートを全力で引っ張る。そのせいで、魔理沙はよろめき、霊夢はちょっと見えちゃいけない布がチラッと見えてしまっている。
 そんな二人を見て、主に霊夢の下着を見て、へぇ淡いピンクなんだ可愛いわね、とかそんなことを思いながらも、文は二人を止める。
「ちょっと、霧雨さんもピンクさ――げふんげふん博麗さんも、いい加減にしないと先生怒っちゃいますよ」
「おいこら今私のことなんて呼ぼうとしやがったセクハラ教師」
「……い、いえ別に何も?」
 魔理沙の前だということも忘れ、とても良い笑顔で文の胸倉を掴む霊夢。文は目を逸らし、あははと引き攣った笑みを返した。
「こらこら霊夢、先生に手をあげるなんて、面倒なことになっても知らないぞ」
「うっさいわね。元はと言えば、あんたのせいでしょうが」
「大丈夫、分かってるって。お前が心配しているのは、下着の色を言いふらされることだろう? もしそうなったとしても、私穿かない主義なんだから誤解しないでよって言えば、誤解は解けるはずだ、安心しろ!」
「新たな誤解が生まれるでしょうが! しかも、誤解が悪化してるわ!」
「あーえー、そ、そう言えば霧雨さん、その格好は一体?」
 何やらまた悪い雰囲気になりそうだったので、文は無理矢理にでも話題を変えることにした。文の疑問は霊夢も気になっていたことのようで、霊夢は文を離した。
 魔理沙は一瞬何のことか、ときょとんとした表情になる。軽く首を傾げた後、自分の格好を見て、すぐに何のことを訊かれているのかを理解した。
「あぁ、この衣装か。実は今、部活動中だったんだ」
「魔理沙って確か、占い研究部だったわよね? 占いをする魔法使いの衣装、みたいなもの?」
「魔法使いってのは正解だ。だが、それ以外は不正解。つい先日、占い研究部とオカルト研究部が合体して、新しい部活になったんだよ。その名も、不思議研究会!」
「……オカルトと何も変わらないような」
「いやいや、不思議研究会は凄いぞ。これを着てないと、部室入室禁止なんだ」
「みんな黒いローブ着用!?」
 部室に黒いローブを着た集団が集まっている光景を想像し、なんとも通報されそうな絵だと霊夢は苦笑いを零す。しかし、魔理沙はとても楽しそうに語る。それを見ると、おかしいとは思っていても、口に出すのは野暮というものだろう。
 霊夢も文も、特に何かを言うことは無かった。
「そんじゃあ、霊夢の背中を無事蹴ることも出来たし、私は部室に戻るとするぜ。射命丸先生、さよならー。ピンク――じゃなかった、霊夢! またな!」
「はい、霧雨さんさようならー」
「魔理沙、次に会うときがお前の最期だと思っておきなさい」
 霊夢の殺気が込められた視線を軽く流しつつ、魔理沙は笑顔で廊下を駆けて行った。文が廊下を走るなと注意するよりも早く、魔理沙はもう見えなくなってしまった。
 さっきまであんなにも騒がしかったのに、今はとても静かだ。文と霊夢は、同時に息を吐いた。
「はぁ、まるで嵐のような子ですねぇ」
「……ったく、毎度毎度騒がしいのよ」
「そうは言いつつも、楽しそうだったじゃないですか。仲が良いのは、良いことです」
「えぇいっ、その生温かい目とニヤニヤをやめなさい!」
「おっと、これは失礼」
 ニヤニヤとする文の脛を、霊夢は軽く蹴った。その行動が、霊夢の照れ隠しだと言うことは、ちゃんと分かっている。なので、文は心の中でくすくすと笑ってやることにした。
 あぁもう本当に可愛らしい。文はそう思い、ぎゅっと抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。我慢しなければとは思っていても、うずうずと、体がうずいてしまう。
 すると霊夢は、まるで警戒心の強い猫のように、ふーふーと唸り始めた。なんとなく、身の危険を察知したのだろう。
「……なんか危ない予感がした。主に無理矢理抱き締められるような、そんな予感が」
「相変わらず勘が鋭いようで。けど、こんなところで抱き締めるなんてこと、勿論しませんよ。その代わりと言っちゃなんですが、少しの間、目を瞑っていてくれますか?」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「大丈夫、私を信じてください」
 ニコっと微笑む文に、霊夢はより警戒心が増した。信用のならない、胡散臭い笑顔だ。嫌な予感しかしない。絶対に何か、変なことをされる。そう、霊夢の勘が告げていた。
 だから霊夢は当然、拒絶の意を表そうとした。
「嫌に決まって――」
「霊夢、数秒だけ、目を閉じて?」
「――っ!?」
 だが、拒絶出来なかった。
 距離を詰めた文が、耳元でそう囁いたから。それは甘く優しい声。けれども、悪戯っぽさも込められていることが分かるような、そんな声。
 霊夢はその声に、耳にかかる吐息に、反射的にギュッと強く目を閉じた。
 すると、次の瞬間――
「んっ」
 頬にふにゅりと、マシュマロように柔らかい感触。ちゅっと音を立て、それはすぐに離れた。
 霊夢は目を大きく開き、頬に手を添えて、口をぱくぱくとさせる。今の一瞬で何をされたのか、頭で理解しているけども、言葉が出ないのだろう。
 そんな霊夢が可愛くて、文は悪戯成功といった笑みを返した。
「ふふっ、すみません、可愛すぎたので、我慢が出来ませんでした。大丈夫、誰も見てないことを確認してからの行動ですし、たった一瞬のことなので」
「な、な、な、何してるのよ馬鹿ぁ!」
「ほっぺにちゅー」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
「こっちの方が、良かったですかね?」
「~っ!」
 文が人差し指を、霊夢の柔らかい唇に押しあてる。
 すると霊夢はその意味を理解し、顔をかぁっと赤くして、文の手を払った。
「か、帰る! じゃあね、このセクハラ教師!」
「はい、また明日」
 霊夢は踵を翻し、文に背を向けて、さっさと帰って行った。
 その後ろ姿を眺めながら、文はまた一つ、笑みを零した。





◇◇◇





「ったく、あの馬鹿文っ! あんなところ、誰かに見られたら……」
 帰宅途中、霊夢はようやく顔の熱が引いてきていた。
 ぶつぶつと文に対しての不満を呟きつつ歩くその姿は、若干近寄りがたいものがある。普通の人が見たら、割と危ない人の部類に入るだろう。
 ため息混じりに歩いていると、霊夢のポケットがぶるぶると震えた。携帯のバイブ機能だ。それは数秒でストップし、その長さから電話では無くメールであるということが分かった。
 霊夢は携帯を取り出し、メールを開く。
「んー? 一体誰かしら……って、なんだ文か。えーっと、一体何――ッ!?」
 届いたメールの内容を読んで、思わず携帯を閉じてしまった。
 せっかく引いてきた熱が、また熱さを取り戻す。やばい、今絶対真っ赤だ。霊夢自身、そう分かっているのに、どうしようもなかった。

『今日の続きは今度、私の家で、じっくりね』

 霊夢は数回深呼吸をした後、そのメールに返信した。
 ただ二文字だけ。それに精一杯の想いを込めて。

『ばか』
















~当時のあとがき~
 喉飴(あみゃ)です。学園&あやれいむと言うことで、文さんには教師になっていただきました。きっと学生同士が多くなるかなと思ったのもありますが、教師と生徒って関係、アリだと思うんです!
 色々と語りたいことはありますが、あえてシンプルに一言だけ。あやれいむ&れいあや最高!
 というわけで、このような場を与えて下さった主催殿に感謝を。挿絵のいちさん、毎度毎度ありがとうございますホント大好きです。他の参加者の方々、お疲れ様でしたっ。そしてこの本を手に取って下さった方に、心からの感謝を!


~今のあとがき~
あやれいむウフフ。


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