絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

コンビ

はたてと椛さん。
 
 

「今日はいつもより明るいな……」

 星空を眺めつつ、椛はぽつりと呟いた。春になったとはいえ、夜の見張り勤務はまだ楽じゃあない。敵意を持った侵入者自体は滅多に現れないため、その点で言えば楽すぎる仕事ではある。だが、今の季節、滝付近かつ夜の冷える時間は、立っているだけで体力を奪われる。
 椛がはぁっと息を吐くと、それはまるで雪のように真っ白だった。
 寒さで少し震える体を気合いで抑え、見張りに集中する。すると、背後に気配。気配だけならそこらの動物でも放っているため、あまり気に留めないのだが、その気配は明らかに気付かれないようにひっそりとしたものだ。

「何者だっ!?」

 すぐさま体を捻り、背後に向けて剣を一閃。本気の一振りではなく、あくまでも威嚇程度の攻撃。

「ひゃあっ!?」
「あなたは……」

 攻撃を避けた相手を、見据える。
 すると椛の眼が捉えた敵は、どこかで見たことがある人物だった。それを認識すると、椛はため息を吐きつつ腕を下げる。敵だと思っていた相手が、敵ではないと分かったからだ。

「また厄介な人が来ましたね。何の用ですか、はたてさん?」
「あ、あはは~相変わらず真面目に仕事してるのね、椛」

 冷や汗をかいて、作り笑いを浮かべているはたて。何やら右手には紙袋を持っている。
 椛はそんなはたてを見て、またため息を吐く。仲が悪いわけではないが、特別良いわけでもない。互いの共通の知り合いである文から、二人は何気なく知り合ったようなものだ。

「わざわざ、私の仕事を見に来たんですか。それはご苦労なことで。さぁ、お帰りはあちらですよ。お気をつけて」
「ちょ!? いきなりさよならは酷くない!? せっかく差し入れ持って来てあげたのに、そんな態度じゃあげないわよ?」
「お、それはありがたいです。いやはや、すみませんねー」
「そうそう、それで良いのよ」
「なんて言うと思いましたか? 単純な思考をお持ちのようで。さ、そんな可哀想な思考回路を持っているんですから、さっさと帰った方が良いですよ」
「突然の突き放し!?」

 寒さでただでさえ集中が削がれるというのに、その上はたてに絡まれてはやってられない。そのため、椛は冷たい態度をとって突き放す。
 しかし、そんな椛の心が分からないはたては、ぎゃあぎゃあと椛の周りで暴れる。その様子は、まるで親に構ってもらえない子どものようだ。

「椛のばーかばーか」
「あなたは子どもですか。こっちは仕事中なんです、あまり邪魔をしないでください」
「大体椛は真面目すぎる。ここ来る途中の他の見張りの哨戒天狗、立ったまま器用に寝てたわよ」
「……聞きたくなかった事実ですね」

 それを聞くと、真面目にやっている自分が馬鹿みたいだ。椛は思わず自分の額に手をやって、やれやれと本日何度目か分からないため息を吐く。
 そんな椛とは対照的に、はたては何やらニヤニヤと笑みを浮かべている。

「その顔、とても嫌な予感がするんですけど……」
「失礼な。無駄に頑張っている可哀想な椛に、ただ差し入れを渡そうと思っただけよ。はい、これ」

 紙袋から取り出したのは、茶色のマフラーとおにぎり。
本当にただの差し入れだ、と椛は少し驚いた。

「これ、いただいて良いんですか?」
「あんたが貰ってくれないと、私は困るんだけど」
「そうですか、ありがたくいただきます」
「私の手編みマフラーと手作りおにぎりなんだから、ちゃんと感謝しなさいよ」
「してますって、感謝。さっきは失礼なこと言ってすみませんでした」

 素直にお礼と謝罪をして、マフラーを着ける。温かくて、心地良い。椛は思わず、ふにゃっと頬が緩む。
 そして次はおにぎり。ぱくりと、一口。やっぱりお米は冷えてしまっていたけど、それでも椛には美味しく感じられた。

「ん、美味しいです」
「そう、それなら良かったわ」
「しかし、何故? いつもは差し入れなんてしないですし、そもそも私に会いに来ること自体が珍しい」
「まぁそれはあれよ。薄々気付いているとは思うけど、ちょっとお願いがあって――」
「さようならはたてさん、おにぎり美味しかったです。マフラーもありがとうございます。そしてさっさと帰ってください」
「素直に帰ると思う?」

 にっこりと笑顔でそう言うはたてを見て、あぁこれは逃げられないし素直に帰ってもくれないなと確信する椛。

「まぁ、聞くだけ聞いてあげます。なんですか?」

 仕方なく、そのお願いとやらの内容だけでも聞いてみることにする。差し入れを貰ったのは事実で、それに対する恩は忘れていない。真面目だからこそ、それを忘れたりはしない。はたてにとっては、そこまでも計算済みのことだった。
 肩を落としてテンションの低い椛に対し、はたてはとても楽しそうだ。

「椛と組みたいのよ」
「組み手ですか? 手合わせなら、むしろ私も修行になるのでありがたいですが……」

 目つきを鋭くし、ゆっくりと剣と盾を構える椛に、はたては慌てる。

「ち、違う違う、そんな物騒な話じゃなくて! あーえっと、簡単に言うと、私の取材活動を手伝って欲しいのよ」
「あぁ、なるほど。丁重にお断りしますね」
「即断られた!?」

 別に椛は、意地悪とかで断ったわけじゃなかった。
手伝えるなら、恩もあることだし少しくらい手伝っても良いとは思っていたが、哨戒天狗の仕事は不定期だ。突然集まりを求められることもあれば、数日間ずっと暇な日もある。たまたま暇な日に手伝うなら良いが、もし取材途中に急遽集まりの声がかかったらどうしようもない。
 それを考慮した上での、断りだった。

「私の仕事は不定期ですし、申し訳ないですが……」
「もちろん、そっちの事情は知ってるわよ」

 はたてだって、馬鹿じゃあない。そこらへんのことを知った上で、それでもお願いしたのだ。

「それでも、完全に非番の日とか少しくらいあるでしょう? その日だけで良いから、私の取材活動を手伝って欲しいのよ」
「確かに非番の日はありますけど、何故そこまで私に? 取材関係なら、私よりも文さんの方が――」
「あいつと協力とか、絶対嫌!」

 椛の言葉を遮り、はたては力強く言った。あぁそういえば二人はライバル関係だったっけ、とそこでふと思い出す椛。

「それに、私はあんたの力を見込んで、椛だからこそ協力して欲しいと思ってるのよ。他の誰でもない、椛だけ」
「私、だけ?」

 椛は頭に疑問符を浮かべる。
 確かに椛は哨戒天狗の中では力や体術もかなりある方だが、それでも鴉天狗の前では霞んでしまう程度だ。そんな自分の、何を見込んだというのか、椛には分からなかった。

「お言葉は嬉しいですが、私には特別秀でた何かがあるわけでもないですが」
「何言ってるのよ、あんたには最高のものがあるじゃない」
「最高のもの?」
「そう、千里先をもしっかりと見ることが可能な、その眼よ。私はその眼、幻想郷最高の眼だと思ってるけど?」

 思わず、ぽかんとしてしまう椛。そんなことを言われたのは、初めてだったからだ。はたての表情は、嘘偽りなしの素直なことを言っているというのが分かる。
 眼が良い、というのは哨戒天狗の中ではさほど珍しくはない。だが、椛ほど特別な眼を持つ者は、まず居ない。

「でも、私のこの力が取材活動に役なんて立ちますかね」
「むしろ最適な力だと思うけどね。遠くから取材対象を監視出来るんだから、気付かれるリスクも少ない。私の念写と椛の眼があれば、もう百人力よ! つまり、私と椛が組めば最高のコンビが生まれるわけなのよ」

 念写と眼で何がどう百人力なのか椛には理解出来なかったが、自分の眼が褒められて悪気はしなかった。
 下っ端として、いつでも代わりが効くような立場として生きてきた椛にとって、椛という存在そのものを必要とされたのは初めてだった。

「だからお願いっ、椛が必要なのよ」
「……報酬は?」
「へ?」
「休暇確定の日をわざわざ費やすんですから、それ相応の報酬が出ると思っても良いですよね?」
「そ、それはさっきあげたマフラーとおにぎり――」
「まさかこれくらいで、今後ずっと私を働かせる気ですか? いやぁ、まさかはたてさんともあろう人が、そんなわけないですよねー」
「うぐぐ、急に強気になって~って、組んでくれるの!?」

 がばっと椛の肩を掴み、ゆさゆさと揺らす。
 テンションが上がっているようで、目をふらふらとさせている椛に気付かない。少ししで、椛がなんとか両肩に置かれた手を弾き、復活。

「ま、あなた次第ですね」
「……何を望むの?」
「そうですねぇ……それじゃあ、手料理をお願いします」
「はぇ?」

 何かとんでもない要求をされるのではないか、と身構えていたはたてだったが、予想外の要求に思わず変な声を上げてしまった。
 椛は笑顔だが、若干頬が赤い。星の光が強い今日では、その赤みを誤魔化すことが出来なかった。
 それをなんとか誤魔化そうとして、わざとらしく咳払いを一つ。

「取材を終えた日は、手料理を食べさせてください」
「えっと、なんでそんな要求か訊いても良い?」
「さっきのおにぎりが美味しかった、とかじゃダメですか?」

 悪戯っぽく笑う椛に対し、思わずはたても笑ってしまう。

「ん、分かったわ。それで良い。それじゃあ、契約完了ね」
「契約って言うほど、大袈裟なもんじゃあないですけどね」
「そんなことより、次の非番いつよ?」
「さぁ?」
「さぁ、ってあんたねぇ……」

 椛の投げ槍気味な返答に、はたては少し呆れる。

「まぁ休暇が分かったらお知らせに行きますよ」
「椛、私の家の場所知ってたっけ?」
「……おぉ、知りませんでした!」
「わざとなのか素なのか……。まぁ良いわ、また明日とか明後日にでも来るから、そのときまでに把握しておきなさいよ?」
「はい、了解です」

 こくんと頷く椛。
 それを見たはたては、よしと呟く。

「それじゃあ、私は帰るとするわ」
「あ、はい。夜道にお気をつけて」
「ん、またね椛」

 ひらひらと手を振りながら、はたてはその場を去る。
 椛はぺこりと頭を下げてから、また見張りに集中することにした。
 さっきまでの騒がしいのとは違って、夜の静寂に戻る。そしてもう一つ違うのは、今はそんなに寒くないということ。
 マフラーがもふもふと椛を包み、確かな温かさを与えていた。

「ん、今日は温かいな」

 ぽつりとそう呟き、吐き出した息は、それでもまだ少し白かった。
東方SS | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<苦手なんです+拍手レス | ホーム | ボロヨレ>>

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

| ホーム |