こんな年明けも良いかもね2009-04-03 Fri 15:16
創想話5度目の投稿作品『こんな年明けも良いかもね』
アリスと魔理沙のほのぼの話。そして年越しSSでした。 改めて見直すと、タイトル付けるセンスが欲しい…… 「ありがとう、上海」 紅茶を淹れてくれた上海の頭を撫でる。こういう静かで平和な時間が、幸せなことこの上ない。 木製の椅子に腰掛け、ゆっくりと背を預ける。それにより、発せられる木の軋む小さな音も、今の私には心地良い。窓からは眩しくて暖かい陽射しが差し込んでいる。うん、良い天気だ。あぁ、本当に幸せ。 「アリス、大変だぁぁぁぁぁ!」 うん。私、幸せって儚いものだって知ってるの。だから、今この黒い馬鹿が物凄い勢いで扉を開けて、一瞬で私の幸せな時間を壊したのも、仕方無いことよね……って、んなわけあるかぁ! 「帰れ」 「ちょ、酷いぜアリス!」 「上海、構えて。そうそう良い子。もう上海大好き。じゃあ3、2、1で殺りましょう」 「ま、待てアリス! せめて話しを聞いてくれ! 本当に大変なんだ!」 額に丸い水滴を流し、切羽詰まった様子の魔理沙を見て、流石にふざけてはいないだろうと悟り、上海を下げることにした。 「はぁ……で? 何の用よ?」 「筋肉さんがこむら返った!」 「よし、そこ動かないでね。そのこむら返った筋肉とやら含めて、数秒で楽にしてあげるから」 「ちょ、嘘だって! ジョークだよジョーク! 魔理沙さんのお茶目なジョーク!」 必死な魔理沙を見ると、何だか馬鹿らしくなってきた。というか何でこいつはこんな時にジョークを言えるんだろう。馬鹿なのかふざけてるのか。どちらも可能性があるから分からない。 「で、本当の用件は?」 「いやぁ実はな、私の家爆発しちゃった」 「は?」 「だから、家が爆発したんだってば」 「冗談?」 「本気と書いてマジ。魚に京と書いて鯨」 いや、後半は関係無い。しかし、今回は嘘を吐いてるようには見えない。口調こそ軽いものの、瞳の奥に真剣さを伺えた。 「一応理由を訊くわ。何故爆発したの?」 「それは海にある蟻の巣よりも深い事情があるんだ」 「海じゃないのね。というか微妙に浅いわね」 「実験していたら、調合に失敗してな」 「……それだけ?」 「それに誘爆して、私の部屋に散らばってるいろんな物が爆発してったんだ」 私は額に手をやり、溜め息を吐く。自業自得な理由じゃないか。あぁ、私の幸せな時間はこんなもので壊されたのね。 「で、私の家に来た理由は?」 「今日一日だけで良いから飯を食べさせてくれ!」 少し、意外だった。魔理沙の性格からして、建て直すまで養ってくれ、くらいは言ってくるかと警戒していた。 「でも、霊夢の所とかじゃ駄目なの?」 「アリスの家が一番近かったし、あいつに頼りたくは無いんだ」 何かの意地なのか、魔理沙は本当に困った時は霊夢に頼らない。そして、私はそれを知ろうとも思わなかった。別にそこまで深い仲でも無いしね。うん。 「とりあえず、そろそろ昼食にしようと思ってたから、そこに座りなさい」 「良いのか!?」 目を輝かせ、私を見つめてくる魔理沙は、まるで子どものようだった。 「いやぁ、流石アリス! 持つべきものは知り合いだぜ!」 そう、私たちの関係は実に不思議な関係。最初こそは犬猿の仲だったが、二人で異変を解決したりするにつれ、互いに相手の良い部分が見え、それなりに交流は増えた。 周りから見ると、私たちの関係は普通に親友くらいに見えるらしいが、それを言われる度に私も魔理沙も否定する。 確かに前よりは仲の良いことを認めるが、魔理沙も私も素直じゃない。決して互いに、一歩を踏み出すことは無い。そんな生温い関係が、私たちには丁度良いのだ。 「アリス、早く飯を~! 和食の最高級を~!」 「追い出されたいの?」 「すみません」 ギャーギャー言って急かす魔理沙を黙らせて、軽い食事を作る。二人分を作るのはあまり大変では無い。 「魔理沙、苦手な食べ物何かある?」 「んにゅ~? 和食以外を食べると実は右半身が溶けちゃう病なんだ」 「そう。分かったわ」 勿論、得意の洋食を振る舞ってあげた。 魔理沙の右半身は溶けなかった。 「で、どうするの?」 「あー? 何がだ? アリスと私の挙式の日程か?」 「そんな予定は無い! これから魔理沙はどうするのかってこと!」 すぐにふざける魔理沙にツッコミを入れるのも疲れる。ただでさえリラックスの時間を今日邪魔されているから、疲れだけが溜まる。 「そっか、そんなに私が心配か。いやいや、モテる女は辛いぜ」 「馬鹿を相手にする私も辛いわ」 「そんなに上海をけなすなよ」 「あんたをけなしてんのよ!」 「まぁまぁ、そんなにコリコリするなよ」 「カリカリしてんのよ! コリコリってどういう状態よ!」 あぁ、無視すれば良いのに無視出来ない私の馬鹿。――じゃなくて! 「真面目に話してんのよ。どうするの?」 魔理沙は何か答え辛いことがあると、こんな風に話を逸らそうとする。今回も、はぐらかそうとするのだが、そうはいかない。 案の定、魔理沙はバツが悪そうな表情を浮かべる。今回は私の勝ちだ。 「あー、とりあえず流れるままに生きるぜ」 「いくら貴女でも所詮は人。人間が何日もこの森で野宿して、無事でいられると思ってるの?」 「私は霧雨魔理沙様だぜ?」 「だから何よ」 「マスタースパークだぜ?」 「で?」 「…………うぅ」 たじたじになる魔理沙は滅多に見れないから面白い。 「良かったら泊まる?」 「いや、流石にそれは……」 「何遠慮してるのよ。いつもは遠慮の欠片も無いくせに」 魔理沙は、いつもは図々しいくせに、本当に自分が困ってる時には誰かに迷惑をかけるのを嫌がる。まぁ、そういうトコがみんなから完全には嫌われない理由なのかもしれない。憎めない性格、というやつだ。 「うぅ~……」 「勘違いしないで。別に魔理沙を心配してるわけじゃなくて、出てった後にもし魔理沙が妖怪にでもやられたりしたら夢見が悪くなるから。ただそれだけよ」 素直じゃない私は心配してるなんてことは言わない。魔理沙は、いつもの強きな態度ではなく、どうすればいいか分からないといった感じの態度だった。うぅ、と小さくうなって考えている様子の魔理沙は、普段と比べると年相応の可愛らしさがある。 「で、どうするの?」 「うぅ……迷惑じゃない?」 「何を今更」 「じゃあ……よろしく」 「はいはい」 やっと魔理沙は折れた。こういうことを気にかけてもらったのが慣れないのか、しおらしい魔理沙になっていた。 もじもじしながら、俯いて目を合わせない。 普段の魔理沙から比べると、らしくないなぁと思う。 「何しおらしくなってるのよ。普段とのギャップに引くわよ。気味が悪いわ」 「な!? 失礼な! アリスのこの人形だらけの部屋の方が引くぜ!」 私の安い挑発に上手く乗って、普段の調子を取り戻す魔理沙。うん、やっぱりこれくらいが丁度良い。 しおらしい魔理沙は面白いけれど、馬鹿っぽさのある魔理沙の方がそれらしい。 「さて、私は自律人形の研究に取り掛かる時間だから」 「む! お前は客人を放って置いて研究に没頭するのか!」 「元は招かざる客だったくせに」 「私が滞在してる期間くらいは私に構おうぜ! あ、別に寂しいとか暇とかいう訳じゃあ無いぜ! アリスに構って欲しいとか全然思って無いぜ!」 「何笑顔で意味分からないこと言ってるのよ」 親指を立て、白い歯を見せてウィンクしながら意味が分からないことを言う魔理沙を無視して、研究室に入ろうとするが―― 「部屋汚くなってても知らないぞ?」 ピクッと反応した私の体が、一歩を踏み出せなくなった。あぁ、こいつは何なのだろう。本当に荒らしてそうで、魔理沙一人ここに残すのは非常に恐ろしい。 「人形の目玉が五つになってたりするかもしれないぜ?」 「多すぎるわよ! 何する気!? 人形に触れたら許さないわよ!?」 「恐いぜアリリン」 「誰がアリリンだ!」 「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてこの味噌汁を飲め」 「いつの間に作ったの!?」 「あぁ、ごめん。これ味噌汁じゃなくて二酸化炭素だったぜ」 「もう意味分からないわよ!?」 にはは、と笑ってる魔理沙を見てると、また私のペースが狂わされたと思った。しおらしいままにしとけば良かったかもと少し後悔。 「はぁ……今日は今年最後だから研究を纏めておきたかったのに……」 「うにゅ? 明日は新年なのか?」 「何を今更」 「ああ、そうなのか。いやぁ、最近研究に没頭してたせいか、うっかり時間感覚が無くてな」 「うっかり無くすな。そんな大切なもの」 お気楽な魔理沙のペースにいつも巻き込まれている気がする。あぁ、こんな馬鹿なやりとりをしていたら、もう窓から差し込む陽射しが赤に染まりつつあった。 「はぁ……魔理沙、大人しく出来ないの?」 「それは無理な話だな」 諦め半分で頼んでみても、やはり予想通りの返答に私はただただ溜め息を吐いた。 しかし、魔理沙と居ると時間の流れがあっという間に感じられる。それにやっぱり、どんな態度をとられても完全には憎めない。なんだかなぁ。 「でもそっかぁ。今年はアリスと共に新たな年を迎えるのかぁ」 「嫌なら他へ行きなさい」 「いや、別に嫌じゃないぜ?」 「……そう」 本当に随分と私たちの関係は変わったなと思う。 年始めの頃なんか、喧嘩ばっかりしていたのに、それが年末には一緒に新年を迎える仲なんて。まぁお互い絶対に口には出さないけれど。 「なぁアリス! 年越し蕎麦は?」 「食べてばっかりね。魔理沙は」 「まさか!? 和食嫌いで用意してないのか!?」 「ちゃんとあるなら安心しなさい」 それを聞いて、子どもの様にはしゃぐ魔理沙を見ていると、不思議と笑えてきた。何がおかしいのか、楽しいのか、自分でもよく分からないけれど。 「あ、あと、そのアリス」 「んー?」 「……本当に、ありがとな」 「ふぇ?」 魔理沙からの感謝の言葉に思わず間抜けな声をあげてしまった。だって、改まって言われるとは思わなかったし。 「さ、さぁもういいから! アリスは年越し蕎麦を私のために作ってこい!」 「はぁ?」 「いいから早く! ほら、早くしないと、人形の首をヤマタノオロチみたいにするぞ!」 「やめてよ!?」 魔理沙があまりにも必死に、顔を赤く染めて言うから笑いそうになったけれど、ヤマタノオロチにされたくは無いから、ここは素直に年越し蕎麦を作ろう。 ◇◇◇ 「あと、少しで年明けだぜ!」 「何でそんなテンション上がってるのよ」 年越し蕎麦を食べ終えた後、魔理沙と会話をしたりしているうちに、既に年越しまで1分も無かった。 魔理沙はカウントダウンを始めている。 「ほら、10秒切ったぜ! うわ、ていうか5秒! あと5秒! はい0になった!」 「煩いわねぇ。一応夜なのよ?」 「こんな森に近所なんか無いから別に良いだろ」 まぁ、確かにそうなんだけれど。何をそんなに嬉しいのやら私には理解出来なかった。 カウントダウンを終えた魔理沙が、突然私の方へ近付いて……って顔近い近い! 「ちょっと突然何よ……」 「アリス!」 突然大声を出されてビクッとした。文句の一つでも言おうとしたが、魔理沙は笑顔で―― 「明けましておめでとう! アリス、今年もよろしくな!」 と言ってきた。最初はボーッとしていた私だが、すぐに正気に戻り、言ってやった。 「ええ、明けましておめでとう魔理沙。そして、今年もよろしくね」 私の返事に満足したのか、魔理沙は少し照れくさそうにだが、満面の笑みを浮かべていた。 それを見て、私も自然と頬が緩むのが分かる。 去年じゃ想像すらしなかった。私と魔理沙の二人で新年を迎えるなんて。 でも、こんな笑顔で新年を迎えるのは初めてかもしれない。 「よし! 博麗神社に初詣に行こう!」 「今から? それに私も魔理沙も魔法使いでしょう。お参りなんてしてもいいの?」 「ん~細かいことは気にしない! ほら、行こうぜアリス!」 「あ、こら、ちょっと引っ張らないでよ!」 笑顔の魔理沙に引っ張られながら、私は外に出る。 今年も魔理沙に振り回されるのだろうか。そう思うと、溜め息が出るが、不快感は無かった。何故だろう。 そうだ、なんだかんだで暇にはならないからだ。素直じゃない私は、そういうことにしておいた。うん、決して楽しいわけじゃないわよ。絶対に。 「ほら、アリス早く行こうぜ」 「あー分かったからそんなに引っ張らないの!」 ふと空を見上げると、そこには美しい満天の星空が見えた。 |
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