なんだかんだで仲良い二人2010-08-31 Tue 00:33
あやれいむー。あやとれいむであやれいむー。
「あんたってさぁ、なんか人間っぽいわよね」 「はい?」 霊夢の言葉に、文は首を傾げた。 割といつも通り、取材と言う名のただ縁側でお茶を一緒に飲むだけ。そんな中、さっきの一言だ。文からすれば、何を言っているんだこの巫女、な状態である。 「だってさ、別に暴れたりもしなければ、私とこうやって普通にお茶飲んでのほほんとしてるし」 「長く生きている妖怪は、馬鹿みたいに暴れたりなんかしませんよ。紫さんや幽香さんが良い例です。あの方たちは、強大な力を持ちながらも、決してその力を暴れることに使ったりはしない。それは長く生きたからこそ得た経験や知識、そういうものが備わっているからです。そしてそれは私も同じ」 「でも、紫は人間にはない、どこか不気味さを感じるし、幽香だってたった一睨みで、相手に恐怖を覚えさせるし。けど、文にはそういうのないなぁって思ってね」 取材時には、どんな相手でも敬語と笑顔。 プライベートでも、割と親しげに、砕けた口調で人とコミュニケーションを取ることが多い。 紫のように神出鬼没に現れたりしては、何を考えているか分からないということも特にない。 「ふむ……じゃあ、妖怪らしくしてあげましょうか?」 「へ? どうやってよ?」 「ほーら、食べちゃいますよ~!」 「……」 両手をあげて、霊夢を押し倒そうとする文。 霊夢は、無言で、頭突き。 「鼻が痛いっ!?」 「ったく、馬鹿なことしてんじゃないわよ」 「鼻が痛い痛い~! 折れました~! 痛い~!」 「……どれ、見せてみなさいよ」 顔を押さえて、縁側をごろごろと激しく回る文を見て、霊夢はため息を吐くと同時に、少しだけ罪悪感が湧いた。 「まぁ嘘なんですけどね。妖怪だし、これくらい全然大丈夫です。キャー霊夢さん心配してくれるなんて優しいー!」 「……」 霊夢は、無言で、耳に陰陽玉(お子様からご老人まで安心のお子様サイズ)をぶつけた。 虫さえも鳴いていない、夏の空の下。とっても鈍い音がした。 「ちょ、いったぁぁぁぁぁぁい!? 今鈍い音しましたよ!? ゴッって言いましたよ!?」 「本当なら顔の骨も砕きたかったんだけどね」 「怖っ!? この巫女怖っ!」 未だに陰陽玉をしまおうとしない霊夢に、落ち着け落ち着けと両手でジェスチャー。 待ってください霊夢さん、話せば分かります。 霊夢、首を横にぷるぷる。 せめて話し合いましょう。 再び、首を横にぷるぷる。 文、思わず笑顔。生き物は、どうしようもない状況に追い詰められたとき、何故か笑うそうな。 霊夢、思わず笑顔。生き物は、獲物を追い詰めたとき、思わず笑みを零してしまうそうな。 「ふっ! 諦めると見せかけて、幻想風靡!」 「なっ!?」 文を追い詰めていたはずが、いつの間にか視界から消えた。 本気を出した文は、目にも映らないほどの速さへと加速する。妖怪でさえ視界に捉えられないものを、博麗の巫女とはいえ人間が捉えられるはずが無かった。 既に文は遥か上空へと逃げていた。 「ふふ、速さは全てにおいて勝利をもたらすのです。さようなら、霊夢さん!」 「甘いわね」 「え?」 いつの間にか、文の目の前に霊夢。 その事実に、思わずさっきまで霊夢が居た縁側の方を見下ろしてみると、やはりそこには霊夢の姿はなかった。つまり、目の前の霊夢は分身や幻覚などではなく、まさに本物だということ。 「な、どうやって――」 「夢想亜空穴。速さなんて関係なしに、この距離程度なら一瞬ね」 「……この私が逃げられないなんて」 「あら、知らなかったの? 博麗の巫女からは、逃げられない」 どこぞの大魔王みたいなことを言う霊夢の顔は、やっぱり笑顔だった。 文もまた、笑顔だった。 「手加減は?」 「あると思う?」 「いいえ、まったく」 文は思考回路をフル回転させる。 この状況を逃れるには、どうすれば良いか。危機的状況に陥った文は、奇跡的に10秒で890通りの逃げ道を考えついた。しかし、どれも上手く逃げられる可能性は低かった。たった一つの方法だけを除いて、だが。 ある意味禁じ手であるその一つの方法を、文は行う決意をした。 すぅっと息を吸い、下を思いっきり指さし、叫ぶ。 「あー! お賽銭入れてる人が居ます!」 「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」 「もらった! 博麗の巫女敗れたり!」 たった一瞬の隙を、文は見逃さなかった。 幻想郷最速の蹴りをしようとして――やめた。怪我をさせたくないから。というわけで、殴ろうとした。が、人間の女の子を殴る気はしなかった。 蹴るのもダメ、殴るのもダメ。そして、この隙を逃したら、嘘を吐いたことにより、自分の身がさらに危険。 そう考えた文の攻撃は、ただ一つ。 「抱き締めるしか!」 相手の身動きを封じつつ、傷つけない方法。 それは、抱き締めることだった。 霊夢が嘘だと理解し、怒りに身を任せ攻撃に転じようとした時には既に遅かった。 「ちょ、こら! 離しなさい!」 「嫌です! 離したら攻撃してくるでしょう?」 「当り前よ!」 「じゃあ誰が離しますか!」 空中でぎゃあぎゃあと暴れる二人。 霊夢はふにゅり、と柔らかいものに無理矢理顔を埋めさせられる。それは、確認しなくても分かる。霊夢よりも大きい、文の胸だ。決して、文の胸が特別大きいわけではないが、それでも霊夢よりは大きい。そう、霊夢よりは大きいのだ。もちろん、霊夢はまだ成長過程であって、これから大きくなる可能性だってあるだろう。だが、現時点では、霊夢の胸は文の胸よりも、確かに小さいのだ。 「ちょ、落ちるって!」 「霊夢さんが暴れるからでしょう!」 バランスが取れず、落下していく。 暴れつつも、霊夢を怪我させまいとより強く、ぎゅっと抱きしめる。 妖怪ならこの程度から墜落しても余裕だが、人間の場合どうなるか分からないからだ。文は自分を犠牲に、霊夢を守ろうとする。 「地面衝突する! 離しなさいって!」 「あーもう、暴れない。私が守りますから」 「じゃなくて! あんたが私を解放すれば、二人とも普通に空飛んで助かるでしょ!」 「……あ、なるほど」 そのことに気付いた時には、既に地面に―― ~少女地面激突中~ ※しばらくお待ちください。 ~少女回復中~ 「ふぃ、復活です」 「さすが妖怪ね。こういうところ見ると、うん、人間っぽくはないわね」 「怪我はしませんでしたか?」 「私は大丈夫よ。その、一応あんたが守ってくれたし……」 ぷいっとそっぽを向いて言う霊夢を見て、思わずにやにやとする文。 「別にお礼は言わないからね。あんたが離せば済むことだったんだし」 「はい、お礼なんて求めてませんよ。私が勝手に霊夢さんを守りたいなーって思っただけですからね」 「っ……」 「でもまぁ、嘘吐いたこととかはこれで見逃して欲しいなぁなんて思ったり」 へらへらとした笑みを浮かべて、そんなことを言う文に、霊夢はため息を吐いた。 「はぁ……もう別に怒ってないわよ」 「わぁい、霊夢さん優しいー。ついでに冷めたお茶を新しいのに変えてくれると、より優しいー」 「調子に乗るなっ!」 文の額に、軽くデコピン。 「痛っ! むぅ……」 「はいはい、不貞腐れない。分かったわよ、今淹れてきてあげるから」 「わーい、私霊夢さんのそういうとこ、大好きです」 「まったく、調子良いんだから……」 笑顔の文に、本日何度目か分からないため息を吐く霊夢。 さっきまでは、ぎゃあぎゃあ争っていたくせに、今ではもう落ち着いている二人だった。 |
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