絶対あめだま宣言!

好きなことや様々なことを、ただ適当に綴ります。SS書いたりなど。あやれいむ布教委員会の会長です。

トモダチ

天子の日SS!
ってのは、偶然でwたまたま天子の日に仕上がったんですwゆかてん! 私の全力のゆかてんです。どうぞ。
 
 また負けた。
 速さが足りないのか、火力不足なのか、それとも根本的に相性が悪いのか。
 原因は分からない。最大の武器である緋想の剣を持ってしても、破ることは出来ない圧倒的存在。
 うーん、緋想の剣に頼りすぎなのかな。もっと動き回って錯乱させて、隙を突いた方が良いのだろうか。それとも反撃の隙を与えないほどに素早い接近戦、もしくは高密度の弾幕を展開させて動きを封じた方が効果的だろうか。
 そこまで考えて、思考を停止。
 こんなボロボロな状態で、まともな考えなんて出来るわけがないし。

「あー……体痛い」

 天人の体は丈夫なはずなのに、あいつの攻撃はそれをものともしない。

「自業自得ですわ」
「むぅ……」

 仰向けのまま転がっている私を、紫は呆れた表情で見ていた。日傘を広げて、私を見下ろしている。あの日傘、傷一つ付いてないのはなんでだろう。負けはしたが、私だってそれなりに攻撃を叩き込んだはずなのに。現に、紫の服はところどころボロッとなっている。なのに、日傘は無事。むぅ、不思議だ。
 天人はタフだが、回復力が他の種族と比べてずば抜けて速いというわけではない。むしろ、妖怪の方が速いかもしれない。
 痛みは……少しは引いてきたかな。

「んしょ、っと」
「あら、もう起きれるの?」
「当り前! 私を誰だと思っているの!」
「私に毎回無謀にも挑んでは敗れる愚かな我侭天人絶壁娘」
「絶壁は余計よ!」
「……それ以外は認めるのね」

 苦笑い気味に言う紫。
 否定したいけど、それは真実だもの。仕方ない。とても悔しいけれど。今なら悔しさでハンカチを噛み切れるだろう。それくらい、悔しい。

「もう諦めたら?」
「いーやー!」
「本当、我侭娘ね。勝てるまでやる気?」
「私がどれだけ悔しい思いをしているか! あんたにも悔しさを味あわせるのよ!」
「あー悔しいですわー。ゆかりん、ちょーくやしいー。はい、これで満足?」
「棒読みウザっ!? 果てしなく腹が立つわよ!」
「あぁもうっ、どうしろっていうのよ」

 額に手をあてて、いかにも困っています、迷惑です、といった態度。わざとらしいな、こいつ。
 紫は挑発の名人だと思う。こいつなら、たとえ相手が神でも閻魔でも人間でも、どんな相手でも挑発出来るんじゃないだろうか。私も挑発くらいなら出来るけど、こんなに腹が立つようには多分出来ない。私と紫の違いの一つだろう。
 ん? 違い? そうだ、私には足りないものがあるんじゃあないだろうか。紫にあって、私にはないもの。
 それを知れば、もしかしたら勝てるかも!

「紫!」
「はいはい、何よ?」
「あなたは私に勝ちました」
「ええ、そうね」
「だから、豪華賞品を渡したいと思います」
「じゃあ天界全部くださいな」
「それはダメです。もっと良いものさしあげるわ」
「寄せて上げるブラならいりませんわ」
「殴っていい?」
「殴り返してもいいのなら」

 本当、いちいち勘に触ることを言うやつだ。
 いや、違う違う。話が逸れてるわ。

「って、ちがーう! だから! 豪華賞品あげるって言ってるの!」
「はぁ……何よ?」
「わ・た・し」
「たわし?」
「違う! 何ベタベタなボケしてくれてんのよ! 私よ、私! 今日一日、なんと紫の傍にずっと居ます!」

 ぽかんとして、口を開いたまま停止中の紫。こいつのこんな姿、珍しい。そんなに嬉しいのだろうか。
 だが、そんなに甘くはない。この豪華賞品には裏があるのだ。
 それは、紫の傍に一日中居ることによって動向を観察し、私と紫の違い、足りないものなどを発見するという素晴らしい作戦。
 この作戦に、穴などない。

「えーと……本気?」
「超本気よ!」
「丁重にお断りしますわ」
「って、えぇぇぇぇぇ!? なんで!? どうして!?」
「いや、あなたと一緒に一日もいたら、ストレスがはんぱじゃないでしょう。誰が好き好んでそんなことをしますか。たわし貰った方がまだありがたいわ」
「ちょ、私はたわし以下!? む……な、なら特別になんでも言うこと聞いてあげるから! 口答えもしない! これならどうよ!?」
「うーん……」

 む、私がここまで最高の条件を付けてやっているのに、こいつは何を悩むことがあるというのだろう。
 あーもう、早く頷きなさいよ。

「そもそも利点がないわ」
「炊事洗濯家事手伝い、なんでもどんとこーい!」
「いや、私には優秀な式神、藍がいるし」
「むむむ~、ほら、たまには式を休ませてあげないとダメよ?」
「……仕方ないわねえ。明らかに何か企んでいるのでしょうけど、良しとしましょう。一日、私の傍に居ることを許可しますわ」
「やったー! よろしく紫!」

 作戦成功の喜びのあまり、紫の腕に抱きついた。
 鬱陶しい、と押し返された。

「ほら、行くわよ天子」
「ん、分かったー」

 こうして、いつもとは違った一日が始まった。





◇◇◇





 紫に連れられて着いた場所は、何やら不思議な雰囲気漂う場所だった。
 少し寒くて、思わず体が震える。

「ねえ紫、ここ何処?」
「んー? 私の友人が住んでいるのよ」
「ええ!?」
「何よ、その驚きは」
「いやー紫って友達いたんだなーって……っ!?」

 笑顔で頬をつねられる。
 痛い痛い、離せこんちくしょう。つるつるお肌にしわが出来るでしょうが。

「そんなこと言うのはこの口かしらー?」
「いふぁい! いふぁいってふぁ!」
「ちゃんとした言葉じゃないと、何を言っているのか分かりませんわー」

 こ、こいつ……要石で泣くまで殴り続けたい。
 でも今日は我慢だ。約束は守るものだ、って萃香が無駄に格好良く言っていた。
 あーでも痛い。痛いぞこのやろー。こいつ、やめる気全くないな。もう我慢の限界である。え? 約束? いや、結構我慢した方よね、うん。こいつが悪い。私は被害者。スキマは加害者。よし、殴ろう。

「くふぁふぁれ、この――」
「あら、紫~」
「へ?」

 くたばれと言った瞬間、突然のぽわぽわした声に、戦意を失った。そして、声のした方向へと向くと、そこにはいつぞや戦ったことある人物。
 えーと、名前はなんだっけ。亡霊の人ってことは覚えているのだけど。確か戦った中でも、かなり不思議な人物だった気がする。なんというか、考えが読めない人だった。
 そもそも、ちゃんと自己紹介したかしら。いや、してない気がする。

「幽々子、遊びに来たわ。こちらは、今日一日私の下僕の比那名居天子」
「誰が下僕よ!」
「あら~ちゃんとお話をするのはもしかして初めてかしらね。西行寺幽々子よ。妖夢も居れば紹介したのだけど、あの子は今お買いもの中で不在なのよ」

 妖夢って、えっと……剣を持っていたあの子かしら。この人の従者的立場だった気がするから、多分そうだと思う。
 紫とは違う、ふにゃりとした笑みを浮かべている。なんというか、とても綺麗なのに、どこか子供っぽい雰囲気がある。相手に警戒心を抱かせないような、そんな感じだ。

「あ、えーと、比那名居天子です。ご丁寧にどうも」
「ん、よろしくね、天子ちゃん」
「天子ちゃん!?」

 生まれてきてこの方、ちゃん付けされて呼ばれたのは初めてだ。
 なんか、ちょいとむずむずする。恥ずかしいのか、よく分からないけど。
 う……隣で紫がニヤニヤしている。鬱陶しいなあ、もう。

「可愛いじゃない、天子ちゃん?」
「~っ!」
「こらこら、紫。あんまりいじめちゃダメよ?」

 幽々子さんがフォローしてくれたが、まず原因はあなたの発言だと思う。

「いくら好きな子をいじめたくなるからって、いじめすぎは嫌われちゃうわよ?」
「はい!?」
「ちょ、幽々子!?」

 いやいやいや、ありえないから。
 紫も驚いているし。うん、私もちょっと、いやかなり驚いた。なんかいろいろと凄い人だ、この人。私が異変起こした時も、この人だけは紫を除く他のやつらと違って行動原理がよく分からなかった。なんか凄いと思う。
 どこから取り出したのか、扇子で口元を隠しているが、明らかにその下は笑っているということが分かる。

「さあ、おもてなしするわ。ついてきて」

 そうして、連れていかれた場所は大きなお屋敷の一室。
 まさに、和という言葉があてはまる、そんな部屋。障子で囲まれた空間は、完璧に外部を遮断するわけではなく、外からの陽射しをおぼろげに残していた。妙な圧迫感はないのに、閉じ込められたような感覚。
 うーん、なるほど、和室とはこういうものを言うのか。博麗神社とは、また違う感じがするなぁ。

「どうぞ。妖夢が居ないから、私が入れるお茶だけど」
「あ、ありがとうございます」
「……うわ」

 幽々子さんからお茶を頂くと、横に座っている紫が何故か物凄く嫌な顔をした。
 お茶が不味くなりそうな顔だから、あえて無視して、一口飲む。熱そうなので、ふーふーとしてから。
 口の中に、苦み……いや、これはどちらかというと、渋みだろうか。子どもなら、顔をしかめて嫌いそうな、そんな味。けれど、この渋さが結構癖になりそう。甘いのも好きだけど、たまにはこういう味も良いかもしれない。天界では、味わえることがない味だ。
 思わず、ほぅ、っと一息。

「美味しいです」

 素直な感想だった。
 本当はもっといろいろ言葉巧みに褒めたいのだけど、あいにく私にはこんな単純で誰にでも言えるような感想しか出てこなかった。

「ふふ、ありがとう、天子ちゃん」

 けれど、幽々子さんは嬉しそうに笑ってくれた。
 優しい人だなぁ。

「……うわ」
「……何よ?」

 紫が、また露骨に嫌そうな顔をした。
 その顔は案の定、幽々子さんにではなく、私に向けられている。

「いや、あなたが素直すぎて気持ち悪くて」
「失礼ね!」
「しかも、敬語だし」
「私だって礼儀の一つくらいは出来るわよ! あんたどこまで失礼なのよ!」
「あ、幽々子。このお茶とても美味しいわ~流石幽々子ねっ」
「あは、ありがと~紫」
「話そらすな! 喧嘩売ってるわよね? 絶対そうよね? なんなら買ってやるよ?」
「残念、私の喧嘩は非売品なので売れませんわ」

 こ、こいつ……殴りたい。
 笑顔が、妙に腹立つ。なんて人を馬鹿にしたような笑顔だろうか。幽々子さんの笑顔とは大違いだ。
 こいつは少し、幽々子さんを見習った方が良い。

「ふふ……」
「何を笑っているんですか、幽々子さん?」
「いえ……ただ、紫とあなた、とっても仲良しさんだと思っただけよ」
「はい!?」

 今の流れで、どこをどう見ればそうなるのか。
 幽々子さんは良い人ではあるけれど、少々目が悪いのかもしれない。うんきっと、いや絶対、そうなのだろう。今度良い医者を紹介してあげよう。地上の医者なんてまったく知らないけど。

「幽々子、あなたは少しおかしいわね。いや、だいぶおかしいわね」
「む、紫は失礼ねぇ。紫は素直じゃないものね。本当は天子ちゃんのこと、気に入って――」
「今日の幽々子は本当におかしいわね。少し横になったらどうかしら?」
「やーん、紫ったらこわーい」

 紫が幽々子さんの方へ扇子を向けて、引き攣った笑みを浮かべている。あれは、えーと……怒っているのかな? うーん、紫のことはよく分からない。幽々子さんは、わざとらしく怖がるだけで、本当に怖がってはいないみたいだ。
 少しして、紫が諦めたように大きなため息を吐いた。

「はぁ……本当、幽々子には敵わないわ」
「あら、私だって紫には敵わないわよ~」
「……なんか疲れたわ」
「素直になっちゃえば、疲れないかもしれないわよ?」
「冗談もいいとこね」

 二人がなんの会話をしているのか、よくわからなかった。けど、本当に仲良いんだなぁ、ということは雰囲気で伝わってきた。
 なんだろう、ああいうのって良いなぁ。
 そうか、これも私に足りないものか。親友なんて、考えてみたらいない気がする。いや、いたにはいたが、過去の話だ。私がまだ、地子だった頃は、普通に仲良い子はいた。今は、いない。全てを捨てて、天界へ移ったのだから。
 なんだろう……自分で勝手に考えだしたのに、へこんできた。
 独りなんて、もう慣れてたはずなのに、目の前でこうも仲良いところを見ちゃうと、忘れていた寂しさを思い出す。

「どーせ私なんて……」
「何よ突然?」
「ううん、なんでもない。ちょっとへこんでただけ」
「あぁ、胸が?」
「はっ倒すぞスキマ」
「おお、怖い怖い。野蛮って嫌ねぇ」

 へこんでいた感情が、一瞬で怒りへと変わった。
 胸がへこんでいたら、それは立派な病気だろ。こんちくしょうめ。

「今のも、何故かへこんでいた天子ちゃんを、元気付けるためにわざと怒らせて――」
「幽々子、ちょっと軽~くで良いから、妖夢に斬られてきたら?」
「残念、妖夢はまだ帰ってこないわ~」

 笑顔でなんだか凄いオーラを出している紫に対し、幽々子さんはやっぱり余裕の表情だ。
 幽々子さんは紫の扱いが上手いなぁ。今度、どうすれば良いのか訊いてみるのもいいかもしれない。そうしたら、私が逆に紫を挑発出来たりとかするかも。
 んー……でも、挑発出来たとしても勝てなきゃ意味がない。紫を怒らせたら、以前の異変の時みたいにボコボコされる気がする。

「ん~どうすれば……」
「何唸ってるのよ?」
「天子ちゃんは紫に勝ちたいそうよ」
「な、何故それを!?」
「天子ちゃんの態度でなんとなーく、ね」
「あら、そうなの? 絶対に勝てないから諦めなさい」
「や、やってみなくちゃ分からないでしょ!」
「何回やっているのよ。もう十数回超えた辺りから、数えなくなったけども。いい加減相手するのも疲れるのよ」
「な、なんですって!?」
「それでも相手をして、しかも今みたいに傍に置いているところから察するに、紫がいかに天子ちゃんを気に入っているかが本当に良く分かるわねっ」
「幽々子、今日はとってもおしゃべりね」
「女の子ですもの。おしゃべりは大好きよ。もう紫ったら、苛々しすぎよー」

 紫が幽々子さんに、ほぼ零距離に迫っている。笑顔だけど、怒気やら、他にもいろんな感情が混じっているのが良く分かる。なんというか、傍で見ているだけなのに、怖い。うん、とても怖い。
 それでも、幽々子さんは無邪気な笑みで紫と視線を交わしている。なんだろう、本当に凄い人だ。

「はぁ……疲れたわ。帰ることにしますわ」
「あら、帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけば良いのに」
「冗談。何時間もここに居たら、幽々子に弄られ続けるのが目に見えているわ」
「ふふ、そうかもね。それじゃあ、またね紫。それと、天子ちゃんも。またいつでもいらっしゃい」
「あ、はい。お邪魔しました」
「またね、幽々子」

 目の前にスキマを出して、また移動。
 幽々子さんは、笑顔で手を振っていた。
 ふと横を見ると、紫はなんだか本当に疲れたような表情になっていた。そんな紫が珍しく思えて、少し笑ってしまいそうになる。
 ここで学んだことは、二つだ。
 幽々子さんの紫の扱い方が上手いということと、親友って良いなぁということ。







「はい、着いたわよ」
「痛い!?」

 蹴り飛ばされた。

「何するのよ!」
「別に。深い意味はありませんわ」

 こいつ、絶対に八つ当たりだと思う。
 人を蹴って笑顔とか、どんだけサディストなんだ。腹が立つほどに、良い笑顔。普段の私なら飛びかかっているところだけど、今日は逆らえない。それも紫に勝つための戦略だから、我慢だ。

「お帰りなさいませ、紫様。えっと、こちらは?」
「ただいま、藍。これは新しいペットよ」
「誰がペットよ!」
「藍、今日一日はこの子が家事やるから」
「はい?」
「後でいろいろ教えてやりなさい。私は疲れたから、寝るわ」

 ひらひらと手を振りながら、紫は行ってしまった。
 いや、ちょっと待ってほしい。いきなりこんな場所に放置されても、どうすればいいのか。
 横を見ると、尻尾が凄いもふもふしてそうな綺麗な女性。金色の毛並みが、神々しさを感じる。
 ちょっと触ってみたいかも、あの尻尾。いや、それはともかく、えーと誰だろうか。さっき紫は藍と呼んでいたから、藍さん……で良いのかな。確か紫の式神。

「えーと、藍さん?」
「ああ、そうだよ。貴女は比那名居天子か?」
「は、はいっ! な、なんで私の名前を?」
「紫様からよく聞いているよ。なんでも我侭な天人の娘に絡まれて疲れる、とね」

 あ、あいつ、家ではそんなことを言っているのか。いやまぁ、そりゃあ迷惑をかけているかもしれないけど。
 ふと今までの言動を思い返してみる。
 そして、自分がもしそういうことをされたらどう思うか考えてみる。
 結果。あれ? 私嫌われて当然?

「いや、紫様はなんだかんだで、貴女のことを嫌ってはないと思う」
「え? あれ、というか私、声に出してた?」
「んー? いや、声には出していないが、顔に出ていたよ」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、藍さんはそう言った。
 表情の変化で心を読み取った藍さんが凄いのか。それとも、ただ単に私が分かり易いタイプなのか。後者だったら、滑稽すぎる。もうちょっと、ポーカーフェイスになった方が良いかもしれない。

「もし本当に鬱陶しいと思っているなら、あの方は恐らく無表情かつ無感情で貴女をあしらっていると思う」
「紫って、何考えてるかはよく分からないけど、結構表情はコロコロ変わると思うけど……」

 まぁ、その表情もうさんくさいのだけど。
 藍さんは、ふむと呟き、顎に手を添えて何かを考えだした。
 うーん、私からしたら、無表情の紫ってあんまり見たことがない気がするのだけど。無感情っていうのも、見たことない。

「うん、ならやっぱり、紫様は貴女を嫌ってはいないのだろう」
「そうなの、かなぁ……結構喧嘩するけど」
「ふふ、喧嘩するほど仲が良い。紫様も貴女も、まだまだ若い証拠じゃあないか。それはとても良いことだ」

 なんだか藍さん、年寄りくさい。
 失礼だから絶対に口にしないけど、そんなことを思った。

「さて、天子……で良いかな?」
「あ、はい」

 うん、やっぱりちゃん付けされるよりは、普通に呼ばれる方がしっくりとくる。

「紫様から命じられた。家事を教えようと思うが、どのくらい出来る?」
「えーと……」

 あー掃除とか料理とか洗濯とか、今はどれくらい出来るんだろうか。
 昔はあまりにも暇過ぎて、一通り学んでこなしていたのだけど、もう最近は飽きてやっていなかった。

「かなり、久し振りかな」
「ふむ、経験はあるんだね?」
「それは、まぁ一応」
「なら大丈夫さ。やっているうちに、体が勝手に思い出す。ただし、厳しくいかせてもらうから、覚悟しておくように」
「よ、よろしくお願いします」

 で、良いのだろうか、この場合。
 一応教えてもらう立場なのだから、多分間違ってはいないだろう、うん。

「さ、いつまでも外に居ては冷えてしまう。とりあえず、まずは中に入るとしよう」
「はい」

 藍さんの後ろについて行く。
 目の前で大きな尻尾が、ふぁさふぁさと揺れている。やっぱり触ってみたい衝動に駆られるが、突然そんなことをしたら失礼だろう。我慢我慢……。

「ふふっ、天子は分かりやすいな」
「え?」
「触りたいっていうオーラが、顔を見なくても伝わってくるよ。触るかい?」
「えぇ!? いや、その、なんで……」
「普段から、主である紫様に尽くすために動いているからね。主が何を考えているか、何を求めているか、全て察するよう心掛けているんだ。もう癖になりつつある」

 いやいや、そんな簡単に言っているけど、相手のことを察するなんて難しいと思う。しかも、紫のことを察するなんて、私には絶対無理。あんなうさんくさいの、理解出来ない。
 藍さんは振り返った。何故か少し、苦笑い気味だ。

「とは言っても、紫様は考えていることが難しくて、未熟な私には理解できないときも多々あるけどね。それでも、主に応えるのが私の役目」

 なんか、格好良いなぁ。
 幽々子さんとはまた違ったベクトルで、凄い人だと思う。

「その点、天子は分かりやすかったよ」
「んなっ!?」
「うずうずしているような、そんな感じが伝わってきた」

 うぅ……やっぱり分かりやすいのか、私。
 もしかしたら、紫と弾幕ごっこしてるとき、分かりやすい動きばかりだったのかもしれない。紫はそういうところ、すぐ気付きそうだし。フェイントとか、必要なのかもなぁ。

「分かりやすいというのは、別に悪いことじゃあない。まっすぐで、自分に正直で、それはとても良いことだと思う」
「……それって、子供っぽいってことじゃあ」
「あはは、そうとも言う。けどね、決して悪いことじゃないんだよ。それは、天子の長所なのかもしれない。紫様も私も、持っていないものだ」
「それって藍さんたちが大人ってだけじゃあ――」
「大人が必ずしも良いもの、正しいものとも限らないだろう? 時には子どもの方が、大人よりも何かを感じ、視えている場合もある」
「んっ……」

 ふわっと、優しく頭を撫でられる。
 まるで、子供を可愛がるかのように。子供扱いされていることは、もちろん分かった。けれど、不思議と不快感は湧いてこなかった。
 藍さんは、穏やかな笑みを浮かべている。なんだろう、ちょっと胸の奥がこしょこしょってして、くすぐったいや。

「さ、入ろうか」
「あ、はい」

 改めて、藍さんについて行った。
 その背を眺めていて、あることに気付いた。
 結局尻尾、触ってないや、と。





◇◇◇





「うん、悪くないよ。だが、紫様の好みに合わせるために、もうちょっと手を加えてみようか」
「紫の好みなんて知らないけど……」
「大丈夫、そこは私が手助けしよう。さぁ、続けてくれて構わない」

 掃除を終えた後、夕食の支度。
 お味噌汁にたまご焼き。私が任された夕食のメニューだった。なんか朝食っぽいメニューだなーと思ったけど、偏見だろうか。
 白米はどうするのかと聞いたら、なんでも自動で炊いてくれる機械とやらがあるそうで、それを使うらしい。天界にはそんな物ないけど、地上ではそれが普通なのかしら。それとも、紫の家だけが特別なのか。後者の方が正解な気がする。
 久し振りの料理で、少し戸惑ったけど、やっていくうちに感覚が戻ってきた。
 お味噌汁は、もう後は藍さんが紫好みに軽く手を加えるだけ。
 残るはたまご焼きだ。
 これが実は、案外難しい。慣れればもちろん簡単なのだけど、それでもちょっとでも手を抜いたら形が崩れてしまったり、失敗してしまう。
 久し振りに持ったフライパンは、予想よりも軽かった。
 さて、どんなたまご焼きにするか。少し考えた結果、ごく普通のものにすることにした。ここで変に凝って、失敗したくないし。

「えーと……ここはこうして」

 頭の中でレシピを展開しながら、手を動かす。うん、やっぱり感覚を思い出したから、そんなに難しくない。
 あ、そうだ。

「藍さん、紫って塩? 砂糖?」
「ん? あぁ、紫様は砂糖で大丈夫だよ」
「ん、りょーかいっ!」

 塩しか受け付けないんだ、って人とかもたまにいるからね。
 では砂糖で味付けするとしよう。あまり甘すぎないように、それでいて味はしっかりと付いているように。それを心掛けながら、たまご焼きを作る。

「藍~水をちょうだい」
「え、紫もう起きたの?」
「何よ、そのずっと眠っとけみたいな発言」
「いや、そういうわけじゃないけど、まだ調理中だから。出来てからびっくりさせてやろうと思ってたのにー」
「安心なさい、水飲んだら自室に戻りますわ。藍、水ー」
「どうぞ、紫様」

 藍さんが水の入ったコップを手渡した。
 紫は別にお礼を言うこともなく、それを飲んだ。寝起きのせいか、少しいつもよりだらしないような、そんな感じがする。いつもとのギャップに、少しそのまま見てしまう。

「ん? 天子、たまご焼きは大丈夫か?」
「え、ってきゃあああああ!? 失敗してる!?」

 ボーっと見てたせいで、手元を確認していなかった。
 フライパンの上で、たまご焼きが惨劇になっていた。ぐしゃっと形が崩れてしまっている。あー……巻きを失敗した。形だけが残念なだけで、味は多分大丈夫だと思うけど、これを夕食に出すのはなんだか気が引けた。

「あー……藍さん、ごめんなさい」
「うーん、味はどうだい?」
「形が崩れているだけで、味は大丈夫だと思うけど……」

 一応味見しておこう。
 崩れた一欠片をつまもうと手を伸ばす。が、それよりも先に違う手が伸びた。紫の手だった。

「ちょ、紫?」
「んー?」

 紫はそのまま、崩れたたまご焼きの欠片を口に運んだ。
 予想外のことに、思わずぽかーんとしてしまう。

「ん、悪くないじゃない。藍、これはこのまま食卓に出しなさいな。作り直さなくて良いわ、気に入った」
「はい、分かりました」

 藍さんがクスッと笑って、そう答えた。
 え、もしかして気を使ってくれた? あの紫が、私に?

「む……藍、何を笑っているのかしら?」
「いえ、なんでもありません」

 ジトっとした目で、紫が藍さんを睨んだ。
 藍さんは未だに少し口元が笑っているけど、それを隠そうとはしない。それを見た紫が、不機嫌そうな顔をした。紫は何か言おうとしたのか、口を開きかけたが、それは結局音を発することがなく閉じられた。

「はぁ……幽々子はともかく、藍にまでこんな態度取られるとはね」
「いえいえ、私はただ、お二人の関係が微笑ましいなと思いまして」

 とても良い笑顔を浮かべる藍さん。
 そういえば、私と紫の関係ってなんだろう。改めて考えてみると、よく分からない。最初は、かなり仲が悪かったとは思う。というか、紫本気で怒ってたし。
 じゃあ今は?
 今は、どういう関係?
 今でもよく喧嘩腰になったりするけど、割と普通に会話もしているし、前よりは親しいのだろうか。仲が悪いのかと言われたら、それはちょっと違う気がする。なんというか、本気で喧嘩しているわけじゃあないし。ちょっとだけ、かちんとくる程度だ。

「うーん……」
「何唸っているのよ?」
「いや、私と紫ってどんな関係なんだろうかなーって」
「なんだ簡単じゃない。ご主人様と奴隷でしょう?」
「誰が奴隷よ!」

 うん、こいつなら本当に、私をこれくらい見下していてもおかしくない。
 明らかに馬鹿にしたような目つきの紫。その隣で、藍さんが何故か笑いを堪えているように見える。なんでだろう。

「くっ……はは、お二人とも本当に仲がよろしいようで」
「藍、永遠亭に行って目を診てもらった方がいいんじゃないかしら?」

 紫が笑顔で藍さんの肩を掴んでいる。
 あ、なんかみしみしいってる。聞こえちゃいけないような音が聞こえる。笑顔だけど、これ絶対怒ってるよね。

「紫様、肩が痛いです」
「ふん、おかしなこと言うからよ。じゃ、私は部屋に戻るから」
「はい。準備が出来たらお呼びします」

 小さなため息と共に、紫は踵を翻して自室へ戻って行った。
 ふぅ、さて私はもう少し頑張らないと。まだ完成ではないから。久し振りの料理は、なんだか楽しい。

「さあ、再開しようか。あと少しだ」
「はい、えーと次は……」

 よし、今度は失敗しないように気をつけよう。





◇◇◇





「ごちそーさまでした」

 結局失敗したのは、見た目が残念なたまご焼きだけだった。他は上手くいった、と思う。藍さんも美味しいと言ってくれた。紫は「悪くない」と言っていたから、少なくとも不味くはなかったのだろう。ほっと一息。
 久し振りに料理をした割には、結構上出来よね。
 えーと、次は何をすればいいんだろうか。食べ終わったから、食器洗いかな。

「藍、食器洗いは貴女に任せるわ。そこの奴隷天人にはちょっと話があるから、私の部屋に来なさい」
「分かりました」

 む、どうやら食器洗いは無しのようだ。その代わり、紫の呼び出しか。なんだろう、ろくなことじゃないとは思うけど。足を舐めて永遠の忠誠を誓えとか言われたら、速攻斬り捨てよう。勝てるか分からないけど。
 と、そこで気付いた。

「あれ? 私、緋想の剣どこやったっけ?」

 そもそも、今日紫と戦い終わった後から、どこにやってしまったか覚えていない。
 これは非常に不味い。あれは天界の宝だ。いや、私が持ち出しても誰も文句一つ言わずに笑っているくらいだから、多分怒られたりはしないだろうけど。それでも、これは一大事だ。
 なんだか、嫌な汗がぶわっと出てきたのを感じる。

「何をしているの? 早く来なさい」
「や、その……緋想の剣が見当たらなくて」
「あぁ、まぁそのことも含めて話があるのよ。ついてきなさい」
「え? あ、ちょ、どういうことなのよっ!」

 声を掛けても、紫はそれ以上喋らなかった。黙ってついてこい、そう言われている気がした。

「待ちなさいってばっ!」
「……うん、やっぱり元気のある、良い娘だ。若さに満ち溢れているなぁ」

 紫の後をついて行く。藍さんがまたなんか年寄りくさいことを言っていた気がするけど、とりあえずは気にしないでおこう。
 歩く紫の横に並ぶと、紫は欠伸をしていた。寝てたくせに、まだ眠いのだろうか、こいつは。紫の身の回りの世話をしている藍さんは、一体どれだけ大変なのか。私なら絶対こいつの世話なんか出来ない。

「ここよ。私の部屋」

 突然足を止めた紫が、そう言った。
 障子を開くと、そこには想像していたよりもずっと片付いた和室。紫のことだから、汚い部屋かなとか思っていたけど。あ、もしかしたら、この部屋も藍さんが掃除しているのかもしれない。そう思うと、この綺麗さも納得出来る。

「わぁ、何これ……」

 最初、普通の和室かと思ったけど、よく見ると置いてある物が見たことない物ばかりだ。
 木製の箪笥とかは見慣れているけど、丸っこい猫の形をした時計や、机の上に置いてあるちょっとお洒落な何かとかは、見たことが無い。

「それは猫型の目覚まし時計。そっちの机の上にある物は、電気スタンドよ」
「む、なんで――」
「それらを気にしているか分かった、かしら? あなたの好奇心に満ちた視線の先を追えば、容易いことよ」

 むぅ、やっぱり顔に出易いようだ。これはいつか、どうにかして直すとしよう。
 紫は敷いたままの布団の上に寝転がった。多分、食事前まで眠っていたから、そのまま敷いておいたんだろう。
 なんというか、だらけきっているようにしか見えない。
 むぐぐ、なんでこんなやつに勝てないのだろうか。

「で、話って何よ? あと、緋想の剣のこともちゃんと話してよね」
「はいはい。その前に、マッサージよろしくね」
「は?」
「最近肩凝りとか酷くてね。ほら、早く」
「え、あ、うん。って、なんでよ!?」

 紫はすでにうつ伏せになって、早くやれやと目で訴えている。
 いや、なんで私がそんなことをしなくちゃならないのよ。

「なんでも言うことを聞くんでしょ?」
「う……」
「口答えもしないのでしょう? それとも、天人の我侭娘さんは約束一つ守れないような子なのかしら?」

 わざとらしい挑発。
 紫の口元は、にやぁっといやらしい笑みを浮かべていた。腹立つけど、確かにそれらは私が自ら言ったこと。
 上等じゃない。マッサージの一つや二つ、簡単よ。

「紫、あなたに思い知らせてあげるわ。不良天人の極楽浄土地獄のマッサージフルコースを!」
「なんでもいいから早くしなさいな、鬱陶しい」

 あ、やっぱ殴りたい。堪えろ……堪えるんだ、私。
 そうだ、明日になったら殴ろう。日付が変わった瞬間に奇襲をかけよう、うん。そうだ、それが良い。いくら紫でも、この作戦は見抜けないはずだ。
 そうと決まれば、今は我慢してマッサージ。
 うつ伏せの紫を跨いだまま、なるべく体重をかけないように意識する。

「重くない?」
「とっても重いですわ――って言いたいとこだけど、正直予想外に軽過ぎて驚いてるわ。あなた、ちゃんと食事はしてる?」
「面倒なときは食事くらい抜くけど。どうせ食べなくても大丈夫だし」
「栄養不足で風邪引くわよ」
「そんなにやわじゃないわよ、私。一応天人だもの」
「ま、なんとかは風邪引かないって言うものね。あなたなら大丈夫そうだわ」
「どういう意味よ!」

 なんでこいつは、こう一々喧嘩売ってくるのか。
 はぁ、なんかそれに対して毎回怒ってる私もダメなのかもしれない。案外、こういうタイプには無視という手段が効くのかも。
 今度挑発されたら、無視してみよう

「そうそう、話があるって言ったわね。緋想の剣のこと含め」
「あ、そうよ。緋想の剣、何処にあるか知ってるの?」
「まぁ真面目な話、あっ、そこもっと強く押してちょうだい、そうそう。それで、真面目な話なんだけど、うーん、もうちょっと強くしても良いわよ。あー気持ち良いわー……あれ? なんだったかしら?」
「真面目な話って言っておいて、なんで忘れるのよ!」
「いや、真面目な話ではあるかもしれないけど、そんな大したことじゃあないのよ。ただ、緋想の剣は預かったわ。それだけですわ。あーそこそこ、んっ、ふぁ~楽だわ~」
「ちょ!? それ大したことあるでしょ! 返しなさいよ!」

 いやいやいや、何を言ってるんだこのスキマ。
 驚きのあまりに、思わず指圧を強めてしまったが、紫は気持ちよさそうな声を上げるだけだった。いや、本当、ちょっと待て!
 頭の中が、ぐるぐるする。妙な汗がどばって出てくるような、そんな感覚もする。

「だーめっ、あなた、今日一日私を観察していたでしょう?」
「うぐっ! な、何故それを……」
「大方、私の強さの秘密を暴いてやる~とか、そんな感じかしら?」

 割と当たっている。何故ばれている。
 やばい、逃げるべきか。いや、逃げられるとは到底思わない。そもそも、ここへはスキマを使ってきたから、ここが何処かも、出口さえも分からない。
 紫の顔は見えないけど、今どんな顔をしているのだろう。少し、怖い。

「えっと、いつから分かってたの?」
「幽々子のあたりから。やけに視線を感じたのと、何か考えている表情で。あなたは分かりやすいからね」
「……それ、藍さんにも言われた」

 なんだかここまで分かりやすいと言われると、暗に単純馬鹿と言われているような気持ちになる。藍さんは、良いことだって言ってくれたけど。私はどちらかというと、やっぱりポーカーフェイスになりたい。
 どうせ逃げられないのは分かっているし、指圧を続ける。

「あなたが私に勝てない理由の一つ、緋想の剣に頼りすぎ。まずは緋想の剣なしに、己の様々な能力を鍛え上げることね」
「それで没収したの? あれ、一応天界の宝みたいなものなんだけど」
「どうせ今さら、誰も何か言ったりしないでしょう?」
「そりゃそうだけどさぁ……」
「ま、あなたがどう頑張ったところで、私には及ばないけどね」
「うっさい!」

 緋想の剣が無ければ、正直私の火力は大幅に下がる。そこらの雑魚相手ならともかく、異変の時に戦ったメンバーレベルが相手となると、多分決定打を与えることは難しいかもしれない。
 私の能力を、強力といえば強力なのは確かだが、扱い辛いという欠点がある。弾幕ごっこで使用なんてしたら、その争いの場の地形がぐしゃぐしゃになってしまってもおかしくない。加減をすれば、少し大地を揺らす程度で、相手のバランスを崩すことも可能だが、弾幕ごっこは空中戦の場合が多いので、あまり意味はない。
 そう改めて考えると、確かに紫の言う通り、緋想の剣に頼り過ぎていた感はあったかもしれない。
 自分自身を鍛える、か。うーん、何をどうすればいいのかよくわからないけど、やるだけやってみよう。いろいろ試して、足掻いてみるのも悪くない。それで紫に勝てるのなら。

「他にもあなたが私に勝てない理由はあるけど、聞く?」
「むむむ、理由くらい分かってるもん! 緋想の剣に頼りすぎってことだって、ちょっとくらい思ってたもん!」
「まったく……意地張らないで聞いておけば良いものを。私がわざわざアドバイスするなんてこと、滅多にないわよ?」
「別に紫にアドバイス貰ったところで、嬉しくないもの。私は私なりの、紫と私の違いってものを、今日一日で見つけたんだから!」
「へぇ、私とあなたの違い……ねぇ。あぁ、胸?」
「斬り殺して良い?」
「残念、緋想の剣は今私が預かっていますわ」
「うぐぐ……」

 顔を見なくても、声だけでニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべているのが、容易に想像できた。
 こいつ、何かと私の胸を突いてくるけど、別に悔しくなんかない。そりゃあ、紫みたいに大きくないけど、私だって形は良いはず。多分。きっと。
 そ、それに胸の大きさで偉いとか強いとか決まるわけじゃあない。むしろ胸が控え目でおしとやかな私の方が、紫よりフットワークが軽いんじゃないだろうか。唯一、ここだけは勝ってる自信がある。

「で? 私とあなたの違い、あなたなりの見解は?」
「それは……」

 今日一日で学んだことを、思い返してみる。
 紫と私の違い。

「えっと、紫は妖しいけど、私は妖しくない!」
「は? それは懲りずに、私に喧嘩を売っているのかしら?」
「え、や、違くて……なんていうか、私は分かりやすいけど、紫は分かりにくいっていうか、ポーカーフェイスっていうか」
「あぁ、つまり私は思慮深い、あなたは単純馬鹿ってことね」
「うぐ……」

 言い返せない。
 自分でも、もしかして単純馬鹿なんじゃないだろうかって思ってたんだし。
 言い返せない私に対し、紫は実に楽しそうに「ふふふ」と笑っていた。
 なんとなく悔しくて、指圧をさらに強くしてやった。これは絶対痛いはずだ。この指圧を、全人類の指圧と名付けよう。
 しかし、紫はまた気持ちよさそうな声を漏らすだけだった。なんだこいつは。背中に痛覚ないんじゃないだろうか。

「それで? 他には何かあるの?」
「えっと、強さに関係はないかもしれないけど、もう一つ」
「何かしら?」
「その、友達」
「え?」

 紫にとって予想外だったようで、珍しく間の抜けた声だった。
 うぅ、私だって言うの恥ずかしいんだから、聞き返さないで欲しい。

「紫には、幽々子さんみたいな親友って呼べる存在が居たけど、わ、私にはそういうの居ないなって思って……」
「……なるほどね。けど、あの竜宮の使いは? あなたの友人じゃないの?」
「衣玖のこと? 衣玖とは……うーん、そんなプライベートで接したことはないかな。会えば軽く挨拶くらいは交わすけど、それだけって感じ。友人って言うよりは、知り合いかなぁ」

 衣玖としっかり会話をしたことは、そんなに無い気がする。私が起こした異変の時が、一番接点があったかもしれない。今は会えば挨拶をするけど、別に一緒に何処かへ遊びに行ったりなどはしない。
 そういえば、何度か衣玖が何かを言いたそうにして、結局何も言ってこないっていうのはあるなぁ。なんか言いにくそうに「あの、総領娘様、もしよければお茶、いえ、やっぱりなんでもないです」って。結局何を言いたかったのだろう? 言いたいことがあるのなら、ハッキリ言って欲しいな。

「はぁ……あなたは結構鈍感なのね。あの竜宮の使いは仲良くなろうと努力しているのに、なんというか、報われてないのねぇ」
「ん? どういうこと?」
「知らないなら知らないで良いのよ。私から言っても、意味が無いしね。あなたが自分で気付いてあげなきゃ」

 紫がため息混じりに、そう言った。
 うーん、何が言いたいのだろう。紫の言うことは、相変わらずよく分からない。もっとストレートに言って欲しい。
 突然、紫がゆっくりと起き上がる。指圧はもう良いのだろうか。

「もう指圧は良いの?」
「ん、それよりもあなたはどうするのかしら?」
「え?」
「あなたは今日、たくさんのことを学んだかもしれない。自分には無いもの、それを見つけたかもしれない。けど、それでどうするのかしら? それを得るために、何か努力でもするの?」
「緋想の剣に頼らないで、体術やら戦闘能力は上げるよう努力してみるわよ。ポーカーフェイスにはなりたいけど、なんか無理な気がする。友達は……うーん、えっと」

 友達かぁ。どうしよう、友達ってどうやって出来るのか。いや、そもそも正直、友達って強さに関係ないし、別に作らなくても良いんじゃないだろうか。ちょっと紫が羨ましいなって思っただけで、本来の目的じゃないしね。
 別に友達が作れそうにないなーとか、そんなことを思ったわけではない。諦めたとか、そういうわけじゃない。うん、逃げてない逃げてない。
 なんとなく、紫の視線が痛い。なんだろう、憐れみの視線と言うか、なんというか。

「とてもとても可哀想に」
「視線だけならともかく、言葉に出すなっ!」
「友達、作れる自信がないんでしょう?」
「あ、あるわよ!」
「友達になってあげましょうか?」
「ほら、友達簡単に出来たじゃない――って、え?」

 ん? 今、何かとんでもない幻聴を聞いた気がする。
 き、気のせいよね、多分。

「あなたと友達になってあげましょうか、って言ったのよ」

 幻聴じゃなかった。
 紫はいつもと変わらない表情で、何気なく言った。

「え、やちょ、ま、待って! 何突然!?」
「それとも私のことは嫌いかしら?」
「ぅ、や、そんなことはないけど。意地悪だし腹立つことも多いけど、嫌いってわけじゃあ……じゃなくてっ!」
「はぁ……冗談よ。何をそんなにあたふたしてるのよ」
「んなぁ!?」

 馬鹿ね、みたいな目つきでため息を吐かれた。え、何こいつ、殴りたい。
 私の右手がこいつを殴れと言っている気がするけど、今日はこいつに逆らわない。一応約束。

「だって、もう私たちは友達でしょう」
「……え?」

 いつの間に取り出したのか、紫は扇子で口元を隠しながらそう言った。
 再び、幻聴かと疑ってしまう。いや、だってあの紫だもん。あの紫が、こんなことを言うだろうか。
 じーっと紫を見つめてみる。口元は隠れていて分からないけど、少しだけ瞳の奥が揺れている気がした。もしかして、慣れないこと言って恥ずかしがっているのだろうか。

「紫と私って、友達なの?」
「そう訊き返されると、私は恥をかくのだけれど?」
「あ、えと、ごめん。うん、ありがと。そう言ってくれると、嬉しい……かも」
「何よ、かもって」
「だって紫と友達って、なんか変な気がしてちょっとくすぐったいっていうか。それに友達……友達かぁ」
「それと天子、あなたは友達いないって言ってたけど、幽々子と藍は違うのかしら?」
「え? だって、二人としっかり話したのは今日が初めてだし……」
「友達に時間は関係ないでしょう? そんなこと言ってると、幽々子と藍が寂しがるわよ。それともまさか、二人のことは嫌いかしら?」
「き、嫌いなわけない!」

 幽々子さんはちょっと掴みにくかったけど、優しくて綺麗だし、藍さんは少し年寄りくさいところがあるけど、なんか温かくて包容力のある人だ。二人とも、私みたいな不良天人に良くしてくれた。
 好きになる理由はあれど、嫌いになる理由はない。
 紫は扇子をスキマにしまった。現れた口元は、滅多に見ない、優しい笑みを浮かべていた。

「紫、なんか……」
「ん?」
「気持ち悪い」
「……へぇ、あなたはどうやら喧嘩売ってるようね」
「だってぇ! 紫が優しいなんて、嬉しいけど、調子狂っちゃうって言うか」
「失礼ですわ」

 うん、自分でも言ってて失礼だとは思う。
 けど、相手はあの紫だ。こんなことを言ってしまっても、正直仕方ないとも思う。

「えと、その、ありがとっ」
「はいはい」

 む、人がお礼を言ったのに、軽くあしらわれた気がする。
 まぁいいか。紫にいちいち腹立ててちゃあ、多分精神的にも体力的にももたない気がするし。
 それよりも、友達かぁ。友達、うん。紫が友達って、やっぱり妙なくすぐったさと違和感があるけど、素直に嬉しい。

「何を笑っているのよ?」
「えへへっ、なんでもない」
「……ま、いいわ。それよりも、今日一日はまだ終わってないわよ。話も終わり。今から藍の手伝いしに行って来なさい。そして、次にお風呂を沸かすこと」
「ん、分かった。お風呂は何処?」
「面倒くさい。藍に訊きなさい。私はお風呂沸くまで、また寝るから」

 ふぁ、と欠伸をしている紫。
 こいつ、どれだけ寝れば気が済むのだろうか。本当、藍さんは大変そうだなぁ。

「突っ立ってないで早く行きなさいな」
「はいはい。もう、人使いが荒いなぁ」

 紫に背を向けて文句を言うけど、嬉しさで口元がまだニヤついているのが自分でも分かった。
 それを紫に見られるのが嫌だから、足早に部屋を出る。
 藍さんのところに着くまでに、なんとかしてこの表情を元に戻さなきゃ。そんなことを思いながら、ぱたぱたと廊下を駆けた。





◇◇◇





 気が付くと、外はもう真っ暗だった。障子を通して、月の灯りが微かに差し込んでいる。
 一日一緒に居るとは言ったけど、もう帰るべきかなと思ったが、藍さんにも紫にも泊まっていけば良いと言われたので、泊まることに。
パジャマは紫がスキマから出してくれた。本当、便利だなぁスキマ。

「なんか、今日はいろいろあったなぁ」

 数ある客間の中から与えられた一室。広くも狭くも無いこの部屋で、一人布団に転がり天井を見上げる。お風呂に入ってから結構時間が経ったはずなのに、髪がまだ少し濡れている気がする。ちゃんと乾かせば良かったなぁ。紫と藍さんが使っていたドライヤーとかいう物は、なんか怖くて使う気になれなかった。
 ふぅ、ほんの思い付きから始まった一日だったけど、楽しかったな。天界とは違って、とても充実した一日だ。
 思わず、笑みが零れてしまう。

「えへへ、本当楽しかったなぁ」

 幽々子さんとはまた話してみたい。今度紫抜きで遊びに行って、紫の恥ずかしい話とか訊いてやろう。幽々子さんなら、ニヤニヤしながら教えてくれそうだ。
 藍さんにもお世話になった。厳しくいかせてもらうって言っていたのに、明らかに優しかったと思う。子ども扱いされたような気もするけど、それは置いておこう、うん。
 あとはやっぱり、紫と友達になったことが印象的だ。いや、なったというよりも、なっていたのかもしれない。認識してなかっただけで、友達だったのかも。そんな気がする。
 本当、いろいろあった。
 けど、とりあえず今は――

「寝よう。さすがに、疲れたわ」

 そっと、目を閉じることにした。
 虫の音一つ聞こえてこない、やけに静かで穏やかな夜だった。





◇◇◇





「起きなさい、ぺったんこ娘」

 なんという最悪の目覚めだろうか。
 目を開くと、そこにはいつもの格好をした紫。外はもう明るいことが分かる。というか、私は紫よりも寝ていたのか。ちょっとショックだ。

「もう藍が朝ご飯用意してるから、早く来なさい」
「あ、うん。先行ってて、着替えるから」

 紫が出て行くのを見て、慌てて布団の横に畳んでいた服に着替える。けど、ちゃんと脱いだパジャマは畳む。ぐちゃぐちゃにしておいたら、後が大変だ。
 櫛で髪を梳いてる時間はないや。
 着替え終えて、ぱたぱたと廊下を駆ける。急ぎ過ぎて、すっ転びそうになるけど、なんとか堪える。うん、セーフセーフ。

「ん、起きたか。おはよう、天子」
「おはようございます、藍さん」
「まったくもう、早く座りなさい天子。ご飯が冷めるでしょう」

 紫に文句を言われて、ささっと座る。文句は言っても、先に食べてないあたり、紫はやっぱりちょっと優しいと思う。
 全員揃って、手を合わせる。

「では、いただきます」
「いただきまーす」
「はいはい、いただきます」

 三人で揃って食べるご飯は、一人で食べるときよりも、美味しい気がした。







「えっと、お世話になりました、藍さん。紫も、いろいろありがと」
「ふむ、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「何言ってるのよ、藍。何日も天子に付きまとわれちゃあ、こっちの体力がもたないですわ」
「へぇーそれで紫に勝てるんなら、紫にずっと引っ付いてようかな」
「そんなことしたら、全力で叩き潰してあげる」

 私がえへへと笑うと、紫も藍さんも笑みを浮かべた。
 正直、もっと居たいという気持ちはあったけど、これ以上居るわけにもいかない。余計に帰るのが惜しくなるし、天界だってつまんないとはいえ、一応私の家だ。愛着が無いと言えば、嘘になる。
 緋想の剣は、返してもらっていない。私が今後、紫に緋想の剣なしで勝てたら、返してもらおうと思ってる。難しいっていうことは分かっているけど、不可能じゃないと思う。弾幕ごっこは、誰にだって勝利の可能性がある遊びなのだから。だから、これからはちょっといろいろ鍛えてみよう。

「またいつでもおいで」
「んっ」

 藍さんが柔らかい笑みを浮かべて、頭を撫でてきた。紫に見られているせいもあってか、ちょっぴり恥ずかしい。
 でも、悪い気はしないから、おとなしく撫でられることにする。どうせ手を払うなんて失礼なこと、出来ないし。
 しばらくして、手が離れる。感じていたほわっとした温かさが、消えた。

「紫、私は勝負、諦めてないからね」
「はぁ……もう好きになさい」
「もし勝ったときは、今度は紫を一日付き合わせるから。あと、緋想の剣も返してもらうわよ!」

 紫にびしっと指を向ける。
 紫は一瞬、子どものようにきょとんとした表情をした。けど、その表情はすぐ笑みに変わった。
 穏やかで、どこか楽しそうな表情。それを見た藍さんも、同じような笑みを浮かべている。

「ふふ、天子じゃ無理でしょうけどね」
「そ、そんなことやってみないと分からないでしょう!」
「いいですわ、いつでも私は全力で相手をしましょう。もちろん、全力だから藍にも手伝ってもらうけど」
「え、ちょ!?」
「だって、私の式神ですもの。卑怯ではないわよ? ねぇ、藍?」
「そうですね、私も参加しましょう」

 いや、それはちょっと、卑怯な気がするんだけど。
 けど、確かに式神だから戦闘手段の一つとして使っても全然問題ないわけで。うぐぐ……。

「い、いいわよ! それでも、絶対勝ってみせるわよ!」

 そうだ、不可能じゃないはずだ。根拠は特にないけど。

「そう、じゃあ楽しみにしていますわ。いつでもかかってらっしゃい」
「うぐぐ、余裕の笑みが腹立つ~」

 紫も藍さんも意地悪だ。
 あーもう、こうなったら早速鍛えよう。何をどうすれば良いのか、まだ分からないけど。とりあえず、いろいろやってみよう。どうせ、天人の私には時間はたっぷりある。
 さて、そうと決まれば早く帰ろう。

「それじゃあ、また」
「あぁ、気をつけて帰りなさい」
「またね、天子」

 藍さん、気をつけて帰れって……やっぱり子ども扱いされてる気がする。
 紫は欠伸混じりに、手をひらひらと振っていた。
 うん、やっぱりちょっと名残惜しさはある。けど、二人に背を向ける。すると、目の前にスキマが開いた。あぁ、そういえばスキマでここに来たんだっけ。帰りもスキマ経由なのか。

「そこを通れば、あとは天界目指せば帰れるわ」
「ん、ありがとね、紫」

 スキマに足を踏み入れる。なんだか少し、奇妙な感覚がしたと思ったら、もう外に出ていた。よし、あとは天界を目指すだけ。ふわりと体を浮かす。
 さて、戻ったらまず何をしようか。
 鍛える、修行……うーん、滝にでも打たれれば良いのかしら。
 そんな馬鹿なことを考えながら、眩しいくらいの青い空へと向かった。
 
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