気まぐれフランのナイトコース~ルーミア添え2011-02-03 Thu 03:46
ちょっぴりほわほわふわふわ、そんな雰囲気。
いつもとは少し違う感じのお話です。 月が眩しいくらいに輝く夜を選んで、そっと抜け出してみた。 以前パチュリーから教わった気配を断つ魔法を使ってみたら、気配どころか魔力の匂いまで消せた。多分私が紅魔館を抜け出したことは、パチュリーも咲夜も美鈴も、きっとあのお姉様でさえ気付いてない。 紅魔館から少し離れて、魔法を解く。 何故抜け出したのかと訊かれれば、なんとなくだ。特別な理由は、別になかった。 このことに気付いたら、お姉様は心配するかな。もしかして、私を捜しに来るかな。なんだか、ちょっとしたいけないことをしている気分。いや、いけないことなんだけどね。 秋も終わり、冬になったせいかな。夜の風は、今夜の私の行動を責めるみたいに冷たい。何か一枚羽織ってくれば良かったかも。 「ん、風邪引いちゃうかな」 少し散歩したら、気付かれない内に戻るつもり。 ただの気紛れくらいで、みんなに迷惑はかけたくないから。それなら最初から抜け出すなって話だけど、それでも何故か抜け出したくなった。狭い世界から、ちょっぴり広い世界への旅立ち。それも一人で。憧れと言うよりは、ちょっとした好奇心。 ふわりふわりぱたぱた、と空を飛ぶ。 天敵の太陽は、今はお休みなさいの時間だ。そのままず~っと寝ちゃってくれたら良いな、なんて思ったりもするけど、それじゃあ咲夜が洗濯物乾かないって困りそうだ。美鈴も、お昼寝しがいがないって言いそう。 「あなたは食べても良い人間?」 気持ち良く飛んでいたら、そんな声がした。 声のする方へ向いてみると、そこには不自然な闇の球体。夜の暗さに混じって、少し認識し辛い。なんだろう。 「私は人間じゃなくて、吸血鬼。食べられるのは嫌だなぁ」 「そっかぁ、残念」 「お腹、空いてるの?」 「ううん、別にそこまで空いてない」 「なら、なんで食べても良い人間だなんて訊いたのさ?」 「意味はないよ? 訊いてみただけ。もし人間なら、こんな時間にこんな場所をうろついているなんて、馬鹿じゃないのって言ってあげようかなって思った。妖怪に食べられても、文句は言えないもの」 可愛い声して、何気に毒舌だ。 でも、もしこんな時間にこんな場所をうろついてる人間が居たなら、それは多分ただの人間じゃないような気もする。魔理沙とか霊夢とか、そんな例外タイプだろう。 「ところで、あなたは結局誰なの?」 「ん? 私?」 「いや、あなた以外にいないじゃん」 「え? あなたの後ろにいるのは?」 「え? 誰もいないけど……」 「あぁ、あなたには見えないんだね……そっか」 「何が見えたの!? ねぇ、何が見えたのさ!?」 慌てて後ろを向いたけど、誰もいない。気配もない。 えっと、私には見えない何かが居るって……もしかしなくても、お化け? うぅ、ちょっと怖くなってきた。 「私はルーミア。妖怪だよ」 「えっと、姿を見せてはくれないの?」 「別に良いけど、面白くないよ?」 「いや、人の姿にそんな笑い求めてないから」 「そうー? ならいいけど」 次の瞬間には闇が消えて、見た目私と同じくらいの女の子が現れた。 月と同じくらいに、綺麗な金色の髪。そして特徴的な、赤いリボン。闇に同化するような、黒を基調とした服。おっと、初対面だから思わず観察しちゃった。 うーん、人を食べるようには見えないけど。まぁ妖怪とかって、見た目はあてにならないもんね。私だって、多分何も知らない人が見たら、吸血鬼って思えないんだろうな。 「あ、私はフランドール・スカーレット」 「あーあの紅い館の……んーなるほどね。それでかぁ……」 「え? 何が?」 「いやいや、なんでもないよ。それじゃあ、私は急いでるから」 「何か用事があるの?」 「うん、今日は散歩するの。良い天気だからね」 「それ、用事って言うのかなぁ。そうだ、それなら一緒に散歩しない?」 「フランドールも散歩?」 「うん、散歩」 「そっか。良いよ、別に」 ついてきなよ、と言われる。良かった、外を知らない私よりも、きっとルーミアの方が詳しいだろう。 にへらっと笑うルーミアを見ると、こっちまでふにゃっと笑顔になる。なんだろう、相手に警戒を抱かせない笑顔と言えばいいのかな。そんな感じ。 「フランドールはさ、何処か行きたい場所ある?」 「うーん、特に無いかな。元から何から明確な目的も無かったし。この辺りは、何かあるの?」 「森と湖くらいね。どっちも別に大して面白くは無いと思うけど」 「それでもいいよ、連れてってくれる?」 「ん、いいよー」 ふよふよと、ルーミアの飛行は少しふらついている。飛ぶのが苦手なのかなと思ったけど、ルーミアは笑顔だ。きっと、わざと不安定に飛んで、その感覚を楽しんでいるんだろう。 それを見てると、なんだか私もつられたのか、ふらりふらり。ふっと力を抜いて急降下してみたり、突然勢い良く加速してみたり、いつもと違う飛び方。 すると、ルーミアがこちらを振り向いた。 「フランドールも、ふらふら?」 「うん、私もふらふら」 何がおかしいのかよく分からないけど、私たちはえへへと笑い合った。 夜空に不安定な飛行生物が二人。きっと、傍から見たらおかしな光景だろうなぁ。けど、たまにはこんな風に飛んでみるのも面白い。 「はい、森とうちゃーくっ!」 ルーミアがそう言って、地面に着地。少し高い位置から飛行をやめたせいか、ちょっとこけそうになっていた。 私はゆっくりと着地。森の中は薄暗くて、空に光る星たちの力もここでは薄まっているように思える。けど、怖いって感情よりも、なんだろう……わくわくする。 「で、ここには何があるの?」 「んー? 何も無いよ?」 「えぇっ!?」 「キノコとかはそこらにあると思うけど、食べたら変なことになるよ? 服脱ぎたくなったり、躍りたくなったり、食べた瞬間爆発したり……本当、酷い目にあっちゃうんだからね?」 ルーミアが真剣な表情で言うけれど、えっと、ルーミアはもしかしてそれらを体験したってことなのかな。なんか妙に説得力がある。 思わず苦笑い。 「あ、私は別にそんな目にあってないからね? これはーそのーそう、友達の話であって私じゃないからね」 「はいはい、分かったから」 「むぅーフランドール、信じてないって顔してるー!」 いや、そりゃあそうでしょ。 ルーミアは嘘を吐くのが下手なのか、面白いほど顔や行動に出る。 けれど突然、ルーミアの目が大きく開いた。何か、驚いてる様子? 「フランドール、後ろっ!」 「え?」 ルーミアの大声で、咄嗟に振りかえる。 そこには、獣型の妖怪。人語を話せないくらいに低級だけど、それゆえに厄介なタイプ。弾幕ごっことか相手が妖怪だとか、そんなことは関係なしに襲ってくる。 そして私は気付くのが遅かった。油断していた。今からでは、この襲ってくる敵に対応する術がない。いや、あるにはあるが、無傷では無理だ。 思わず、ぎゅっと強く目を瞑る。一発は喰らう覚悟を決める。 けれども次の瞬間、襲ってくるはずの痛みが無かった。あったのは、獣の呻き声。恐る恐る目を開くと、獣はその場に血を流して倒れていた。 「えっと……何が起こったの?」 思わず、ぽつりとそんな言葉を零す。 するとルーミアは何が起こったのか見ていたのか、私に笑顔を向けてきた。 「フランドール、愛されてるね」 「え?」 「ううん、なんでもない。それよりごめんね。もっと早く私が気付いてれば」 「いや、私も油断してたし。ルーミアは悪くないよ。それに何故か怪我は無かったしねっ」 「ここは危ないね。湖の方行こうか」 ルーミアの提案に、こくりと頷く。一応さっきの警戒してるけど、もしまた襲われちゃあせっかくの散歩が台無しだ。 またさっきみたいに、ふらりふらりと空を飛ぶ。 森から湖はそんなに遠くないようで、少しすると次第に視界に入ってきた。湖に落ちないように、さっきよりも慎重に着地。 「湖とうちゃくーだけど、正直この時期この周辺は寒いよー?」 「うん、もうちょっと早くに言って欲しかったなぁ」 こ、これは寒いっ! うぅ、先に言っておいて欲しかった。さっきの森よりも、明らかに寒い。あーもう、本当に薄着で来たことを後悔しちゃうよこれは。 けれど、空気は澄んでいるように感じる。心地良い。すぅっと、深呼吸をしてみる。ただそれだけのことなのに、何故か心が落ち着くような気がした。 いつの間にか、ルーミアは地面に座り込んでいた。 私もなんとなく、その隣に座る。 「ま、ここもさっきと同じで、特に何もないけどね」 あははーと笑うルーミア。 「けど、なんだかんだで楽しいよ? ありがと、ルーミア」 「うん、私も楽しいよ。ありがとって言われても、森と湖しか案内してないけどね」 それでも、私は楽しかった。 こんな風に初めて一人で外に出て、その先で知り合ったルーミアとこんな風に一緒に過ごせて、楽しくないわけがなかった。何もかもが初めてで、全てが新鮮。 あぁ、幻想郷は狭いと聞くけど、私にとってはとても広い。 今日は視野が広がった。そんな気がする。 「星が綺麗だねー」 「そうだねー」 「ねぇ、フランドールさ」 「んー?」 「今日、こっそり抜け出してるんでしょ? そろそろ帰らないと、館のみんな心配するんじゃない?」 「え? なんで分かるの?」 「だって、あの、えっとねー……もう言っちゃっても良いよね? 実は――」 「こらぁ! 空気読みなさいよ!」 ルーミアの言葉を遮って、聞き覚えのある声が後ろから。 驚いて振り返るけど、そこには誰も居ない。あれ、なんでだろう。ルーミアはくすくすと笑っている。一体どういうことなんだろうか。 「もう声出しちゃったんだし、正体見せちゃいなよー」 「はぁ……仕方ないわね」 「わぁっ!? お、お姉様!」 さっきまでは誰も居なかったはずの空間に、突然ため息混じりのお姉様が現れた。私と違って、しっかりと茶色のロングコートを着ている。というか、え? え? どういうことなの? というか、ルーミアは分かってたの? いろんな疑問が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。 驚きのあまり、言葉が出てこない。 「大体なんであんたには最初から分かったのよ? パチェ直伝の、姿が闇に溶け込んで見えなくなる魔法を使ってたのに」 「闇は私の得意分野だからねー」 「えっと、ルーミアは最初から気付いてたの?」 「うん。私は言ったよ? 後ろに居る人はフランドールには見えないんだねって」 あーあー確かにそんなことを言っていた気がする。なるほど、お化けとかじゃなくて、お姉様だったのか。ということは、最初から私が抜け出していたことはバレていたのか。 いやいやいや、でも他にも疑問はある。 「けど、なんで私のお姉様だって分かったの?」 「えー? だって、二人ともそっくりだよ、雰囲気とか」 そっくり? 私とお姉様が? そんなこと、初めて言われた気がする。お姉様も私も、目を丸くしていた。 するとルーミアは、ふわっと宙に浮く。 「それじゃあ、そろそろ私は行くね」 「え? 行くって何処に?」 「さぁ? ふらふらと散歩を続けるだけだよ。フランドールはもう帰った方が良いよ。そこにいるフランドールのお姉さん、ずっとハラハラして見てたしね。あの獣を倒したのだって、お姉さんだよ。それにフランドールが私の真似して不安定に飛ぶのを、とても心配そうに見ていたし」 「……おいこらルーミアとかいったか? それ以上お喋りが過ぎると、紅く染めるわよ」 「あはは、怖い怖い。それじゃあね、フランドール」 「え? あ、今日はありがとう! また、またね、ルーミア!」 私がお礼を言うと、ルーミアはふにゃっとした笑みを浮かべながら手を振って、その場を去って行った。 なんだろう、掴めないような性格だったけど、楽しかった。またいつか、会いたいな。 しばらくルーミアが行った方向をじーっと見つめていると、ごほんごほんとわざとらしい咳。お姉様だ。少し気まずそうに、私の方を見ている。どうしたんだろう? 「あーその、フラン、すまなかった」 「え? 何が?」 「いや、お前をこっそりつけるような真似をして」 あーなるほど。それに対して、後ろめたさを感じていたのか。 けど、お姉様は別に悪くない。原因は、私だもの。 「ううん、私こそごめんね。勝手に抜け出すようなことして」 「ん、そうね。正直、せめて私に一言くらい言って欲しかったわ」 「止められるかなぁって思って……」 きっと、ダメって言われると思ったから。 「今度からはせめて一言、ね?」 「ん、分かった」 「よし、じゃあそろそろ帰るわよ。あ、けど、その前に……」 なんだろうと思っていると、お姉様が近寄って来て私にコートを着せてくれた。お姉様がさっきまで着ていたのもあって、より温かい。 ぬくぬくとした温かさと、お姉様の匂い。まるで、お姉様に包まれているような感じだ。 「ほら、帰るわよ、フラン」 「うんっ!」 差し出された手を、ぎゅっと握る。 そして、紅魔館へと戻ることにした。ふわっと、空を飛ぶ。お姉様に心配かけないよう、不安定な飛行はやめ、普通の飛行。 私を責めるように吹いていた冷たい風は、いつの間にか止んでいた。 |
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