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絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

雨ざぁざぁ

11月22日に主にピクシブや同人でご活動なさっている紫崎さんのお誕生日SSとして、仕上げたものです。
文と霊夢であやれいむー!
雨ざぁざぁ!
 

「あー……ついてないわね」

 空を見上げると、視界いっぱいに広がるのは泣きだしたような空。
 ざぁざぁと叩きつけるように降り注ぐ雨は、霊夢の足を止めるには充分だった。
 人里に買い物に来たは良いけども、運の無いことに突然の土砂降り。霊夢は慌ててカフェに避難したが、それでも濡れてしまった。

「傘は持って来てないし、かと言ってわざわざ買うのも勿体ないし……どうしたものかしらねぇ」

 店員がやって来て、席に案内をする。とりあえずは、雨宿りだ。
 店内は外の違って暖かく、思わずほぅっと息を吐いてしまう。さほど広くも無い店内ではあるが、一息吐くには充分な空間だ。
 席に着いて、メニューを開く。

「さて、何か温まるものを注文しましょうかね――って、あれ?」

 二つほど前の席に、見たことあるような後ろ姿。
 天狗が被っている特徴的な帽子だけで、その人物が誰だか霊夢には分かった。閉鎖的な天狗社会で、人里にまで来る天狗なんて霊夢の知ってる中では一人しかいない。
 声をかけようかどうか迷う霊夢。いろいろと面倒になりそうなので、声をかけたくない。そんな気持ちもある。

「うーん、どうしようかしら」

 そこで、ふと視界に入るものがあった。
 それは文の隣に置いてある物――傘だ。



 ~少女思考中~



 話しかける→盛り上がる→なんやかんやで傘奪う→やったね!



 ~少女思考終了~



「あれ? 文じゃない?」

 霊夢は話しかけることにした。
 すると、呼ばれた文は振り返る「あやややや」と口にした。目を大きく見開き、驚いた表情をしている。こんなところで会うとは思ってなかったのだろう。

「霊夢? 珍しいですねー人里で会うなんて」
「ねぇ、せっかくだしそっちの席に行っていい?」
「あぁ、どうぞどうぞ」

 霊夢がにやぁっと口元を歪めたのを、文は気付かなかった。
 そして、文の正面に座る。
 とても笑顔だ。

「……何やら不穏な空気を感じたんですが」
「何をわけの分からないことを言ってんのよ」

 いつも顔を会わせれば不機嫌な表情ばかりの霊夢が、爽やかな笑顔で文に話しかけているのだ。
 怪しまずにはいられない。
 文は思考をめぐらせる。霊夢の目的は、一体何なのかを。外をちらりと見ると、変わらず大雨。そして、目の前には髪や服が濡れて、どこか艶っぽい霊夢。さらに注意して観察すると、本来この状況で持っていなければならない物を、霊夢は持っていないということに気付いた。

「……なるほど、霊夢」
「何よ?」
「あなたの考えは、読めました」
「そう、なら話は早いわ。傘寄こせ」
「嫌だと言ったら?」
「そうね……ならせめて、神社まで送りなさい」
「あなたはなんで、毎回そう上から目線なんですか」

 文は苦笑いを浮かべながら、既に頼んであったホットコーヒーを口に運ぶ。ほど良い苦みと温かさが、心地良い。
 霊夢は近くに通りかかった店員に「こいつと同じものを一つ」と注文した。

「私、コーヒーですよ? 飲めるんですか?」
「何よ、コーヒー飲んでたの?」
「知らずに頼んだんですか」

 少しして、店員がホットコーヒーを持ってきた。
 霊夢は何も入れずに一口飲み、顔をしかめた。

「何これ、苦い」
「無理なら砂糖とか入れた方が良いですよ」
「あんたは?」
「ブラックですけど」
「……じゃあ私もこのままで良いわ」
「何を張り合ってるのですか」

 別に張り合ってない、と呟きながらコーヒーを飲む。やはりお茶とは違うこの独特の苦みに慣れないのか、しかめっ面だ。

「まったく、苦手なら無理しなければ良いのに」
「無理なんてしてないわよ。そんなことより、傘寄こせ」
「だからなんであなたは上から目線なんですか」
「私を誰だと思ってるのよ? 巫女よ」
「いや、巫女だから上から目線って、意味が分からないです」
「分からなくて良いわよ。傘さえ渡して貰えれば」
「だから渡しませんって」

 二人ともチラッと外を見る。
 ざぁざぁ降り注ぐ雨は、止む気配がない。霊夢は雨宿り程度にカフェに入ったが、どうやら濡れ鼠になる覚悟を決めないといけないようだ。

「仕方ないわ。神社まで送って行きなさい。それで許してあげる」
「上から目線は絶対譲れないのですね」
「私に風邪を引けっていうの?」
「なんとかは風邪引かないって言うじゃないですか」
「コーヒーかけるわよ」
「傘入れませんよ?」
「うぐぐ……妖怪のくせに人間を脅すなんて」
「いや、普通はそれで正解だと思います」
「分かったわ。ここはあんたがコーヒー代奢るってことで、傘に入ることを許可するわ」
「あれ? またなんか逆転してませんか? むしろ私が奢ってもらう立場な気がします」

 いつもなら折れてくれる文だが、今回は折れない。それもそうだろう。いつもとは状況が違うのだ。
 霊夢相手に、有効な手札を持っているという事実が、文を強気にさせる。ここぞとばかりに、霊夢を攻める。ニコニコと良い笑顔の文に対し、霊夢は悔しそうな表情だ。

「ほらほら、私はもうコーヒーを飲み終わっちゃいますよ? 飲み終えたら、もう帰る予定です。あー外はまだ大雨ですねぇ。これは濡れちゃったら、風邪引くのは当然でしょうね。まぁ私は傘持ってますけどねー」
「うぅ、く……な、何が望みよ?」

 とうとう、霊夢の方が折れた。
 文はにやりといやらしい笑みを浮かべた。勝ったと確信した。

「そうですねぇ。今度一日中、私の命令でも聞いてもらいましょうか」
「はぁ!?」
「無茶なことは命令しないので、安心して良いですよ」
「くっ……あ、あんたなんかの」
「はい?」

 俯いてぷるぷる震えている霊夢。

「あんたなんかの命令聞くくらいなら、私は濡れて帰ってやるわよ! じゃあね!」
「え、ちょ、巫女!?」

 立ち上がり、店を出ようとする霊夢。
 文も慌てて立ち上がり、声をかける。

「ちょ、待って下さいって!」
「何よ!? 止めても無駄よ!」
「いえ、代金払って出て行かないと、無銭飲食でしょっぴかれますよ!」
「そっちかよ! 少しは私の心配とかないの!?」
「巫女は風邪引かない! 私信じてます!」
「妙な信頼するんじゃないわよ!」
「大体私は、さっきから交渉してるじゃないですか。傘に入れる代わりに、生まれたままの霊夢さんを愛でさせてくださいと」
「さっきより明らかに要求のハードルが上がってるじゃない!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人。
 そこに、一言――

「お客様、店内で騒ぐのはご遠慮ください」

 割と普通に、迷惑そうな顔で、店員に注意された。
 ふと周りを見ると、客たちがじーっと文と霊夢を見ていた。
 なんとなく気まずい空気を感じた二人は、席に戻るとすぐにコーヒーを飲みほし、代金を払って逃げるように店から出た。







「で、結局無条件で送ることになったわけですが」
「最近寒くなってきたわね。巫女服だけじゃあ、ちょっときついものがあるわ」
「うん、分かりやすい無視をありがとうございます。ま、あなたらしいっちゃ、あなたらしいですけどねー」

 流石に土砂降りの中、傘を差して空を飛ぶわけには行かないので、ゆっくりと歩く。
 文はちらっと霊夢の方を向くと、霊夢もその視線に気付きじっと睨んでくる。

「何よ?」
「……いえ、なんだか私は、あなたの不機嫌な表情ばっかり見ている気がするなぁと」
「あんたが馬鹿なことばかりするからでしょ」
「いやー私が何もしなくても、結構不機嫌な表情ばかりのような。たまには笑ってみたりしませんか?」
「別に何が面白いってわけでもないのに、なんで笑わなきゃいけないのよ」
「うーん、じゃあ私が面白いことをすれば笑ってくれると?」
「今目の前であんたが雨の中躍りだしたら、大笑いしてあげるわ」
「おお、巫女は怖いですね。私が風邪を引いても良いと?」
「妖怪は丈夫なんだから、その程度で風邪引かないでしょ」
「私はほら、紫さんや幽香さんみたいに神経図太くないので。か弱い女の子なので」
「さらっと毒吐いたわね。それと、か弱いを今すぐ辞書で調べた方が良いわ。あんたとは縁のない言葉だろうから」
「いやー巫女にも縁の無い言葉でしょうけどね」

 文の脇腹あたりに、針をぷすっと一刺し。すると文は変な声を上げて、体をぐらつかせた。咎めるようにじろっと睨むと、霊夢はとても良い笑顔。
 この傘から出してやろうか、などと一瞬考えたが、それで本当に風邪など引かれたら、後味が悪い。仕方なく、反撃は控えることにした。
 ざぁざぁと降り注ぐ雨は、止むどころか勢いを増していた。靴に少し染み込んできて、独特な不快感が二人を襲う。
 いつもなら、もう神社に着いていてもおかしくはない。やはり、飛べないと時間がかかる。空を飛ぶありがたみを感じながら、一歩一歩歩く。

「はぁ、本当ついてない」
「巫女の勘で分からなかったんですか? 今日は土砂降りだーって」
「私は天気予報じゃないわよ。そこまで分かったら、もはや新しい能力よ」
「霊夢ならそれくらい出来ても、違和感ないですが」
「私はなんでも超人か」
「割と合ってる気がしますが」

 文からすれば、弾幕ごっことはいえ紫や文自身や萃香など、幻想郷トップクラスの実力者を何度も倒している霊夢は、なんでも出来る超人的存在だ。文以外の人妖も、おそらくそう思ってるだろう。
 本人は自覚がないようで、のんきに欠伸をしている。そんな姿を見て、文は思わず苦笑い。

「才能ですかねぇ、やっぱり」
「んー何が?」
「いえ、なんでもないです」
「ふーん……って、ちょっとあんた、肩濡れてるじゃない」
「あーこの傘、そんな大きくないので仕方ないかと」
「……私の方は、濡れてないけど」
「せっかく傘に入れてるのに、これで本当に風邪でも引かれてしまっては嫌ですからねぇ」

 何気なくそんなことを言う文に、霊夢は少し驚いた。
 霊夢が抱く文のイメージは、自分優先で他人は割とどうでもいい、というようなものだった。だが、実際はどうか。今、文は自分を犠牲に霊夢が濡れるのを防いでくれている。

「ん、ちょっと見直したわ」
「その勢いで、惚れちゃっても良いんですよ?」
「前言撤回するわよ?」
「はいはい、すみません。調子に乗りましたーっと」
「ったく、これだからあんたは」
「でもほら、相合傘でラブラブ! みたいな」
「へ?」

 文がおどけてそう言うと、固まる霊夢。足も止まったため、文も慌てて止まる。
 霊夢は文を見る。そして次に、傘を見る。最後には、今の状況を完全に把握。

「え、ゃ、べ、別にそういう意図で傘に入れてって言ったわけじゃないわよ! た、ただ雨に濡れるのが嫌だったからで!」
「おや? 意外ですねーこういうの、気にしない人かと思ってました」
「だ、だってあんたが変なこと言うから! その、ちょっと意識しちゃっただけで――」
「あやややや、嬉しいですねぇ。意識してくれるだなんて。今度新聞で特集でも組みますか。博麗の巫女、好きな相手は清く正しいあの天狗! みたいな感じで」
「……そんなことしたら、あんたを仕留めて私も死ぬわ」
「うーん、それは困ります。大切なネタ提供者を失っては、とても悲しいです」

 霊夢は俯いているが、顔が赤いのは見なくても予想がついた。
 そんな霊夢を見て、ニヤニヤととても楽しそうな笑みを浮かべている文。

「あーもうっ、あんたはどこまで本気なのか分からない!」
「失礼ですね。私はいつでも本気ですよ?」
「もういいから、さっさと行くわよ!」
「あ、ちょ、濡れちゃいますよ!」

 ぷいっとそっぽを向いて歩き出す霊夢に、文は慌てて足を動かす。
 しばらくしても、会話が生まれない。目も合わせてくれない。これは少しふざけすぎたか、と少し反省する文。

「もーそんな不機嫌にならないでくださいよ」
「……」
「さっきも言いましたけど、私はいつも本気ですって。霊夢と相合傘楽しいなーって思ったり、意識されてて嬉しかったり、もっと笑った顔を見てみたいなーとかも――って痛い!?」

 話してる途中で、腹部に肘を入れられた。
 思わずその場に倒れそうになるが、そうなると濡れてしまうため、なんとか堪える。一瞬震えた足を、なんとか立て直す。

「そういう恥ずかしいこと、さらっと言うな!」
「私は恥ずかしくないですし。真実ですからね」
「っ! あーもう、なんでこんな流れになってるのよ……」
「さぁ? まぁほら、私は巫女のことが好きですよ」
「私はあんたのことが嫌いだけどね」
「あやややや、振られちゃいましたか。残念。残念すぎて、私今から飛んで帰りそうです」
「は?」
「この傷心は、好きって言ってもらわないと治りそうにないですねー」
「……私、それ言うくらいなら濡れて帰るわよ?」
「えー? たった一言で良いんですよ? 私、もうそれだけで満足しちゃいますから」
「うぐぐ……」
「言ってくれたら、お賽銭だって入れますよ」
「っ!?」

 肩を震わせ、気持ちが揺らいでいる霊夢を見てニヤニヤ。
 さっき少し反省したばかりなのに、もうそんな気持ちはどっかに行ってしまっていた。
 少しして、霊夢が決心したような目つきで文を見た。

「本当に、お賽銭入れてくれる?」
「入れます入れます」
「もう、これ言ったらからかわないでしょうね?」
「からかってるというか、割と本気なんですが。はい、今日は満足します。素直に神社に送ります」
「じゃあ、言うから」

 深呼吸。
 すーはーすーはー。
 ふぃ、と一息。
 頬が少し赤いのは、やはり恥ずかしさからだろう。そんな姿からは、博麗の巫女ではなく、年相応の女の子らしさがうかがえる。
 そして、ゆっくりと口を開く。
 文は聞き逃さないよう、しっかりと集中する。その唇の動き、霊夢の目、全てを逃さないように。

「文、私は文のことが――――」

 その先は、激しい雨音にかきけされた。
 けれども、文にはしっかりと聞こえていた。震えた声で、少し潤んだ瞳で、確かに霊夢は文の望む言葉を言った。

「……これで、満足?」
「半分ですね」
「はぁ!? ちゃんと言ったじゃない!」
「いえ、もう半分は私の気持ち的なものなので。気にしないでください。さぁ、約束通りちゃんと送りますよ」
「ちょっと、どういうことよ!」
「あーあー雨音で聞こえませーん」

 文はわざとらしく、誤魔化した。
 確かに文はその言葉を聴いて、嬉しかった。だが、それでも満足とまではいかなかった。

「……やっぱり、こんな強制的な感じじゃなくて、いつか本当に言って欲しいですからね」
「ん? 何か言った?」

 文のぽつりと零した言葉は、雨音に消えた。近くに居る霊夢でさえ、聞き逃した。

「いいえ、なんでもないですよ? さぁ、ちゃちゃっと帰りましょう」
「帰りましょうって、あんたの家じゃないけどね。ま、お風呂くらいは入って行っても良いわよ。あんた濡れてるしね」
「およ、ありがとうございます。お言葉に甘えますね」

 にへらーと笑う文。
 今はまだ、このままでも良い。そんなことを思いながら、文は霊夢をちらっと見た。霊夢はやっぱり「何よ?」と睨み返してくる。
 予想通りの反応で、思わず笑みを零してしまう。

「何笑ってるのよ」
「いえいえ、なんでもありませんよ。あ、ほら、もうちょっとこっち寄ってください。濡れちゃいますよ」
「あ、うん、ありがと」

 腕が少し、触れ合う。
 冷え切った雨の中の空気とは違って、触れた腕は、温かった。
 
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