トリックオアトリート2010-11-01 Mon 03:11
10月31日に投稿したハロウィンネタ。
あやれいむで! 「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃいますよっ!」 「……」 霊夢がぼーっと縁側で煎餅を齧っていると、文が目の前に舞い降りて冒頭の一言。 何故か、無言。霊夢は煎餅を持ったまま、動かない。文の方を、じーっと見ている。ただ、無表情で見ている。 天気は良いが、もう冬のような寒さ。吹く風が、肌に痛い。 そしてなんとなく、滑った感が漂う空気だ。文は額に嫌な汗が流れるのが分かったが、あえて笑顔とポーズはそのまま。先に動いたら、滑ったのを認めてしまって負けたような気がするからだ。 すると、止まっていた霊夢が動き出した。横に置いてあった煎餅を一つ手に取り、笑顔のままの文の口に、無言のまま押しつける。 「え、ちょ、れいむさ……普通こういうときは洋菓子系で――」 ぐいぐい。 霊夢はもう片方の手に、もう一枚煎餅を手に取り、それも文の口に押しつける。 もちろん、無表情かつ無言のままだ。 「あ、ちょっとしょうゆの匂いがっ、しょうゆ味の匂いがっ! やめ、というか、なんで無言無表情なんですかっ! こわっ、むぐ、怖いですからっ!」 ぐいぐい。 文が霊夢の目を見ると、なんとなく「ほら、あんたがお菓子寄こせって言ったんじゃない。食べなさいよ、ほらほら」と訴えてるように思えた。 口に押しつけられる、二つの煎餅。 文が何度か喋るたびに、何回か歯にあたっていて割と痛い。 「あーもう、すみませんでしたっ! 私が悪かったですからぁ!」 「いいから煎餅食べなさいよ。鬱陶しい。せっかくの私のお煎餅タイムを邪魔して……」 やっと喋った霊夢。 文はぶつぶつと文句を言っている霊夢から煎餅を二枚受け取り、横に腰掛けた。そして、煎餅を齧る。特別美味しいわけでもないが、不味いわけでもない。そんな、ごく一般的なしょうゆ味が口の中に広がった。 「まったく、あんたで五人目よ」 「え? 五人目?」 「最初はレミリア、次に魔理沙、そしてルーミア、まさかの魅魔、そしてあんたよ。流石に温厚な私も、笑顔でぷちっときちゃったわ」 「いやいやいや、思いっきり無表情だったじゃないですか。凄く怖かったですよ」 「家の中にある洋菓子系は、根こそぎ奪われたわ」 「それは……なんと言いますか、ご愁傷様です」 文の脳内に「持ってかないでー」と叫ぶ霊夢が浮かんだが、それはどこぞの魔女の台詞だと思ったので、想像をやめる。 はぁ、とため息を零している霊夢。 それを見た文は、軽く苦笑いを浮かべつつ、もう一枚の煎餅を一口だけ齧った。ぱきっと心地良い音とともに、再び口内に広がるしょうゆ味。やはり、美味しくも不味くも無い。 「……よくよく考えたらさ、なんで私がお菓子をあげる立場なのよ! 私だって貰う立場でも良いじゃない! なんでみんな私のところに来るのよ!」 「ちょ、私に言われましても……そんな苛々しないでください。ほら、私の煎餅あげますから」 「それあんたの食べかけな上に、私があげたやつじゃない!」 「まぁまぁ、食べればきっと落ち着きますって。どうせお腹空いてるから、苛々してるんですよ」 「あんた、私を子ども扱いしてない?」 「あははー私にとっては、十分子どもですよ。はいっ」 「むぐっ」 霊夢は反論しようとしたが、その口は文の持っていた食べかけの煎餅によって塞がれた。仕方なく、煎餅を齧る。ジト目で文を睨みながら。 煎餅を口に咥えながら睨まれても、まったく怖くはない。文はわざと、とっても良い笑顔を返す。 すると霊夢は悔しそうに、ぷいっと文から視線を外した。 バリバリ。 ぱくぱく。 ごっくん。 「……美味しいですかー?」 「……別に」 「ですよねー」 「で? あんたはわざわざ、トリックオアトリートって言うためだけに来たの?」 「まぁ半分以上はそうですねー。あとは、逃げてきたって言うのもあります」 「逃げてきた? 何から?」 文が逃げるほどのこととは、なんだろうか。霊夢は少し首を傾げた。 訊かれた文は、何故か苦笑いを浮かべている。 「いやー、実は妖怪の山でもトリックオアトリートだらけでして」 「は?」 「もう私の家に食べ物ありませんよ」 「どんだけあんたの家に押し掛けられたのよ……。というか、食べ物ないって、お菓子だけじゃないの?」 「お菓子が無いって言ったら、同僚には米を持ってかれ、知り合いの河童には野菜を持ってかれ、知り合いの哨戒天狗には果物を持ってかれました。ちょっとした強盗ですよ、これ」 「あんたなら、拒絶することも出来たんじゃないの? 実力だってあるし」 霊夢からすれば、文が素直に渡すなんて到底思えなかった。 相手が何人だろうと、紫や萃香などのジョーカー的存在でさえなければ、簡単に追い返せる実力を持っているのが文だからだ。 「同僚ならともかく、友好関係の河童や身分が下の哨戒天狗に攻撃仕掛けちゃあ、私が悪者じゃないですか。そんなことしたら、同僚に『射命丸文、ハロウィンを否定? 家に来た罪の無い河童や哨戒天狗をボコボコに!』とか書かれるのが目に見えてます」 「あー……新聞って怖いわね」 「空気の読めない射命丸文、なんて噂流されたくないですし」 ため息を零す文を見て、意外に苦労してるんだなぁと珍しく同情心が湧く霊夢。 霊夢も洋菓子の類は魔理沙たちに持って行かれたが、流石に食糧全ては持ってかれてない。どう見ても、文の方が悲惨だった。 少し、可哀想にさえ思える。 「あんた、ご飯とかどうするのよ?」 「まぁ幸いお金に余裕はありますし、人里かどっかで何か買ってこようかなーって思ってます」 「良かったら、食べてく? 簡単なものしか作らないけど、そろそろお昼だし」 「本当ですか!?」 「うあっ!?」 霊夢の言葉を聞いて、文はまるで子どものように目をきらきらと輝かせた。 そして、霊夢の両手を包み込むようにぎゅっと握る。冷たい風にあたっていたから、手は冷え切っていた。 霊夢は文の突然の行動に、目を丸くする。 「た、食べてく?」 「是非お願いします!」 「それと、手離しなさい。あんたの手、冷たいのよ」 「手が冷たい人は、心が温かいのですよ?」 「そんなことはどうでもいいの。寒いってば」 「では温めてあげます!」 「は? どうやってよ?」 文は霊夢の手を自分の手のひらで、優しく揉み始めた。女の子らしい柔らかい肌が、ぷにぷにとして心地良い。 だが、霊夢としては少しくすぐったさを覚える。 ぷにぷに。さわさわ。すりすり。 その動作一つ一つが、気恥かしさとくすぐったさを霊夢に与えている。 「ちょ、んっ……くすぐったいし、やめなさいよ」 「温まってきません?」 「そりゃ、ちょっと温かいけど……」 「なら良いじゃないですか。ほら、もう片方の手も」 「あ、ちょ、だから良いってば!」 腕をぶんぶんと振って、文の手から逃れようとする。 「あーあー霊夢さん、そんな腕を振っちゃったら腋が見えますよ。ほら、腋チラしちゃいますって」 「何よ腋チラって!」 「腋チラリズムの略ですよ。マニアにはたまらないそうです」 「……あんた、お昼ご飯なしにするわよ?」 「超すみませんでした」 速攻謝罪した。 無駄に格好良い声で謝罪した。 白い歯、爽やかな笑みを浮かべつつ、謝罪した。 そんな文に対し、霊夢はとても良い笑顔で一言。 「うん、なんかウザい」 「酷い!?」 ~少女料理中~ 「霊夢さーん、何作るんですか?」 「何か食べたいのある?」 「霊夢さんが食べたいなー、なんちゃって」 「あっ、なんか五秒後くらいに包丁握るの失敗しちゃって、そっちにぶん投げるかもしれない」 「怖っ!? じょ、冗談ですってば! あ、あははー」 「で? 結局何か食べたいものある? 無茶なものじゃなければ、リクエスト受け付けるけど」 「んー霊夢さんの料理ならなんでも良いですよ、美味しいって分かってますし。あ! でも、鶏肉使った料理はご遠慮願いたいです」 「ん、分かったわ。けど、あんまり期待しないでよね? そんなハードル上げられても、特別美味しいものなんて作れないわよ」 「いえいえ、宴会のときに出される料理の中で、私は霊夢さんの料理が一番好きですから」 「妖夢や咲夜の方が、美味しいの作ると思うけど……。でも、褒められて悪い気はしないわ。ありがと、文」 「楽しみにしてますねっ」 ~少女料理終了~ 「文、これ持ってってー。私、お茶淹れてくるから」 「あ、はいー」 料理を運び、卓袱台の上に並べる。一度では全て運ぶことは出来ず、何回かに分けて運ぶ。 そして文が料理を運び終わって待っていると、霊夢がお茶を持ってきた。 「はい、お待たせ」 「それでは、いただきます!」 「はい、いただきます」 二人とも、手を合わせていただきますをする。 文は箸を手に取り、料理に手を伸ばす。 「ん、美味しいです」 「そう、良かったわ」 文の言葉を聞いて、ほぅっと一息。 そして霊夢も、料理に手を付け始めた。 「そんなほっとしなくても。私は最初から美味しいって信じてましたし。やっぱり霊夢さんのような人でも、不安になったりするのですか?」 「微妙に引っ掛かる言い方に聞こえるけど……。そうね、やっぱりちょっと不安にもなるわよ。特にあんたみたいに、期待してる人に食べさせるとなるとね」 「ふむ、そういうものなのですかね。私は誰かに自分の料理を食べさせるなんてこと、しないので分かりませんが」 「そういえば文って料理上手なイメージあるけど、宴会で手伝ってくれたことないわね」 見た目でふと忘れがちになるが、文はこれでも霊夢の何十倍も長く生きている。料理の知識も経験も、霊夢より豊富だろう。 出来るならば、食べてみたい。そんな欲求が、霊夢の中で生まれていた。 「ほら、私って手伝いとかする性格じゃないですし」 「自分で言うな。自覚してるなら手伝いなさいよ。いつも人手が足りないのは、料理作ってる私たちなんだから」 「嫌ですよー。ま、でも霊夢さんだけになら、今度作ってあげても良いですよ」 「え? なんでよ?」 「なんか食べてみたいーって目線で見られてますし、今日は御馳走になっちゃってますからね」 霊夢の視線に込められた思いに、文は気付いていた。 けど過度な期待はしないでくださいね、と文はおどけたように言って見せた。 そうは言われても、霊夢は期待してしまう。具体的な日は約束していないけれど、いつか近いうちに絶対食べさせて貰おう。そんなことを思った。 「あ、霊夢さん、おかわりいただけます?」 「あー少しは残ってかしらね。って、食べるの早いわね」 「幻想郷最速ですよ?」 「くたばるのが?」 「いえ、食べるのが。今くたばっちゃったら、霊夢さんに手料理を振る舞うことが出来ないじゃないですか」 「はいはい、ありがと。おかわり持ってくるから、ちょっと待ってなさい」 「はいー」 霊夢は立ち上がり、皿を持って台所の方へと向かう。 いつもより少し賑やかな食事は、どうやらまだもう少しだけ続くようだ。 「で、食べ終わったのになんであんたはまだ居るのよ?」 「コタツぬくぬくー」 「……」 「あぁ、コタツ捲らないでください! 寒いです!」 食べ終わった後、コタツに入ったまま動かない文。 霊夢は文が入ってるのとは反対側の方を捲り、わざと風を入れた。寒い寒いと、文はコタツの中で足をばたつかせる。そのせいで、短いスカートから白い布がちらっと見えた気がしたが、霊夢は見なかったことにした。 「大体、食べたら帰るだなんて、一言も言ってませんもーん」 「そりゃあ、そうだけど……」 「それともなんですか。霊夢さんは、私がここに居ちゃ迷惑だと言うのですか? あやややや、私悲しくて泣いてしまいます。このままじゃ、涙で溺れて死んでしまいます」 「もういっそ、くたばりなさいよ」 「酷いです。今の言葉、とっても傷付きました。傷付いたので、蜜柑を要求します」 「っ、こいつ……」 人を怒らせるのが特技なのかこいつは。霊夢はそう思い、文をどうしてくれようかと考える。 そこで視界に入ったのは、コタツを捲って見えている文の細い足。 そして、今日という日。 一つアイディアが浮かんだ霊夢は、とても楽しそうに、口元を歪めた。その霊夢の笑みを目撃したなら、誰もが逃げ出すであろうが、生憎今は誰も見ていない。 「ねぇ、文」 「はい? なんですかー?」 「トリックオアトリート?」 「……はえ?」 霊夢の言葉に、文は思わず間抜けな声を出した。 そしてそれと同時に、妙な危機感を覚える。何故なら、文の足首を霊夢ががっちりホールドしていたからだ。 「れ、霊夢さん、何故突然その言葉を?」 「私はまだ言ってなかったなーって思ってね。で、どうなの? トリックオアトリート?」 「あ、あのですね、霊夢さん? 言いましたけど、私は今もう食べ物すらない状態なんですよ? お菓子なんて渡せるわけが――」 「つまり、悪戯ね」 「え、ゃ、ちょ……」 「悪戯、で良いのね?」 「せ、選択肢がないように思えるのですが!」 「それじゃあ、仕方ないわよね。お菓子が無いなら、仕方ないわ。悪戯するしかないわよねー」 「ス、ストップ! ちょっとストップですって! 何靴下を脱がして……って、きゃうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 あとがき さて、文ちゃんはどんな悪戯をされたのか。靴下を脱がされてくすぐられたのか、まさか足を舐められたのか、それともさらに奥へと手を伸ばされてスカートを取られたのか。 それは、悪戯をされた文ちゃんと、した霊夢さんだけが知っています。 というわけで、トリックオアトリート? お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ! お菓子って良いですよね。家族と一緒に食べるのも、一人で食べるのも、ぽかぽかほんわか穏やかな気持ちになれます。 そんなこんなではありますが、少しでも楽しんでもらえたら、嬉しいです。 喉飴でしたー。 |
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