絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

もしも詰め合わせ~文&霊夢編

誰得? 私得です。
今回はもうなんかいろいろ無視して、完全に私得を貫きました。
本当は10個だったのですが、予想外に長くなりそうなので3つにしました。
それぞれ少し、雰囲気が違ったりしたりしなかったり。詰め合わせなので、細かいところはすっ飛ばしたりも。たまにはこういうのも良いですよね、きっと!
1つ目が『もしも風神録で文が霊夢に勝ってしまった場合』、2つ目が『もしも霊夢が幼い頃、文に出会っていたら』、3つ目が『もしも霊夢が地霊殿にて途中で負けてしまったら(文装備)』となっています。




 1.もしも風神録で文が霊夢に勝ってしまった場合



「手加減してあげたっていうのに……」
「っ、今日はちょっと不調だったのよ」
「でしょうねぇ。真剣勝負ならともかく、弾幕ごっこであなたが手を抜いた私に負けるだなんて、本当に不調だったのでしょう。まぁ、勝ちは勝ちです。こちらのことは我々山の妖怪たちで解決するから、巫女は神社へ戻って茶でも飲んでなさいな」

 地に伏せている霊夢に、そう言葉をかける。文の眼は鋭く、普段のふざけたような態度ではない。普段の射命丸文としてでなく、妖怪の山の組織としての射命丸文だ。
 その威圧感と普段とのギャップに、霊夢の体がぞくりと震えた。

「さぁ、これ以上怪我をしないうちにお帰りなさいな」
「……嫌」
「は?」
「異変解決は私の仕事なの。だから……」

 ふらりふらりと立ち上がり、服に付着した土埃を手で払う。
 そしてお祓い棒をスッと文の方へ向けて構える。

「ここでのこのこと帰るわけにも、いかないのよねぇ」
「コンテニューしたところで、今のあなたじゃあ詰みじゃないですかね」
「やってみなくちゃ、分からないでしょう?」
「なるほど、結果が見えないほど馬鹿でしたか」
「あぁ? 頭叩き割るわよ?」
「そのボロボロな姿で、よく言えるわね」
「ちょうど良いハンデよ。これで負けたら、あんたの言うことなんでも聞いてやっても良いわ。それくらい、負ける気がしない」
「まぁ、その根拠の無い自信こそ、いつもの巫女って感じね。どれ、調子が戻って来たのか確かめてあげる!」
「スペルカードは一枚!」
「同じく、一枚!」

 互いにスペルカードの枚数を宣言。
 文がスペルカードを天に掲げると、その瞬間から、辺り一帯を巻き込む嵐のような強風が吹き荒れる。

「無双風神」

 その言葉が霊夢の耳に届く頃には、既に霊夢の視界から文は消えていた。霊夢が扱うような瞬間移動の類でも、紫が得意とするスキマ移動術でもない。これはただ純粋な『速さ』だ。
 文の一番の武器、速度。ただでさえ速い文が、その身に風を纏い、限界まで速さを昇華させた技が無双風神だ。その速度は最早、目にも映らない速さ。
 しかもただ速く動くだけでなく、動くたびに高密度の弾幕をばら撒く。そのせいで動きが制限され、思うように避けることが困難となる。その上、姿の見えない状態の文には、並み大抵の攻撃は通用しない。中途半端な威力の弾幕なら、文の限界まで加速した肉体に弾かれて終わるだろう。
 試しに霊夢はホーミング弾幕を放つ。が、案の定、ホーミングの速度では文に追い付くことすらできず、まぐれで当たったいくつかの攻撃も、やはり弾かれて無効かされてしまった。

「……夢想天生」

 そして大量の高密度弾幕が霊夢を囲み始めたころ、霊夢はぽつりと呟き、スペルカードを発動させた。
 それはまさに、霊夢だけに許された、最高の技。時間制限さえなければ、誰も霊夢に勝てなくなってしまうような反則染みたスペルだ。
 ふぅっと、霊夢の存在が希薄になる。半透明になったその状態の霊夢には、ありとあらゆる攻撃が通用しない。そして霊夢の意志と関係なく、自動で攻撃が開始される。文の無双風神同様、時間が短く限られた技ではあるが、その分強力すぎるくらいの技だ。
 これは持久戦になるかもしれない、と文が思ったそのときだった。

「あれ?」
「……え?」

 半透明だったはずの霊夢の体が、存在が、元に戻ってしまっていた。時間制限があるとはいえ、あまりにも早すぎる。数秒も経っていない。
 その様子に、霊夢自身戸惑いを隠せなかった。しかし、勝負は勝負。その隙を、文が見逃すはずもなく――

「隙あり、ね」
「へ?」

 気付くと霊夢は、前後左右斜め、あらゆる方向から高密度の弾幕に囲まれていた。弾幕ごっこではあるので、一応逃げ道はあるが、時既に遅し。魔理沙ならともかく、霊夢の速度では到底間に合いそうにない。
 そしてスペルカードは一枚との宣言もしてしまったので、亜空穴や夢想封印などを使っての回避も不可能だ。
 さすがにこれは詰みだ、と霊夢は心の中で負けを認める。ふぅ、とため息一つ。

「さて、どうしますか? 降参するなら、ここでやめてあげるけど?」
「降参降参。ただでさえ不調だってのに、無駄な怪我増やしたくないしね。はぁ……」

 ひらひらと手を振り、降参のポーズ。
 それを見た文は技を止め、ふっと霊夢の目の前に姿を現した。さすがに文も疲労したのか、額には汗が滲んでいる。

「さぁ、負けたら言うことなんでも聞くって約束でしたよね」
「……不調の私に何をさせようってのよ。さっきの見て分かってるだろうけど、今の私まともに霊力すら練れないわよ。夢想天生が不完全だったのも、きっとそれが原因だし」
「いえ、何もしないでください」
「は?」
「なんでも言うこと聞くんですよね? なら、お願いだから、何もしないで。大人しくしていて欲しい。今の霊夢じゃ、確実にこの先に行ってもやられるもの。この山の騒ぎが収まるまで、私の家で大人しくしてなさいな」
「それはつまり、これ以上関わるなってこと?」
「それもあるけど、あなたのことを一応心配してるのもあります。そんな状態でこの先に進むならば、弾幕ごっことはいえ最悪大怪我しますよ。不調なら大人しくしてなさいな」
「うぐ……」

 顔を背ける霊夢に、文はわざとらしく大きなため息を吐いた。
 そして霊夢へと近付くと、一気に霊夢の脚を救い上げ、下から腕で支える状態へ。所謂お姫様抱っこをした。

「なっ!? 何するのよ! 離しなさい!」
「はいはい、大人しくしてくださいな。巫女は私の家、知らないでしょう? 連れてってあげますよ」
「別にこの体勢になる必要は――」
「なんでも言うこと聞く、ですよね?」
「っ……」

 ジトっとした目で文がそう言うと、胸の中にいる霊夢は俯いて大人しくなった。
 文はそのままスピードを上げ、自宅へと戻った。途中で他の天狗たちに会わないように、気を付けながら。



 ◇◇◇



「それじゃあ私は、天魔ちゃんや大天狗のじいさんに報告しに行って来るんで。家の物、好きに使ってくれて構わないので。お布団で寝てても良いですし、何か食べたり飲んだりしていても構いません。あ、新聞関係のものにだけは触れないで下さいね」
「はいはい、分かったわよ。というか、天魔とか大天狗とかそんな気軽に呼んで良いの?」
「天魔様は見た目幼女ですし、大天狗は昔からの知り合いなんで。それより、大丈夫? 一人で待ってられますか?」
「あんた、私を子どもか何かと勘違いしてない?」
「私からすれば、貴女なんてまだまだ立派な子どもです」
「痛っ!」

 頬を膨らませる霊夢に、軽くでこぴんをする文。
 霊夢はますます子ども扱いされたように感じて、少し不機嫌になる。

「それじゃあ、行ってきます」
「ん、行ってらっしゃい」

 それでもちゃんと見送る辺り、可愛いなとか思う文であった。
 ばたん、と扉が閉じられる。しんとした静寂が訪れる。
 霊夢は特にすることが無い。ただ、大人しく待っておけと言われただけだ。

「うーん、やっぱり体がちょっとだるいし、寝ておこうかしらね」

 寝室はどこだろうか、と家の中をうろちょろ。そして適当に開けてみた部屋が、見事寝室だった。案外とあっさり見つかったのは、天性の勘の良さだろうか。
 布団が敷いたままの状態であったので、霊夢はとりあえずそこにダイブする。布団はぼふっと、霊夢の体を受け止めた。
 うつ伏せになったまま、霊夢は動かない。布団特有の心地良さに、身も心も奪われているのだ。

「はぁ~……なんか疲れた」

 ここ数日の宴会やらが祟ったのか、日々の疲労が溜まっていたようだ。
 目を瞑ると今すぐにでも、眠りにつけてしまえる。霊夢はそう思っていた。
 すぅ、と呼吸をすると、さっきまで感じていた匂い。何の匂いだろうか、と考える。

「……あぁ、あいつの匂いか」

 それが文の匂いだということに気付くのに、時間はそうかからなかった。
 霊夢はまるで、文に包まれているような錯覚に陥る。そしてそんなことを感じる自分自身が恥ずかしくて、思わずかぁっと赤くなった。誰が居るわけでもないのに、その顔を見られたくないと思い、枕に深く顔を埋める。
 だが、しばらくして呼吸が苦しくなり、枕から顔を離す。

「ぷはぁっ。んー……ねむ」

 瞼が重く、体に力が入らない。
 霊夢はゆっくりと夢の世界へ、誘われて行った。



 ◇◇◇



「巫女ー! みこー! 霊夢さーん!」
「んっ……ぅ」
「あ、起きました?」

 霊夢が目を覚ますと、目の前には文が顔を覗き込むようにして立っていた。
 まだ少しだるさを覚える体をなんとか起こし、霊夢はしょぼしょぼした目を擦る。

「あぁ、まだ眠かったら寝ても良いですよ。すみません」
「んにゃ……もう充分休んだわ」
「一応霊夢さんにも報告をしておきます。突然現れた者たち、まぁ神だったわけですが、争うこと無く話し合いで今後を決めることになりました。それと幻想郷でのルールを一通り伝えたら、従うとのことだったので、まぁ無事解決ってとこですかね」
「……そう」

 なんだかんだで解決したのか、と一応ホッとする霊夢。
 そこでふと、霊夢は気付く。文の服が所々ボロボロなことに。

「あんたもしかして、そいつらとやり合ったの?」
「交渉人として行ったんですけどねぇ。最初は少し、喧嘩を吹っ掛けられたので、ちょっと痛い目見てもらいました」
「痛い目見させたって、相手は神でしょ?」
「まぁ神だろうとなんだろうと、相手によって戦い方を変えればそこそこいけますよ。まぁ勝ったわけでも負けたわけでもないですが、私のその強さを気に入ったとかで話を聞いてくれたので、まぁ無駄な戦いではなかったです」

 へらへらっとした顔で、割ととんでもないことを言う。
 霊夢は「そう言えば文の本気って見たことがないかもしれない」と心の中で思った。霊夢が想像しているよりも、ずっとずっと強く賢いのかもしれない。

「ま、そんなことはどうでもいいの! 霊夢、体の調子はどう?」
「え? あぁ、うん。そこそこ良くなったかしら」
「まだ本調子ではないのね。なら今日は泊まって行きなさない。もう夜だし、本調子じゃない貴女をこんな時間一人で帰らせるなんて出来ない」
「大袈裟よ。大丈夫、帰れるから――」
「なんでも言うこと、聞くんですよね?」
「いや、それはもう効力切れじゃない?」
「だーめっ! せめて今日一日、言うこと聞きなさい」
「……はぁ、分かったわよ」
「素直でよろしい」

 こりゃダメだ、と判断した霊夢は素直に受け入れることにした。文はうんうんと頷き、笑みを浮かべる。
 異変解決に来たつもりが、何故かお泊まり会になってしまった霊夢であった。



 オチなし!





 2.もしも霊夢が幼い頃、文に出会っていたら



「はぁ!? 新しい博麗の巫女が幼女!?」
「ちょっと、はたてうるさい。それと幼女言うな。幼いってだけよ」

 文はカメラの手入れをしつつ、驚いているはたてを横目で見る。
 つい最近、博麗の巫女が代替わりしたという噂があった。まだ多くの情報は無いが、噂好きの天狗たちにはいくつか出回っている噂がある。なんでも、まだ幼い子どもだとか、天才だとか、実は人間じゃなくて妖怪だとか、睨まれた妖怪は一瞬で退治されるとか。いろいろと嘘くさい噂も混じっていた。
 カメラの手入れを終えると、胡坐をかいていた文は「よっこらしょっとね」とやや年寄り臭い言葉を漏らしつつ、立ち上がった。

「さてと、私は出掛けるけど」
「ん、じゃあ私はもう帰ろうかなー。文は何処行く気?」
「博麗神社。真偽をこの目で確かめに、ね」
「へー何か面白いことあったら私にも教えてね」
「あんたも自分で行きなさいよ」
「私の能力知ってるでしょ? 行く必要が無いもの」
「毎度言ってるけど、それじゃあ遅いでしょうに」
「別に、私は文章面で頑張るから良いの」
「あっそ。まぁ、精々頑張りなさいな」
「文もね」

 互いに顔も見ず、ひらひらと手を振るだけで別れた。
 はたては自宅に戻り、文は博麗神社へと向かう。



 ◇◇◇



「さて、と。着いたは良いけど、ここに来るのは久し振りね」

 文が風を纏いながら境内へと降りると、賽銭箱を覗いている巫女の衣装を纏った幼い女の子が居た。女の子は中を確認することに夢中のようで、文の存在に気付いていない。
 あれが噂の子か、と文は近付く。

「あなた、新しい博麗の巫女?」

 声を掛けられた女の子が、くるりと振り向く。

「帰れ妖怪」
「わーお……」

 ジトっとした目で、いきなりの第一声がそれだった。
 あまりにも予想外すぎる態度に、文は思わず口を開いたまま固まってしまった。

「いやいやいや、いきなりそれはないでしょう」
「ん? 言葉通じなかったの? じゃあ、もう一回言うわね。帰れ阿呆妖怪」
「さっきより言葉が悪い!? えーと……とりあえず、質問に答えてくれますか?」
「答えたら帰る?」
「どんだけ私のことが嫌いなんですか……」

 特に悪いことは何もしていないはずなのに、何故こうも嫌われてしまったのか。そこまで第一印象が悪かったのだろうか、と文は少しショックを受けた。
 しかし、女の子はぷるぷると首を振る。

「好きとか嫌いとか、そういうのじゃないの。ただ私は巫女として、人外を退治しなくちゃいけないから」
「あぁ、やっぱりあなたが巫女なのですね。お名前は?」
「人に名前を訊くときは、まず自分からって常識じゃない?」
「射命丸文です。で、名前は?」
「……霊夢。博麗霊夢よ」
「ふむ、霊夢さんですか。霊夢、れいむ……ほうほう」

 文は何度か名前を繰り返し呟き、そしてポケットから文花帖とペンを取り出した。適当な白紙のページを開き、そこにカリカリとメモを取る。

「霊夢さん、是非とも取材をしたいのですが」
「……話聞いてた? 私は妖怪を退治しなくちゃ――」
「ですが、無理に戦おうとしなくても良いのでは? あなたは視界に入る妖怪、全てを対峙する気ですか? 退治するのは、敵意も持つ者や害のある妖怪だけで良いと思いますよ」
「む……」

 文の言葉に、霊夢は確かにそうかもしれないと考え込む。
 顎に手を添えて、むーんむーんと考える。
 容姿は幼いのに、どこか年寄り臭い。その様子に、文は少し苦笑いを零した。

「うん、一理あるわね」
「一理あるって……子どもが使うような言葉じゃないですよ」
「で? 取材がしたいの? 別に良いけど、何も面白いことなんてないわよ」

 もう存在が面白いです、と文は言いたくなったが、なんとかその言葉は飲みこんだ。
 貼り付けただけの笑顔を見せ、霊夢の警戒心を解こうとする。営業スマイルを作るのは、慣れている。
 しかし霊夢は、そんな文を見て顔をしかめた。

「どうかしましたか?」
「あんたの笑顔、嘘臭くて信用ならないんだけど」
「……いえいえ、嘘なんて一切ないですよ」
「そんな明らかな作り笑い、貼り付けただけの笑みなんて、誰にも通用しないわよ」

 はぁ、とため息混じりに霊夢は言った。
 文は見抜かれたことや霊夢のその態度を見て、本当に幼い子どもなのだろうかと純粋に疑問を抱いた。しかし疑ったところで、妖怪には到底見えないし、そんな気も感じない。
 つまりは博麗の巫女ではあるが、種族はただの幼い人間。
 文の好奇心が、ふつふつと沸いてくる。

「これでも今まで、誰にも見抜かれたこと無かったんですけどねぇ。いやはや、面白い人ですね、あなたは」
「あんたの周りのやつが鈍いだけなんじゃないの。私からすれば、分からない方がおかしい」
「ところで、霊夢さんは人間ですよね?」
「人間に見えないのなら、眼科をお勧めするわ」
「妖怪である私が、怖くないのですか?」

 友好的な妖怪ならともかく、本来ならば突然現れた未知数の妖怪に、霊夢のような態度は出来ないだろう。
 それが出来るのは、無知ゆえの愚かな行動か、はたまた襲われても返り討ちに出来ると言う自信からか。
 すると霊夢は、特に表情を変えることなく、首を傾げて一言。

「なんで自分より弱い奴に怯えなきゃならないの?」

 ピシッと、文が固まった。文にだけ、氷河期到来だ。よく見ると、ぷるぷると体を震わせ、引き攣った笑みを浮かべている。
 どうしたのだろうか、と霊夢はきょとんとしている。

「ねぇ、どうしたの?」
「……あ、あははー。私これでも、あなたと比べ物にならないくらい生きてるんですけどねぇ。いやぁ霊夢さん、今後のあなたの為に言っておきますが、怖いもの知らずも程々にしないといつか痛い目を見ますよ」
「へぇ、あんたが見せてくれるの?」
「見せて欲しいですか?」
「やれるものなら」
「ふむ、初めに私の力を教えておくのも良いかもですねー。というか、あなたは一度痛い目にあっておくべきかもしれません。私だから良いものの、凶悪な妖怪とかなら痛い目ってレベルじゃ済まないかもですし」

 霊夢はお祓い棒を構え、鋭い目つきで文を睨む。
 これは子どもがする目つきじゃないなぁ、と文は心の中で零す。
 幼いその姿からは想像出来ないような、気を抜くと呼吸を忘れてしまいそうな威圧感。対峙しただけで、実力のある者ならば分かる。並み大抵の力ならば、到底敵わないだろうということを。確かな実力と才能が、ひしひしと伝わる。

「ふむ、自信満々なだけはありますね。ですが、世界の広さを知ると良いです! 覚悟!」
「幻想郷は狭いじゃない」
「いや、そーいうことじゃなくてですね……あーもうっ、いきますよぉ!」
「かかってらっしゃい!」



 ~少女勝負中~



 数分後、境内には仰向けで倒れて動かなくなったままの霊夢が!
 動けなくなったと言っても、別に致命傷を負ったとかそんな重大なことではない。ただ単に、疲労しきって体に力が入らないのだ。大きく呼吸をするたび、胸が上下する様がよく分かる。息を切らし、服もボロボロ。しかし、肌に目立つ傷はない。そこは文が、考慮して戦っていたからだろう。
 それに対し文は、体の露出している箇所にあちこち傷が出来てはいるが、どれもこれも掠っただけのような浅いものばかりだ。

「ふぅ、末恐ろしい子ですね。まさかここまでやれるとは……」
「……けど、あんたの勝ちじゃない」
「当たり前ですよ、年季が違います。とは言っても、確かにあなたの実力ならば、そこらのやつらには負けないでしょうねぇ。天才、と言うやつでしょうが」
「体痛い」
「いや、そりゃあそうでしょう」
「痛い」
「でしょうね」
「……動けない」
「う?」

 しばし、無言。
 ジーッと見つめられ、何を求められているかなんとなく察する文。
 仕方なく歩み寄り、そっと手を伸ばす。

「おんぶと抱っこ、どっちが良いですか?」
「部屋の中まで運んでもらえば、それで良い」
「つまり、どっちでも良いと。じゃあ抱っこで」
「うん、さっさとしなさい」
「……何故上から目線なんですかね」

 負けてもこの態度は変わらないのか、と文は苦笑いを零しつつ、霊夢を抱える。
 見た目以上に軽く、そして子ども体温なのか温かい。

「いやいや、それにしても将来が怖い子です」
「……うーん、私って弱いのね」
「私が強すぎただけですよ。相手が悪かったと思えば良いのです。自信満々なだけはありますよ、霊夢さんの力。その年齢でこれなら、あと十年もしたら敵無しとかになってそうですねぇ」
「ちょっとうるさい。眠いんだから、あんまり喋らないでよ。そして口を動かす暇があれば、速やかに私を部屋へと運びなさい」
「とても理不尽!?」

 どっちが勝者なのか分からなかった。



 ◇◇◇



「では霊夢さんは、特に修行したわけでもなく、この力が身に付いていると」
「うん。修行すれば、もっともっと強くなれるらしいけど、私は努力とかそういうのを信じてないし。必要があれば、そのとき必要な分の力は付けようとは思うけどね」
「ふむふむ、なるほど。では次の質問ですが――」
「……まだあるの?」

 げんなりとした表情で、いかにも疲れていますといった感じだ。
 しかし、そんな霊夢とは対照的に、文はとても生き生きとしている。それもそのはずだろう。こんな面白そうなことを、文が好まないはずがなかった。
 座布団にちょこんと座ったまま、霊夢は卓袱台の上の湯呑みを手に持ち、お茶を飲む。熱かったお茶も、文の長い質問責めのせいで、すっかり冷めてしまった。

「霊夢さん、ご家族は?」
「さぁ? 物心ついた頃には一人だったし、そんな存在が居たのかどうか。あぁでも、なんとなく、誰かの腕に抱かれていた感覚は覚えてる。それが家族のものなのか、分からないけどね」
「ふむ、では一人暮らしですね。食事などは?」
「自炊くらい出来るわよ。当たり前でしょう」
「いや、その年齢で自炊完璧って、中々に凄いことだと思いますが」
「ねぇ、そろそろ夕飯時なんだけど、あんたはいつ帰るの?」
「あ、じゃあせっかくなんで泊まりますよ。まだまだ訊きたいこと、ありますしね」
「……負けたから取材は許可したけど、泊まってくことまで許可した覚えはない」
「ご飯は鶏肉類を使わないものをお願いしますね」
「だから――」
「もしかして布団が無いとか? 大丈夫、一緒の布団で構いませんから」
「話を聞け!」

 お手玉サイズの陰陽玉を裾から取り出し、投げ付けた。それは見事、文の額に直撃し、文は反射的に変な声を上げて、のけ反った。
 大したダメージは無いが、それでも額は少し赤くなった。
 手で擦りながら、文はふぅとため息を吐く。

「分かりました。そうですよね、いきなりそれは図々しいですよね」
「分かれば良いのよ、うん」
「布団じゃなくて、床で構いません。まだちょっと冷えますが、一応春にはなりましたし、なんとかなるでしょう」
「っ! そーいうことじゃない!」
「まぁまぁ落ち着いてください。ほーら、お賽銭ですよー」
「っ!?」
「あれ?」

 文が冗談でお賽銭と言って小銭を出すと、霊夢はその小さな身体をぴくっと震わせた。そしてさっきの怒りはどこえやら、小銭をちらちらっと見ては、そわそわして落ち着かない様子だ。
 小銭を乗せている右手を動かすと、霊夢の視線がそれを追う。まるで、動くものに反応する赤ん坊のようだ。

「お金、好きなんですか?」
「違っ!? そ、お金だからとかそういうのじゃなくて、その……私が巫女になって、まだお賽銭一度も入ってないから」

 霊夢はごにょごにょとそう漏らし、かぁっと顔を赤くして、俯いてしまう。
 何この可愛い生物。文はそんなことを思った。

「ちょっと待ってて下さいね」
「え、ちょ、何処に行くの?」

 すぐ戻りますから、とだけ残して、文は小銭を持ったまま何処かへ行ってしまった。
 霊夢がきょとんとした状態で待っていると、数分もしない内に文は再び部屋へとやって来た。一体何をしに、何処へ行っていたのかと首を傾げる霊夢。

「ふぅ、ちょっとお賽銭入れて来ました。これで私が、初めてのお賽銭入れた存在ですね!」
「……え?」
「何をぽかんとしていますか。嬉しくないですか?」
「嬉しくないわけがないけど……初めてがあんたかぁ」
「そこでため息は酷くないですか!?」
「えへへっ、冗談よ。ありがと、文! よし、泊まって行くことを許可するわ!」
「わぁい!」
「ただし、布団には入れないからね」
「えぇー……」

 とりあえず、お泊まり決定だ。



 ◇◇◇



 深夜零時を回る頃、霊夢は目の前の文をただじーっと見ていた。その瞳に込められた感情は、憐れみだ。
 布団にくるまっている霊夢とは違い、文は畳の上に転がっている。下着と白いシャツだけという、半裸で。
 なんとも言えない沈黙が、もうかれこれ数分は続いている。

「あの、霊夢さん」

 先に沈黙を破ったのは、文の方だった。

「いやまぁ、まさか寝巻が無いことは予想してなかったと言いますか。以前の巫女さんの寝巻くらい、あるかなーって思ってたわけで」
「昼間穿いてたスカート着て、そのまま寝れば良いじゃない」
「皺ついちゃうじゃないですか」
「そのシャツは良いの?」
「……さすがに下着だけっていうのは、厳しいので。スカートより面積広いので、どっちかって言ったら、こっちかなと」
「へぇ、頑張ってね」
「ちょ、ちょ!?」

 目を瞑って視界を遮断する霊夢。文が今、何を求めているかくらい、子どもの霊夢でも分かる。
 だが、あえて無視。別にそこまでしてやる義理は無いからだ。

「お願いがあるのですが」
「やだ」
「お布団に入れて欲しいなーなんて」
「やだ」
「ほら、霊夢さん小さいですし、二人でも大丈夫だと思うのです」
「うっさい、寝かせろ」

 気温よりも、霊夢の態度の方が冷たかった。
 さてどうしたものか、と文は考える。無理矢理布団に入ることは容易いが、それを実行したところで霊夢の性格上、罵られたり蹴られたりするだろう。ならば、どうするか。許可を得るしか、ないのである。
 だが、この態度ではそう簡単に許可してくれないだろう。

「あーあー風邪引いちゃいそうですー」
「引けば良いんじゃない」
「わーお。あなたに情は無いんですか」
「情はあるけど、あんたに注ぐ情はない」
「良いじゃないですか、一緒に寝るくらい。あ、もしかしてあれですか? 一緒に寝ると、照れちゃって眠れないーとかそんな感じですか?」
「は?」
「いやぁ、可愛いところあるんですね。なるほど、そういうことなら無理にとは言いません。照れ屋な霊夢さんの為、私はこのままで構いません」

 文の挑発作戦だ。
 博麗の巫女とはいえ、まだ子ども。こんなことを言われたら、むきになって「そんなことないわよ! 良いわ、布団に入って来なさいよ!」と言う筈だ。文はそんなことを考えた。

「ふーん、じゃあそのまま寝てなさい」
「あ、あれ?」

 だが、文の予想に反して、霊夢は酷く冷めていた。
 そこで、ふと気付く。あぁ、そう言えば普通の子どもじゃあなかった、と。
 こうなれば、文に残された手段はたった一つだ。

「すみません入れてくださいお願いします」

 障子に差し込む月明かりに照らされ、それはそれは美しい土下座だった。
 無駄に神々しささえ感じるような、そんな土下座だ。
 それを見て霊夢は、大きくため息を零す。

「はぁ、最初から素直にそう言えば良いのよ。ほら、良いわよ」
「おぉ~これで風邪を引かずに済みそうです」

 文はもそもそと布団に入る。
 そして抱き枕代わりに、霊夢をぎゅっと抱き締めた。

「子ども体温あたたか~い――ごふぁっ」

 腹部を零距離グーパンチ。
 多少痛かったが、所詮は人間の子どもの力だ。文はそれくらいで、抱き締める力を緩めたりはしなかった。

「はいはーい、大人しく寝ましょうね。明日も取材があるんですから、ゆっくり休んでください」
「ちょ、明日もあるの!?」
「ぐぅ……」
「速攻寝るな馬鹿!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしい夜だ。



◇◇◇



 初めて会ったあの日以来、文は良く神社に訪れるようになった。
 それは他にネタが無いというのもあるが、それ以上に霊夢の存在に興味を持ったからだろう。
 どこか偉そうな態度や、強い力を持つ妖怪を前にしても全く恐れぬその度胸、そしてお賽銭を入れるとふにゃっとした笑顔を見せることなど、文にとっては一緒に居てこれほど面白い存在は無かった。
 最初は露骨に嫌そうな顔をしていた霊夢だが、次第に慣れてきたのか、一ヶ月もすると二人して縁側でお茶を一緒に飲むくらいには、仲が良くなった。
 そして今日も今日とて、春の暖かい陽射しを浴びながら、縁側でお茶を飲む。

「ほぅっとする。やっぱりお茶は良いわねぇ」
「霊夢さん、年寄り臭いですよ。まだまだ子どもなんですから、もうちょっとジュースとかを好んだ方が良いかと」
「あんな甘ったるいのより、お茶の渋みが良いのよ」
「つまりは私がお土産に持ってきた、この甘い水羊羹はいらないと」
「わぁい文大好きー」
「……全く、調子の良いことで。あ、お皿とか持って来てくれます?」
「水羊羹の為なら喜んで行くわ」

 霊夢はすぐに立ち上がり、とてとてとてと足音を立てながら食器を取りに行った。その後ろ姿を眺め、文は「あぁしていると、ただの子どもなのに」などと思った。
 陽気な天気の空気に混じり、ふと妙な気がその場に流れる。
 文はそれをいち早く察し、ぴくりと体を動かした。

「……何か、居る?」
「はぁい、せいかーい」
「わぁっ!?」

 文の耳元で、囁くような声。
 驚いた文は立ち上がり、すぐさま声のした方を振り向いた。そして、目を大きく見開き、驚く。

「これはなんと珍しい、妖怪の賢者様じゃないですか。ご無沙汰しております」
「本当、式以外の誰かの前に姿を見せるなんて、久し振りですわ」
「わざわざ紫さんが現れたってことは、私に何か緊急の用事で?」

 紫が人前に姿を現すことは珍しいことだった。常に神出鬼没な為、いつどこに現れるかなどはハッキリしていない。
 そんな紫が突然、文の前に姿を現したのだ。当然、用事は文にあり、そして紫がわざわざ出てくる程のことだということが分かる。恐らくは、悪い話だということも。

「察しが良くて助かるわ。射命丸文、最近霊夢と接触しているようね」
「……はい。それが何か?」

 霊夢の名前が出たことで、文の表情が険しくなる。
 紫は扇子で口元を隠している為、どんな顔をしているのか分からない。

「天狗は組織社会。その中には、過激派が存在するということはご存知かしら? この幻想郷のバランスを崩しかねない、天狗の存在を過度に主張しようとする者など」
「身内のことですし、一応。近年では極少数になり、特に脅威ではないと思っていましたが……」
「ですが、それらの者が最近妙な動きをしているそうなのです。理由は二つあります。一つは、巫女が新しくなったこと。しかも、まだ幼い人の子という点。そしてもう一つは――」

 紫は文を見据えて、ハッキリと言葉を紡ぐ。

「あなたが霊夢に接触したこと」
「……それが何故、理由に?」
「天狗という身内であるあなたを通じて、もしくはあなたの名前などを利用して、霊夢に近付くことが出来るから。もしも博麗の巫女を手駒にすることが出来たなら、幻想郷のバランスはどうなると思う?」
「狂いますね、確実に。ですが、私がそんなことさせませんし、天魔様も大天狗様だって――」
「えぇ、させないでしょうね。それにそんなことをしようとするのなら、私がいっそ消して差し上げますわ」

 くすくすと笑いながら言っているが、内容は穏やかではない。
 文は自然と、手に力が入る。

「でも、万が一を考えてね。対処をしておこうかと。私はこれから忙しくなるし。それに霊夢を、あなたのように強い妖怪と関わらせることがまだ早いのも、事実。申し訳ないけれど、まだダメなのよ」
「まだ、とは一体どういうことですか?」

 時期が早い、と紫は言う。だが、文にしてみれば何の時期なのか良く分からない。そして紫が忙しくなるという理由さえも、知らない。
 紫はパチンと扇子を閉じ、ふぅと一息。

「今、新しい決闘ルールを考案中なのです。妖怪も人も妖精も神も、全ての種族が平等に決闘が出来る、素晴らしいルールを。それが完成すれば、種族の差など関係無くなる」
「それが完成するまで、霊夢に会うなと?」
「正しくはそれが完成し、霊夢が一人で異変を解決できるようになるまで、ね」
「異変?」
「そう、力のある者が幻想郷を揺るがす異変を起こし、それを博麗の巫女が解決する。そういうシステム」
「異変が起きることは、決定事項なんですか?」
「必要なことなのよ、それもまたね」

 紫が何を考え、何を視て、何を想っているのか。
 文には一切分からなかった。唯一分かったことは、時期が来るまでは霊夢に会うなということ。そうしないと、面倒なことになる可能性があるということ。

「多少不満ではありますが、紫さんの言うことなら、きっと私には理解できない意味があるのでしょう。分かりました。ですが、私はもう霊夢さんと接してしまいました。今から私が離れても、理由その二を解決することにはならないのでは?」
「そこは一つ、方法があります。記憶の境界を弄れば、それで済む話ですわ。勿論、完全消去では無く、あくまでも曖昧にするだけ。全て無くしては、霊夢の感覚をおかしくしてしまうから」
「なるほど……」
「けれど、これはあなたと霊夢の今までの時間を貶すような行為。一応、あなたと霊夢にも許可を得てからということで」
「なんか色々と面倒なのね」
「仕方ないですよ――って霊夢さん!?」

 いつの間にやら、二人の間で会話を聞いていた。手には食器を持っている。
 文は話に集中しすぎて、霊夢の存在に気付かなかった。だが、紫は気付いてらしく、全く動じない。
 そして紫はニコッと笑顔を浮かべ、挨拶を交わす。

「こんにちは、霊夢」
「ん、久し振りね」
「あれ? お二人は顔見知りで?」
「さっき話した決闘ルール、霊夢にもちょくちょく手伝ってもらっていたのです」

 まさか霊夢まで関わっていたとは、と文はぽかんとしている。

「私は良いわよ、紫。それが幻想郷の為なら」
「霊夢さん、そんなあっさりー!?」

 あまりのあっさりさに、文は少しショックを受ける。それなりに仲良くなったはずだが、もしかして自分の勘違いだったのだろうか、などと考えてします。
 そんな文の思いに気付いてか、霊夢は少し慌てて首を振る。

「いや、別に寂しくないわけじゃあないけどさ……けど、またいつか会えるんだし。私の記憶が曖昧になっても、あんたは覚えていてくれるんでしょう? なら、また会ったときに、今みたいな仲になれるんじゃないかなぁって思って」

 少し照れ臭そうに、霊夢は言った。

「でもまぁ、とりあえずは」
「とりあえずは?」
「水羊羹食べましょう!」

 その霊夢の言葉に、紫も文も一瞬口を開いたまま固まる。そして数秒して、笑った。
 縁側に三人並んで、水羊羹を食べる。霊夢を挟むようにして、座っている。
 文が一口口に含むと、ほど良い甘さがじわぁっと広がった。しつこすぎず、甘すぎない。それでいて、後味が良い。ちらりと横を見ると、霊夢も笑顔で食べていた。それを見て、文も自然と頬が緩む。

「けどさ、文も大変ね。組織とか、そんな面倒そうなのに所属してたのね。あんた、そういう何かに縛られるの嫌いそうなのに」
「あまり好きではないですが、安心感とかが得られるんですよ。自分の確かな居場所を、いつでも確認出来る。そんな安心感が。妖怪は精神面が揺らぎ易いもので、私はこうして安心を得ています」
「居場所? そんなの、他に作っちゃえばいいのに」
「あはは、そう簡単に作れませんよ。変わらない、確かなものなんて」
「ほら、私の隣」
「え?」

 霊夢はぽんぽんと、文の膝の上を叩く。
 紫も文も、意図が分からず首を傾げた。
 すると霊夢は、当たり前のように、言う。

「私の右隣が、文の居場所」

 あまりにも予想外な言葉に、文はきょとんとしてしまう。
 紫は俯いて、肩を震わせ笑いを堪えている。
 そして少しして、文が言葉の意味を理解し、くくっと笑い始めた。

「くっ……あはは! なるほど、それは良い居場所ですね。組織の安心感なんか、目じゃないですよ」
「何で笑ってるのよ?」
「いえいえ、あなたは本当面白い人だなと思いまして。いや、でもありがとうございます。でもなんか、プロポーズみたいですね、その言葉」
「はぁ? 馬鹿なの?」
「はいはい、すみません私が馬鹿でしたっと。では今後、あなたの右隣は私の居場所ということで。あなたが忘れても、私はずっと覚えておきますよ?」
「ん、許可するわ」

 無駄に偉そうに、霊夢は言った。
 それがまたおかしくて、文も紫も笑ってしまう。霊夢にとっては何がおかしいか分からないので、少し頬を膨らませて不貞腐れる。
 そうこうしている内に、水羊羹は食べ終わった。
 さて、と紫は立ち上がり、霊夢の前で屈む。

「記憶の境界を弄らせてもらうけど、準備は良い?」
「準備も何もないでしょう。ちゃっちゃとしちゃってよ」
「はいはい。じゃあやるわよ」
「あ、そうだ! 文!」
「はい?」

 紫が能力を発動する直前、霊夢は文に声をかける。
 一言、言い忘れたことがあったのだ。

「またね、文」
「はい、また会いましょう」

 笑顔で、そう言葉を交わした。
 次の瞬間、ふっと霊夢の体から力が抜け、倒れかける。それを紫が、しっかりと抱えた。どうやら霊夢は、気を失っているようだった。

「これで完了、ね。あなたは天魔と大天狗辺りに、一応伝えておいてね」
「はい、分かりました。けど、紫さんが忙しくなるなら、もし万が一霊夢さんが襲われた場合――」
「大丈夫、結界を神社に組んでおきますわ。感知式のものをね。もし何かあったら、私や藍がすぐ現れる仕組みよ」
「なるほど、それなら安心です。では、私は戻るとしましょう」

 くるりと踵を翻し、風を纏う。

「紫さん、私がこんなこと言うのも変ですが、霊夢さんのことよろしくお願いしますね」
「勿論」
「では! 失礼します!」

 文は幻想郷最速の速さで、その場を後にした。

「さて、私はこの子が目覚めるまでは待っておかないとね。さすがに、このまま放っておくわけにはいかないし」

 紫はふぅ、とため息を零した。





 ◇◇◇





「あやややや!? へぶちっ!?」
「はい、私の勝ちね」

 亜空穴で隙を突かれた文は、そのまま霊夢の弾幕に被弾してしまった。いくら幻想郷最速でも、瞬間移動には上手く対応出来ない。
 被弾した箇所の額を擦りながら、文は苦笑い。仰向けに寝転がったまま、起き上がらない。

「いつまでそうしてるのよ。服、汚れるわよ」
「いやぁ、強くなったなぁと思いまして」
「は?」
「あぁいえ、こちらの話です。お気になさらず。しかし、霊夢さんに勝てる人なんて、いるんですかね? この強く美しく最速の称号を持つ私でさえ、勝てないというのに」
「自画自賛も程々にしろ馬鹿鴉」

 ちょっとした冗談だったのだが、予想以上にバッサリ斬り捨てられ、心にちょっとした傷を負う文。

「あと、私より強いやつはいるわよ」
「紫さんとかですか?」
「んーあいつは本気なのかどうかよく分からないから、どうでもいいとして。まぁ正直、記憶が曖昧で、何処の誰かも覚えてないのよ。子どもの時の記憶だからか、おぼろげでね」
「……へ?」
「昔、一度も勝てなかったやつがいるのよ。表面上はどうでも良いって態度取ってたんだけど、正直悔しくてね。いつかそいつに勝ってやろう、って思ってたんだけど……」

 霊夢はそこで言葉を止めて、苦笑いを浮かべる。

「顔も名前も覚えてなくいのよね、情けないことに。悔しいって思ったなら、覚えとけって話よね」
「……あはは、本当間抜けな話ですね。やーい、霊夢さんの間抜けー」
「服剥ぐわよ?」
「怖っ!? どんな脅しですか!?」

 何気に目が本気と書いてマジだったので、文は慌てて飛び起きた。
 そして服の汚れを、手で叩き払う。

「はぁ……ま、良いわ。お茶にしましょうかね」
「お、良いですねぇ」
「あんたの分があるとは言ってない!」
「酷い!」

 その後、ぎゃあぎゃあと争った後、なんだかんだ縁側で仲良くお茶を飲んだ。
 勿論、文の座る場所は、霊夢の右隣だった。





 3.もしも霊夢が地霊殿にて途中で負けてしまったら(文装備)



「さぁて、どうしてくれましょうか」
「くっ……」

 さとりの力は、恐ろしいものだった。他者の心を読むだけでなく、そこから他者の弾幕を真似て再現するという器用さ。
 今まで霊夢は、いくつも異変を解決してきた。その際に、多くの強者たちと戦ってきた。それゆえに、さとりはその分多くの強力な技を真似てきた。
 真似てくる弾幕は一度は攻略したことがあるものではあるが、強力な技であることに変わりは無い。不覚にも、霊夢は被弾してしまった。
 陰陽玉から文の声が聞こえてくる。

「霊夢さん、大丈夫ですか!?」
「っ……大丈夫じゃないわよ、もうっ」
「ふむ、どうやらあなたは、一時的に捕えておいた方が良さそうですね。なんか、まだ暴れようと考えていますし」
「なっ!? 霊夢さんを縛って監禁して、一体何をする気ですか!? ここでは言えないような、あんなことやこんなことをするんですか!? 縛り上げて自由が効かないことを良いことに、服の上からその小さいけれども確かな柔らかさを感じさせてくれて、触っているととても心地良い胸を弄ったりとかするんですか!?」

 沈黙。
 文の言葉に、さとりが若干引いていた。

「……いえ、そんなことはしませんが。とりあえず捕えて、もっと詳しい話を聞かせていただこうかと。何故地底に来たのか、目的は何かとかね」
「というのは建前で、魅力的な霊夢さんを無抵抗なのを良いことに、隅々まで楽しんじゃう気ですね! このサドが!」
「……何故か激しく誤解されているのですが」
「あぁ、放っておいて。それより何? 話だっけ? まぁ負けたわけだし、話せることは話すわよ。それで済むのなら、暴れるよりも楽だしね」
「ご協力感謝します。それではここではなんですし、居間へとどうぞ。お茶とお菓子くらいなら、ご用意できますよ」
「あら、悪いわね」
「ダメですよ霊夢さん! 騙されてはいけません! きっとお茶の中には、痺れ薬とか媚薬とかが――」
「全力で無視して良いから」
「あ、了解です。では、行きますか」
「あ、ちょ、無視しないでくださいよ!」

 ぎゃあぎゃあと喧しい文。
 しかし、さとりも霊夢も無視だ。

「この通信陰陽玉、オフにする機能無いのかしら」
「ちょ、何をしようとしてますか!? そ、そんなことしたら、私のサポートまで切れちゃいますよ」
「いや、むしろあんたのスピードのせいで、今回負けたようなものだし」
「人のせいにするんですか? 負けたのは霊夢さんが甘かったからで――」
「あぁ、ずっと慎重かつ大胆に攻撃を仕掛けていたのに、なんで突然荒っぽい猛スピードになったのかと思ったら……なるほど、つまり私はあなたのパートナーさんのサポートがアレなお陰で勝てたのですね」
「そういうことね。運が良かったわね」
「えぇ、あのまま攻められてたら、きっと負けてました」
「私そんなに邪魔でしたか!?」

 さて話し合いをしましょうか、とそのまま部屋へと入るさとりと霊夢。喧しいからと廊下に陰陽玉を置いて行こうとしたが、さすがにそれは可哀想な気がしたのでやめた。



 ~少女話し合い中~



「とまぁ、ぶっちゃけ詳しい事情は知らないのよ。文に行けって言われただけで」
「はぁ……それで襲われたこっちとしては、いい迷惑ですよ。その文さんでしたっけ? その方は、何か考えがあってあなたをこちらに送り込んだようですが、一体何故か訊いても良いですか?」

 さとりが訊ねるが、陰陽玉は沈黙だ。というか、陰陽玉から音一つ聞こえない。
 霊夢は首を傾げて、疑問符を浮かべる。

「そういえばあれだけ騒がしかったのに、いつの間にか静かになってたわね。どうしたのかしら?」
「何かあちらであったのか、それともその通信機が壊れたのか。どちらにしろ、話は聞けそうにないですね。せっかくここまで来たのに申し訳ないですが、今日のとこはお帰り願えますか?」

 さすがに明確な理由もなく、これ以上暴れられるわけにもいかない。そう判断してのことだった。
 そして霊夢も、これ以上続ける必要性があるのかどうか、よく分からない為、とりあえず一度戻って文に話を聞いてから再び訪れようと考える。

「なんか悪かったわね。お茶やお菓子までいただいちゃって」
「いえいえ、こんな所で良ければいつでもどうぞ。あ、見送りますね」
「え? そこまでしてもらわなくても、別に良いのに」
「あなたの力なら大丈夫たとは思いますが、一応怨霊とか居ますし――」
「ちょっと待ったぁ!」

 扉を盛大に蹴破り、そこに現れたのは文だった。
 突然のことに、さとりも霊夢もぽかんとする。
 文の服は所々破れており、ここまで霊夢がそうして来たように、文も道中で戦ってここまで来たのだろう。

「囚われの身である愛すべき霊夢さんを助けに来ました!」
「帰れ」
「ご苦労様です。そしてお帰り下さい」

 途中から陰陽玉の反応が無かったのは、こちらに向かって来ていたからだった。
 霊夢は心底うざいといった表情を、さとりは引き攣った笑みを浮かべている。
 しかしそんな空気は、今の文には関係ない。文は霊夢の腕をぐいっと引っ張り、全力で抱き寄せた。ふにゅっと柔らかい感触が、霊夢の顔に伝わる。

「ちょ、あんた何を――」
「安心してくださいね。私が来たからには、もう大丈夫です」
「……おー甘い甘い」

 離せ離せと暴れる霊夢だが、妖怪である文の拘束を解けるはずもなく、胸に顔を埋める体勢から変わることは無かった。
 さとりはとりあえず、人の家でいちゃつくんじゃねえよと思っていた。心が読めるからこそ、分かってしまう。口では嫌と言いつつも、それは照れ隠しである霊夢。割と本気で心配して、ここまでやって来た文。もう早く帰れば良いのに、と心底思ったそうな。

「さとりさん、霊夢さんに代わって私があなたを倒します! そして先に進ませていただきます!」
「あ、もう好きにして良いんで。どうぞ、先に進みたかったらご勝手に」
「やりましたね、霊夢さん。愛の力です!」
「さとりは呆れてるのよ、馬鹿! 離せ!」

 文は霊夢を抱き締めたまま、猛スピードでその場を後にした。
 一人部屋に残されたさとりは、ため息を零す。そして出来れば、この先に居るペットたちが無事でありますように、と願った。



 ◇◇◇



 結局、異変はあっさりと解決した。それもそのはずで、さとりの後に控えていた燐や空は、文と霊夢両方を同時に相手することになったわけで、敵うわけがなかった。夢想封印を避けつつ、幻想風靡をタイムリミットまで耐えろとか、割と卑怯である。
 




あとがき

ふぅ、明らかに詰め合わせということを忘れて書きすぎましたw
そして2つ目は、不完全燃焼だったりします。詰め合わせ用に圧縮したら、うーん……ってなってしまって。きっと完全版を仕上げて(省略箇所無し、さらに濃くする)、いつか公開すると思います。
いやしかし、全部要望のままに書いたので、書いていてとても楽しかったですw
完全自分得な作品です、はいw
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